組織・対話・信頼

「目標は宣言するとやり抜ける」は本当か?公言すると行動が減った実験と、進捗の公開が効く条件

新年度の朝、チームのチャットに「今期は毎朝6時に起きて、資格の勉強を始めます」と書き込みます。すぐに称賛のスタンプが並びます。気持ちが引き締まり、退路を断てた気がします。

「目標は周りに宣言すると、やり抜ける」。研修や自己啓発の場で、よく語られてきた考え方です。人に見られている緊張感が、行動を後押しするという理屈です。

ところが心理学には、この通説と逆の結果を示した実験があります。ドイツの心理学者ゴルヴィツァー(Peter Gollwitzer)らが、2009年に発表した研究です。目標を周囲に気づかれた人は、その後の行動が少なくなりました。

では、宣言はやめるしかないのでしょうか。そうとも言い切れません。進捗を人に見せる行動を調べた138研究のメタ分析(複数の研究をまとめて再計算する方法)では、逆に達成が進みやすいと示されています。

この記事では、元の実験の中身と限界、そして「何を人に見せるか」で結果が分かれる可能性を整理します。起業の準備中の方、チームで目標を共有するリーダー、研究計画を周囲に話す研究者の方に向けた内容です。

「目標は宣言するとやり抜ける」は、なぜ広く信じられてきたのですか?

周囲の目が行動を後押しするという直感が、わかりやすく、体験にも合うためです。人に言った以上、やらないと格好がつかないと感じる場面は、誰にでもあります。

この直感は、半分は当たっています。後で見るメタ分析では、進捗を人に報告する行動が、達成を後押ししていました。分かれ目は、人に見せる中身が「これからやること」なのか、「やったこと」なのかです。

目標を宣言すると行動が減った実験では、何をどう調べたのですか?

ゴルヴィツァーらは4つの実験で、目標を周囲に「気づかれた」人と「気づかれなかった」人の、その後の行動を比べました。論文は2009年に、心理学の学術誌 Psychological Science に載っています。

「気づかれた」とは、実験者が参加者の目標に気づいた状態を指します。参加者は心理学部や法学部の学生です。法学部生の実験では、自分の教育の機会を生かす目標に、強く思い入れる人を選んでいます。

実験 参加者 調べたこと 結果
研究1 心理学部の学生49人 勉強する意図を伝えたあと、実際に勉強した日数(自己申告) 気づかれず2.70日、気づかれた1.92日
研究2 法学部の学生32人 法律の事例を解いた時間(最大45分) 気づかれず45.65分、気づかれた41.52分
研究3 心理学部の学生(分析対象57人) 臨床心理の動画を見た時間(最大40分) 思い入れが強い人:気づかれず39.17分、気づかれた27.95分
研究4 法学部の学生24人 「法律家のように感じる」度合い 気づかれた4.19、気づかれず3.10

注:効果量 d(effect size)は、2つのグループの差が、個人差のばらつきの何個分かを示す指標です。0.2で小さく、0.5で中程度、0.8で大きいとされます。論文では、研究1が0.60、研究2が1.10、研究3の思い入れが強い人では2.96と報告されています。

ただし、人数が少ない研究では、効果量が大きく見積もられやすいことが知られています。2.96という値は、そのまま鵜呑みにはできません。

図1|目標に気づかれた人は、その後の行動が少なかった研究1 勉強した日数心理学部の学生49人・自己申告2.70日気づかれず1.92日気づかれた研究2 事例を解いた時間法学部の学生32人45.65分気づかれず41.52分気づかれた研究3 動画を見た時間思い入れが強い人(心理学部)39.17分気づかれず27.95分気づかれた出典:Gollwitzer et al. (2009)。研究ごとに単位が違うため、棒の高さは同じ研究の中でのみ比べられます。
図1:どの実験でも、気づかれた人(コーラル)の行動量が、気づかれなかった人(ティール)を下回りました。

宣言しただけで、なぜ行動が減るのですか?

著者らは、周囲に気づかれることで「目指す自分にもう近づいた」という感覚が早く生まれ、努力が減ると説明しています。この説明は、著者らの解釈です。

研究4では、この感覚を実際に測っています。気づかれた群は「法律家のように感じる」度合いが4.19で、気づかれなかった群の3.10を上回りました。

どんな場面で起きやすいのですか?

自分のあり方に関わる目標で、しかもその目標への思い入れが強い人です。著者らは、こうした目標をアイデンティティ目標(identity goal)と呼んでいます。研究3では、思い入れが弱い人に差が出ませんでした(30.68分と30.90分)。

図2|宣言が行動を減らすとされる流れ(著者らの解釈)目標を周囲に伝える例:チャットで宣言周囲が気づき反応する例:称賛・スタンプ「その自分に近づいた」感研究4の自己評価4.19 対 3.10実際の行動が減る研究3の思い入れ強39.17分→27.95分差が出た条件自分のあり方に関わる目標(例:法律家になる)その目標への思い入れが強い人差が出なかった条件思い入れが弱い人研究3:30.68分と30.90分でほぼ同じ出典:Gollwitzer et al. (2009)。「その自分に近づいた」という感覚の説明は、著者らの解釈です。
図2:宣言そのものではなく、気づかれたことで生まれる達成の先取り感が行動を減らす、と著者らは考えています。

この結果は、どこまで信頼してよいのですか?

方向性は示唆に富みますが、強い証拠とは言えません。人数が少なく、条件も限られているためです。

  • 人数が少ない:研究ごとに24〜57人です。思い入れの強い人だけを比べた分析は、十数人の規模でした。
  • 参加者が学生に限られる:職場や日本の組織で同じ結果になるかは、この研究だけではわかりません。
  • 自己申告を含む:研究1の勉強日数は本人の報告です。著者らも限界として挙げています。
  • 追試が見当たらない:筆者が確認できた範囲では、同じ設計を大規模に追試した研究は見つかりませんでした。見落としの可能性はあります。

以上から、「宣言は必ず逆効果」とは言えません。「条件がそろうと、宣言が気持ちの上での達成を先取りさせる可能性がある」という仮説として受け取るのが誠実です。

進捗を人に見せると、目標は達成しやすくなるのですか?

はい。ハーキンらの2016年のメタ分析では、進捗の確認は目標の達成を後押ししました(d+=0.40)。結果が公開された場合や、物理的に記録された場合に、効果は大きくなりました。

この分析は、138の研究・合計19,951人を対象にしています。進捗モニタリング(progress monitoring)とは、目標に向けて今どこまで進んだかを確認し続けることです。

注:d+は、複数の研究の効果量を平均した値です。95%信頼区間は、本当の値が入りそうな範囲を指します。確認の頻度は、介入によって大きく増えました(d+=1.98、信頼区間1.71〜2.24)。達成への効果は0.40(同0.32〜0.48)で、小さめから中程度の大きさです。

図3|進捗の確認は頻度を大きく増やし、達成を押し上げた0.00.51.01.52.02.5確認の頻度の増加d+=1.98目標の達成への効果d+=0.40公開した場合・記録した場合は、さらに大きい効果量 d+(右ほど大きい)出典:Harkin et al. (2016)。横線は95%信頼区間(本当の値が入りそうな範囲)です。
図3:確認の頻度は大きく変わりますが、達成への効果は0.40です。結果を公開・記録すると効果は大きくなりました。

宣言と進捗の公開は、何が違うのですか?

宣言は「これからやること」を見せ、進捗の公開は「すでにやったこと」を見せます。前者では称賛が先に届き、達成の感覚だけが先に手に入る可能性があります。後者では、行動の事実が記録に残ります。

ただし、この2つを同じ実験で直接比べた研究は、筆者が確認した範囲では見つかっていません。上の整理は、2つの研究を並べた筆者の推測です。

明日から、目標の伝え方をどう変えればよいですか?

「何をやるか」の宣言で終えず、「何をどこまでやったか」を定期的に見せる形に切り替えます。取り組みやすい順に、4つ挙げます。

  1. 目標を行動と期日に分ける。「資格を取る」ではなく「今週は過去問を3回解く」と書きます。進捗を数えられる形になります。
  2. 報告の場を先に決める。毎週金曜の夕方に、チャットで数字を1行だけ報告する、といった形です。
  3. 称賛より、次の一歩を聞いてもらう。周囲には「すごいね」ではなく「来週は何をやる?」と尋ねてもらいます。質問が行動を変える仕組みは、「やりますか?」と聞くだけで行動は変わる? 質問行動効果を誠実に使う方法で整理しています。
  4. 宣言するなら「いつ・どこで」も決める。実装意図(implementation intention)と呼ばれる「もしXなら、Yをする」の形にします。詳しくは実装意図(if-thenプランニング)とは?「やる気」ではなく「いつ・どこで」が達成率を変える科学をご覧ください。ゴルヴィツァーらも、この種の対策を今後の課題として挙げています。

チームで進捗の報告を求める場合は、誰が何のために見るのかを決めておきます。説明を求めるやり方で判断の質が変わる条件は、「理由を書いて」は本当に判断を良くする? 説明責任が効く条件、裏目に出る条件で扱っています。

図4|「宣言」を「進捗の報告」に変える設計例宣言型「毎朝6時に起きます!」返る反応:称賛・スタンプ手に入るもの:達成感進捗報告型「今週は4日起きられました」返る反応:次の一歩への質問手に入るもの:行動の記録設計例です。2つの形を同じ実験で直接比べた研究は、確認できていません。
図4:宣言で終えず、やったことを定期的に見せる形にすると、行動の記録が残ります。

起業前の計画を「宣言」で終わらせたくない方は、起業前マップで、計画を週単位の行動に分けてみてください。毎週の進捗を一緒に確認する相手が必要なら、社外CSOという選択肢もあります。

よくある質問

目標は、誰にも言わないのが正解ですか?

そうとは言い切れません。宣言が行動を減らしたのは、自分のあり方に関わる目標に強く思い入れる人が、周囲に気づかれた場合です。進捗を報告する形なら、達成を後押しするという分析もあります。

SNSでの目標宣言も、同じ結果になりますか?

わかっていません。今回の実験は、実験者に気づかれる対面の状況でした。SNSの宣言を直接調べた研究は、筆者が確認した範囲では見つかっていません。称賛の反応で満足しやすい点には、気をつけたいところです。

OKRのように、チームで目標を共有する場合はどうですか?

直接検証した研究は、確認できていません。仕事の目標は、成果や手順に関するものが多く、「自分のあり方」に関わる目標とは性質が違うと考えられます。ただし、これは筆者の推測です。

この効果は、追試で確かめられていますか?

筆者が確認した範囲では、同じ設計の大規模な追試は見つかりませんでした。元の4実験は、24〜57人の小規模なものです。まだ検証の途上にある知見として扱うのが安全です。

まとめ:宣言は「やったこと」の報告に変えて使う

要点は3つです。

  • 小規模な4実験では、目標への思い入れが強い人が周囲に気づかれると、その後の行動が減りました。
  • 138研究のメタ分析では、進捗を確認し、公開・記録すると達成が進みやすいと示されています。
  • 宣言の効果は条件つきで、追試も十分ではありません。断定は避けてください。

次の一歩として、いま抱えている目標を1つ選び、今週やる行動を数えられる形で書き出してみてください。そして、金曜日に1行だけ、誰かに報告します。

出典

  • Gollwitzer, P. M., Sheeran, P., Michalski, V., & Seifert, A. E. (2009). When intentions go public: Does social reality widen the intention–behavior gap? Psychological Science, 20(5), 612–618. PubMed
  • Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229. White Rose Research Online

本文の数値は、上記2編の要旨および原典の記載に基づきます。研究の追試状況は、筆者が確認できた範囲の記述です。

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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