研究シーズや技術を事業にしたいと考え始めた方へ。起業を思い立ってから会社設立1年目までの間に出会う「書類」と「お金」を、1枚の地図にまとめました。大学発スタートアップの設立支援、500件以上の産学連携、補助金・申請書支援の現場で見てきた「先に知っていれば躓かなかったこと」だけを載せています。
まず全体を眺める
※制度名・金額・要件は変わります(本ページは2026年7月時点の目安)。実際の申請時は各機関の最新の公募要領をご確認ください。
お金の5つの入口 — 「いつ使えるか」で選ぶ
資金源はたくさんあるように見えて、創業前後のフェーズで使えるものはほぼ決まっています。比較のポイントは金額より「いつ使えるか」「返すのか」「株が減るのか」の3つです。
| 資金源 | 使える時期 | 返済・対価 | 審査する人 | 鍵になる書類 |
|---|---|---|---|---|
| ギャップ資金・大学系プログラム(JST START、各地のエコシステム拠点事業 など) | 設立前(大学在籍中) | 返済不要 | 大学・事業化の専門家 | 申請書+ピッチ資料 |
| 競争的資金(NEDO・JST など) | 設立前後 | 返済不要(成果報告義務) | 技術と事業の審査員 | 申請書(提案書) |
| 創業融資(日本政策金融公庫 など) | 設立前後 | 返済あり・利子つき/株は減らない | 金融機関の担当者 | 創業計画書+資金繰り表 |
| エンジェル・VC出資 | 設立前後〜 | 株式(持分の希薄化) | 投資家 | ピッチ資料+資本政策表 |
| 補助金(ものづくり補助金 など) | 原則、設立後 | 返済不要/後払い(立替が必要) | 事務局・審査員 | 事業計画書 |
見落とされがちな2つの時間差
①補助金は「採択」されてもすぐお金は来ません。原則精算払い(後払い)のため、先に自分で支払う体力が必要です。
②設立前に使える返済不要のお金は、実質「大学経由」に集中しています。大学に在籍しているうちが、いちばん資金調達しやすい時期です。
6つの書類 — それぞれ「読み手」が違う
書類づくりが苦しくなる一番の原因は、全部を「同じ文書の書き直し」だと思ってしまうことです。実際には読み手がまったく違う6種類の文書で、読み手が変われば、書くべきことも変わります。
① シーズ整理の1枚
読み手:未来の自分と、最初に相談する相手。技術の説明ではなく「誰の・どんな困りごとが・どう変わるのか」を1枚に。ここが曖昧なまま先へ進むと、以降のすべての書類で同じ苦労を繰り返します。
② ピッチ資料
読み手:5〜10分しか時間をくれない審査員・投資家。読み手は1日に何十件も見ています。技術の凄さより「課題の切実さ→解決の筋→なぜあなたか」の順番。文字は意味が通じる限界まで削ります。
③ 申請書(ギャップ資金・競争的資金)
読み手:公募要領の審査項目に沿って採点する審査員。名文よりも「審査項目への正確な回答」が採点されます。公募要領を先に読み、項目ごとに証拠(データ・実績・体制)を置いていくのが定石です。
④ 事業計画書・資本政策表
読み手:お金を出す人と、将来の自分たち。売上計画は「願望」ではなく「顧客ヒアリングの件数」から積み上げます。資本政策表(誰が何%持つか)は一度決めるとほぼやり直しが効かないため、設立前に専門家と一度は壁打ちを。
⑤ 定款・登記書類
読み手:法務局と、将来の株主。ひな形で作れますが、事業目的の書き方や株式の設計は後から効いてきます。大学発の場合は、大学の知財・利益相反のルール確認もこの段階で。
⑥ 融資・補助金の申込書類
読み手:貸したお金が返ってくるかを見る担当者。技術の新しさより「毎月の資金繰りが回るか」。創業計画書と資金繰り表の数字が噛み合っていることが最重要です。
創業前チームがよく躓く3つのポイント
1. 技術の説明が9割で、「誰の何を解決するか」が1割
審査員も投資家も、技術の先にいる顧客を見ています。書類の冒頭に来るべきは技術ではなく課題です。
2. お金の時間軸を逆算していない
「採択から入金まで何ヶ月か」「設立前に使える資金はどれか」を逆算せずに進むと、いちばん大事な時期に手元資金が尽きます。地図の上段は「使える時期」の順に並んでいます。
3. 資本政策を後回しにする
持分の設計は後から直せません。共同創業者・大学・支援者と株をどう分けるかは、設立の「前」に決める話です。
この地図の使い方
いま自分がタイムラインのどこにいるかを確かめて、「次のフェーズで必要になる書類」を1つ先回りで準備する — それだけで、資金調達の成功率は目に見えて変わります。
私は産学連携の現場で500件以上のプロジェクト立ち上げ、300件近い試作開発、大学発スタートアップの設立支援に関わってきました。申請書・ピッチ資料の「読み手起点」での設計は、研究者向け支援と社外CSOとして提供しています。
「自分のケースだとどの資金が使えるのか」「この申請書で伝わるのか」— そんな段階のご相談こそ歓迎です。お問い合わせはこちらから。