聞き手の心理・行動

「あの人に嫌われたかも」は本当か?初対面の会話で好意を低く見積もる「ライキング・ギャップ」の科学

名刺交換のあとの懇親会で、十分ほど話した相手がいます。帰りの電車で会話を思い返すと、「あの一言は余計だった」「間が空いたのは退屈させたからでは」と気になってきます。

こうした反省は、日本では「気づかいのできる人の習慣」と受け取られがちです。「嫌われたかも」という直感は、相手の反応を読んだ結果だと考えられてきました。

ところが心理学の実験では、この直感が平均的にずれていることが報告されています。相手は、こちらが思うよりも好意を持っていたのです。この現象を、ライキング・ギャップ(好意の過小評価、liking gap)と呼びます。

この記事では、2018年の原著論文を中心に、何がわかっていて、どこまでが未確定なのかを整理します。登壇後の懇親会、商談、新しいチームの初回会議に向き合う方に向けた内容です。

ライキング・ギャップとは何ですか?

ライキング・ギャップとは、会話した相手が自分に抱いた好意を、本人が実際より低く見積もる傾向のことです。エリカ・ブースビー(Erica Boothby)らが2018年に学術誌『Psychological Science』で報告しました。

最初の実験(Study 1a)では、初対面の36人が18組に分かれ、約5分話しました。会話のあと、各自が「相手をどれだけ好きになったか」と「相手は自分をどれだけ好きになったか」を、7段階で答えています。

結果は、相手が実際に抱いた好意の平均が5.82点でした。一方、本人が推測した点数は5.17点でした。差は0.65点で、統計的に偶然とは考えにくい大きさです。

図1|初対面の会話後、「好かれている」と推測した点数は低かった7点05.825.17実際の好意本人の推測差は0.65点(回帰係数 b=−0.65)7段階評価(1〜7点、棒は0を起点に描画)。36人・18組の初対面の会話(約5分)。Boothby et al.(2018)Study 1aより。
図の読み取り方:相手の好意は、こちらの推測より平均して高めでした。

同じ傾向は、別の実験でも確認されました。表に、論文に報告された主な数値をまとめます。

実験 参加者 会話の条件 好意の推測のずれ(b)
Study 1a 36人(18組) 初対面、約5分 −0.65
Study 2 84人(42組) 初対面、自由な会話 −0.57
Study 3 102人(51組) 2〜45分(平均約23分) −0.38
Study 5 大学1年生102人 寮の同室者、1年間に5回 −0.36

注:b(回帰係数)は、7段階評価で推測が実際より何点低かったかを表します。マイナスの値は、推測のほうが低いことを示します。

なぜ人は「嫌われたかも」と感じるのですか?

有力な説明は、自分の会話だけを厳しく採点してしまうから、というものです。相手の会話には、同じ厳しさを向けません。

Study 2では、会話のあとに頭に浮かんだ考えも調べました。自分の話し方についての考えは、相手の話し方についての考えより否定的でした。この差が、好意の過小評価を部分的に説明しています(間接効果 b=−0.14、95%信頼区間[−0.22, −0.07])。信頼区間とは、本当の値が入っていそうな範囲のことです。この範囲が0をまたがないので、偶然とは考えにくい結果です。

図2|同じ会話でも、自分と相手の見え方は非対称になる自分の会話を振り返るとき「あの一言は余計だった」「間が空いて気まずかった」→ 自分への評価が厳しい相手の会話を思い返すとき相手の言い間違いは目に残らない好意のサインも見落としやすい→ 相手への評価は甘い「相手は自分をそこまで好いていない」と推測しやすくなる実際には、相手は好意を持っていることが多いBoothby et al.(2018)Study 2では、この思考の差が好意の過小評価を部分的に説明しました。
図の読み取り方:ずれの原因は、相手の反応より、自分の頭の中の採点にあると考えられています。

もう一つ、興味深い分析があります(Study 1b)。会話の動画15本を観察者に見せたところ、観察者の評価は相手の実際の好意とよく対応しました(b=0.71)。ところが本人の推測は、観察できる好意のサインと結びつきませんでした(b=0.38、p=.51)。本人は、相手の好意のサインを見落としている可能性があります。ただし、分析した動画が15本と少ないため、結果の確度は限られます。

自分の失敗が相手に筒抜けだと思い込む現象は、「透明性の錯覚」と呼ばれます。関連する話題は、スポットライト効果と錯覚的透明性の記事で整理しています。また、少しの失敗がむしろ好印象につながる場合は、プラットフォール効果の記事が参考になります。

時間がたてば、このずれは自然に埋まりますか?

すぐには埋まらない場合があります。大学の寮で同じ居室に住む1年生102人を追った研究(Study 5)では、ずれは約4か月以上続きました。

調査は9月、10月、12月、2月、5月の5回です。9月から2月までは、すべての時点で好意の過小評価が確認されました。5月になると、統計的にはっきりした差が確認できなくなりました(p=.87。p値が大きいほど、差があると断定する根拠が弱いことを示します)。全体のずれは b=−0.36 でした。

図3|寮生活の約4か月間、ずれは続き、5月に確認できなくなった差あり9月差あり10月差あり12月差あり2月差なし5月同じ居室で暮らす大学1年生が、5回の時点で「実際の好意」と「推測」を回答大学1年生102人を1年間追跡。Boothby et al.(2018)Study 5より。5月に消えた理由は十分に検証されていません。
図の読み取り方:ずれは数回会っただけでは消えず、長く続く場合があります。

なぜ5月に消えたのかは、論文でも十分に検証されていません。親しくなったからなのか、翌年の部屋割りを決める時期で本音の会話が増えたからなのか、区別はついていません。

職場やチームでも同じことが起きますか?

起きると報告されています。アダム・マストロヤンニ(Adam Mastroianni)らは2021年、3つの調査で小さな集団、エンジニアのチーム、働く大人を対象にしました。いずれでも、好意の過小評価が確認されています(『Organizational Behavior and Human Decision Processes』162巻)。

紹介記事によると、ずれが大きかったのは同じ立場の仲間同士でした。また、「嫌われている」と誤解した人ほど、助けを求めたり、フィードバックを伝えたり、もう一度その集団で働きたいと答えたりしにくかったとされています。ただしこれは関連であり、ずれが行動を変えたと証明したものではありません。

対象はほかにも広がっています。ウルフ(Wolf)、ナフェ(Nafe)、トマセロ(Tomasello)の2021年の研究では、米国の4〜11歳の子ども241人を調べました。ずれは5歳ごろから現れ、年長になるほど大きくなりました。2025年には、ティセラ(Tissera)らが計2,753人のデータを報告しています。自尊心が低い人や社交不安が高い人ほど、ずれが大きい傾向がありました。

この知見に限界や異論はありますか?

限界はあります。2018年の論文は、研究デザインを事前に登録していません。事前登録とは、分析方法を実験の前に公開して、結果への後づけの解釈を防ぐ手続きです。参加者も、Study 4を除けば大学生が中心でした。会話も実験室での設定が多く、日常の商談や懇親会そのままではありません。

後続研究は、グループ、子ども、より多くの大人へと広がり、同じ方向の結果を報告しています。一方で、今回の調査では、日本の参加者を対象にした研究や、大規模な事前登録の追試は確認できませんでした。日本の職場にそのまま当てはまるかは、検証が待たれます。

もう一つの注意点は、これが平均の話だという点です。実際に相手が好意を持っていない場面もあります。「たいてい好かれている」とは言えても、「誰からも好かれている」とは言えません。

明日からの会話に、どう生かせますか?

会話のあとの「嫌われたかも」を、事実としてではなく、ずれやすい推測として扱うことが出発点です。次の3つを試せます。

  1. 推測を疑う。会話の直後の不安は、平均的には過小評価です。沈黙や相づちの薄さだけで、嫌悪と読むのは早計です。会話のリズムの差は、日本語の「あいづち」「共話」「間」の記事で扱っています。
  2. 好意を具体的に言葉にする。「〇〇の話が面白かったです」と伝えると、相手が見落としやすい好意のサインを補えます。感謝や称賛を伝える側は、相手の喜びを過小評価しがちだと報告されています(カマー(Kumar)とエプリー(Epley)、2018年。ブースビー(Boothby)とボーンズ(Bohns)、2020年)。
  3. 次の接点を小さく置く。質問を一つ添える、共有できる資料を送る、といった続きです。雑談が関係づくりに果たす役割は、雑談の科学の記事もご覧ください。
図4|会話のあとにできる3つの小さな行動①推測を疑う会話後の「嫌われたかも」は平均すると過小評価です事実として扱いません②好意を言葉にする「〇〇の話が面白かった」と具体的に伝えます相手の見落としを補います③次の接点を置く質問や共有資料など小さな続きを添えます返信しやすくなります②③は研究結果をもとにした実務上の応用です。効果を直接検証した研究は限られています。
図の読み取り方:まず疑い、次に伝え、最後に続きを置く流れです。

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よくある質問(FAQ)

ライキング・ギャップとは何ですか?

会話した相手が自分に抱いた好意を、本人が実際より低く見積もる傾向です。初対面の実験では、実際の好意5.82点に対し、推測は5.17点でした。自分の言動を厳しく採点することが、主な原因と考えられています。

内気な人や不安が強い人のほうが、ずれは大きいですか?

その傾向が報告されています。2018年の実験では、内気さが高い参加者でもずれが確認されました。2025年の研究でも、自尊心が低い人や社交不安が高い人ほどずれが大きいとされています。ただし、個人差の大きさは研究ごとに異なります。

実際に嫌われている場合もありますか?

あります。この研究が示すのは、平均すると過小評価になる、という傾向です。個々の相手の本心はわかりません。確かめたいときは、推測ではなく、相手の具体的な反応や次の行動を見てください。

日本人にも当てはまりますか?

現時点では、はっきりしません。主要な研究は米国や英国の参加者が中心で、日本の参加者を対象にした検証は今回の調査では確認できませんでした。当てはまるかどうかは、今後の研究を待つ必要があります。

まとめ

初対面の会話のあと、人は相手の好意を平均して低く見積もります。原因は、自分の言動だけを厳しく振り返ることにあると考えられています。ずれは職場や子どもでも報告され、寮の研究では約4か月続きました。

一方で、研究は学生中心で、日本での検証は確認できていません。次の一歩として、次に誰かと話したあとの「嫌われたかも」を一度だけ疑ってみてください。そのうえで、具体的な一言と小さな続きを添えてみましょう。

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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