組織・対話・信頼

多元的無知とは?「全員が反対なのに誰も反対しない」が起きる仕組みと、解き方の科学

「他に意見はありますか」。会議の終盤、司会がそう問いかけます。誰も手を挙げません。議事録には「異論なし」と記録されます。ところが会議室を出た廊下で、複数の人が「あれ、正直きついと思う」と話し始める。この光景に心当たりがある方は多いはずです。

日本では長らく、これを「空気を読む」文化の問題として語ってきました。同調圧力、忖度、和を重んじる国民性。そうした説明が繰り返されてきたのです。ところが近年の大規模調査は、まったく同じ現象が125か国すべてで観察されると示しました。文化の癖ではなく、人の認知の癖だったわけです。

この記事では、多元的無知(pluralistic ignorance)という現象を扱います。全員が内心では反対しているのに、全員が「反対しているのは自分だけだ」と信じている状態のことです。どれくらいの規模で起きているのか、何が引き金になるのか、そして誤解を解けば本当に行動が変わるのか。実験と大規模調査の両方から見ていきます。会議を回す立場の方、組織の方針を伝える立場の方に向けて書きました。

多元的無知とは?──「全員が反対なのに、誰も反対しない」状態

多元的無知とは、集団の多数派が内心ではある考えを持っているのに、「そう思っているのは自分だけで、周りは違う」と互いに誤解している状態を指します。誰も本音を口にしないため、誰の本音でもない結論が集団の合意として成立します。

ポイントは、これが「情報が足りない」問題ではないことです。むしろ全員が情報を持っています。ただし、その情報を互いに開示していないだけです。そのため沈黙が「同意」という誤った情報に変換されます。

名前の由来は1931年の学生調査

この言葉は、ダニエル・カッツとフロイド・オルポートが1931年に発表した学生の態度調査『Students' Attitudes』で使われたのが最初とされています。概念そのものは、オルポートが1924年の著書で示した「錯覚的な全員一致(illusion of universality)」という指摘まで遡ります。つまり100年近く議論されてきた古典的な現象です。

この現象が実証研究として広く知られるきっかけをつくったのは、デボラ・プレンティスとデール・ミラーが1993年に発表した論文です。米国のプリンストン大学で学生の飲酒観を調べたところ、学生たちは「自分はキャンパスの飲酒習慣に平均的な学生より不快を感じている」と一貫して答えました。全員が平均より下だという回答は、算術的にありえません。誰かが誤解しているわけです。

似た現象との違いを整理する

「言いたいことが言えない」を説明する概念はいくつもあります。混同しやすいので、何を説明する理論なのかを整理しておきます。

現象 何が起きているか 本人は自分の考えを
多元的無知 多数派なのに、自分を少数派だと誤解している 変えていない(黙っているだけ)
沈黙の螺旋 少数派だと感じた人から順に発言をやめ、偏りが増幅する 変えていない
ヒドゥンプロファイル 一部の人しか持たない情報が共有されず、議題に上らない そもそも情報がない
アビリーンのパラドックス 全員が反対なのに、全員が賛成のふりをして実行に移る 変えていない(行動だけ合わせる)
表1:多元的無知は「情報がない」のではなく「本音が開示されていない」状態を指します。

多元的無知は、他の人の信念についての誤解です。情報共有の失敗ではありません。だから対処法も違います。もっと情報を集めるのではなく、すでにある本音を可視化することが打ち手になります。

「みんなの本音」を、私たちはどれくらい読み違えているのか

読み違えの幅は、感覚的な誤差では説明できない大きさです。米国と世界規模の2つの調査が、20ポイント以上のずれを報告しています。

ボストン大学のグレッグ・スパークマンらが2022年に『Nature Communications』誌へ発表した調査では、米国成人6,119人に「気候変動を心配している米国人はどれくらいいると思うか」と尋ねました。回答の平均は43.3%でした。実際の値は66%です。政策への支持でも同じ傾向が出ています。実際には66〜80%が支持している政策について、回答者は37〜43%程度だと見積もりました。回答者の79〜88%が実際より低く見積もっていたことになります。

差の効果量は d=0.92 と報告されています。効果量(effect size)とは、2つの値の差がばらつきに対してどれくらい大きいかを表す指標です。心理学ではおおむね0.2で小、0.5で中、0.8で大とされます。0.92は「大きい差」に相当します。

ボン大学のペーター・アンドレらが2024年に『Nature Climate Change』誌へ発表した調査は、規模がさらに大きいものです。ギャラップ社の世界世論調査を使い、125か国の129,902人に「気候対策のために毎月の所得の1%を拠出する意思があるか」「自国民のうちどれくらいが拠出すると思うか」を尋ねました。実際に意思があると答えたのは69%です。しかし平均的な推定値は43%でした。差は26ポイント(95%信頼区間 25.6〜26.0)です。信頼区間(confidence interval)とは、同じ調査を繰り返したときに真の値が入ると期待される範囲のことです。範囲が狭いほど推定が安定しています。

調査した125か国のすべてで、推定値が実際の値を下回りました。「みんなは自分ほど本気ではない」という誤解は、特定の文化に固有のものではないという結果です。

図1|「実際の割合」と「みんなはこう思っているはず」の差気候変動を心配している米国成人の割合(6,119人・2021年)実際66%推定(平均)43%所得の1%を気候対策に拠出する意思(125か国・129,902人)実際69%推定(平均)43%上段:Sparkman, Geiger & Weber(2022, Nature Communications)。差の効果量 d=0.92。下段:Andre, Boneva, Chopra & Falk(2024, Nature Climate Change)。差は26ポイント。いずれも横断調査であり、介入実験ではありません。
図1:どちらの調査でも、人々は「みんなの本気度」を20ポイント以上低く見積もっていました。

なぜ沈黙は「同意」に見えてしまうのか

誤解が生まれる筋道は、それほど複雑ではありません。3つの段階に分けられます。

沈黙は「情報なし」ではなく「同意」と読まれる

会議で黙っている人を見たとき、私たちは「この人は判断を保留している」とは考えません。「特に問題を感じていない」と解釈します。ここが出発点です。自分が黙る理由は「浮きたくないから」だと自分では分かっています。しかし他人が黙る理由は「本当に問題がないから」だと考えてしまいます。

この非対称は、社会心理学で行為者・観察者バイアス(actor-observer bias)と呼ばれる傾向とつながっています。自分の行動は状況のせいにし、他人の行動はその人の性格や本心のせいにする、という傾向です。

目立つ声が「平均」にすり替わる

集団の意見を推し量るとき、私たちは統計を取っているわけではありません。思い出しやすい事例を手がかりにします。声が大きい人、極端な意見を述べる人、繰り返し同じ主張をする人。こうした発言は記憶に残りやすく、集団の代表値として扱われます。

この作用は、社会的証明(ソーシャルプルーフ)が働く場面と表裏の関係にあります。「みんながそうしている」という手がかりは行動を強く導きますが、その「みんな」の中身が誤っていれば、誤った方向へ導きます。

誤った合意に合わせた行動が、誤解の証拠になる

ここが厄介な部分です。誤解に合わせて行動すると、その行動が他の人にとっての「証拠」になります。全員が本音を隠して同じ演技をすれば、演技どうしが互いを補強します。誤解は、放っておけば消えるものではありません。自分で自分を養う構造を持っています。

プレンティスとミラーの1993年の研究は、この先で何が起きるかも追いかけました。男子学生は時間が経つにつれ、私的な態度そのものを「平均的な学生の態度」だと思い込んでいた方向へ寄せていきました。誤解を、内面化によって解消したわけです。女子学生は私的な態度を保ちましたが、大学や仲間への疎外感を強めていました。誤解された規範は、時間をかけて本物の規範に変わるか、静かな離脱を生むかのどちらかです。

図2|多元的無知が自分で自分を強めるしくみ1. 「引っかかるのは自分だけだ」と感じて、口をつぐむ2. 周りは、その沈黙を「同意」として読み取る3. 「みんなは賛成らしい」という誤った合意が共有される4. 誤った合意に合わせて本音と違う行動をとる誤解が誤解を養う4の行動が、2の材料になる誤解に合わせた行動そのものが、他の人にとっての「みんなの本音」の証拠になります。出典の考え方:Prentice & Miller(1993, Journal of Personality and Social Psychology)。
図2:断ち切る場所は4ではなく1です。本音を出す仕掛けを先に置くと、ループが回り始めません。

日本の職場では、何が起きているのか

日本でも実測データがあります。海外の話として片づけられる現象ではありません。

東京大学の正木郁太郎と村本由紀子は2021年、『社会心理学研究』誌に、国内の製造業に勤める514人を対象とした調査を発表しました。調べたのは、ダイバーシティ(多様性)に対する信念です。結果は明快でした。従業員は同僚の信念を、自分の信念より否定的だと見積もっていました。しかもそれは、同じ職場で働く同僚が実際に答えた平均よりも否定的でした。誤解の向きは一致しており、同じ職場の人たちは同じ方向に同じ程度ずれていました。さらに、このずれを大きく感じている人ほど、職場での関係葛藤を強く感じていました。

もうひとつは育児休業の研究です。宮島健と山口裕幸は2017年、『Frontiers in Psychology』誌に、日本の男性会社員を対象とした2つの調査(研究1がn=299、研究2がn=425)を発表しました。男性会社員は、他の男性社員が育休取得に対して持つ態度を、実際よりも否定的に見積もっていました。そしてその見積もりが、自分自身の取得意向を押し下げていました。取りたいと思っている。しかし「周りは快く思わないだろう」と考えて申し出ない。周りも同じことを考えている、という構図です。

どちらも横断調査であり、因果の向きを実験で確かめたものではありません。それでも、日本の職場に多元的無知が存在することを示す具体的な証拠です。現状維持バイアスと同調圧力の議論とも重なりますが、多元的無知が指すのは「変えたくない」ではなく「変えたいのに、変えたいのは自分だけだと思っている」状態です。ここは区別しておく価値があります。

誤解を解くと、行動は本当に変わるのか

ここが実務にとって一番の関心事です。「みんな本当はこう思っている」と伝えれば、人は動くのでしょうか。実験の結果は、条件つきで「変わる」というものです。

大学の飲酒介入:話し合いの内容を変えるだけで消費量が下がった

クリスティン・シュローダーとデボラ・プレンティスは1998年、『Journal of Applied Social Psychology』誌に介入実験を発表しました。プリンストン大学の新入生452人を、2種類の20分間の話し合いに振り分けています。

  • ピア型:多元的無知という現象そのものを説明し、「なぜ互いの本音を読み違えるのか」を学生同士で話し合う(235人)
  • 個人型:飲酒の影響や、個人としての責任ある判断について話し合う。当時の一般的なプログラムに相当する(217人)

4〜6か月後に追跡できた143人の週あたり飲酒量は、ピア型が平均3.10杯、個人型が平均5.05杯でした。差は統計的に有意でした(F(1,137)=3.80, p=.05)。ここでいう有意とは「偶然でこれだけの差が出る確率が低い」という意味です。効果の大きさそのものを表す指標ではありません。

図3|話し合いの内容を変えると、4〜6か月後の行動が変わったピア型(多元的無知を説明)個人型(従来型プログラム)杯/週02463.105.05全体2.294.02女性3.815.81男性Schroeder & Prentice(1998)。追跡できた143人の平均値。全体の差は F(1,137)=3.80, p=.05。倫理上の配慮から無介入の統制群は置かれておらず、効果量は報告されていません。
図3:介入は情報提供ではなく「なぜ読み違えるのか」を当事者同士で話し合う形でした。

ただしこの研究には無介入の統制群がありません。大学側が「有益かもしれない活動を一部の学生に受けさせない」ことに難色を示したためです。著者自身も、個人型のほうが何らかの理由で飲酒への関心を高めた可能性を否定できないと書いています。

サウジアラビアの実験:信念を正すと、妻の就職活動が動いた

より強い因果の証拠は、経済学の分野から出ています。シカゴ大学のレオナルド・ブルシュティンらは2020年、『American Economic Review』誌に、サウジアラビアの若い既婚男性を対象とした実験を発表しました。

調査では、回答者の87%が「女性が家庭の外で働くことを認めるべきだ」と答えました。ところが約4分の3が、他の男性たちの支持をこれより低く見積もっていました。研究チームは、参加者の一部にだけ「実際には周りの男性もこれだけ支持している」という情報を無作為に伝えました。

情報を受け取った男性は、妻のための求職マッチングサービスに実際に申し込む割合が高まりました。単なる意見表明ではなく、費用のかかる行動です。さらに数か月後、その男性の妻は職に応募し、面接を受けている割合が高くなっていました。誤解を正すことは、無作為化実験のなかで実際の行動を変えました。

ただし「教えれば直る」とは限らない

楽観的な話ばかりではありません。エアフルト大学のケビン・ティーデらは2026年、『Nature Climate Change』誌に、5件の事前登録実験(合計5,081人、ドイツと米国)の結果を発表しました。事前登録(preregistration)とは、データを取る前に仮説と分析方法を公開登録しておく手続きです。後づけの解釈を防ぐ狙いがあります。

結果は複雑でした。「広く支持されている態度」は過小評価されるという先行研究の結果は再現されました。しかし寄付や政治的な行動のように「実際にはまれな行動」は、逆に過大評価されていました。著者らは、この両方向のずれの多くが割合を推測するときの一般的な認知の癖で説明できると指摘しています。大きい割合は小さめに、小さい割合は大きめに見積もる、中央へ寄せる傾向です。

さらに重要な点があります。誤解を正す介入は、自己申告の寄付意欲を一部動かしましたが、実際の寄付額は変えませんでした。著者らは、気候の領域における多元的無知は「これまで考えられていたよりも複雑で、影響は小さいかもしれない」と結論づけています。

この不一致をどう受け止めるかは、まだ検証が続いている段階です。現時点で言えるのは、次のあたりです。誤解の存在は多くの領域で繰り返し確認されている。しかし「正しい数字を見せれば行動が変わる」という単純な期待は、領域によって成り立ったり成り立たなかったりする。組織の意思決定という文脈での検証は、まだ十分ではありません。

明日から使える:「異論なし」を疑うための5つの手順

研究から実務へ落とすときの原則は、ひとつです。本音を推測させる時間を、できるだけ短くする。推測の時間が長いほど、誤解が育ちます。

1. 賛否と懸念を、口頭より先に文字で出す

議論の冒頭で2分だけ時間を取り、参加者に「この案の懸念点をひとつ」を無記名で書いてもらいます。付箋でも、チャットの一斉送信でも構いません。書いてから話す順番にするだけで、沈黙が「同意」に変換される機会が消えます。

2. 集計結果をその場で全員に見せる

集めた懸念を読み上げ、件数を示します。ここが介入の本体です。「懸念を書いた人が11人中8人いました」と分かった瞬間、「引っかかっているのは自分だけ」という前提が崩れます。ブルシュティンらの実験も、シュローダーとプレンティスの介入も、やっていることの中身はこれです。

3. 役職が上の人ほど、後に話す

最初に方向性を示すと、その後の発言はすべてそれを基準に調整されます。順序を変えるだけで、誰の推測も不要になります。心理的安全性の議論では「話しやすい雰囲気」が強調されがちですが、雰囲気より順序のほうが設計しやすく、再現もしやすい打ち手です。

4. 「懸念ゼロ」を、そのまま受け取らない

懸念が出ないことは、良い兆候とは限りません。ひとつも出なかったときは「では、この案が失敗するとしたら理由は何か」と問いを変えます。賛否ではなく失敗要因を尋ねる形にすると、発言者は反対者ではなく分析者になります。この考え方を手順化したのがプレモータムです。

5. 誤解を測る質問を、定点で持つ

「あなたはこの方針に賛成ですか」と「同僚の何割が賛成だと思いますか」を並べて聞きます。2つの数字の差が、その組織の多元的無知の大きさです。正木と村本の研究が使ったのも、基本的にこの構造です。半年に一度でも測っておくと、雰囲気の話が数字の話になります。

図4|「異論なし」が生まれる進め方と、本音が出る進め方よくある進め方・「他に意見は?」と全体に問う・発言は挙手した人だけ・役職が上の人から先に話す・沈黙を「異論なし」と記録する→ 本音を推測する時間が長い誤解を可視化する進め方・懸念をまず無記名で書き出す・件数と中身をその場で共有する・役職が上の人は最後に話す・懸念ゼロなら失敗要因を尋ねる→ 推測する前に事実が出る違いは「話しやすさ」ではなく順序です。書く、見せる、そのあとに話す。右の設計は、Schroeder & Prentice(1998)とBursztyn et al.(2020)の介入構造に対応します。
図4:多元的無知への対処は、雰囲気づくりではなく進行の順序の設計です。

なお、これらの手順は「反対意見を増やす」ためのものではありません。すでにある本音を、推測ではなく事実として扱うためのものです。経営の方向づけや事業戦略のように、後戻りの費用が大きい意思決定ほど、この差が効いてきます。組織の外から議論の設計を持ち込む役割については、社外CSOという関わり方でも整理しています。

よくある質問

多元的無知と同調圧力は、どう違うのですか

同調圧力は「周りに合わせろ」という外からの力を指します。多元的無知は、その「周り」の中身を誤解している状態を指します。誤解が前提にあるため、圧力をかけている人が実は一人もいない、という事態が起こりえます。全員が存在しない圧力に合わせているわけです。

「みんな本当は賛成です」と伝えれば解決しますか

条件つきで有効です。サウジアラビアでの無作為化実験では、実際の支持率を伝えることで具体的な行動が変わりました。ただしティーデらの2026年の実験では、意欲は動いても実際の寄付額は変わりませんでした。数字を告げるだけの介入は、領域によって結果が分かれます。当事者どうしで話し合う形をとった介入のほうが、行動の変化を伴った例が多く報告されています。

少人数のチームでも起きますか

起きます。むしろ人数が少ないほど、一人あたりの沈黙が持つ重みは大きくなります。5人の会議で4人が黙れば、残りの1人にとっては「圧倒的多数が賛成」に見えます。正木と村本の研究も、会社全体ではなく職場単位で誤解の程度がそろっていたことを示しています。

この現象は再現性が確認されているのですか

「誤解が存在する」という部分は、複数の国・領域で繰り返し確認されています。125か国すべてで同じ向きのずれが出たアンドレらの調査は、その代表例です。一方で「誤解を正せば行動が変わる」という部分は議論が続いています。ずれの一部が割合推定に共通する認知の癖で説明できるという指摘も出ており、効果の大きさをどう見積もるかは検証の途上です。

プレゼンや講演にも応用できますか

できます。質疑応答で手が挙がらないのは、聴衆の関心がないからとは限りません。「質問があるのは自分だけかもしれない」という推測が働いている可能性があります。挙手を求める前に、隣同士で30秒だけ疑問点を交換してもらうと、この推測が壊れます。

まとめ:沈黙を数えるのではなく、本音を数える

多元的無知は、多数派が自分を少数派だと誤解している状態です。125か国13万人規模の調査でも、日本の製造業514人の調査でも、同じ向きのずれが確認されています。誤解は放っておくと自分で自分を強めます。誤解に合わせた行動が、他の人にとっての証拠になるからです。

対処の要点は、本音を推測させる時間を短くすることです。書いてから話す。集計を見せる。上の立場の人は後に話す。懸念がゼロなら失敗要因を尋ねる。どれも会議の進め方を変えるだけで実行できます。

ただし「正しい数字を見せれば行動が変わる」と単純に期待しすぎないほうが安全です。事前登録された最近の実験は、意欲と実際の行動が一致しない場合があることを示しています。それでも、次の会議で「他に意見は?」と問う前に2分だけ書く時間を取る。ここから始める価値は十分にあります。

出典

  • Katz, D., & Allport, F. H. (1931). Students' Attitudes: A Report of the Syracuse University Reaction Study. Craftsman Press.(「多元的無知」の語が用いられた初期文献。オンライン版のURLは確認できませんでした)
  • Prentice, D. A., & Miller, D. T. (1993). Pluralistic ignorance and alcohol use on campus: Some consequences of misperceiving the social norm. Journal of Personality and Social Psychology, 64(2), 243–256. PubMed
  • Schroeder, C. M., & Prentice, D. A. (1998). Exposing pluralistic ignorance to reduce alcohol use among college students. Journal of Applied Social Psychology, 28(23), 2150–2180. 全文PDF
  • Bursztyn, L., González, A. L., & Yanagizawa-Drott, D. (2020). Misperceived social norms: Women working outside the home in Saudi Arabia. American Economic Review, 110(10), 2997–3029. AEA
  • Sparkman, G., Geiger, N., & Weber, E. U. (2022). Americans experience a false social reality by underestimating popular climate policy support by nearly half. Nature Communications, 13, 4779. Nature Communications
  • Andre, P., Boneva, T., Chopra, F., & Falk, A. (2024). Globally representative evidence on the actual and perceived support for climate action. Nature Climate Change, 14, 253–259. Nature Climate Change
  • Tiede, K. E., et al. (2026). People systematically under- and overestimate public engagement in climate action. Nature Climate Change. Nature Climate Change
  • 正木郁太郎・村本由紀子 (2021). ダイバーシティ信念をめぐる多元的無知の様相:職場におけるズレの知覚と誤知覚. 社会心理学研究, 37(1), 1–14. J-STAGE
  • Miyajima, T., & Yamaguchi, H. (2017). I want to but I won't: Pluralistic ignorance inhibits intentions to take paternity leave in Japan. Frontiers in Psychology, 8, 1508. PubMed

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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