研究報告の冒頭には「240人を評価した」とあり、結果では「159人を解析した」と書かれている。では、残りの81人はどこで、なぜ対象から外れたのでしょうか。適格基準を満たさなかったのか、参加を断ったのか、追跡できなくなったのか、解析の段階で除外されたのか。この違いが見えなければ、読者は結果の分母と、研究結果を当てはめられる範囲を判断できません。
人数を一つだけ大きく見せても、研究の流れは伝わりません。必要なのは、各段階へ何人が入り、何人が次へ進み、何人が、どんな理由で流れから離れたかを追えることです。フロー図は、研究を立派に見せる飾りではなく、数字のつながりを検算するための地図です。
この記事では、無作為化試験のCONSORT、系統的レビューのPRISMA、観察研究のSTROBE、非無作為化評価のTRENDを手掛かりに、研究形式を越えて使えるフロー図の設計を整理します。
結論:入口、残った人数、離れた理由を一続きにする
参加者フロー図で最初にそろえたいのは、見栄えではなく数字の関係です。少なくとも次の五つを、上から下へたどれるようにします。
- 入口:候補として把握、検索、評価した全数
- 次へ進んだ人数:適格、登録、割付、追跡、解析など、各段階に残った人数
- 流れから離れた人数:不適格、辞退、追跡不能、解析除外など
- 離れた理由:誰が決めた除外か、本人の辞退か、データ不足かを区別できる説明
- 最終的な分母:どの結果を何人、何件、何施設で解析したか
中心の流れには「次へ進んだ人数」を置き、横には「離れた人数と理由」を置きます。各箱を読むたびに、直前の人数と、次に残った人数、横へ出た人数の関係を確かめられる形が基本です。
大切なのは、全ての研究を同じ図へ押し込むことではありません。無作為化試験、観察研究、系統的レビューでは段階が異なります。それでも、入口から最終的な解析対象まで数字をつなぎ、離れた理由を混ぜないという原則は共通します。
同じ「減った」でも、意味は同じではない
研究の人数が減る理由には、性質の異なるものがあります。たとえば、募集時点で適格基準を満たさなかった人は、もともと研究対象に入っていません。一方、無作為に割り付けたあとで解析から外れた人は、研究の比較可能性に関わります。「120人中、最終的に100人を解析した」とだけ書くと、この二つを区別できません。
CONSORT 2025は、無作為化試験の参加者について、募集、介入への割付、追跡、データ解析という段階を通じて進み方を示すフロー図を掲げています。説明文書では、割付後に介入を受けなかった人、予定どおり追跡を完了しなかった人、主要な解析へ含めなかった人を群別に示し、理由を添えるよう求めています。
ここで重要なのは、「脱落」という一語へまとめないことです。追跡できなかったのか、本人が介入を中止したのか、研究者が解析から除外したのかでは、結果へ与える影響が違います。CONSORT 2025の説明文書も、追跡不能と、研究者が決めた除外を区別する必要があるとしています。
たとえば副作用が起きた人ほど追跡から離れているなら、残った人だけの結果は介入を実際より良く見せる可能性があります。反対に、住所変更など結果と関係しにくい事情で一部を追跡できなかった場合は、意味が違います。フロー図だけで偏りの有無を断定することはできませんが、読者が問いを立てるための材料になります。
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公式指針は、研究形式に合わせて流れを変えている
無作為化試験:募集から解析まで、群ごとに追う
CONSORT 2025の中心は、適格性を評価した人数、無作為に割り付けた人数、割り付けどおり介入を受けた人数、追跡を完了した人数、主要結果の解析に含めた人数です。二群以上の研究では、割付後の流れを群ごとに分けます。群を合算してしまうと、片方の群にだけ追跡不能が偏っていても気づけません。
また、CONSORTは特定の見た目を絶対の様式としているわけではありません。研究デザインによって必要な項目は変わるため、重要な人数を保ちながら形を調整できます。手術、予防接種、施設単位の介入などでは、実施者や施設の数も解釈に必要になる場合があります。
系統的レビュー:人ではなく、記録と報告の選択を追う
PRISMA 2020のフロー図は、研究参加者ではなく、検索で見つけた記録が最終的な採択文献になるまでを示します。データベースや登録情報から見つけた件数、重複を除いた件数、題名・抄録で確認した件数、全文を評価した件数、除外理由、最終的に採択した研究数をつなぎます。
ここでは「記録」「報告」「研究」を混同しないことが重要です。一つの研究が複数の論文として報告される場合があるため、検索結果の件数と研究数は一致しません。PRISMAは、新しいレビューか更新版か、データベース以外の情報源も使ったかに応じて複数のテンプレートを用意しています。
観察研究と非無作為化評価:参加の経路を説明する
STROBEのチェックリストは、観察研究で、適格となり得た人数、適格性を調べた人数、適格と確認した人数、研究に参加した人数、追跡を終えた人数、解析した人数を示し、各段階で参加しなかった理由を挙げるよう勧めています。必要に応じてフロー図を使うことも示しています。
CDCのTREND声明は、行動・公衆衛生分野の非無作為化評価について、登録、条件への割付、介入を受けた人数、追跡、解析を示し、予定から外れた手順と理由を説明するよう求めています。無作為化していない研究でも、「誰が、どの経路で最終結果に残ったか」は結果の読み方に関わります。
つまり、万能の箱の名前はありません。研究形式に合う報告指針を先に選び、その指針が区別している段階を図へ反映します。
フロー図は、報告の抜けを見つける道具にもなる
Eggerらは、1998年に主要医学誌5誌へ掲載された無作為化試験270件を調べました。フロー図を載せていたのは139件、51.5%でした。図のある報告でも、割り付けた介入を実際に受けた人数を示したものは52.5%、解析に含めた人数を示したものは23.0%にとどまりました。一方、フロー図の掲載は、参加者の流れをより完全に報告していることと関連していました。
この調査は2001年発表で、対象は1998年の医学誌です。現在の報告状況や、他分野をそのまま表すものではありません。また、図を載せたから報告が完全になったという因果を証明した研究でもありません。丁寧に報告する著者や雑誌が、図も採用しやすかった可能性があります。
より新しい例として、Christouらは歯周病学・インプラント学の無作為化試験544件を調べ、317件、58%にフロー図があったと報告しました。掲載率や欠けやすい項目は分野や雑誌で変わりますが、標準様式が知られていても、人数や理由が自動的にそろうわけではありません。
フロー図の価値は、完成後の説明だけではありません。作っている途中で「この20人はどこへ行ったのか」「追跡不能と解析除外が混ざっている」「群別の数字が足りない」と気づけます。図が数字の矛盾を生むのではなく、文章の中に隠れていた矛盾を見えるようにします。
「視覚化・構造化」で、人数の主流と離脱を分ける
伸滋Designの伝わる設計マップにある「視覚化・構造化(引き算のデザイン)」は、複雑な内容からノイズを減らし、関係と優先順位を見える形へ整える型です。参加者フロー図では、次のように使えます。
1. 最終的な解析対象から逆にたどる
まず、主要結果の分母を確認します。何人、何件、何施設を解析したのか。その一つ前には、何人を追跡できたのか。さらに前には、何人を割り付け、何人を登録し、何人を評価したのか。結果から入口へ逆向きに数字を並べると、足りない段階を見つけやすくなります。
2. 中央に「進んだ人数」、横に「離れた人数」を置く
読者の視線を中央の主流へ通します。横へ出る箱には、不適格、辞退、追跡不能、介入中止、解析除外などを置きます。色を使う場合も、中央をティール、離脱をコーラルのように二役へ絞り、理由ごとに多色化しません。
3. 箱の中は「段階・人数・理由」に絞る
長い方法説明を箱へ入れると、数字を追いにくくなります。箱の見出し、人数、短い理由を基本にし、詳細な基準や定義は本文や注へ回します。必要なら、図の下に略語や除外基準の要約を添えます。
4. 直前の人数と必ず照合する
たとえば、適格者180人を二群へ割り付けたなら90人と90人の合計が180人になるかを確認します。A群90人のうち6人を追跡できず84人が残り、さらに4人を解析から外したなら解析対象は80人です。各段階で「前の人数=残った人数+離れた人数」になるかを検算します。
5. 群、時点、解析ごとの分母差を隠さない
主要結果は159人、ある質問項目は151人、6か月後の追跡は142人というように、結果ごとに分母が違う場合があります。一枚のフロー図へ全てを詰め込まず、主要結果の流れを示し、他の分母は表や図注へ明記します。研究図表のキャプション設計で整理したように、図からは読めない解析単位や欠測の扱いは、キャプションで補います。
具体例:240人が159人になるまでを説明する
以下は設計を説明するための仮想例です。実在する研究や伸滋Designの実績ではありません。
ある研修の効果を比べるため、240人へ参加を案内しました。60人は適格基準を満たさないか、参加を希望しなかったため、180人をA群とB群へ90人ずつ割り付けました。追跡時点でA群6人、B群8人のデータを得られず、A群84人、B群82人が残りました。さらに、主要結果に必要な事前測定が欠けていたA群4人、B群3人を解析から外し、最終的にA群80人、B群79人、計159人を解析しました。

文章だけでも書けますが、読者は240、180、90、84、82、80、79を頭の中でつなぐ必要があります。図なら、中央の流れと横の離脱を同時に見ながら、計算を確かめられます。
この例で「81人が脱落した」とまとめるのは不正確です。最初の60人は割付前で、研究対象に入らなかった人です。追跡不能は14人、解析除外は7人です。段階を分けると、結果の分母が変わった理由を誤解しにくくなります。
また、解析除外が妥当かどうかは、図だけでは判断できません。主要結果に必要な測定が欠けていたとしても、どのように欠測を扱ったか、事前に決めた解析方針と一致するかを方法節で確認する必要があります。図は判断材料を見つけやすくしますが、方法の妥当性を保証するものではありません。
見やすくても、誤解を招くフロー図はある
第一に、矢印が通っていても、数字が合わなければ意味がありません。箱を整列する前に、表計算や集計表で段階ごとの人数を照合します。同じ人を複数理由へ重複計上していないか、理由の合計が除外人数と合うかも確かめます。
第二に、理由を「その他」へまとめすぎないことです。個人を特定しない配慮は必要ですが、結果の解釈に関わる理由まで隠すと、追跡不能の性質を判断できません。少数例では複数の理由を束ね、詳しい内訳を補足資料へ置く方法があります。
第三に、群を早い段階で合流させないことです。割付後は群ごとに追跡し、解析人数まで保ちます。途中で合算すると、介入の負担や副作用など、一方の群に偏る問題が見えなくなります。
第四に、色だけで状態を区別しないことです。中央と離脱を位置、線、見出しでも区別します。色覚多様性や白黒印刷を考え、コントラストを確保します。詳しくは色覚多様性に配慮したグラフ・資料も参考にしてください。
第五に、図の形式が研究の質を証明するわけではありません。報告指針に沿った図があっても、選択的な除外、不適切な欠測処理、事後的な解析変更がなくなるわけではありません。フロー図は透明性を高める道具であり、研究を自動的に正しくする印ではありません。
科学的根拠の限界
CONSORT、PRISMA、STROBE、TRENDは、透明で完全な報告を助ける指針です。各項目は専門家の合意、既存研究、実務上の必要性をもとに整備されていますが、箱の配置や色、文字量の一つひとつが無作為化実験で最適と証明されているわけではありません。
Eggerらの調査は、フロー図と報告の完全さの関連を示しましたが、図が完全な報告を引き起こしたとは言えません。Christouらの調査も歯周病学・インプラント学に限られ、他分野へ同じ割合を当てはめることはできません。
また、報告指針の対象は異なります。CONSORTは無作為化試験、PRISMAは系統的レビュー、STROBEは観察研究、TRENDは非無作為化評価を主な対象にしています。自分の研究に合わないテンプレートを使うと、必要な段階が抜けたり、存在しない段階を無理に作ったりします。
最後に、人数の流れだけでは、参加者の特徴や欠測の仕組み、解析法の妥当性までは分かりません。フロー図、方法節、参加者特性の表、結果の分母、欠測データの説明が一致して初めて、読者は研究全体を評価できます。
公開前チェックリスト
- 自分の研究形式に合う報告指針を確認したか
- 候補として把握・検索・評価した入口の人数や件数があるか
- 適格、登録、割付、介入、追跡、解析の必要な段階がそろっているか
- 各段階で次へ進んだ人数を示したか
- 各段階で流れから離れた人数を示したか
- 不適格、辞退、追跡不能、介入中止、解析除外を混同していないか
- 離れた理由を、判断に必要な範囲で示したか
- 割付後は群ごとに人数を追えるか
- 前段階の人数が、残った人数と離れた人数の合計になるか
- 同じ人や記録を複数の理由へ重複計上していないか
- 主要結果の解析人数と、結果本文・表の分母が一致するか
- 結果や時点によって分母が違う場合、その違いを説明したか
- 「その他」が多すぎて重要な理由を隠していないか
- 中央の主流と横の離脱を、位置や線でも区別したか
- 色だけに意味を持たせていないか
- 箱の文章を短くし、詳しい定義は本文や注へ置いたか
- 図、キャプション、方法節、参加者特性表の数字が一致するか
- 個人を特定し得る少人数の情報を不用意に示していないか
まとめ:人数の差ではなく、研究の道筋を見せる
研究の開始人数と解析人数が違うこと自体は、珍しくありません。問題は、その間で何が起きたかを読者が追えないことです。フロー図では、入口、各段階に残った人数、流れから離れた人数と理由、最終的な解析の分母を一続きにします。
中央に主流、横に離脱を置き、各段階で数字を照合します。「脱落」と一括りにせず、不適格、辞退、追跡不能、介入中止、解析除外を分けます。研究形式に合う報告指針を選び、図だけで足りない解析単位や欠測の扱いはキャプションと本文で補います。
分母無視を防ぐ資料の記事では、同じ件数でも分母が違えば判断が変わることを扱いました。研究フロー図は、その分母がどのようにできたかを示すものです。最終的な数字だけでなく、そこへ至る道筋を見せることで、研究の価値と限界を同時に伝えられます。
伸滋Designでは、論文図表、学会ポスター、研究報告書、研究成果ページなど、複雑な方法と結果を、専門外の人にも検証可能な構成と図解へ整える支援をしています。人数が合わない、除外理由をどこまで示すか迷う、報告指針を一枚の図へ落とし込めない場合は、ご相談ください。
参考文献
- Hopewell, S., et al. (2025). CONSORT 2025 statement: updated guideline for reporting randomised trials. BMJ, 389, e081123. https://www.bmj.com/content/389/bmj-2024-081123.full
- Hopewell, S., et al. (2025). CONSORT 2025 explanation and elaboration: updated guideline for reporting randomised trials. BMJ, 389, e081124. https://www.bmj.com/content/389/bmj-2024-081124
- Page, M. J., et al. (2021). The PRISMA 2020 statement: an updated guideline for reporting systematic reviews. BMJ, 372, n71. PRISMA 2020 statement.
- PRISMA. PRISMA 2020 flow diagram.
- von Elm, E., et al. (2007). The Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology (STROBE) statement. PLOS Medicine, 4(10), e296. STROBE checklist. doi:10.1371/journal.pmed.0040296
- Centers for Disease Control and Prevention. Transparent Reporting of Evaluations with Nonrandomized Designs (TREND).
- Egger, M., Jüni, P., & Bartlett, C. (2001). Value of Flow Diagrams in Reports of Randomized Controlled Trials. JAMA, 285(15), 1996–1999. https://doi.org/10.1001/jama.285.15.1996
- Christou, M. A., et al. (2023). Reporting of flow diagrams in randomised controlled trials published in periodontology and implantology: a survey. BMC Medical Research Methodology, 23. https://doi.org/10.1186/s12874-023-01923-7
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