プレゼン・伝え方の型

URAの活用法|科研費申請を「通る形」に変える、研究者とURAの正しい付き合い方

締切の1週間前に、URAへ申請書を送る。返ってきたのは赤字だらけのファイル。けれど、もう直す時間はない——研究費の申請支援に関わっていると、この光景に何度も出会います。

URA(University Research Administrator/リサーチ・アドミニストレーター)は、いまや多くの大学に配置されています。にもかかわらず、実態としては「校正係」「事務手続きの人」として使われてしまっている。これは研究者にとってもURAにとっても、大きな機会損失です。

なぜ、URAをうまく使えないのか

理由は能力ではなく、構造にあります。

研究者は、自分の研究を知りすぎています。認知科学でいう「知識の呪い(Curse of Knowledge)」——一度知ってしまうと、知らない状態を想像できなくなる現象です。1990年にスタンフォード大学で行われた有名な実験では、机を指で叩いて曲名を当てさせる課題で、叩き手は「50%は伝わるはず」と予測しました。実際に正解した聞き手は、2.5%でした。

曲を指で叩いて伝える実験(Newton, 1990) 叩き手の予測 50% 実際に伝わった 2.5% 伝えている側は、伝わり方を約20倍に見積もっていた(=知識の呪い)
図1:伝え手の予測と、実際に伝わった割合のギャップ。申請書でも同じことが起きる。

一方、研究費の書面審査を担当するのは、多くの場合「分野は近いが専門は同じではない」審査員です。つまり申請書は、専門外に近い読者へ向けて書く必要がある。ところが研究者自身は、どうやってもその読者になれません。

ここでURAの立ち位置を見直してみてください。研究の文脈は理解できるが、あなたの研究の細部は知らない。これは弱点ではなく、学内で最も審査員に近い読者という資産です。

URAを活かす5つの実務

1. 相談は「締切2週間前」ではなく「構想段階」に

申請書の勝敗の大半は、文章の巧拙ではなく研究計画の切り口で決まります。締切直前に持ち込めば、手を入れられるのは表記や「てにをは」だけ。公募要領が出た直後から1か月前までに、A4一枚の骨子の段階で持ち込むと、切り口そのものを議論できます。

相談のタイミングで「直せる範囲」はこれだけ変わる 研究の切り口から変えられる 表記しか直せない 公募要領の公開 1か月前 2週間前 締切 A4一枚の骨子段階で持ち込むほど、議論できるのは「文章」ではなく「切り口」になる
図2:相談が遅れるほど、直せるのは「切り口」から「表記」へと痩せていく。

2. 最初に渡すのは「3点セット」だけ

  • 研究の一文要約(何を・なぜ今・どうやって)
  • 概念図(ポンチ絵)のラフ1枚
  • 前年度に不採択なら、開示された審査結果

URAの時間は有限です。いきなり全文を渡すと、読むだけで面談時間が終わります。判断材料を絞るほど、返ってくるのは表記の修正ではなく構造の指摘になります。

3.「直してください」ではなく「どこで止まりましたか」

依頼の言葉を変えるだけで、返ってくる情報の質が変わります。

依頼の言葉を変えると、返ってくる情報が変わる × 添削をお願いします 表記・体裁の修正が返ってくる どこで止まりましたか 認知負荷が高い箇所が特定できる 読み返し(regression)が起きた地点=理解が破綻した地点。感想より、位置のほうが使える
図3:同じ相手・同じ原稿でも、問いの立て方で返ってくる情報の粒度が変わる。

読み返し(regression)は、文章の分かりにくさの客観的な手がかりです。読解時の眼球運動研究でも、理解がつまずいた地点で読み手は前方に戻ることが繰り返し観察されています。「分かりにくい」という感想より、「何行目で戻ったか」のほうがはるかに使えます。

4. URAを「模擬審査員」として3分だけ使う

時間を計って3分読んでもらい、そのあとファイルを閉じた状態で口頭で答えてもらいます。「この研究は何を明らかにするのか」「なぜ今なのか」「なぜあなたなのか」。答えが出てこない問いが、そのまま申請書の穴です。実際の審査員も、限られた時間で数十件を読みます。条件を近づけたテストほど、結果は正直です。

5. 頼めること/頼めないことを最初に握る

URAは代筆者ではありません。研究の中身と主張は、あくまで研究者の責任です。一方で、公募要領の解釈、学内締切や事務手続き、複数制度の使い分け、過去の採択傾向といった領域は、URAのほうが圧倒的に速い。

なお近年は、一般社団法人リサーチ・アドミニストレータースキル認定機構によるURAスキル認定制度(認定URA)が運用され、質保証の枠組みが整いつつあります。ただし学内URAの得意領域は人によって異なります(申請支援型/産学連携型/知財型など)。最初に「どこが得意ですか」と確認しておくと、依頼を外しません。

やりがちなNG3つ

  1. 締切前日に全文を送る——直せるのは誤字だけです。
  2. 「専門的すぎて分からないと思いますが」と前置きする——分からないのは審査員も同じです。その前置きは、最も重要なフィードバックを自分で封じています。
  3. 指摘をすべてそのまま反映する——URAは審査員本人ではありません。指摘が示すのは「読み手がつまずいた事実」であって、提案された修正案が正解とは限りません。つまずいた事実だけを受け取り、直し方は自分で設計してください。

まとめ

URAは校正係ではなく、あなたの研究が専門外の読者にどう見えるかを教えてくれる、学内で唯一の装置です。使うタイミングを「2週間前」から「構想段階」へ、依頼の言葉を「添削」から「どこで止まったか」へ。この2つを変えるだけで、申請書は目に見えて変わります。

やりとりは3回。回数より「目的を分ける」 ① 骨子レビュー A4一枚・公募要領の直後 ② 構造レビュー 初稿の骨格と図を確認 ③ 最終確認 提出2週間前 前日に全文を送っても、直せるのは誤字だけ
図4:3回のやりとりを、目的で分ける。これだけで密度が変わる。

審査員側の読み方については審査員は申請書のどこを見るか、文章そのものの設計は研究計画調書「目的」と「背景」の書き分け、図でのつまずき解消は概念図(ポンチ絵)の作り方もあわせてどうぞ。

伸滋Designでは、研究内容の捏造や代筆は行わず、すでにある研究の価値を「伝わる形」に設計し直すことに徹して申請書・研究広報を支援しています。詳しくは研究者・大学向けサービスをご覧ください。

よくある質問

所属大学にURAがいない場合はどうすればいいですか?

分野は近いが専門は違う同僚に「3分だけ読んで、この研究が何をするものか説明してみてください」と頼むのが、最も近い代替になります。説明が詰まった箇所が、申請書の弱点です。あわせて研究推進課や産学連携本部には公募情報と過去の採択事例が蓄積されています。外部の申請支援を使う選択肢もありますが、代筆を請け負う相手は避けてください。

URAに研究のアイデアを詳しく話しても大丈夫ですか?

URAは職務上の守秘義務を負い、多くの大学で規程が整備されています。ただし特許化の可能性がある内容については、相談の前に知財部門や利益相反マネジメント窓口の取り扱いを確認しておくと安全です。

どのくらいの回数やりとりすればよいですか?

3回が目安です。(1)A4一枚の骨子段階、(2)初稿の構造レビュー、(3)提出2週間前の最終確認。回数を増やすことより、各回の目的を分けることが効きます。

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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