「技術には自信がある。でも、どの制度から手をつければいいのかわからない」――大学発スタートアップを考える研究者から、こうした相談をよくいただきます。500件を超える産学連携の現場で見てきたのは、資金が取れない理由が技術そのものより、「いま自分はどの段階の審査を受けているのか」の取り違えにあることが多い、という事実です。
なぜ、資金の「順番」で迷うのか
資金は段階ごとに、審査員の問いが違います。検証段階では「技術は使えるか」、実用化の段階では「事業になるか」、民間の出資では「伸びて回収できるか」です。ところが研究者は、自分の専門知を前提に書いてしまいます。これが認知科学でいう「専門知の呪い」です。
有名な例が、1990年にスタンフォード大学で行われた「曲当て」の実験です。机を指で叩いて曲を伝える側は、半数の曲が当たると予測しましたが、実際に当たったのは120曲中3曲、約2.5%だったと報告されています。頭の中で曲が鳴っている人には、鳴っていない人の世界が想像できません。申請書でも同じことが起きます。
資金調達を「順番」で設計する4つの手順
手順1:資金を3つの段階に並べる
まず全体像を一枚で把握します。一般的な目安は、①概念実証・実現可能性調査(PoC・FS)、②実用化に向けた開発、③民間の出資、の順です。審査員の問いが段階ごとに変わるので、段階をまたいで同じ書き方をしないことが第一歩になります。
手順2:自分が「申請主体」になれるかを確認する
次に、その制度に自分で申請できるかを確かめます。SBIRフェーズ1は、研究者が代表となる枠で、2026年度公募では直接経費の上限が750万円、期間は8か月程度でした。一方、JSTの「スタートアップ・エコシステム形成支援」(大学・エコシステム推進型)は、5機関以上のプラットフォームが対象で、令和7年度公募の申請上限は直接経費で年1.2億円程度とされ、研究者個人や単独機関は対象外でした。
金額の桁が違うのは、制度の目的と申請主体が違うからです。金額や条件は年度ごとに変わるため、必ず最新の公募要領を確認してください。個人では動けない制度は、所属機関の窓口やURAとの連携が前提になります(URAの活用法も参考にしてください)。
手順3:冒頭の一文を「出口」から書く
申請書の最初に置く情報で、審査員の読み方は決まります。技術の説明から入ると「で、誰が使うのか」という疑問が先に立ちます。「誰が、何のために、対価を払うのか」を先頭の一文に置けば、その後の技術説明は「検証すべき点」として読まれます。結論ファーストは、審査員の認知負荷を下げる設計です。
手順4:冒頭5行を表で点検する
書き終えたら、冒頭5行だけを取り出して次の問いで点検します。技術の新しさは誰でも書けるため、差がつくのは「対価・検証点・次の資金源」です。産学連携の見せ方は共同研究費の獲得に関する記事でも整理しています。
やりがちなNG
- 専門用語のまま冒頭を始める:段階が上がるほど、審査員は分野外の人になります。
- 全制度に同じ申請書を使い回す:検証段階と出資段階では、問いがまったく違います。
- 金額や締切を古い情報のまま書く:制度は年度ごとに変わります。公募要領の確認が先です。
まとめ
大学発スタートアップの資金調達は、制度を探す前に「いま、どの段階の問いに答えるのか」を決めることから始まります。段階を並べ、申請主体を確かめ、冒頭を出口から書く。これだけで、申請書は審査員に届きやすくなります。私たちは捏造や代筆はせず、研究者の中にある事実を「伝わる形」へ設計することに徹しています。研究費・申請書のご相談は研究者・URA向けのサービスページから、起業までの全体像はスタートアップ・マップからご覧ください。
よくある質問(FAQ)
ギャップファンドとは何ですか?
大学の研究成果と事業化のあいだにある「谷」を越えるため、概念実証(PoC)や実現可能性調査(FS)といった検証段階を支える資金のことです。JSTの資料では、GAPファンドは「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」という別の事業が担うと整理されています。大学独自の学内制度もあるため、まず所属機関の窓口に確認してください。
研究者個人が直接申請できる制度はどれですか?
制度によって異なります。たとえばSBIRフェーズ1は研究者が代表として応募する枠でしたが、START「大学・エコシステム推進型」は5機関以上のプラットフォームが対象で、個人や単独機関は対象外でした。必ず最新の公募要領で申請主体を確認してください。
資金の順番は、必ずこの通りに進めるべきですか?
いいえ。ここで示した順番は、審査員の問いが変わっていく流れを整理した目安です。分野や大学の支援体制、技術の成熟度によって最適な入口は変わるため、URAや産学連携の窓口と相談して決めるのが現実的です。
出典:JST「SBIRフェーズ1支援」2026年度リーフレット、JST「スタートアップ・エコシステム形成支援(大学・エコシステム推進型)」令和7年度公募要領、Newton, E. (1990) スタンフォード大学博士論文(曲当て実験)。
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