プレゼン・伝え方の型

「えー」「あのー」は本当に減らすべきか?フィラーが聞き手の記憶を助けた実験と、印象を下げる境界線

登壇の録画を見返して、自分の「えー」「あのー」の多さに驚いた経験はないでしょうか。話し方の研修では「フィラーを消しましょう」と教わります。原稿を覚え、口を閉じて間を取る練習をした方も多いはずです。ところが、聞き手の側を調べた研究を追うと、話はそう単純ではありません。「えー」は理解を妨げないどころか、次の言葉への注意を高め、記憶を助けることがあります。その一方で、話し手の自信は低く見積もられます。この記事では、フィラー研究の主要な実験を整理します。そのうえで「減らすべき場面」と「気にしなくてよい場面」の境界線を、明日の登壇に使える形で示します。経営者、講師、研究発表を控えた方に向けて書いています。

フィラーとは何か?「えー」「あのー」に研究者が注目してきた理由

フィラー(filler/filled pause)とは、「えー」「あのー」「えっと」のように、言葉を探す間を埋める発声のことです。日本語では「言いよどみ」「つなぎ言葉」とも呼ばれます。英語の um や uh がこれにあたります。

フィラーは、話し言葉に驚くほど多く含まれます。心理言語学者のジーン・フォックス・トゥリーが複数の研究を集計したところ、自然な会話では100語あたり約6語が、フィラーや言い直しなど何らかの「非流暢性(disfluency)」の影響を受けていました(Fox Tree, 1995;Corley & Stewart, 2008 の総説より)。読み上げ原稿にはほとんど現れず、その場で考えながら話すときに出るのが特徴です。

日本語でも事情は同じです。国立国語研究所の『日本語話し言葉コーパス(CSJ)』を使った渡辺美知子らの分析では、フィラーは長く複雑な句の直前ほど多く現れることが確認されています(Watanabe et al., 2005)。つまりフィラーは、話し手が「これから重い内容を組み立てている」ときに出やすい音です。

フィラーは話し手の「準備不足」の証拠ではなく、その場で言葉を組み立てている最中に出る、ごく普通の発話現象です。この前提が、以下の実験結果を読むうえで重要になります。

フィラーは聞き手の理解を妨げるのか?「消したほうがよい」を実験で試した結果

フィラーが聞き手の理解を遅らせた実験は、ほとんど見当たりません。むしろ「uh」は次の語の認識を速め、直後の語は記憶に残りやすくなりました。

「uh」を消すと、聞き手の反応はむしろ遅くなった

フォックス・トゥリーは2001年、実際の会話の録音から「um」「uh」を含む断片を切り出しました。そして、フィラーを残した版と、デジタル編集で消した版を用意しました。聞き手は指定された単語が聞こえたらボタンを押します。反応が速いほど、聞き手はそこまでの内容をスムーズに処理できていたと解釈できます。

結果は意外なものでした。英語では、「uh」の直後の語を認識する時間は、フィラーあり554ミリ秒、削除版601ミリ秒でした。フィラーがあるほうが47ミリ秒速かったのです。オランダ語でも同じ方向の差(28ミリ秒)が出ました。一方「um」では、あり・なしで差がありませんでした(Fox Tree, 2001, Memory & Cognition)。

図1|「uh」を消すと、次の語の認識はむしろ遅くなった フィラーあり(原音) フィラー削除 450500550600650 554601 ありが47ms速い 561548 有意差なし 506534 ありが28ms速い 585591 有意差なし 英語 uh英語 umオランダ語 uhオランダ語 um 縦軸:直後の語を認識するまでの反応時間(ミリ秒、小さいほど速い)。英語34人、オランダ語32人。 出典:Fox Tree (2001) Memory & Cognition, 29(2), Table 1・2 より作図
図1:「短い遅れ」を予告する uh は聞き手の注意を高めたが、「長い遅れ」を予告する um には効果がなかった。

フォックス・トゥリーはこの差を、次のように説明しています。「uh」は短い遅れの合図です。聞き手は「すぐ次が来る」と身構え、注意が高まります。「um」は長い遅れの合図なので、身構えても意味がなく、注意は高まりません。フィラーは聞き手にとって「雑音」ではなく、次に来るものを予告する「合図」として処理されている、というのがこの研究の主張です。

脳波と記憶テストでも「直後の語が残りやすい」

エディンバラ大学のマーティン・コーリーらは2007年、より直接的な証拠を示しました。12人の聞き手に、文末の語が予測しやすい文と予測しにくい文を聞かせ、脳波を測りました。予測しにくい語には通常、N400と呼ばれる脳波の反応が強く出ます。ところが、その語の直前に「er」(英国式の uh)が入ると、この反応の差が小さくなりました。聞き手は、フィラーの後に「予想外の語が来る」と構えていたと解釈できます。

さらに約55分後、抜き打ちの再認テストを行いました。フィラーの直後にあった語は、流暢な文の語より正しく「聞いた」と判定される率がわずかに、しかし有意に高くなりました(Corley, MacGregor & Donaldson, 2007, Cognition)。

ここで統計用語を一つ補足します。「有意」とは、偶然でこの差が出る確率が十分に低いという意味です。効果の大きさそのものを保証する言葉ではありません。この実験の参加者は12人と少なく、記憶への効果も「わずか」と著者自身が書いています。

物語全体の記憶も、フィラーで良くなった。ただし「咳」では悪くなった

イリノイ大学のスコット・フラウンドーフとデュエイン・ワトソンは2011年、実験室の短文ではなく、物語での効果を調べました。『不思議の国のアリス』を改作した約300語の物語を72人に聞かせ、あとで内容を思い出してもらいました。物語には、フィラーを6か所に挿入した版、同じ長さの「咳」を挿入した版、何も入れない版がありました。

フィラー版は、流暢版より筋(プロットポイント)の想起が良くなりました。ところが、同じ時間だけ流れを止める「咳」版では、想起が悪くなりました(Fraundorf & Watson, 2011, Journal of Memory and Language)。フィラーの効果は「考える時間が増えるから」では説明できません。著者らはこれを「注意の定位(attentional orienting)」、つまりフィラーが聞き手の注意を話し手の声に引き戻す働きと呼びました。

日本語の「えっと」でも同じことが起きる

英語圏の話だけではありません。東京大学の渡辺美知子らは、日本語の「えっと」を使って同じ問いを調べました。30人の東京方言話者に「赤くて、えっと、丸に矢印がついた紙」のような指示文を聞かせ、画面上の図形を選ばせました。複雑な図形の説明では、「えっと」がある条件と、同じ長さの無音がある条件で、反応が有意に速くなりました。単純な図形の説明では差がありませんでした(Watanabe, Hirose, Den & Minematsu, 2005;拡張版は Speech Communication, 2008)。

日本語の聞き手も、「えっと」を聞くと「このあと長くて複雑な句が来る」と予測し、準備していたことになります。注目したいのは、同じ長さの無音でも同じ効果があった点です。この事実は、後半の実践パートで効いてきます。

それでもフィラーが「印象」を下げるのはなぜか?

理解や記憶には役立つのに、フィラーの多い話し手は「自信がない」「準備不足」と見られます。理解の回路と印象の回路は、聞き手の中で別々に動いているからです。

無音の間より、「えー」のほうが自信は低く見積もられる

ストーニーブルック大学のスーザン・ブレナンとモーリス・ウィリアムズは1995年、一般知識クイズに答える録音を聞き手に評価させました。答えの前に「um」や「uh」があると、同じ長さの無音があるときより、聞き手は「この人は答えに自信がない」と判定しました(Brennan & Williams, 1995, Journal of Memory and Language)。フィラーは「知識の確かさ」を推定する手がかりとして、無音の間より強く働いたのです。

ここには合理性もあります。同じ研究では、話し手自身が自信のない答えほど、実際にフィラーを前置きしていました。聞き手の推定は、当てずっぽうではなく、ある程度は当たっています。

聞き手は「話し方」に注意を向けたときだけ「えー」に気づく

では聴衆は、どれくらい「えー」に気づいているのでしょうか。カリフォルニア大学のニコラス・クリステンフェルドは1995年、同じスピーチを3条件で聞かせました。「内容に注目して」「話し方に注目して」「指示なし」の3つです。そのうえで、フィラーの数を推定させました。内容に注目した聞き手は、フィラーの数をほとんど把握できませんでした。話し方に注目した聞き手だけが敏感でした(Christenfeld, 1995, Journal of Nonverbal Behavior)。

同じ研究で、一般の聞き手は「フィラーは緊張や準備不足の表れだ」と信じていることもわかりました。次の節で見るとおり、この信念は研究結果と食い違っています。それでも聞き手がそう解釈する以上、印象への影響は無視できません。

図2|同じ「えー」が、聞き手の中で二つの回路に分かれる 話し手の 「えー」「あのー」 理解・記憶の回路:プラスに働く ・次の語への注意が高まる(uh で反応が47ms速い) ・「複雑な句が来る」と予測して準備する(日本語でも確認) ・直後の語や筋が記憶に残りやすい(咳では逆効果) 印象の回路:マイナスに働く ・「答えに自信がない」と推定される(無音の間より強く) ・「緊張・準備不足」と解釈される(研究上は無関係) ・ただし気づくのは「話し方」に注意が向いたときだけ 出典:Fox Tree (2001)、Watanabe et al. (2005)、Fraundorf & Watson (2011)、Brennan & Williams (1995)、Christenfeld (1995)
図2:フィラーを「良い・悪い」で一括りにせず、どちらの回路が今の場面で重いかを考える。

この二重構造を踏まえると、対策の方向が見えてきます。聞き手が内容に集中している場面では、フィラーは害になりにくい。逆に、面接や質疑応答のように「この人は信頼できるか」を値踏みされる場面では、印象の回路が優先されます。「口下手」な人が信頼される逆説を扱った記事でも触れたとおり、流暢さと信頼は一直線には結びつきません。それでも「答えの前のフィラー」だけは、確実に自信の低さとして読まれます。

フィラーが出るのは緊張のせいなのか?「選択肢の多さ」という別の説明

「えー」が増える主な原因は緊張ではなく、次に言う言葉の「選択肢の多さ」です。この説明は、大学講義の観察研究から生まれました。

人文学の講師は、自然科学の講師の3倍以上「uh」と言っていた

コロンビア大学のスタンレー・シャクターらは1991年、10学科・45人の講師の学部講義を観察し、1分あたりのフィラー数を数えました。自然科学(生物・化学・数学・心理)では平均1.39回、社会科学では3.84回、人文学(美術史・英文学など)では4.85回でした。

興味深いのは、そのあとです。同じ講師たちに専門と関係のない話題(大学院の教育制度)で面談すると、フィラーの数は分野を問わずほぼ同じになりました(Schachter, Christenfeld, Ravina & Bilous, 1991, Journal of Personality and Social Psychology)。「話し手の性格」ではなく「扱う内容」がフィラーを決めていたのです。図3は講義と面談の両方を記録できた41人の値なので、本文の45人の平均とはわずかに異なります。

図3|フィラーは「人」ではなく「内容の選択肢の多さ」で決まる 専門の講義中 一般的な話題の面談 0246 1.455.22 4.094.99 4.855.28 自然科学(17人)社会科学(11人)人文学(13人) 縦軸:1分あたりのフィラー(uh, um 等)の回数。講義と面談の両方を記録できた41人の講師の平均。 出典:Schachter et al. (1991) Journal of Personality and Social Psychology, 60(3), Table 3 より作図
図3:講義中は分野で3倍以上の差があるが、同じ人が一般的な話題を話すと差が消える。

シャクターらの解釈はこうです。自然科学の用語には同義語が少なく、「E=mc²」に言い換えはありません。人文学では「美しさ」「様式」の言い換えが無数にあります。選択肢が多い分岐点ほど、話し手は「えー」と言って選ぶ時間を稼ぎます。実際、講義の最初の400語で使われた異なり語数は、自然科学148.5語、人文学189.2語でした。語彙の多さとフィラー数には相関(r = .44)がありました。相関係数 r は、二つの量が一緒に増減する度合いを示す指標で、1に近いほど関係が強いことを意味します。

「緊張すると増える」は、7つの研究で支持されなかった

同じ論文は、先行研究のレビューにも触れています。心理学者ジョージ・マールは、7つの独立した研究を調べました。不安が「言い直し」などの非流暢性を増やす証拠はありました。しかし、フィラーだけは不安と関係がありませんでした。

ただし、話はもう一段ひねりがあります。クリステンフェルドとクリーガーは1996年、二つの操作を試しました。「評価されている」と意識させる操作と、自分の話し方に注意を向けさせる操作です。どちらでも、フィラーは大きく増えました。一方、アルコールを摂取すると、話す作業自体は難しくなるのにフィラーは減りました(Christenfeld & Creager, 1996, Journal of Personality and Social Psychology)。著者らの結論は、「不安は、話す作業を難しくするからではなく、話し手の注意を自分の話し方に向けさせるときにフィラーを増やす」というものです。

ここに、多くの話し方研修が見落としている逆説があります。「えー」を言うまいと自分の話し方に注意を向けるほど、フィラーは増えやすくなります。スポットライト効果の記事で扱ったとおり、緊張は思っているほど聴衆に見えていません。フィラーについても、聴衆の多くは内容に集中していて、数を把握していないのです。

明日からできる:フィラーを「消す」より「置き換える」3ステップ

フィラー対策は、「言わないよう我慢する」のではなく、「出やすい場所を減らし、残りを無音の間に置き換える」のが研究に沿った方法です。順番は次の3つです。

図4|フィラーは「我慢」ではなく「置き換え」で減らす ① 録音して数える ・5分間の回数を記録する ・1分あたりに換算する ・「答えの直前」の分を  別に数える 目安:講義で1〜5回/分 ② 選択肢を減らす ・主要用語の呼び方を  一つに決める ・冒頭と各章の第一文を  文字どおり決めておく 根拠:Schachter (1991)ほか ③ 文頭は無音の間に ・質問への答えの前だけ  「えー」を止める ・同じ長さ黙る(効果は  同じで印象が下がらない) 根拠:Brennan & Williams (1995) 共通の注意:話している最中に「えー」を数えない。自分の話し方に注意を向けるほど増える。 根拠:Christenfeld & Creager (1996)。数えるのは録音を聞き返すときだけにする。
図4:本番中は数えない。準備で選択肢を減らし、答えの直前だけを無音の間に置き換える。

ステップ1:録音して、「答えの直前」のフィラーだけ別に数える

まず、練習の録音を聞き返し、5分間のフィラー数を1分あたりに換算します。シャクターらのデータでは、講義中のフィラーは分野によって1分あたり約1.4〜4.9回でした。この範囲なら、普通の講師と変わりません。

数える際は、「質問への答えの直前」と「説明の途中」を分けてください。前者は印象の回路に直結します。後者は理解の回路に乗り、害になりにくい。減らすべきは前者です。

ステップ2:選択肢を減らす。用語を一つに決め、第一文を文字どおり用意する

フィラーは分岐点で出ます。分岐点を減らせば、我慢しなくても数は減ります。具体的には、主要な用語の呼び方を一つに固定します。「顧客」「お客様」「ユーザー」を場面で使い分けると、そのたびに選択が発生します。

また、冒頭と各セクションの第一文は、文字どおり暗記しておきます。フィラーは発話の始まりに最も出やすいとされているからです(Corley & Stewart, 2008)。専門家ほど説明が下手になる理由を扱った記事でも書いたとおり、知っていることが多い人ほど、言い換えの選択肢が増えて詰まります。専門家こそ、第一文を決めておく効果が大きいのです。

ステップ3:答えの直前だけ、「えー」を同じ長さの無音に置き換える

ブレナンとウィリアムズの実験では、同じ長さの無音の間は、フィラーより自信の低下として読まれにくいものでした。渡辺らの日本語実験では、無音の間もフィラーと同じ「予告」の効果を持っていました。つまり、フィラーを無音の間に置き換えれば、理解の回路の利点を保ったまま、印象の回路の減点だけを減らせます。

すべてのフィラーを置き換える必要はありません。質疑応答で答える直前、提案の要点を述べる直前など、「信頼を値踏みされる瞬間」に絞ります。「沈黙」の力を扱った記事で紹介したとおり、意図的な間は、聞き手に「重要な内容が来る」と構えさせる働きもあります。

共通の注意:本番中に数えない

クリステンフェルドとクリーガーの結果を思い出してください。自分の話し方に注意が向くほど、フィラーは増えます。本番中に「今、えーと言った」と気にするのは逆効果です。数えるのは録音を聞き返すときだけにし、本番では内容と聞き手に注意を向けます。話す速さを扱った記事でも触れたように、ゆっくり話すことは、それ自体が分岐点での余裕を生み、フィラーを減らします。

フィラー研究の限界と、いま検証が続いていること

ここまでの研究には、いくつかの限界があります。断定を避けるため、併記しておきます。

第一に、サンプルの小ささです。コーリーらの脳波実験は12人、フォックス・トゥリーの実験は30人台でした。効果量(差の大きさを標準化した指標)も、多くの研究で小さめです。第二に、英語とオランダ語の研究が中心で、日本語の研究は渡辺らの実験など限られています。日本語の「えー」「あのー」「えっと」は機能が異なるとされますが、聞き手への効果の違いは十分に調べられていません。

第三に、「フィラーが特別なのか、時間が増えれば何でも同じなのか」という論争があります。ケイティ・ベイリーとフェルナンダ・フェレイラの2003年の実験では、フィラーの代わりに犬の鳴き声や電話の音を入れても、文の解釈に同じ影響が出ました。コーリーとスチュワートの総説は、「フィラーが語として理解されている」証拠はまだ状況的だと結論しています(Corley & Stewart, 2008, Language and Linguistics Compass)。ただし、フラウンドーフとワトソンの「咳では逆効果」という結果は、時間だけでは説明できないことも示しています。検証は続いています。

最後に、近年の動きを一つ挙げます。Googleは2018年、電話で予約を取るAI「Duplex」に、意図的に「hmm」「uh」を入れました。ユーザー調査で、フィラーを含む会話のほうが自然で親しみやすいと評価されたためです(Google Research Blog, 2018)。機械でさえ、フィラーを足すことで「人らしさ」を得る時代です。人間が完全に消す必要はない、と考える根拠の一つになります。

よくある質問(FAQ)

Q1. フィラーはゼロにしたほうがよいですか?

ゼロにする必要はありません。聞き手の理解や記憶を妨げた証拠はほとんどなく、「uh」型の短いフィラーはむしろ注意を高めました。減らすべきは、質問への答えの直前など、自信を値踏みされる場面のフィラーです。そこだけ無音の間に置き換えるのが効率的です。

Q2. 「えー」と「あのー」で聞き手への効果は違いますか?

英語では、短い遅れを予告する「uh」は次の語の認識を速め、長い遅れを予告する「um」は効果がありませんでした。日本語で同じ区別が成り立つかは、まだ十分に検証されていません。「えー」「あのー」「えっと」は談話上の機能が異なるとされますが、聞き手への影響差は今後の研究課題です。

Q3. 緊張するとフィラーが増えるのは本当ですか?

不安そのものがフィラーを増やす証拠は乏しく、7つの研究で関係が見つかりませんでした。増えるのは、「評価されている」と意識して自分の話し方に注意を向けたときです。本番中に「えー」を数えるのは逆効果で、内容と聞き手に注意を向けるほうが減ります。

Q4. 原稿を丸暗記すればフィラーは消えますか?

読み上げや暗唱ではフィラーはほとんど出ません。ただし、暗唱は聞き手に「自分に向けて話していない」印象を与えやすく、質疑応答には対応できません。研究に沿った折衷案は、冒頭と各章の第一文だけを文字どおり決め、主要用語の呼び方を一つに固定することです。

Q5. 聴衆はどれくらい私のフィラーに気づいていますか?

内容に集中している聞き手は、フィラーの数をほとんど把握できませんでした。気づくのは、話し方そのものに注意を向けているときだけです。面接官や審査員のように「話し手を評価する」立場の聞き手には見えやすく、内容を学びに来た聴衆には見えにくいと考えられます。

まとめ:フィラーは「敵」ではなく、場面で使い分ける「合図」

フィラーは、聞き手の中で二つの回路に分かれて処理されます。理解と記憶の回路ではプラスに、印象の回路ではマイナスに働きます。出る原因は緊張よりも「次に言う言葉の選択肢の多さ」であり、自分の話し方を気にするほど増えます。

だからこそ、対策は「我慢」ではなく「置き換え」です。録音で数え、用語と第一文を決めて分岐点を減らし、答えの直前だけを無音の間に置き換える。この3つで、理解の利点を保ったまま、印象の減点を減らせます。

自分の話し方の癖を客観的に知りたい方は、伝わる型診断で、話し手としての傾向を確認してみてください。研究発表や学会講演でフィラーが気になる研究者の方には、研究者向けの発表支援もご用意しています。

出典

  • Fox Tree, J. E. (2001). Listeners’ uses of um and uh in speech comprehension. Memory & Cognition, 29(2), 320–326. 著者版PDF
  • Corley, M., MacGregor, L. J., & Donaldson, D. I. (2007). It’s the way that you, er, say it: Hesitations in speech affect language comprehension. Cognition, 105(3), 658–668. ScienceDirect
  • Fraundorf, S. H., & Watson, D. G. (2011). The disfluent discourse: Effects of filled pauses on recall. Journal of Memory and Language, 65(2), 161–175. PMC(全文)
  • Watanabe, M., Hirose, K., Den, Y., & Minematsu, N. (2005). Filled pauses as cues to the complexity of following phrases. Proc. Interspeech 2005, 37–40. PDF(拡張版:Speech Communication, 50, 81–94, 2008. ScienceDirect)
  • Brennan, S. E., & Williams, M. (1995). The feeling of another’s knowing: Prosody and filled pauses as cues to listeners about the metacognitive states of speakers. Journal of Memory and Language, 34(3), 383–398. Semantic Scholar
  • Christenfeld, N. (1995). Does it hurt to say um? Journal of Nonverbal Behavior, 19(3), 171–186. Springer
  • Christenfeld, N., & Creager, B. (1996). Anxiety, alcohol, aphasia, and ums. Journal of Personality and Social Psychology, 70(3), 451–460. PubMed
  • Schachter, S., Christenfeld, N., Ravina, B., & Bilous, F. (1991). Speech disfluency and the structure of knowledge. Journal of Personality and Social Psychology, 60(3), 362–367. PDF
  • Corley, M., & Stewart, O. W. (2008). Hesitation disfluencies in spontaneous speech: The meaning of um. Language and Linguistics Compass, 2(4), 589–602. 著者版PDF
  • Bailey, K. G. D., & Ferreira, F. (2003). Disfluencies affect the parsing of garden-path sentences. Journal of Memory and Language, 49, 183–200.(URL未確認のためリンクなし)
  • Leviathan, Y., & Matias, Y. (2018). Google Duplex: An AI system for accomplishing real-world tasks over the phone. Google Research Blog. Google Research

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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