脳と認知の科学

テスト効果(検索練習)とは?「読み返す」より「思い出す」が記憶に残る科学と、手応えが当てにならない理由

社内説明会の資料を、時間をかけて作り込みます。当日は丁寧に話し、質疑にも答え、終了後にはPDFを全員へ配ります。アンケートの評価も悪くありません。ところが三か月後、現場で誰も内容を思い出せない。そんな経験は、多くの経営者や講師が持っています。

こうした場面で長く語られてきたのが「大事なことは繰り返し伝える」という考え方です。何度も見せ、何度も読ませれば定着する、という前提です。ところが記憶の研究では、この前提は半分しか当たっていないことがわかってきました。繰り返し「入れる」ことと、後から「出せる」ことは、別の現象だからです。

この記事では、テスト効果(testing effect)と呼ばれる現象を扱います。別名を検索練習(retrieval practice)といいます。「読み返す」よりも「思い出す」ほうが記憶が長く残る、という研究群です。研究の中身、効果の大きさ、いまも割れている論点、そして説明会や研修への落とし込みまでを順に見ていきます。

テスト効果(検索練習)とは何か

テスト効果とは、学んだ内容を後から思い出す作業をはさむと、同じ時間ただ読み直すよりも記憶が長く残る現象です。テストを「測るための道具」ではなく「覚えるための道具」として使う、という発想の転換にあたります。

用語を整理しておきます。ここでいうテストは点数をつける試験ではありません。資料を閉じて、白紙に思い出して書き出す。人に説明してみる。この「取り出す作業」全般を指します。研究の世界では検索練習(retrieval practice)と呼ばれ、テスト効果と同じ現象を指す言い方として使われています。

14.2回読んだ人が、3.4回の人に負けた実験

この現象を教育に近い形で示したのが、ワシントン大学のヘンリー・ローディガーとジェフリー・カーピキーによる2006年の実験です(『Psychological Science』誌)。大学生180名が、科学の解説文を読んで、一週間後に内容をどれだけ再生できるかを比べました。

三つのグループがありました。文章を4回読むグループ、3回読んで1回思い出すグループ、1回読んで3回思い出すグループです。かけた時間はどのグループも同じでした。読んだ回数の実測値は、それぞれ平均14.2回、10.3回、3.4回でした。

5分後にテストすると、順位は読んだ回数どおりでした。4回読んだグループが83%、3回読んだグループが78%、1回しか読まなかったグループが71%です。ところが一週間後、順位は完全に入れ替わりました。4回読んだグループは40%まで落ち、3回思い出したグループは61%を保っていたのです。

図1|読む回数を増やしても、1週間後には残らない 5分後にテスト 1週間後にテスト 100% 50% 0% 83% 78% 71% 40% 56% 61% 読む×4回 想起なし 読む×3回 想起×1回 読む×1回 想起×3回 読む×4回 想起なし 読む×3回 想起×1回 読む×1回 想起×3回 出典:Roediger & Karpicke (2006) 実験2。大学生180名。文章の30の要点のうち再生できた割合。
図1:直後の成績と1週間後の成績は逆の順位になります。手応えが良い方法が、残る方法とは限りません。

忘れた量で比べると差はさらに際立ちます。4回読んだグループは学習直後から52%を失いました。3回思い出したグループは14%しか失っていません。読んだ回数が4分の1でも、忘れ方はずっと緩やかだったのです。忘却の速さそのものを扱った話は、エビングハウスの忘却曲線に関する記事で詳しく整理しています。

「思い出す」と「読み返す」は、頭の中で何が違うのか

再読は情報を外から入れ直す作業です。想起は情報を内側から取り出す作業です。この違いが、記憶に残るかどうかを分けます。

研究者たちは、いくつかの説明を並行して検討しています。ひとつは転移適切性処理(transfer-appropriate processing)です。後で必要になるのは「思い出す」という動作です。ならば練習しておくべきなのも「思い出す」動作だ、という考え方になります。読み返す練習をいくら重ねても、思い出す練習にはなりません。

もうひとつは検索経路の説明です。カリフォルニア大学のロバート・ビョークは、思い出すたびに記憶へたどり着く道が増えると論じました。道が多いほど、時間がたっても手がかりの一つから引き出せます。ビョークはこれを「望ましい困難(desirable difficulties)」の一例として位置づけています。学習中に少し苦しい方法のほうが、長い目で見ると成績が良くなる、という考え方です。

ローディガーとカーピキーの実験では、思い出す作業のあとに正解を見せていません。それでも効果が出ました。つまりテスト効果は「答え合わせで復習できるから」だけでは説明できません。取り出す行為そのものに、記憶を変える働きがあります。

図2|「入れ直す」と「取り出す」は別の作業です 再読(もう一度読む) 想起(思い出す) 資料・スライド 入れる 記憶 記憶 出す 白紙・口頭 何度読んでも、思い出す練習にはなりません 読んでいる間の手応えだけが上がります 取り出すたびに、記憶への道が増えます 本番と同じ動作を先に練習できます 1週間後には残りにくい 1週間後にも残りやすい 転移適切性処理と検索経路の考え方にもとづく整理(Roediger, 1990/Bjork, 1994)。
図2:同じ「復習」という言葉でも、方向が逆です。後で必要になるのは取り出す動作のほうです。

なぜ私たちは、この効果に気づけないのか

テスト効果がこれほど知られていない理由は、本人の手応えが当てにならないからです。学習中の感覚と、一週間後の成績は、ほとんど連動しません。

この点を最も鮮やかに示したのが、カーピキーとローディガーが2008年に『Science』誌へ発表した実験です。大学生がスワヒリ語と英語の単語ペア40組を覚えました。全員が、正解できるようになるところまでは同じように到達しています。学習の進み方に条件間の差はありませんでした。

違ったのはその後です。ある単語を一度正しく答えられたとき、その単語を(1)そのまま読み直しも出題も続けるか、(2)読み直しはやめて出題だけ続けるか、(3)出題はやめて読み直しだけ続けるか、(4)両方やめるか、で4条件に分けました。(4)は「覚えたものは外して、まだのものに集中しなさい」という、多くの参考書がすすめるやり方にあたります。

学習の最後に、学生自身へ「一週間後に何語思い出せると思うか」を聞いています。答えは4条件ともほぼ同じ、40語中およそ20語でした。ところが一週間後の実際の成績は、大きく分かれました。

図3|予測はほぼ同じ。結果は2倍以上ちがう 学生自身の予測 1週間後の実際 100% 50% 0% 52% 80% 51% 80% 55% 36% 51% 33% 読む+思い出す を続ける 思い出すだけ を続ける 読むだけ を続ける 覚えたら 練習をやめる 出典:Karpicke & Roediger (2008) Science。スワヒリ語と英語の単語40組。効果量 d = 4.03。
図3:学習中の感覚は、条件の違いを捉えていません。手応えで学習法を選ぶと、外す確率が高くなります。

思い出す練習を続けた2条件は、いずれも約80%を再生しました。出題をやめて読み直しだけ続けた条件は36%、両方やめた条件は33%です。効果量は d = 4.03 と報告されています。効果量とは、二つの条件の差を標準偏差を単位にして表した数値です。心理学では0.8で「大きい」とされます。4.03は、その水準をはるかに超えています。得点の分布に重なりがまったくありませんでした。

ここから、実務にとって重い含意が出てきます。学習中の手応えや直後の理解度は、定着の指標にならないということです。説明会の直後にとるアンケートは、参加者の満足を測っています。三か月後に残る量とは、別のものを測っている可能性が高いのです。

この構図は「わかったつもり」の心理と地続きです。自分が何をどこまで理解しているかを正確に見積もるのは難しい、という話は自己参照効果を扱った記事でも触れています。

効果はどのくらい確かなのか

テスト効果は、心理学の中でも再現性が高い部類に入る現象です。実験室でも教室でも、複数のメタ分析が中程度から大きめの効果を報告しています。メタ分析とは、多数の研究の結果を統計的にまとめ、全体としての効果の大きさを推定する手法です。

メタ分析 対象 効果量(Hedges’ g)
Rowland(2014) 159の効果量。再読との比較 0.50[95%信頼区間 0.42–0.58]
Adesope ら(2017) 他の学習法全般との比較 0.61[0.58–0.65]
Yang ら(2021) 222研究・48,478名。実際の教室 0.499

表の見方を補足します。Hedges’ g は効果量の指標のひとつで、0.2で小、0.5で中、0.8で大が目安です。95%信頼区間とは、同じ調査を繰り返したとき真の値が入ると期待される範囲のことです。区間が0をまたいでいないので、効果の向きは安定していると読めます。

とくに Yang ら(2021)は実験室ではなく実際の教室が対象です。約4万8千人分のデータで g = 0.499 が出ています。研究室の特殊な条件だから出た効果ではない、という点で重要な結果です。

いまも割れている論点:複雑な内容でも効くのか

ただし、無条件に効くわけではありません。最大の論争は「内容が複雑になると効果が消えるのか」です。

2015年、オランダのタミー・ファン・ゴッグとジョン・スウェラーが『Educational Psychology Review』誌で問題提起をしました。学習材料の複雑さが増すにつれてテスト効果は小さくなり、やがて消える、という主張です。単語の暗記のように要素同士のつながりが薄い内容と、仕組みを理解する内容とでは話が違う、という趣旨でした。

同じ号で、カーピキーとアウエが反論しています。ファン・ゴッグらの言う「要素の相互作用性」は数量的に定義されておらず、適用も一貫していない。複雑な材料で効果を示した研究が文献レビューから抜け落ちている。材料の複雑さと、学習活動の複雑さと、テストの複雑さが混同されている。こうした指摘です。

この論争は決着していません。現時点で言えるのは、単純な用語や事実の定着には効果が大きく確かである一方、複雑な概念の応用については条件の見極めが必要だ、ということです。伝える側としては、まず「用語・数字・判断基準」といった要素の定着に使うのが安全です。

明日から使える:説明会・研修への落とし込み

やることは単純です。伝える時間の一部を削って、相手が取り出す時間に変えます。追加の時間はいりません。配分を変えるだけです。

1. 15分ごとに「白紙3分」をはさむ

説明を15分ほど続けたら、資料を閉じてもらいます。手元の紙に、いま聞いた要点を思い出して書いてもらいます。3分で十分です。正解は見せなくてかまいません。ローディガーらの実験でも、正解を示さないまま効果が出ています。

2. 質問は「覚えていますか」ではなく「書き出してください」にする

口頭で「わかりましたか」と聞いても、取り出す作業は起きません。多くの人はうなずくだけです。全員に同時に取り出させるには、書く形が確実です。挙手や指名だと、答える一人しか練習になりません。

3. 終わりに「3つ挙げてください」を置く

最後に、今日の要点を3つ書き出してもらいます。締めくくりは記憶に残りやすい位置でもあります。位置と記憶の関係は初頭効果と親近効果の記事で整理しています。

4. 翌週、3問だけ送る

一週間後にメールで3問だけ問います。「先週の方針を一言で言うと?」で十分です。ここが最も費用対効果の高い一手になります。回答を集める必要すらありません。頭の中で答えを探した時点で、取り出す作業は起きています。

5. アンケートの満足度を、定着の証拠として扱わない

直後の満足度は、その場の体験の評価です。カーピキーらの実験が示したとおり、本人の予測は定着とほとんど相関しませんでした。定着を知りたければ、時間をおいてから思い出してもらうしかありません。理念や方針を現場の行動へ落とす設計は、経営理念の浸透を扱った記事もあわせて読むと具体化しやすくなります。

図4|同じ60分でも、配分を変えると残り方が変わります よくある形 (入れ続ける) 改善した形 (取り出させる) 資料を見せながら説明(60分) 質疑(10分) 資料を配る 参加者が自分の記憶から取り出す機会は、一度もありません。 説明 15分 白紙に 書き出す3分 説明 15分 要点を3つ 書き出す3分 翌週メールで 3問だけ 説明の総量は減りますが、取り出す機会が3回生まれます。時間の総量は同じです。 テスト効果の研究知見をもとにした設計例です。時間配分の数値は研究の再現ではなく、実務上の目安です。
図4:追加の時間はいりません。伝える時間の一部を、相手が取り出す時間に置き換えるだけです。

効きにくい場面もあります

境界条件も押さえておきます。テスト効果は万能ではありません。

まず、まったく思い出せない状態で問うと効果が薄くなります。ローディガーとカーピキーも、テストが効くのは学習から比較的すぐで、ある程度答えられる水準のときだと述べています。まだ何も入っていない相手に問いを出しても、空振りが増えるだけです。順序としては、伝えてから取り出させます。

次に、複雑な内容の応用については前述のとおり議論が続いています。仕組みの理解や判断力を育てたい場合は、思い出す作業だけでは足りない可能性があります。

そして、取り出す作業には心理的な負荷がかかります。答えられないと恥をかく場だと感じられると、参加者は防御的になります。書いた内容を提出させない、点数をつけない、正誤を公開しない。この三点を明示すると、抵抗はかなり減ります。終わり方が印象を決めるという点からも、最後を詰問で終えるのは避けたいところです。

よくある質問

テストと言われると身構えられます。別の呼び方はありますか。

「振り返り」「書き出し」「棚卸し」といった言い方で置き換えられます。重要なのは名前ではなく、資料を閉じて自分の記憶から取り出す点です。評価しないことを先に伝えると、抵抗はほとんどなくなります。

正解を見せなくても効果はありますか。

あります。ローディガーとカーピキー(2006)の実験では、思い出す作業のあとに正解を示していません。それでも一週間後の成績は再読を大きく上回りました。ただし後の研究では、正解を示すとさらに効果が上がる可能性も報告されています。時間が許すなら見せたほうが良いでしょう。

選択式と記述式では、どちらが良いですか。

Adesope ら(2017)のメタ分析では、選択式と短答・自由記述を組み合わせた形が最も大きな効果を示しました。片方に絞る必要はありません。負荷の軽い選択式から入り、記述式で締める組み合わせが現実的です。

一度で覚えられた内容は、もう練習しなくてよいのでは。

その考え方が最も危険だと示したのが、カーピキーとローディガー(2008)です。一度正解できた項目を練習から外した条件は、一週間後に33%しか再生できませんでした。思い出す練習を続けた条件は約80%です。「もう覚えた」という感覚は、定着の証拠になりません。

教室の研究結果は、社会人研修にも当てはまりますか。

直接の検証は限られています。Yang ら(2021)のメタ分析は主に学校の教室が対象です。ただし対象は48,478名と大規模で、実験室と教室で効果の大きさに大きな差は出ていません。社会人の場でも試す価値は十分にあります。まずは自社の説明会で、三か月後の再生を測ってみるのが確実です。

まとめ

要点を三つに絞ります。第一に、繰り返し「入れる」ことと、後から「出せる」ことは別です。14.2回読んだグループが、3.4回しか読まなかったグループに一週間後には負けました。第二に、学習中の手応えは定着を予測しません。学生自身の予測はどの条件も約52%でしたが、実際は80%と33%に分かれました。第三に、効果の大きさは中程度から大きめで、教室でも再現されています。ただし複雑な内容への適用については議論が続いています。

次の一歩は小さくてかまいません。次回の説明会で、最後の3分を「今日の要点を3つ書き出す時間」に変えてみてください。話す量は3分減ります。それでも、一週間後に残る量は増える可能性が高いはずです。

出典

  • Roediger, H. L., III, & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255. 論文ページ/全文PDF
  • Karpicke, J. D., & Roediger, H. L., III (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968. 論文ページ/全文PDF
  • Karpicke, J. D., & Roediger, H. L., III (2007). Repeated retrieval during learning is the key to long-term retention. Journal of Memory and Language, 57(2), 151–162. 全文PDF
  • Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432–1463. 論文情報
  • Adesope, O. O., Trevisan, D. A., & Sundararajan, N. (2017). Rethinking the use of tests: A meta-analysis of practice testing. Review of Educational Research, 87(3), 659–701. 論文ページ
  • Yang, C., Luo, L., Vadillo, M. A., Yu, R., & Shanks, D. R. (2021). Testing (quizzing) boosts classroom learning: A systematic and meta-analytic review. Psychological Bulletin, 147(4), 399–435. PubMed
  • van Gog, T., & Sweller, J. (2015). Not new, but nearly forgotten: The testing effect decreases or even disappears as the complexity of learning materials increases. Educational Psychology Review, 27(2), 247–264. 掲載号
  • Karpicke, J. D., & Aue, W. R. (2015). The testing effect is alive and well with complex materials. Educational Psychology Review, 27(2), 317–326. 論文ページ
  • Bjork, R. A. (1994). Memory and metamemory considerations in the training of human beings. In J. Metcalfe & A. Shimamura (Eds.), Metacognition: Knowing about knowing (pp. 185–205). MIT Press.(望ましい困難の提案。書籍のためURLなし)

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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