「この案件、人手が足りないので3人増やしましょう」。会議でそう決まったあと、進みが速くなるどころか、かえって鈍くなった。そんな経験はないでしょうか。日本の職場では長く、「人が増えるほど一人あたりの働きは減る」と言われてきました。根拠としてよく引かれるのが、綱引きの実験です。ところが原典をたどると、実験をした本人は「やる気が落ちた」とは書いていませんでした。78件の研究をまとめた分析も、話がそう単純ではないことを示しています。この記事では、社会的手抜きが起きる条件と起きない条件を、数字とあわせて整理します。会議やチームを設計する立場の方に向けた内容です。
社会的手抜きとは?──人数が増えると一人あたりの力が落ちる現象
社会的手抜き(social loafing)とは、一人で作業するときより集団で作業するときのほうが、個人の努力量が下がる現象を指します。1979年にビブ・ラタネらが名づけました。
ラタネらは、オハイオ州立大学の男子学生を防音室に集め、合図で全力で拍手と歓声をあげてもらいました。音圧を測ると、人数が増えるほど一人あたりの出力が下がりました。2人組では一人で出したときの合計の71%、4人組で51%、6人組で40%です。
集団の総出力は増えます。ただし、増え方が人数に追いつきません。これが社会的手抜きの出発点です。
綱引き実験は「やる気の低下」を示していたのか?
結論としては、示していませんでした。実験をした本人は、原因を「息が合わないこと」だと説明しています。
リンゲルマンはドイツの心理学者ではなく、フランスの農業技師だった
社会的手抜きの元祖として引かれるのが、マックス・リンゲルマンの綱引きデータです。日本語の解説では「1920年代にドイツの心理学者が行った実験」と書かれることがあります。
これは事実と違います。1986年にデイビッド・クラビッツとバーバラ・マーティンが原典を掘り起こしました。リンゲルマンはフランス国立農学院の農業工学教授で、データを取ったのは1882年から1887年です。発表は1913年でした。
彼の関心は、馬・牛・人・機械のどれがどれだけ効率よく荷を引けるかにありました。個人と集団の比較は、その報告の副次的な話題にすぎません。
有名な「0.93/0.85/0.49」の表は、綱引きのデータではなかった
教科書によく載る数字があります。1人を1.00としたとき、2人で0.93、3人で0.85、8人で0.49まで一人あたりの働きが落ちるという表です。
クラビッツらが原典を読むと、この表には課題が明記されていませんでした。リンゲルマン自身が「実際の作業から集めた数字であり、我々の実験とは条件が違う」と注記しています。彼が管理下で測った綱引きの実測値は、7人組で0.63から0.83の範囲でした。
さらに、リンゲルマンが記録した統制つきのデータはこうです。28人が一人ずつ引いたときの平均は85.3kg、7人組では一人あたり65.0kg、14人組では61.4kgでした。
そして原因について、彼はこう書いています。低下は「筋収縮の同時性の欠如」によるものだ、と。つまり調整の失敗です。動機の低下にも気づいてはいましたが、主因とは考えていませんでした。多気筒エンジンでも気筒あたりの出力が落ちることを、彼は根拠に挙げています。
孫引きが重なると、ここまで話が変わります。会議で「問題ない」が危ない:プレモータムで提案の穴を発見する4ステップでも触れたとおり、みんなが知っている前提ほど検証されにくくなります。
「息が合わない」と「手を抜く」は、どうやって切り分けたのか?
参加者に目隠しをして、一人で作業させながら「集団で作業している」と信じ込ませる。この設計で切り分けられました。調整の失敗が起きえない状況をつくったわけです。
1974年にアラン・インガムらが綱引きで試しました。実際には一人で引いているのに、後ろで仲間が引いていると信じた参加者は、1人分の力の90%(他に1人いると信じたとき)、85%(2〜6人いると信じたとき)しか出しませんでした。
ラタネらは1979年の実験2で、同じ発想を歓声に持ち込みました。全員にヘッドホンをつけ、90デシベルの雑音を流します。自分の声も他人の声も聞こえません。その状態で「今は6人で叫ぶ」と伝えると、参加者は一人のときの74%しか声を出しませんでした。2人だと伝えたときは82%です。
実際に6人で叫んだときの出力は36%でした。ここから、6人での損失64ポイントのうち、26ポイントが手抜き、38ポイントが調整の失敗と分解できます。
この分解は実務上、重要な意味を持ちます。手抜きへの対策と、調整の失敗への対策は別物だからです。前者は評価と責任の設計、後者は段取りと情報共有の設計になります。部門をまたぐ場面での後者については、同じ資料なのに話が噛み合わない:境界オブジェクトで部門間の認識をそろえる方法で扱っています。
社会的手抜きは、実際どれくらい起きるのか?
78件の研究をまとめた分析では、平均的な大きさは効果量d=0.44でした。中くらいの効果です。ただし、この0.44という数字はそのまま受け取れません。
1993年にスティーブン・カラウとキプリング・ウィリアムズが、78研究・163の比較を統合しました。ここでいうメタ分析とは、同じテーマの研究を集めて統計的に束ね、全体としての傾向を出す手法です。効果量dは差の大きさを表す物差しで、0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きいというのが目安になります。
方向はそろっているが、大きさはばらついている
163の比較のうち、128件(79%)が「集団のほうが努力が下がる」方向でした。方向はかなり一貫しています。
問題は大きさです。数値のばらつきを均すために外れ値を取り除いたところ、163件のうち64件(39%)を除く必要がありました。残った99件で計算し直すと、効果量はd=0.24まで下がります。95%信頼区間は0.19から0.29です。
信頼区間とは、同じ調査を繰り返したときに本当の値が入ると期待できる幅のことです。この幅が0をまたぐと「差があるとは言い切れない」と読みます。
| 集計方法 | 比較数 | 効果量 d | 95%信頼区間 |
|---|---|---|---|
| すべて含める | 163 | 0.44 | 0.39 〜 0.48 |
| 外れ値64件を除く | 99 | 0.24 | 0.19 〜 0.29 |
| 研究者が手抜きを予測していた条件 | 89 | 0.76 | 0.70 〜 0.81 |
| 研究者が手抜きを予測していなかった条件 | 59 | -0.01 | -0.08 〜 0.06 |
表の見方:dは差の大きさ。プラスは「集団のほうが努力が下がった」ことを意味します。最下段は信頼区間が0をまたいでおり、差があるとは言えません。出典:Karau & Williams (1993) Table 3。
最下段の数字が示すことは重いです。研究者が「ここでは手抜きが起きないはずだ」と設計した条件では、手抜きは起きていません。社会的手抜きは、どんな集団でも自動的に発生する現象ではありません。特定の条件がそろったときに現れる現象です。
なお、この分析では出版バイアスの検定(未発表研究が埋もれていないかの確認)は行われていません。ただし発表形態別の集計はあり、学術誌掲載の研究ではd=0.50、未発表資料ではd=0.05でした。効果が大きい研究ほど論文になりやすかった可能性は残ります。
手抜きが消える条件は何か?──メタ分析が示した4つのスイッチ
個人の成果が見えるか、仕事に意味があるか、貢献が代替できないか、相手が親しいか。この4つが切り替わると、効果はほぼ消えます。
1. 一人ひとりの成果が見えるか(評価可能性)
最大の分かれ目がここです。一人で作業するときだけ成果が見え、集団だと匿名になる条件では、効果量d=0.59でした。一方、集団で作業しているときも個人の成果が見える条件では、d=0.08まで落ちます。信頼区間は-0.01から0.17で、0をまたいでいます。差があるとは言えません。
「誰がどこまでやったか」が見える。それだけで、手抜きはほぼ消えるということです。
2. その仕事に意味があるか(課題の価値)
意味の薄い課題ではd=0.90と大きく出ました。逆に、参加者にとって意味のある課題ではd=-0.10です。マイナスは「集団のほうがむしろ努力が増えた」方向を指します。信頼区間は-0.22から0.02で、こちらも0をまたいでいます。
組織で「この仕事に何の意味があるのか」が伝わっていないとき、手抜きは起きやすくなります。抽象的な理念を現場の行動に落とす方法は、経営理念はなぜ浸透しないのか?抽象語を現場の行動に変える「3層翻訳」の設計で整理しました。
3. その人の貢献が代替できないか
他の誰かが同じことをやれる状況では、d=0.44から0.49でした。誰にも代われない固有の貢献をしている条件では、d=0.03です。ほぼ消えています。ただしこの条件の比較は8件しかなく、数は多くありません。
4. 相手が親しいか(関係の近さ)
見知らぬ同士ではd=0.50でした。親しい友人やチームメイト同士ではd=-0.17です。こちらも比較は9件と少ないため、断定は避けるべきです。それでも方向は一貫しています。
加えて、課題が複雑な場合はd=-0.11、チーム全体の成果が他チームと比べられる状況ではd=0.03でした。心理的安全性とは?「ぬるい職場」との決定的な違いを、エドモンドソンの原典研究から解くで扱った「言いにくいことが言える状態」も、貢献を見えやすくする働きを持ちます。
日本の職場では、どこまで当てはまるのか?
効果は欧米より小さいものの、消えてはいません。文化を比較した集計では、東アジア(中国・日本・台湾)の参加者でd=0.19、欧米(米国・カナダ)でd=0.46でした。
差の理由として、集団に対する自己の位置づけ方の違いがよく挙げられます。ただしこの集計に含まれる東アジアの比較は15件で、内訳も研究間でばらついています。「日本人は手を抜かない」と読むのは、行きすぎです。
実験室の数字は、職場にそのまま持ち込めない
もうひとつ、実務家として押さえておきたい数字があります。実験室で行われた研究ではd=0.47、現場調査ではd=0.25でした。参加者の属性でも差が出ます。大学生ではd=0.47、企業などの従業員ではd=-0.19です。
従業員を対象にした比較はわずか6件で、信頼区間は-0.53から0.15と大きく開いています。ここから「職場では手抜きが起きない」とは言えません。言えるのは、拍手や綱引きで測った効果量を、そのまま職場の生産性に当てはめるのは無理があるということです。
実際の職場には、実験室にないものがあります。上司の評価、同僚との継続的な関係、給与、専門性の違い。これらはどれも「評価可能性」と「貢献の代替不可能性」を高める方向に働きます。
集団だとむしろ頑張る場合もある
相手が期待できないと感じたとき、人は自分の努力を増やして埋め合わせようとします。これを社会的補償(social compensation)と呼びます。
1991年にキプリング・ウィリアムズとスティーブン・カラウが3つの実験で確かめました。参加者にアイデア出しの課題をやらせ、一緒に作業する相手が「あまり努力するつもりはない」「この課題は苦手だ」と述べる条件をつくります。すると参加者は、一人で作業するときより多くのアイデアを出しました。
ただし条件があります。その課題が本人にとって意味を持っていることです。どうでもいい作業では補償は起きません。メタ分析でも、意味のある課題かつ同僚の成績が低いと予想される条件でのみ、はっきりした努力の増加(d=-0.69)が確認されています。
関連して、ケーラー効果(Köhler effect)という現象も知られています。能力の低いメンバーが、チームの成果が自分の頑張りで決まる状況に置かれると、一人のときより力を出す現象です。オットー・ケーラーが1920年代に報告し、その後メタ分析でも支持されています。運動課題での再現性は比較的よく確認されている一方、効果の大きさは条件によって幅があります。
つまり、集団は努力を減らす装置でも増やす装置でもありません。設計次第でどちらにも転びます。
明日から使える:手抜きが起きにくい会議とタスクの設計
やることは4つです。人数を絞り、担当を名前で書き、成果物を並べて見せ、その仕事の意味を毎回言い直す。順に見ていきます。
1. 出席者を「決める人」と「説明する人」に絞る
参加者が増えるほど、一人あたりの発言も貢献も薄まります。議題ごとに、意思決定に関わる人だけを残してください。情報共有だけが目的の人には、議事録で足ります。
2. 宿題は「部署」ではなく「個人名」で割り当てる
「マーケ部で資料を作っておく」は、誰の仕事でもありません。「山田さんがLPの文言、佐藤さんが価格表」と書けば、評価可能性が生まれます。メタ分析で最も効いたスイッチがこれです。
3. 提出物を横並びで見える場所に置く
個別にメールで集めると、誰が出したかは主催者しか知りません。共有フォルダやボードに、担当者名つきで並べてください。見えている状態そのものが設計です。
4. 「なぜこれをやるのか」を毎回1文で言い直す
課題の意味は、効果量を0.90からマイナスに反転させるほど強い変数でした。前回言ったから省く、をやめてください。
5. 発言の場では、順番待ちをつくらない
会議で人数が増えると、発言の機会そのものが減ります。全員が同時に書ける形式に変えると、この損失は減ります。詳しくは会議で順番に話すほど、アイデアが減る?「発言待ち」をなくすブレーンライティングをご覧ください。
注意点をひとつ添えます。評価可能性を上げる施策は、監視に転びやすい性質を持ちます。「見えるようにする」と「見張る」は別物です。前者は貢献を承認するための可視化、後者は失点を探すための可視化です。後者に寄ると、心理的安全性が下がり、別の損失が生まれます。
よくある質問
Q. 社会的手抜きとリンゲルマン効果は同じものですか?
厳密には違います。リンゲルマン効果は「人数が増えると一人あたりの成果が下がる」という現象全体を指し、調整の失敗も含みます。社会的手抜きは、そのうち動機の低下による部分だけを指す言葉です。1979年のラタネらの実験では、6人組の損失のうち手抜きが26ポイント、調整の失敗が38ポイントでした。
Q. チームの人数は何人までが適切ですか?
メタ分析では、人数が1人増えるごとの効果量の伸びはd=0.01と小さく、「何人を超えると危ない」という閾値は示されていません。人数そのものより、個人の貢献が見えるかどうかのほうが強く効きます。ただし人数が増えるほど匿名性は上がるため、間接的には影響します。
Q. リモートワークでは手抜きが増えますか?
断定できるだけの証拠はまだありません。理屈のうえでは、姿が見えない分だけ評価可能性が下がる方向に働きます。一方で、テキストで残る作業は成果が可視化されやすく、逆に働く面もあります。現時点では検証が続いている段階と理解しておくのが妥当です。
Q. 「日本人は集団だと頑張る」と聞いたことがあります。本当ですか?
効果は小さめですが、ゼロではありません。東アジアの参加者ではd=0.19、欧米ではd=0.46でした。東アジアの比較は15件と少なく、研究間のばらつきも大きい状態です。「日本では起きない」と言い切れる根拠にはなりません。
Q. 一番効果のある対策はどれですか?
個人の成果が見える状態をつくることです。集団作業中も個人の出力が評価される条件では、効果量が0.59から0.08まで下がり、統計的に差があるとは言えない水準になりました。担当を個人名で書き、成果物を並べて掲示するだけでも変わります。
まとめ
ここまでの要点を整理します。
- 社会的手抜きは、集団作業で個人の努力が下がる現象です。78研究の統合でd=0.44、外れ値を除くとd=0.24でした。
- 元祖とされるリンゲルマンの綱引きデータは、本人が原因を「息が合わないこと」と説明していました。彼はフランスの農業技師で、測定は1880年代です。
- 6人組での損失は、およそ4割が手抜き、6割が調整の失敗でした。対策は別々に打つ必要があります。
- 個人の成果が見える条件、仕事に意味がある条件、貢献が代替できない条件、親しい相手との条件では、効果はほぼ消えます。
- 実験室(d=0.47)と現場(d=0.25)では大きさが違います。数字をそのまま職場に持ち込まないでください。
次の一歩として、直近の議事録を1枚だけ開いてみてください。宿題の欄に部署名しか書かれていないなら、そこを個人名に書き換える。それが最も費用のかからない対策になります。
出典
- Latané, B., Williams, K., & Harkins, S. (1979). Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing. Journal of Personality and Social Psychology, 37(6), 822–832. 全文PDF
- Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993). Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration. Journal of Personality and Social Psychology, 65(4), 681–706. 全文PDF
- Kravitz, D. A., & Martin, B. (1986). Ringelmann rediscovered: The original article. Journal of Personality and Social Psychology, 50(5), 936–941. APA PsycNet
- Ingham, A. G., Levinger, G., Graves, J., & Peckham, V. (1974). The Ringelmann effect: Studies of group size and group performance. Journal of Experimental Social Psychology, 10(4), 371–384. ScienceDirect
- Williams, K. D., & Karau, S. J. (1991). Social loafing and social compensation: The effects of expectations of co-worker performance. Journal of Personality and Social Psychology, 61(4), 570–581. 全文PDF
- Weber, B., & Hertel, G. (2007). Motivation gains of inferior group members: A meta-analytical review. Journal of Personality and Social Psychology, 93(6), 973–993. PubMed
- Ringelmann, M. (1913). Recherches sur les moteurs animés: Travail de l’homme. Annales de l’Institut National Agronomique, 2e série, tome XII, 1–40.(原典。オンライン公開は確認できていません)
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