デザイン・図解

リスクを細かく分けるほど、起こりやすく見える? アンパッキング効果で見直すリスク一覧

プロジェクトの承認会議で、二つの資料が配られたとします。一つには「移行作業が遅れるリスク」と一行だけ書かれています。もう一つには、データ変換の失敗、権限設定の漏れ、担当者の引き継ぎ不足、外部サービスの停止、検収の遅れと、五つの原因が並んでいます。

二つの資料が扱う出来事は、どちらも「移行作業が遅れること」です。それでも、原因を具体的に並べた資料の方が、遅延が起こりそうに感じられることがあります。反対に、書かれていない原因は「その他」に押し込まれ、ほとんど起こらないように扱われがちです。

同じ出来事でも、まとめて示すか、内訳を示すかで主観的な確率が変わる現象を、心理学ではアンパッキング効果と呼びます。英語の unpack は、荷物を開いて中身を取り出すという意味です。リスク資料では、ひとまとめの項目を開き、具体的な原因へ分けることに当たります。

細分化そのものが悪いわけではありません。原因を洗い出さなければ、対策も担当も決められません。問題は、項目数や見せ方を、実際の発生確率と取り違えることです。この記事では、故障原因図、医師の診断、専門家の確率評価を使った研究を確認し、漏れを減らしながら過大評価も防ぐリスク一覧の作り方を考えます。

結論:洗い出す画面と、確率を比べる画面を分ける

アンパッキング効果への対策は、リスクを細かく書かないことではありません。次の四つを分けて行います。

  1. 最初は広く洗い出す:具体的な原因を挙げ、見落としている領域を探す
  2. 同じ粒度へそろえる:大分類と細かな事例を同列に置かない
  3. 「その他・未特定」を残す:一覧にない原因が起こる余地を明示する
  4. 確率は別の根拠で補正する:過去データ、基準率、専門家の根拠を使い、項目数で決めない

リスク一覧には、二つの目的があります。一つは「何が起こりうるか」を見つけること。もう一つは「どれを優先するか」を決めることです。発見の段階では具体例を増やすことが役立ちます。しかし優先順位を決める段階では、項目の分け方が判断を引っ張らないよう、同じ分類と尺度に戻す必要があります。

移行遅延を一つの箱で示した図と、技術、内容、運用、外部、その他の五つへ分けた図の比較
扱っている出来事は同じでも、内訳を示すと判断に使える手掛かりが増えます。

アンパッキング効果とは何か

TverskyとKoehlerは1994年、主観的な確率を説明する「支持理論」を提案しました。人が確率を判断するとき、出来事を数学的な集合としてだけ扱うのではなく、その説明から思い浮かぶ根拠の強さを使うという考え方です。

たとえば「来月、プロジェクトが遅れる確率」と聞かれると、頭に浮かぶ原因は限られます。一方、「仕様変更、担当者不足、外部サービス障害、またはその他の原因で遅れる確率」と聞かれると、具体的な道筋が見えます。同じ「遅れる」という出来事でも、説明が支える材料が増え、起こりそうに感じられます。

研究では、注目している出来事の内訳を示すと、その確率判断が高くなりやすく、反対側の選択肢を細かく示すと、注目している出来事の確率は低くなりやすいことが示されました。重要なのは、実際の出来事が変わったのではなく、説明の仕方で判断に使える根拠が変わった点です。

これは「細かく書けば必ず数字が上がる」という単純な法則ではありません。後で見るように、よく知られた例を繰り返しただけなら変化しないことがあり、細かすぎる説明がかえって起こりにくさを感じさせることもあります。まずは、一覧の構造が中立ではないと知ることが出発点です。

故障原因図は、書かれていない枝を小さく見せる

この問題をリスク一覧に近い形で示したのが、Fischhoff、Slovic、Lichtensteinによる1978年の研究です。研究者は「車のエンジンがかからない」という出来事を、バッテリー、燃料系、始動装置などの枝に分けた故障原因図で提示しました。

六つの実験では、図から一部の原因を省いても、参加者は「その他の原因」へ十分な確率を割り当てませんでした。省かれた原因の分まで、残っている枝が相対的に大きく評価されたのです。ある原因を二つの枝へ分けると、その原因全体の重要性も高く見積もられました。

この傾向は、一般の参加者だけでなく、経験のある自動車整備士を対象にした実験でも見られました。専門知識があれば完全に防げる、とは言えません。図に書かれた枝が思考の入口になり、書かれていない可能性を探す作業が弱くなることがあります。

実務では、リスク一覧の担当者が詳しい領域ほど枝が増えます。情報システム担当者が作れば技術リスクが細かくなり、営業担当者が作れば顧客対応の枝が増えます。その結果、実際の重要度ではなく、書き手の専門領域が大きく見えることがあります。

医師も「書かれていない可能性」を割り引いた

Redelmeier、Koehler、Liberman、Tverskyは1995年、医師に患者の短い症例を示し、診断や予後の確率を判断してもらいました。結果は支持理論の予測と一致し、具体的に挙げられていない可能性が割り引かれる傾向を示しました。

ここから、「専門家の判断は危険だ」と結論づけるべきではありません。医療の診断と事業のリスク評価では、知識、責任、時間、利用できるデータが違います。この研究が示すのは、専門家でも、質問に並んだ選択肢から完全に自由ではないという点です。

リスク登録票でプルダウン項目を用意すると、入力はそろいます。しかし、あらかじめ用意された項目が、考える範囲の境界にもなります。「該当なし」だけでなく、「一覧にない原因」「判断に必要な情報が不足している」という欄を残す理由がここにあります。

専門家の確率評価でも、分け方の影響は残る

FoxとClemenは2005年、起こりうる状態をどのように区切るかで、主観的な確率分布が変わる「分割依存」を五つの研究で調べました。人は、示された区分へ均等に近い確率を置き、そこから自分の知識に合わせて修正するものの、修正が足りない傾向を示しました。

分野の知識が増えると影響は弱まりましたが、意思決定分析の高い専門性を持つ人にも分割依存が見られました。つまり、項目を三つに分ければ各項目が約三分の一、五つに分ければ各項目が約五分の一という初期の置き方が、最終判断に残ることがあります。

ClemenとUluは2008年、連続した数値の範囲を区切って確率を尋ねる場面で、この偏りを減らす方法を検討しました。異なる区切り方でも内部の合計が整うように点検する方法を示し、予備的な実験で改善の可能性を報告しています。

実務へ置き換えると、一つの分類表だけで数字を確定しないことが大切です。たとえば納期を「予定より早い、予定どおり、遅い」の三つで聞いた後、「一週間以内の遅れ、一〜四週間、四週間超」のように別の切り口でも確認します。区切りを変えて結論が大きく動くなら、数字より分類に引っ張られている可能性があります。

細かく書けば、いつも高く見えるわけではない

アンパッキング効果には重要な境界があります。Sloman、Rottenstreich、Wisniewski、Hadjichristidis、Foxは2004年、分解して示す例が、そのカテゴリーの典型かどうかを調べました。典型的な例を挙げたときは、分解してもしなくても大きな差がない条件がありました。意外な例を挙げると、分解した方が確率が下がることさえありました。

ReddenとFrederickは2011年の六つの研究で、細かな説明がかえって起こりにくさを感じさせる場合を示しました。もともと例が思い浮かびやすい出来事では、詳しく書くことで説明が複雑に感じられ、その読みにくさが「起こりにくい」という手掛かりに使われました。

したがって、「枝を増やすとリスクが必ず高く見積もられる」とは言えません。挙げた例の典型性、読み手の知識、説明の複雑さ、質問の順序によって結果が変わります。この記事の実務提案は、確率を特定方向へ動かすためではなく、分け方を変えても優先順位が保たれるかを確かめるためのものです。

「視覚化・構造化」で、リスクの粒度をそろえる

伸滋Designの伝わる設計マップには、複雑な情報を引き算で見せる既存の型として「視覚化・構造化」があります。リスク一覧では、項目をただ減らすのではなく、同じ役割の情報を同じ階層へ置き、何が全体で、何が内訳かを見えるようにします。

第一階層は、重なりにくい大分類にする

たとえばウェブサイト移行なら、「技術」「コンテンツ」「運用」「外部要因」「その他・未特定」を第一階層にします。技術の下に、データ変換、認証、表示速度を置きます。大分類の横へ「特定ページの画像差し替え漏れ」のような細かな事例を同列に置きません。

各枝に、同じ種類の数字を置く

発生確率、影響の大きさ、検知しやすさ、対策後の残る危険を一つの数字へ混ぜないようにします。「起こりやすいが影響は小さい」と「まれだが致命的」を分けて読めるようにします。枝の数が多い領域を、自動的に高リスクと見なさないためです。

「その他」を空欄にしない

「その他・未特定」には、確率をゼロと書きません。過去案件で分類外だった事象、情報不足の領域、今回の一覧を作った人の専門外を記します。具体例がない場合も、「未特定の原因を含む」と明示します。

別の切り口で、一度組み替える

原因別に作った一覧を、工程別、担当別、発生時期別のいずれかで組み替えます。あるリスクが消えたり、同じ出来事が二重に数えられたりしたら、分類の欠陥が見つかります。一つの図を完成形と思わず、別の見方でも全体が保たれるかを確認します。

実務例:ウェブサイト移行のリスク一覧を組み直す

最初の資料に、次の七項目が並んでいたとします。

  • データ移行の失敗
  • 画像の移行漏れ
  • リンク切れ
  • ログインできない
  • 公開日の遅れ
  • 担当者の確認不足
  • 外部サービスの障害

この一覧では、原因、結果、作業、外部環境が同じ階層にあります。「公開日の遅れ」はほかの項目が引き起こす結果でもあり、二重に数える恐れがあります。また、技術項目が多いため、技術リスク全体が大きく見えます。

そこで、まず大分類を「技術」「コンテンツ」「運用」「外部要因」「その他・未特定」へそろえます。その下に具体的な原因を置きます。「公開日の遅れ」は原因一覧から外し、各原因が納期へ与える影響の列で評価します。

次に、発生確率は過去の移行案件、試験移行の結果、外部サービスの稼働情報など、項目数とは別の根拠で決めます。技術の枝が五つ、運用の枝が二つでも、技術リスクを五対二で評価しません。枝の内訳は対策を決めるために使い、大分類の確率は重複を取り除いて確認します。

最後に、工程別へ組み替えます。準備、試験移行、切り替え、本番確認の各工程で、先ほどのリスクがどこに現れるかを見ます。原因別と工程別の二つの図で抜けを探し、優先順位が大きく変わる項目は、根拠を再確認します。

リスク一覧のチェックリスト

範囲と分類

  • 評価する出来事と期間を一文で定義した
  • 第一階層に、大分類と細かな事例を混ぜていない
  • 枝どうしの重なりと、二重計上を確認した
  • 「その他・未特定」を残し、ゼロ扱いしていない

確率と根拠

  • 項目数ではなく、過去データや試験結果から確率を考えた
  • 発生確率と影響の大きさを別の列で示した
  • 一つの大分類だけが不自然に細かくなっていない
  • 別の区切り方でも、合計と優先順位を確認した
  • 数値の根拠、更新日、評価した人を記録した

見せ方と意思決定

  • 全体、内訳、対策の順に読める
  • 色の強さを、項目数ではなく評価尺度に対応させた
  • 確率が低くても影響が大きい項目を消していない
  • 一覧にない原因を尋ねる時間を会議に設けた
  • 対策後の残る危険を、対策前と区別した

根拠の限界:一覧を整えても、正しい確率は自動で出ない

第一に、支持理論は主観的な確率判断を説明する理論です。資料の構造を整えれば、実際の発生率が分かるわけではありません。データがある領域では、観測値、信頼区間、条件の違いを優先します。

第二に、古典研究の多くは、短時間の判断課題です。実際のリスク審査には、複数人の議論、追加調査、組織固有の基準があります。研究で見られた差を、そのまま採択率や事故率へ置き換えることはできません。

第三に、リスクは独立とは限りません。権限設定の漏れと確認不足のように、同じ原因を共有する項目があります。枝ごとの確率を足すだけでは、全体確率を過大評価することがあります。依存関係が重要な案件では、意思決定分析や統計の専門家による確認が必要です。

第四に、細分化の効果は方向が一定ではありません。典型的でない例、細かすぎる説明、すでに思い浮かびやすい出来事では、分解した方が低く見積もられることがあります。項目を増やせば安全側になる、という保証もありません。

第五に、「その他」を大きく置くだけでも十分ではありません。Fischhoffらの研究では、見落とした原因へ注意を向ける工夫に一定の意味はあっても、どの程度を割り当てるべきかは別問題でした。分類外の領域を示し、追加調査や見直しの予定まで決める必要があります。

関連記事:確率、警告、事前検討を分けて考える

リスクを比率で示すときに、件数だけが目立つ問題は、分母無視を防ぐ比率・リスク資料の記事で解説しています。警告数を増やしすぎて重要な異常が埋もれる問題は、信号検出理論で設計するダッシュボードの記事が参考になります。

計画が失敗したと仮定して原因を洗い出す方法は、プレモータムで提案を点検する記事で扱っています。プレモータムは原因の発見に役立ちますが、挙がった項目数をそのまま確率と見なさないことが大切です。

まとめ:枝の数ではなく、根拠と全体像で優先順位を決める

リスクを細かく分けると、具体的な原因を見つけ、担当と対策を決めやすくなります。一方、書かれた枝は起こりやすく見え、書かれていない原因は小さく扱われることがあります。さらに、枝の粒度がそろっていないと、詳しく書かれた領域だけが重要に見えます。

対策は、洗い出しをやめることではありません。「視覚化・構造化」で全体と内訳を分け、同じ粒度にそろえ、「その他・未特定」を残します。確率と優先順位は、項目数ではなく、データ、基準率、影響、対策後の残る危険から決めます。別の切り口へ組み替え、結論が分類に依存していないか確かめます。

伸滋Designでは、リスク一覧、提案書、審査資料、ダッシュボードを、抜けを見つけやすく、優先順位を誤解しにくい構造へ整えます。情報はそろっているのに判断基準が見えない、項目が増えるほど会議が迷う場合は、お問い合わせページからご相談ください。

参考文献

  1. Fischhoff, B., Slovic, P., & Lichtenstein, S. (1978). Fault trees: Sensitivity of estimated failure probabilities to problem representation. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 4(2), 330–344. https://doi.org/10.1037/0096-1523.4.2.330
  2. Tversky, A., & Koehler, D. J. (1994). Support theory: A nonextensional representation of subjective probability. Psychological Review, 101(4), 547–567. https://doi.org/10.1037/0033-295X.101.4.547
  3. Redelmeier, D. A., Koehler, D. J., Liberman, V., & Tversky, A. (1995). Probability judgement in medicine: Discounting unspecified possibilities. Medical Decision Making, 15(3), 227–230. https://doi.org/10.1177/0272989X9501500305
  4. Rottenstreich, Y., & Tversky, A. (1997). Unpacking, repacking, and anchoring: Advances in support theory. Psychological Review, 104(2), 406–415. https://doi.org/10.1037/0033-295X.104.2.406
  5. Sloman, S., Rottenstreich, Y., Wisniewski, E., Hadjichristidis, C., & Fox, C. R. (2004). Typical versus atypical unpacking and superadditive probability judgment. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 30(3), 573–582. https://doi.org/10.1037/0278-7393.30.3.573
  6. Fox, C. R., & Clemen, R. T. (2005). Subjective probability assessment in decision analysis: Partition dependence and bias toward the ignorance prior. Management Science, 51(9), 1417–1432. https://doi.org/10.1287/mnsc.1050.0409
  7. Clemen, R. T., & Ulu, C. (2008). Interior additivity and subjective probability assessment of continuous variables. Management Science, 54(4), 835–851. https://doi.org/10.1287/mnsc.1070.0790
  8. Redden, J. P., & Frederick, S. (2011). Unpacking unpacking: Greater detail can reduce perceived likelihood. Journal of Experimental Psychology: General, 140(2), 159–167. https://doi.org/10.1037/a0021491

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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