登壇の冒頭で、ひとつ小さな笑いを取る。会場の空気がほぐれ、その後の話が入りやすくなる。研修講師や経営者の多くが、この「つかみ」を大切にしています。一方で、「仕事の場でふざけるな」「真面目に話すほうが信用される」という声も根強くあります。学会発表や役員向けの報告では、笑いを封印する人も少なくありません。
この二つの意見は、どちらも一部だけ正しいことがわかってきました。ユーモアは話し手の評価を上げる場合もあれば、聞き手の学習を下げる場合もあります。分かれ目は「笑いを取れたか」ではなく、「どこに、どんな笑いを置いたか」にあります。
この記事では、ユーモアと評価の関係を調べた実験、記憶への影響を調べた研究、そして学習を下げた実験を順に見ていきます。そのうえで、登壇や研修で明日から使える置き方の原則をまとめます。
ユーモアは「有能さ」のシグナルになるのか
適切で、しかも笑いが起きたユーモアは、話し手の地位(ステータス)と有能さの評価を上げます。ただし、不適切な冗談は評価を確実に下げます。これが、ペンシルベニア大学のブラッドフォード・ビタリーらが2017年に発表した結論です。
ビタリーらは、心理学の主要誌に8つの実験をまとめて報告しました。たとえば最初の実験では、参加者の前で2人の発表者が短い推薦文を読み上げます。2人目の発表者が同じ内容をユーモアつきで話した場合、その発表者の地位の評価は7点満点で5.03でした。真面目に話した場合は4.43です。有能さの評価も5.32対4.90で、ユーモアつきのほうが高くなりました。
ここで注目すべきは、なぜ評価が上がったかという点です。分析の結果、ユーモアは「自信」と「有能さ」の二つの印象を通じて、地位の評価を押し上げていました。人前で冗談を言うには、場を読む力と度胸が要ります。聞き手はそれを無意識に読み取っているわけです。
笑いが起きなかったとき、何が起きるか
笑いが起きなかった冗談は、評価を上げも下げもしませんでした。一方、不適切な冗談は、笑いが起きても評価を下げました。
ビタリーらは、就職面接の場面を使って条件を分けました。候補者が「5年後の自分」を聞かれて軽い冗談で返し、面接官が笑った場合、地位の評価は4.95でした。真面目に答えた場合は4.15です。ところが面接官が黙り込んだ場合は4.22で、真面目に答えたときと差がありませんでした(274人が参加)。
別の実験では、面接にふさわしくない下品な冗談を使いました。この場合、真面目に答えた候補者の評価が4.58だったのに対し、冗談で面接官が笑っても3.86、笑わなければ3.30まで下がりました。冗談を言うだけで「自信がある」とは見られます。しかし不適切な冗談は「場が読めない」という有能さの低下を招き、差し引きで評価を落とします。
この結果は、既存記事で紹介したプラットフォール効果と同じ構造を持っています。有能だと見られている人の小さな失敗は好感度を上げますが、そうでない人の失敗は評価を下げます。ユーモアも同じで、土台となる有能さの印象があって初めて、プラスに働きます。
笑いは記憶に残るのか——「ユーモア効果」の実像
面白い文章や漫画は、そうでないものより記憶に残ります。ただしその効果は、隣にある「面白くない情報」の記憶を犠牲にして生じている可能性があります。
記憶研究では、これを「ユーモア効果(humor effect)」と呼びます。ミドルテネシー州立大学のスティーブン・シュミットは1994年に、面白い文と面白くない文を混ぜたリストを参加者に見せる実験を行いました。面白い文は、自由再生でも手がかりつき再生でも、面白くない文より多く思い出されました。シュミットは、ユーモアが注意とリハーサル(頭の中での反復)を集める一方で、それが面白くない文の分を奪っていると解釈しています。
2001年の追試では、漫画を使って同じ現象を確かめました。元の漫画は、ユーモアを抜いた「直訳版」や、奇妙な要素だけを足した「不条理版」より、よく記憶されていました。単に変わっているだけでは効果はなく、「面白い」こと自体が記憶を支えていたわけです。ここでも著者らは、参加者が面白い素材に注意を集中し、その分だけ他の素材への注意が減った可能性を指摘しています。
「本題に混ぜた笑い」は学習を下げるのか
概念を説明する例そのものを面白くすると、受講者のテスト成績は13〜17%下がりました。カリフォルニア州立大学のサン・ボルカンらが2018年に報告した、2つの実験の結果です。
ボルカンらは、教育でのユーモアを二種類に分けました。一つは「隣接型(contiguous)」で、本題とは切り離して、合間に挟む笑いです。もう一つは「統合型(integrated)」で、概念を説明する例え話や具体例そのものを面白くする使い方です。日本の研修でいえば、前者は冒頭の雑談や休憩前の小話、後者は「この概念を、笑える事例で説明します」という形にあたります。
実験1では、87人の大学生が短い教材を読み、選択式テストを受けました。教材は、例が面白い版と、例が普通の版の2種類です。教材の具体性・面白さ・わかりやすさの評価をそろえて比べたところ、面白い例で学んだ群の得点は13.5%低くなりました。
実験2では、別の大学の93人で、教材もテストも新しくして追試しました。結果は同じ方向でした。記述式で約17%、選択式で約14%、面白い例の群のほうが低かったのです。ボルカンらは、統合型の笑いは受講者の注意を「笑いそのもの」に向けさせ、本題の処理を邪魔すると解釈しています。図2の「注意の再配分」が、そのまま教室で起きた形です。
ただし、この結果には限界もあります。教材は文章だけで、講師が実際に話したわけではありません。教材も短く、受講者のユーモア感覚や自制心の違いは考慮されていません。著者ら自身も、「すべての学習者、すべての授業条件に当てはまるとは限らない」と述べています。それでも、2つの独立した追試で同じ方向の結果が出た点は重く受け止めるべきです。
ユーモアはどう処理されるのか——理論の整理
教育心理学では、ユーモアが学習に効く条件を「教授ユーモア処理理論(Instructional Humor Processing Theory)」で説明します。この理論では、笑いが起きただけでは不十分で、聞き手が「本題の理解」にまで進んで初めて学習が起きると考えます。
この理論は、メリッサ・ワンザーらが2010年に提案しました。骨組みは三段階です。第一に、聞き手が「ズレ(不一致)」に気づき、それを解決して笑いが起きること。第二に、その笑いが「自分や仲間を標的にしていない」と判断され、受け入れられること。第三に、本題と関係のあるユーモアなら、注意と動機が本題の処理に向かい、記憶と理解が深まること。この第三段階は、既存記事で扱った精緻化見込みモデル(ELM)の「中心ルート」を取り込んだものです。
ここで注意が要ります。ワンザーらの理論は、本題に関係のあるユーモアこそが学習を助けると予測しました。しかし前節のボルカンらの実験は、その予測とは逆の結果でした。2025年にフロンティアズ誌に掲載された5年代分の総説でも、この理論の経路は提案時に実証されておらず、その後の検証でも結果が割れていると整理されています。ボルカンとグッドボーイは2015年の調査で、この理論のモデルはデータに合わず、ユーモアの価値はむしろ「講師との関係の良さ」や「授業の楽しさ」を通じた動機づけにあると報告しました。
広告と職場のデータは何を示しているか
広告研究のメタ分析では、ユーモアは注意と広告への好意を高める一方で、送り手の信頼性を下げていました。職場研究のメタ分析では、上司の前向きなユーモアは部下の満足度や集団のまとまりと正の関係にありました。
メタ分析とは、同じテーマの多数の研究結果を統計的に統合し、効果の大きさと安定性を推定する手法です。個々の研究より偏りが少ない反面、質の低い研究が混ざると結論がゆがむ弱点があります。
ベルリン自由大学のマルティン・アイゼントは2009年、広告のユーモアに関する369件の相関を統合しました。ユーモアは広告への注意、ポジティブな感情、広告への態度を高めていました。ただし、送り手の信頼性(source credibility)は有意に下がっていました。また、広告への態度への効果と比べ、ブランドへの態度への効果は半分ほどに減っていました。「面白い広告だった」が「この会社を信じる」に変わる過程で、効果は目減りするわけです。
職場については、ジェシカ・メスマー=マグナスらが2012年に、前向きなユーモアの研究を統合しています。上司のユーモアは、部下の仕事の満足度、上司への満足度、集団の結束の高さと関連していました。ただし多くは相関研究で、ユーモアが原因なのか、良い関係の結果としてユーモアが増えるのかは切り分けられていません。
日本の聞き手には、どんなユーモアが向くのか
日本の心理学研究では、ユーモアを「遊戯的」「攻撃的」「支援的」の三つに分けます。このうち、聞き手の心理的な健康や場の安心感と結びつくのは「支援的ユーモア」だけでした。
この分類は、宮戸美樹と上野行良が1996年に『心理学研究』で示したものです。遊戯的ユーモアは駄洒落など、単に楽しませる笑いです。攻撃的ユーモアは皮肉やからかいなど、誰かを標的にする笑いです。支援的ユーモアは、相手や自分を励まし、落ち着かせる笑いです。宮戸と上野は、支援的ユーモア志向だけがネガティブな出来事への耐性や精神的健康と関連することを示しました。塚脇涼太らの2009年の研究でも、支援的ユーモアの表出は自己受容や愛他性と正の関係にありました。
ここまでの海外研究と重ねると、指針が見えてきます。ビタリーらの実験で評価を落としたのは「不適切な冗談」、つまり場にそぐわず、誰かを傷つけうる笑いでした。ワンザーらの理論でも、自分や仲間を標的にした笑いは受け入れられません。日本の分類でいえば、攻撃的ユーモアは避け、支援的ユーモアを軸にする。これが、文化を越えて支持されている最小限の原則です。
ただし正直に書くと、登壇や商談の場面で日本人の聞き手を対象にした実験は、まだ多くありません。海外の知見を日本にそのまま当てはめるには、検証が足りない状態です。
自虐は安全なのか
自分を笑いの標的にする「自虐」は、誰も傷つけない点では安全です。ただし、有能さの印象を削る方向にも働きえます。
周とリーの2025年の総説では、教師の自己卑下的なユーモアを「連帯感を生み、社会的な感情を引き出す」種類として位置づけています。一方で、ビタリーらの実験が示したとおり、ユーモアが評価を上げる経路は「有能さ」の印象を通ります。自分の能力そのものを笑いにすると、この経路を自分で塞ぐことになります。自虐を使うなら、能力ではなく「昨日の失敗談」や「慣れない土地での戸惑い」など、有能さと切り離せる題材に限るのが無難です。緊張を隠そうとしないほうが楽になる理由は、スポットライト効果の記事で詳しく扱っています。
明日から使える「笑いの置き方」の原則
ここまでの研究を実務に落とすと、原則は五つに絞れます。ユーモアは「本題の外側」に置き、本題の説明には使わない。これが最も重要です。
| 原則 | 具体的にどうするか | 根拠となる研究 |
|---|---|---|
| ① 本題の外側に置く | 冒頭・区切り・休憩前に使う。概念の説明例は面白くしない。 | ボルカンら(2018) |
| ② 誰も標的にしない | 皮肉・からかいは使わない。支援的ユーモアを軸にする。 | 宮戸・上野(1996)、ワンザーら(2010) |
| ③ 場の適切さを先に確認する | その場の関係者に「この話は大丈夫か」を事前に聞く。 | ビタリーら(2017) |
| ④ 滑っても本題に戻る動線を用意する | 笑いが起きなくても、次の一文で本題に入れる原稿にしておく。 | ビタリーら(2017) |
| ⑤ 覚えてほしい情報の隣に置かない | 数字や結論のスライドの直前・直後には笑いを入れない。 | シュミット(1994) |
④について補足します。ビタリーらの実験では、適切な冗談で笑いが起きなくても、評価は真面目に話した場合と変わりませんでした。つまり「滑ること」自体は、致命傷ではありません。致命傷になるのは、滑ったあとに動揺して本題が崩れることです。原稿の段階で、笑いの直後に本題へ戻る一文を固定しておくと、この崩れを防げます。
研修を設計する立場なら、笑いを「教える手段」ではなく「学ぶ動機を保つ環境づくり」として位置づけると、迷いが減ります。この考え方は、遊びと予測処理理論から研修を設計した記事とも重なります。また、締めは記憶に残りやすい場所です。「締めの一言」に笑いを置く場合は、結論を言い切ったあとに添えるのが安全です。
よくある質問
Q1. 学会発表や役員報告でも、笑いを入れてよいのでしょうか
入れるなら、冒頭か締めの「本題の外側」に限るのが安全です。ビタリーらの実験では、適切な冗談は評価を上げ、笑いが起きなくても評価は下がりませんでした。ただし、場にそぐわない冗談は笑いが起きても評価を下げました。その場の関係者に事前に確認できないなら、無理に入れる必要はありません。
Q2. 面白い事例で説明したほうが、覚えてもらえるのではないですか
事例そのものが面白いと、事例は覚えられても概念は抜けやすくなります。ボルカンらの2つの実験では、面白い例で学んだ群のテスト得点が13〜17%低くなりました。覚えてほしいのが概念や数字なら、例は具体的で普通のものにし、笑いは別の場所に置くほうが研究と整合します。
Q3. 滑ったらどうすればよいですか
動揺せず、用意しておいた一文で本題に戻ってください。ビタリーらの実験では、適切な冗談が滑っても、評価は真面目に話した場合と同じでした。滑ること自体より、そのあとに本題が崩れることのほうが損失は大きくなります。
Q4. 自虐ネタは使ってよいですか
能力と切り離せる題材なら使えます。自分の専門性や判断力を笑いにすると、ユーモアが評価を上げる経路である「有能さの印象」を自分で削ることになります。失敗談を使うなら、専門外の出来事や慣れない状況での戸惑いに限るのが無難です。
Q5. 日本人の聞き手にも、海外の研究結果は当てはまりますか
原則は共通と考えてよいですが、直接の検証は不足しています。日本の研究でも、誰かを標的にする攻撃的ユーモアは避け、支援的ユーモアを軸にするという方向は一致しています。ただし登壇や商談の場面で日本人を対象にした実験は少なく、慎重に扱う必要があります。
まとめ
ユーモアは、適切で笑いが起きたときに話し手の有能さと地位の評価を上げます。不適切な冗談は、笑いが起きても評価を下げます。記憶については、面白い情報は覚えられますが、その注意は隣の本題から奪われます。概念の説明例を面白くした実験では、テスト得点が13〜17%下がりました。
ここから導ける原則は一つです。笑いは本題の外側に置き、覚えてほしい情報の隣には置かない。次の登壇では、原稿の中で「笑いを置く場所」と「本題に戻る一文」を先に決めてみてください。それだけで、笑いは本題の敵ではなく、関係づくりの味方になります。
自分の話し方がどの型に寄っているかを確かめたい方は、伝わる型診断もご活用ください。
出典
- Bitterly, T. B., Brooks, A. W., & Schweitzer, M. E. (2017). Risky business: When humor increases and decreases status. Journal of Personality and Social Psychology, 112(3), 431–455. 論文PDF(HBS)
- Bolkan, S., Griffin, D. J., & Goodboy, A. K. (2018). Humor in the classroom: The effects of integrated humor on student learning. Communication Education, 67(2), 144–164. DOI/NCAによる解説
- Bolkan, S., & Goodboy, A. K. (2015). Exploratory theoretical tests of the instructor humor–student learning link. Communication Education, 64(1), 45–64. Semantic Scholar
- Schmidt, S. R. (1994). Effects of humor on sentence memory. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 20(4), 953–967. DOI
- Schmidt, S. R., & Williams, A. R. (2001). Memory for humorous cartoons. Memory & Cognition, 29(2), 305–311. DOI
- Wanzer, M. B., Frymier, A. B., & Irwin, J. (2010). An explanation of the relationship between instructor humor and student learning: Instructional Humor Processing Theory. Communication Education, 59(1), 1–18.(URL未確認)
- Zhou, W., & Lee, J. C. (2025). Teaching and learning with instructional humor: A review of five-decades research and further direction. Frontiers in Psychology, 16, 1445362. DOI
- Banas, J. A., Dunbar, N., Rodriguez, D., & Liu, S.-J. (2011). A review of humor in educational settings: Four decades of research. Communication Education, 60(1), 115–144. DOI
- Eisend, M. (2009). A meta-analysis of humor in advertising. Journal of the Academy of Marketing Science, 37, 191–203. DOI
- Mesmer-Magnus, J., Glew, D. J., & Viswesvaran, C. (2012). A meta-analysis of positive humor in the workplace. Journal of Managerial Psychology, 27(2), 155–190. APA PsycNet
- 宮戸美樹・上野行良(1996). ユーモアの支援的効果の検討:支援的ユーモア志向尺度の構成. 心理学研究, 67(4), 270–277. J-STAGE
- 塚脇涼太・樋口匡貴・深田博己(2009). ユーモア表出と自己受容、攻撃性、愛他性との関係. 心理学研究, 80(4), 339–344. J-STAGE
\ LINE登録で無料プレゼント /
『9つの伝わる型 図解ハンドブック 完全版』
PDF・57ページ/35の研究にもとづく「なぜ効くのか」まで解説
60秒診断・伝え方ミニ講座もLINEでお届けします
📱 友だち追加して特典を受け取る登録は無料・配信はいつでも解除できます