本文は何度も推敲したのに、概念図(ポンチ絵)は提出直前にパワポで急ごしらえ——科研費や学振の申請書で、実はいちばん多いパターンです。しかし多くの審査員が最初に目を留めるのは、文章ではなく図です。短時間で大量の申請書を読む審査員にとって、概念図は「この研究を理解する入口」であり、第一印象そのもの。500件を超える産学連携と申請書支援の現場で見てきた実感として、概念図の質は研究内容の評価に大きく影響します。この記事では、認知科学の視点から「3秒で伝わる概念図」の設計手順を解説します。
なぜ概念図づくりは難しいのか
原因は絵心ではなく、認知科学でいう「専門知の呪い」にあります。自分が知っていることは、相手も分かるはずだと錯覚してしまう現象です。その結果、前提の説明が抜け落ちる一方で、こだわりの詳細は全部盛り込みたくなる。要素が20個も30個もある図は、読み手のワーキングメモリ(一度に保持できる情報の器)をあふれさせ、内容以前に「わかりにくい研究」という印象を残します。
さらに図には、文章と違って「読む順番」を作者が完全には制御できないという特性があります。だからこそ、視線の流れまで含めた設計が必要なのです。
3秒で伝わる概念図の設計手順
手順1:図の「結論」を1文で決める
描き始める前に、「この図で審査員に何を分かってもらうか」を1文で書き出します。概念図は研究の説明ではなく主張です。決めた1文はそのまま図のタイトルに使いましょう。結論ファーストの原則は、文章だけでなく図にも当てはまります。
手順2:要素は7個前後まで絞り、階層をつくる
人が一度に処理できる情報のかたまりには限界があります。箱と矢印を数えて、7個前後を目安に削ってください。削れないときは「背景→課題→アプローチ→ゴール」のような大きな4ブロックに束ね、詳細は本文に逃がします。図は全体像、本文が詳細、という役割分担です。
手順3:視線の流れを設計する
読み手の視線は左上から右下へ流れるのが自然です。話の起点を左上に置き、矢印は原則一方向に。時間の流れは左→右に統一します。視線が図の中で迷子になった瞬間、認知負荷は跳ね上がります。
手順4:色は3色以内、強調は1カ所だけ
色や大きさの違いは、文字を読むより先に知覚されます(前注意的処理)。この性質を使い、研究の独自性にあたる1カ所だけを目立つ色にして、残りは無彩色に近づけます。全部を強調することは、何も強調しないことと同じです。
やりがちなNG
- 幕の内弁当図:本文の内容を全部詰め込む。図は要約ではなく、全体像を掴ませる地図です。
- 装飾過多:3D、グラデーション、影は情報を持たないノイズ。フラットな表現で十分です。
- 矢印の意味の混在:因果・時間・包含を同じ矢印で描くと誤読を招きます。線種や凡例で区別を。
- 小さすぎる文字:印刷して読めるか、白黒でも判別できるかを必ず確認しましょう。
まとめ:概念図は「絵心」ではなく「設計」
結論を決め、要素を絞り、視線を導き、1点だけ強調する。この4手順は、センスではなく誰でも再現できる設計ルールです。研究内容を盛ることなく、審査員の頭にすっと入る形に整えること——それが「伝わるを科学する」概念図づくりです。伸滋Designでは、研究者向けの申請書・概念図の設計支援を行っています。申請書全体の書き方は科研費申請書の書き方、学振に挑戦する方は学振申請書の書き方もあわせてどうぞ。
よくある質問
Q1. 概念図はどのツールで作ればいいですか?
PowerPointで十分です。大切なのはツールではなく設計。いきなり清書せず、まず紙に手書きラフを描いて要素と視線の流れを固めてから清書すると、修正の手戻りが激減します。
Q2. 概念図は申請書のどこに置くべきですか?
研究目的・研究概要の近く、できるだけ最初のページが基本です。審査員が本文を読む前に全体像を掴めるからです。様式や図の扱いは種目ごとに異なるため、最新の公募要領を必ず確認してください。
Q3. デザインが苦手でも作れますか?
作れます。絵心は不要で、本記事の4手順に沿えば形になります。仕上げに、分野外の人に3秒だけ図を見せて「何の研究か」を言ってもらうテストがおすすめです。言えなければ、要素の絞り込みに戻りましょう。