ストーリーテリング

「ストーリーは事実の22倍記憶に残る」は本当か?出典をたどると消える数字と、3万3千人のメタ分析が示した実際の差

提案書のレビューで、「数字ばかりで冷たい。お客様のエピソードを入れよう」と言われた経験はないでしょうか。研修やビジネス書では、その根拠として一つの数字がよく引かれます。「ストーリーで語ると、事実だけを並べるより最大22倍記憶に残る」。スタンフォード大学の研究とされ、日本語のビジネス記事にも繰り返し登場します。

物語が記憶に残りやすいこと自体は、心理学で長く調べられてきました。ただ、「22倍」という数字の出どころをたどると、途中で糸が切れます。一方で、2021年には3万3千人分のデータを束ねたメタ分析が出ています。そこで示された差は、22倍とはまったく違う姿をしていました。

この記事では、「22倍」がどこから来たのかを一次資料までさかのぼります。そのうえで、物語と説明文の記憶・理解の差が実際にどれくらいなのか、どんな条件で差が消えるのかを整理します。提案書やプレゼンで「数字と物語をどう配分するか」に迷っている方に向けて書きました。

「ストーリーは22倍記憶に残る」の出典はどこにあるのか

「22倍」という数字を示した査読論文は、確認できるかぎり見つかりません。スタンフォード大学のジェニファー・アーカー教授が講演で紹介した「最大22倍」が広まったもので、教授自身の実験結果でもありません。

出発点は、スタンフォード大学が公開している講演動画「Harnessing the Power of Stories」です。同大学の紹介ページには、アーカー教授の言葉として「物語は事実だけの場合より最大22倍記憶に残る」と書かれています。ただし、その根拠となる実験は示されていません。ページ末尾の参考文献には、認知心理学者ジェローム・ブルーナーの1986年の著書と、チップ・ハースらの『アイデアのちから(Made to Stick)』が並んでいます。

海外のビジネス誌では、この数字がブルーナーの研究とされることが多いです。ところが、ブルーナーの著書『Actual Minds, Possible Worlds』に「22倍」という記述はありません。この点は複数の検証記事が同じ結論に達しています(例:Akan, 2025)。

もう一つの参考文献『アイデアのちから』には、たどれる数値があります。チップ・ハースがスタンフォードの授業で行った演習です。学生に1分間のスピーチをさせると、1人あたり平均2.5個の統計を使い、物語を語った学生は10人に1人でした。その後で内容を思い出してもらうと、統計を覚えていた学生は5%、物語を覚えていた学生は63%でした。63÷5は約12.6倍で、22倍ではありません。しかも教室内の演習であり、対照群のある実験ではありません。

日本語でも、この数字は「スタンフォード大学の研究で最大22倍」という形で紹介されています(例:ZUU online, 2022)。つまり、講演で語られた印象的な数字が、査読研究の結果として伝言されてきたのが実態です。

図1|「22倍」はどのように広まったか ブルーナー(1986) 認知心理学の著書 「22倍」の記載なし アーカー教授の講演 スタンフォード大学 「最大22倍」と紹介 海外メディア・研修 Forbes、HBRなど 「22 times」が定着 日本語の記事 研修・書籍 「最大22倍」 たどれる唯一の数値:『Made to Stick』(2007)の授業演習。物語を覚えた学生63%、統計5%(約12.6倍)。 対照群も統制もない教室内の演習です。「22倍」を示した査読研究は確認できません。 出典:Stanford VMware Women’s Leadership Innovation Lab、Heath & Heath(2007)、Akan(2025)をもとに作成
図1:「22倍」は講演で語られた数字が伝言され、途中で「研究結果」に姿を変えたものです。

物語と説明文の記憶・理解の差は、実際にどれくらいなのか

2021年のメタ分析では、物語のほうが説明文より記憶・理解ともに優れていました。ただし差は「中程度」で、効果量にして g=0.55 です。倍率で言い表せるような大きさではありません。

この分析は、ヨーク大学のレイモンド・マーらが2021年に『Psychonomic Bulletin & Review』誌に発表しました(Mar, Li, Nguyen & Ta, 2021)。物語文(narrative)と説明文(expository)で記憶や理解を比べた実験を集めたものです。対象は37研究・150個の効果量で、75以上の標本、3万3千人超の参加者を含みます。メタ分析(meta-analysis)とは、同じ問いを扱った多数の研究の結果を統計的に統合し、平均的な効果の大きさを推定する手法です。

主な結果を表にまとめます。

比較の条件 研究数 効果量 g 95%信頼区間
全体(記憶+理解) 37 0.55 0.31〜0.79
記憶のみ 14 0.72 0.43〜1.01
理解のみ 29 0.48 0.21〜0.75
大人(17歳以上) 19 0.44 0.10〜0.77
16歳以下 18 0.67 0.33〜1.01
内容を統制した研究のみ 8 0.57 −0.13〜1.27

注:効果量 g(Hedges’ g)は、2つのグループの平均の差を標準偏差の何倍かで表した指標です。目安として0.2が小、0.5が中、0.8が大とされます。95%信頼区間は「本当の値がこの範囲に入る」と考えてよい幅で、0をまたがなければ統計的に差があるとみなします。

注目したいのは、条件を変えても結論が大きく揺れなかった点です。読んで学んでも聞いて学んでも、テストが直後でも遅延後でも、物語の優位は残りました。1つの研究を除いて再計算しても g は0.48〜0.59の範囲に収まり、特定の研究に引きずられた結果ではありません。

効果量0.55を、日常の言葉に置き換えると

効果量0.55は、「物語を読んだグループの平均的な人が、説明文グループの中では上位およそ3割に入る」程度の差です。正規分布を仮定して換算すると、説明文グループの約71%より上に位置します。また、物語で読んだ人と説明文で読んだ人を1人ずつ無作為に選んで比べたとき、物語のほうが良い成績である確率は約65%です。「10回のうち6〜7回は物語が勝つ」という感覚に近い数字で、「22倍」とは桁が違います。

図2|物語 vs 説明文:条件別の効果量(Mar ほか、2021) 全体(37研究) 0.55 記憶のみ(14研究) 0.72 理解のみ(29研究) 0.48 大人(17歳以上) 0.44 16歳以下 0.67 聞いて学ぶ 0.61 読んで学ぶ 0.54 口頭テスト(6研究) 0.92 筆記テスト 0.49 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 効果量 g(右に行くほど物語が有利) 横線は95%信頼区間。全体差は中程度(0.55)で、「何倍」と表せる大きさではありません。
図2:どの条件でも物語がやや有利ですが、信頼区間は広く、条件間の差は統計的には確認されていません。

「2倍」「7倍」という数字なら根拠はあるのか

あります。ただし、どれも特定の課題と比較条件で出た数字です。条件を外して「物語は◯倍」と一般化することはできません。

科学コミュニケーション研究者のマイケル・ダールストロムは、2014年に『PNAS』誌で物語研究を総説しました(Dahlstrom, 2014)。そこでは、説明文との直接比較で「物語文は2倍の速さで読まれ、2倍よく思い出された」と紹介されています。もとになったのは、アーサー・グレッサーらが1980年に行った実験で、内容への親しみやすさを統制したうえでの比較でした。

さらに大きな倍率が出た古典研究もあります。ゴードン・バウアーとミシャル・クラークは1969年、10個の名詞からなるリストを12組覚えてもらう実験を行いました(Bower & Clark, 1969)。単語を物語でつないで覚えたグループは、あとでまとめて思い出すテストで中央値93%を再生しました。普通に覚えたグループは13%でした。差は6〜7倍です。ただしこれは「無関係な単語を物語でつなぐ記憶術」の効果であり、事実の説明を物語に変えた効果ではありません。

ハースの授業演習の「63% 対 5%」は約12.6倍です。こちらは対照群のない演習で、学生が使った統計と物語の数も揃っていません。つまり、「何倍」という数字は課題の種類で2倍から7倍以上まで動きます。切り出した倍率だけを比べても意味がありません。

図3|「何倍」が出た研究は、どんな条件だったか 「22倍」 講演で紹介・一次資料なし 22倍(出典なし) ハース(2007) 授業演習:物語63%・統計5% 約12.6倍 バウアー&クラーク(1969) 単語リストを物語でつなぐ記憶術 6〜7倍(93% 対 13%) グレッサーら(1980) 物語文と説明文の再生量 約2倍 同じ「物語の効果」でも、課題と比較相手が違えば倍率は大きく動きます。 切り出した倍率だけを並べて比べることはできません。
図3:倍率の大きい研究ほど「記憶術」や「演習」に近く、事実を物語に変えた比較では2倍前後にとどまります。

物語が効かない、あるいは説明文のほうが強い条件はあるのか

あります。読み手がその分野に詳しいときは、説明文のほうが学習に有利でした。物語の優位が安定して出るのは、「その内容にまだ詳しくない相手」に対してです。

マイケル・ウルフとジョセフ・ミエンコは2007年、大学生90名を対象に実験を行いました。循環器系の内容を、物語文または説明文で学んでもらう実験です(Wolfe & Mienko, 2007)。全体では、学習量にも自由再生にも形式による差はありませんでした。差が出たのは、事前知識との組み合わせです。事前知識が多い読み手ほど、説明文から多くを学びました。説明文では事前知識が多いほど再生量が増えたのに対し、物語文ではその関係が見られませんでした。研究者たちは、説明文のほうが「すでに知っていることと結びつけて読む」処理を引き出すのではないかと考えています。

同じ論文の先行研究レビューでは、内容を統制した比較で説明文のほうが自由再生に優れた研究(Hartley, 1986)や、差が出なかった研究(Roller & Schreiner, 1985)も挙げられています。マーらのメタ分析でも、内容を統制した8研究だけに絞ると信頼区間が0をまたぎました(g=0.57、95%信頼区間 −0.13〜1.27)。研究数が少ないため断定はできませんが、「内容が同じなら形式の差は縮む」可能性は残っています。

もう一つ、注意すべき点があります。マーらは出版バイアス(publication bias)の検定も行いました。出版バイアスとは、差が出た研究ほど論文になりやすく、差が出なかった研究が埋もれる偏りのことです。検定の結果、理解を測った研究には偏りの証拠がなく、記憶を測った研究には偏りの証拠がありました。つまり「物語のほうが記憶に残る」という部分は、実際より大きめに見積もられている可能性があります。著者ら自身も「すべての情報を物語の形に押し込むことを勧めるものではない」と明記しています。

物語には、記憶以外の働きもあります。ナラティブ・トランスポーテーションの研究では、物語に没入した人は反論を思いつきにくくなることがわかっています。ただし、これは記憶の効果ではなく説得の効果です。「22倍記憶に残る」の根拠として持ち出すのは筋違いになります。

図4|相手の事前知識で、有利な形式が入れ替わる 学習量・記憶 物語文 説明文 ↑ 有利な形式が入れ替わる点 読み手の事前知識:少ない 多い 左側:詳しくない相手には物語が有利 右側:詳しい相手には説明文が有利 Wolfe & Mienko(2007)の結果をもとにした概念図。曲線の形は模式的なもので、実際の値を表すものではありません。
図4:物語が有利かどうかは相手の事前知識で入れ替わります。専門家向けの資料で物語を増やしても、期待した効果は出にくいのです。

明日から使える「数字と物語」の配分

物語は「相手が詳しくない内容を、記憶と理解に残す」ために使い、専門家向けには構造化された説明を主役にするのが、研究結果に沿った配分です。具体的には次の5点を試してみてください。

1. 「22倍」を資料から外す

社内研修や提案書に「ストーリーは22倍記憶に残る」と書いてあれば、書き換えましょう。「メタ分析で中程度の差(効果量0.55)が確認されている」と書くほうが正確です。数字の扱いが誠実であること自体が、聞き手の信頼につながります。

2. 相手の事前知識で形式を切り替える

初めて聞く経営層や顧客には、物語を先に置きます。同じ内容を専門家や実務担当者に説明するときは、構造化された説明を主役にし、事例は補助に回します。同じ提案書を両方に使い回すと、どちらかで効き目が落ちます。

3. 物語は「因果の鎖」で組む

出来事を時系列に並べただけでは、物語の効果は出ません。「何が原因で、何が起きて、どう変わったか」という因果のつながりが、記憶を支えます。組み立て方は因果関係で組み立てるストーリー設計で詳しく説明しています。

4. 数字を「1人の場面」で包む

統計を消す必要はありません。「導入企業の78%が継続」という数字の前後に、1社の担当者が何に困り、どう変わったかを1場面だけ添えます。1人の具体例が統計より心を動かす現象は特定可能な被害者効果として知られていますが、再現性には議論があります。数字と場面をセットにするのが、現時点で最も安全な使い方です。

5. 物語に飾りを足しすぎない

面白いエピソードや印象的な画像を足すほど、本筋の理解は下がることがあります。誘惑的な細部の研究が示すとおり、物語は「本筋の因果」に絞り、脱線する挿話は削ります。

自分の資料が「数字寄り」なのか「物語寄り」なのかを客観的に知りたい方は、伝わる型診断で現在の型を確認してみてください。相手の事前知識に合わせた配分の目安がつかめます。

よくある質問

「22倍」は誰が言い始めたのですか?

特定の論文にはたどり着けません。スタンフォード大学のジェニファー・アーカー教授の講演で「最大22倍」と紹介され、海外のビジネス誌がジェローム・ブルーナーの研究として引用しました。ブルーナーの著書にその数字はなく、たどれる一次データは『アイデアのちから』の授業演習(約12.6倍)だけです。

効果量0.55は大きいのですか?

心理学の目安では「中程度」です。物語で学んだ人と説明文で学んだ人を1人ずつ比べたとき、物語のほうが良い成績になる確率は約65%です。確かな差ですが、「何倍」と言えるほどの差ではありません。

専門家向けの資料にも物語は必要ですか?

主役にはしないほうがよいでしょう。ウルフとミエンコの2007年の実験では、事前知識が多い読み手ほど説明文から多くを学びました。専門家向けには構造化された説明を中心にし、事例は補助として短く添えるのが研究結果に沿った形です。

物語にすると内容の正確さが落ちませんか?

落とさずに済む方法はあります。マーらのメタ分析では、内容を統制した研究でも物語の優位は残っていました(ただし研究数は8件で、信頼区間は0をまたぎます)。数字や事実を削るのではなく、その数字が生まれた場面を1つ添える形なら、正確さと記憶の両方を保てます。

子どもと大人で効果は違いますか?

メタ分析では16歳以下で0.67、大人で0.44と、子どものほうが大きめでした。ただし差は統計的に確認されておらず、大人でも物語の優位は残っています。

まとめ

「ストーリーは事実の22倍記憶に残る」は、講演で語られた数字が研究結果として伝言されたものです。査読論文にその数字は見つかりません。一方、3万3千人分のデータを束ねたメタ分析は、物語が説明文より記憶・理解に優れることを効果量0.55という「中程度の差」として確認しています。差は確かにあるが、倍率で語れる大きさではない。これが現時点の答えです。

物語の効果は、相手がその内容に詳しくないときに最も安定して現れます。専門家相手には説明文が有利になることもあります。次の一歩として、手元の提案書を「相手の事前知識」で仕分けし、初見の相手には因果でつないだ1場面を、詳しい相手には構造化された説明を置いてみてください。

出典

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『9つの伝わる型 図解ハンドブック 完全版』
PDF・57ページ/35の研究にもとづく「なぜ効くのか」まで解説

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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