プレゼン・伝え方の型

研究成果のプレスリリースの書き方|記者に「伝わる」構成と、誇張しない言葉選びの科学

論文がアクセプトされた。広報担当から「プレスリリースの原稿をお願いします」と連絡が来る。とりあえずアブストラクトを日本語にして送ったら、「記者向けに、もう少しわかりやすく」と戻ってきた――。研究者なら一度は経験する場面です。

プレスリリースは論文の「短縮版」ではありません。読む人も、読む順番も、求められる言葉の強さも違う、別の文書です。この記事では認知科学の視点から、記者に伝わり、しかも誇張しない研究成果のプレスリリースの書き方を整理します。

なぜ研究者のプレスリリースは伝わりにくいのか

最大の壁は「専門知の呪い」です。自分が知っていることを、知らない状態で想像できなくなる認知バイアスで、研究に深く入り込んだ人ほど強く働きます。記者は毎日多くのリリースに目を通しますが、あなたの分野の専門家ではありません。背景説明から始まる文章は、結論にたどり着く前に閉じられてしまいます。

もう一つの壁は、わかりやすさを求めて言い過ぎてしまうことです。英国の20大学が2011年に出した健康・医学分野のリリース462本と、関連するニュース記事668本を調べた研究では、元の論文と比べて、リリースの40%が行きすぎた行動の助言を、33%が相関データからの因果の断定を、36%が動物研究からヒトへの飛躍を含んでいました。そしてリリースが誇張していると、ニュースが誇張する割合も大きく上がっていました(観察研究のため、因果関係は断定できないと著者自身が述べています)。

ニュースが誇張した割合 リリースに誇張あり誇張なし行動の助言58%17%因果の断定81%18%動物→ヒト86%10% 出典:Sumner et al.(2014)BMJ/英国20大学のリリース462本と記事668本
図1:ニュースの誇張の多くは、リリースの段階で始まっている

記者に伝わるプレスリリースの書き方:5つの設計

1. 見出しは「発見」ではなく「何が変わるか」を一文で

「〜の分子機構を解明」よりも、「〜の検査が、採血1回で済む可能性」のほうが、専門外の読者は自分ごととして読めます。見出しは30字前後を目安に、専門用語を使わずに書きます。どうしても書けないときは、研究の核がまだ言葉になっていないサインです。

2. 論文の順番を逆にする(逆ピラミッド)

論文は背景→方法→結果→結論と積み上げますが、報道は結論から読みます。リード文(最初の2〜3行)だけで「誰が・何を見つけ・何が変わるか」がわかるように組み替え、背景や方法は後ろに回します。人は冒頭で全体の枠組みをつかむと、その後の情報を整理しながら読めるため、認知負荷が下がります。

論文とプレスリリースは「順番」が逆 × 論文の順番(IMRaD)① 背景・先行研究② 方法③ 結果④ 結論(最後にやっと出る)✓ リリースの順番(逆ピラミッド)① 何が変わるか(結論)② なぜ重要か(意味)③ どう確かめたか(根拠)④ まだ言えないこと(限界) 記者はリード文の2〜3行で、読み進めるかを決めます
図2:論文は結論が最後、リリースは結論が最初

3. 動詞を「証拠の強さ」にそろえる

誇張は多くの場合、形容詞ではなく動詞で起きます。観察研究なら「関連していた」、動物実験なら「マウスで確認した」と、研究デザインに合った動詞を選びます。「控えめに書くと記者に拾われないのでは」という心配には、データがあります。9つの広報部門のリリース312本を対象にしたランダム化試験では、主張を証拠に合わせたり、因果についての注意書きを加えたりしても、ニュースに取り上げられる割合は下がりませんでした。

証拠の強さと、使ってよい動詞 研究デザイン✓ 使える表現× 避けたい表現観察研究(相関)「〜と関連していた」「〜が原因」「〜を防ぐ」動物・細胞の実験「マウスで〜を確認した」「人の〜に効く」ランダム化試験「〜を改善した」「誰にでも効く」1本の研究「可能性を示した」「解明」「証明」 因果の注意書きを加えても、報道の採用は減らなかった(Adams et al., 2019)
図3:研究デザインごとに、使える動詞と避けたい動詞

4. 図は1枚、数字は「比較」で見せる

「精度95%」だけでは大きさが伝わりません。「従来の方法の約半分の時間で」のように、読み手がすでに知っている基準と並べます。図は論文のFigureをそのまま貼らず、要点を1つに絞った1枚を用意します。考え方は科研費申請書の概念図(ポンチ絵)の作り方がそのまま使えます。

5. 公開前に「専門外の3人」に要約してもらう

書き手は自分の文章を「意図」で読んでしまうため、誤読の可能性に気づけません。研究室の外の人に読んでもらい、一文で要約してもらいましょう。要約がズレた箇所は、記者も誤読する箇所です。

やりがちなNG

  • アブストラクトをそのまま和訳して出す
  • 「世界初」「画期的」を、根拠の範囲を書かずに使う
  • 限界(サンプル数、対象が動物であることなど)を削る
  • 共同研究先や学術誌のエンバーゴ(報道解禁日時)の確認が遅れる

産学連携の現場で共同研究の成果発表に立ち会うと、最後に揉めるのは内容よりも「どこまで言ってよいか」の線引きです。早い段階で共同研究先と表現をすり合わせておくと、公開直前の差し戻しを防げます。

まとめ

プレスリリースは、論文を短くしたものではなく、専門外の読み手に向けて設計し直した別の文書です。結論を先に置き、動詞を証拠にそろえ、専門外の目で確かめる。この3つで、伝わりやすさと正確さは両立できます。

公開前の3ステップ ① 結論を1文に30字・専門用語なし② 根拠と限界を書く言えること/言えないこと③ 専門外に読ませる3人に一文で要約してもらう 要約がズレた箇所が、記者も誤読する箇所です
図4:伝わりやすさと正確さを両立させる3ステップ

伸滋Designでは、捏造や代筆はせず、研究者ご自身の成果を「伝わる形」に設計するお手伝いをしています。申請書・発表資料・プレスリリースのご相談は研究者・大学向けサービスをご覧ください。研究の全体像の組み立て方は研究計画書の書き方も参考になります。

よくある質問

Q. プレスリリースは論文の掲載前に出してもよいですか?

A. 多くの学術誌はエンバーゴ(報道解禁日時)を定めており、それより前に公表すると規定違反になることがあります。投稿先の規定と所属機関の広報の手順を確認し、解禁日時に合わせて準備してください。

Q. プレスリリースは研究者と広報担当のどちらが書くべきですか?

A. 内容の正確さに責任を持てるのは研究者本人です。研究者が「結論の1文」と「根拠・限界」の素案を書き、広報担当が報道向けの形に整える分担が現実的です。最終版は必ず研究者が確認します。

Q. 「世界初」と書いてもよいですか?

A. 根拠を示せる範囲に限れば使えます。「〜の条件で〜を示したのは世界で初めて」のように範囲を明記し、どこまで調べたかを研究者自身が説明できる状態にしておきましょう。

参考文献:Sumner P, et al. The association between exaggeration in health related science news and academic press releases. BMJ 2014;349:g7015./Adams RC, et al. Claims of causality in health news: a randomised trial. BMC Medicine 2019;17:91.

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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