聞き手の心理・行動

専門用語(ジャーゴン)はなぜ伝わらないのか?定義を添えても効かない実験と、引用数が落ち始める「1%」の境界線

学会で使った発表資料を、そのまま経営者向けの説明会に持っていく。社内会議では「PoC」「アジャイル」「KPI」が飛び交う。病院では医師が「寛解です」と告げる。どの場面でも、話し手は「必要なら定義を添えれば伝わる」と考えています。日本でも「専門用語は言い換えましょう」「初出時に説明を入れましょう」と助言されてきました。ビジネス書からアカデミック・ライティングの手引きまで、同じ助言が繰り返されています。

ところが、この「定義を添えれば大丈夫」という前提を直接検証した実験では、意外な結果が出ています。専門用語に定義を添えても、読み手の「読みにくさ」の感覚はほとんど変わりませんでした。しかも、その読みにくさは「内容がわからない」だけでは終わりません。「この話は信用できない」「リスクが高そうだ」という判断にまで波及していました。

この記事では、専門用語(jargon、ジャーゴン)が読み手の頭の中で何を引き起こすのかを、実験と大規模データから読み解きます。定義を添えても効かない理由と、書き手自身の評価が下がる仕組みを見ていきます。研究論文の引用数が落ち始める「1%」という境界線と、専門用語がむしろ役に立つ場面も扱います。経営者、登壇者、研究者など、専門知識を「外の人」に伝える必要がある方に向けて書いています。

専門用語(ジャーゴン)とは何か

専門用語とは、特定の分野や集団の中では通じるが、その外ではほとんど使われない語彙のことです。科学コミュニケーション研究者のアイェレット・バラム=ツァバリらは、ジャーゴンを「状況や目的に結びついた特殊な専門語彙で、その場面の外ではめったに使われないもの」と定義しています(Sharon & Baram-Tsabari, 2014)。ポイントは「難しい言葉」ではなく「外では使われない言葉」という点にあります。

日本語の例で考えると、その落差がよくわかります。国立国語研究所の「病院の言葉」委員会は、2009年に57語の医療用語について一般の人の理解度を調べました。「寛解(かんかい)」という言葉を知っていた人は13.9%にすぎません。「予後(よご)」でも52.6%でした(国立国語研究所, 2009)。医療者にとっては日常語でも、患者にとっては聞いたこともない言葉です。しかも「寛解」は「完全に治った」と誤解されやすく、知らないだけでなく、誤った意味で受け取られる危険もあります。

専門用語は「知らない」だけの問題ではありません。この記事で扱う研究が示すのは、専門用語が読み手の「感覚」にも作用し、その感覚が判断を動かすという点です。

専門用語は「わかりにくい」だけではない:処理流暢性の実験

専門用語を含む文章を読むと、内容が同じでも「読みにくい」という感覚が生まれます。その感覚は「信用できない」「危なそうだ」という判断に変わります。オハイオ州立大学のオリビア・ブロックらが2019年に発表した実験(参加者650人)で、この連鎖が確認されました(Bullock et al., 2019)。

実験では、自動運転車、手術ロボット、3Dバイオプリンティングという3つの新技術について、3文ずつの短い説明文を読んでもらいました。半数の参加者には、各文章に専門用語が10語ずつ入った版を渡します。残りの半数には、専門用語を平易な言い換えに置き換えた版を渡しました。文字数は両者で同じにそろえています。さらに、それぞれの半数には、専門用語にマウスを乗せると定義が表示される仕組みを用意しました。つまり「専門用語あり/なし」×「定義あり/なし」の4つの条件です。

読んだあとに測ったのは、処理流暢性(processing fluency)です。処理流暢性とは、情報を「すらすら読めた」と感じる主観的な感覚のことを指します。内容を理解できたかどうかとは別に、「読みやすかった」「言葉になじみがあった」という感覚を7段階で答えてもらいました。

図1|専門用語があるだけで「読みやすさ」の感覚が下がる 1 7 4 4.57 専門用語あり 5.27 専門用語なし 処理流暢性(7段階、高いほど「すらすら読めた」) ↑ この差に 定義の有無は 影響しなかった 出典:Bullock et al. (2019) N=650。専門用語の主効果 η²=.11。定義の有無の主効果 F=0.37, p=.54(有意差なし)
図1:専門用語の有無だけで流暢性の平均が0.7ポイント下がった。定義を添えても、この差はほぼそのまま残った。

結果は明確でした。専門用語ありの文章を読んだ人の流暢性は平均4.57、なしの文章では5.27でした。効果量はη²(イータ二乗)で.11です。効果量とは、条件の違いが結果をどれだけ動かしたかを示す指標です。η²=.11は「流暢性のばらつきの11%を専門用語の有無で説明できる」ことを意味します。心理学の実験では中程度から大きめの効果です。

そして肝心の点です。定義を添えた条件と添えなかった条件の間に、流暢性の差はありませんでした(F=0.37, p=.54)。定義があっても「読みにくい」という感覚は消えなかったのです。

読みにくさは「信用できない」に変わる

読みにくさの感覚は、そこで止まりません。ブロックらの分析では、流暢性が下がると「説得への動機づけられた抵抗(motivated resistance to persuasion)」が高まりました。これは「この文章は私を誘導しようとしている」「信用できない」と感じる反応のことです。その抵抗が高まるほど、新技術のリスクを高く見積もり、導入への支持が下がりました。

図2|専門用語が判断を変えるまでの連鎖 専門用語 を含む文章 処理流暢性 「読みにくい」↓ 説得への抵抗 「信用できない」↑ リスク認知 ↑ 導入への支持 ↓ 経路1 経路2 経路3 「定義あり」条件でも、この連鎖は消えなかった。間接効果:リスク B=−.11(95%CI −.15〜−.07)、支持 B=.08(同 .06〜.12) 出典:Bullock et al. (2019)。横断データによる媒介分析のため、因果の方向には限界があると著者ら自身が注記している
図2:読み手は「読みにくさ」を文章のせいではなく、内容そのものへの不信として受け取ってしまう。

ここで出てくる95%信頼区間(CI)とは、「同じ実験を繰り返したとき、真の値がこの範囲に入ると考えてよい幅」を示す指標です。区間がゼロをまたいでいなければ、効果は統計的に確からしいと判断されます。

ただし限界もあります。この研究はオンラインの非代表サンプルで、画像も出典も文脈もない短文を読ませたものです。理解度そのものは測っていません。また、一時点のデータで媒介の連鎖を推定しているため、因果の順序を厳密に確定したわけではないと著者らも述べています。それでも「定義を添えれば十分」という通説が、少なくとも「読みやすさの感覚」には通用しないことを示した点で、この実験は重要です。

定義を添えても足りない理由:「自分の話ではない」という感覚

定義を添えても効かないのは、専門用語が「この話は自分の側の話ではない」という感覚を生むからです。これは「内容の理解」とは別の働きです。同じ650人のデータを別の角度から分析したヒラリー・シュルマンらの2020年の研究で、この仕組みが示されました(Shulman et al., 2020)。

この分析では、専門用語のある文章を読んだ人ほど、「科学コミュニティの一員だ」という自己認識が弱まりました。その結果として、科学への関心と「理解できた」という実感が下がっていました。定義があってもこの効果は残りました。定義は語の意味を補いますが、「この文章は自分に向けて書かれていない」という印象までは消せないのです。

この点は、専門家が陥りやすい「知識の呪い」とつながっています。専門家は、自分が知っている言葉を相手も知っていると無意識に仮定します。定義を添えるという対処は、その仮定を「言葉の意味」のレベルでしか修正していません。読み手が受け取る「よそ者感」までは届かないのです。

専門用語は書き手の評価も下げる

専門用語は読み手の判断を変えるだけでなく、書き手自身の評価も下げます。しかも、使う側は「有能に見える」と期待して使っています。この食い違いを示したのが、ダニエル・オッペンハイマーの2006年の研究です(Oppenheimer, 2006)。

オッペンハイマーは、同じ内容の文章を「短い語」と「長い難しい語」に置き換えて、読み手に書き手の知性を評価してもらいました。実験1から3のいずれでも、難しい語に置き換えた文章ほど、書き手は「知的でない」と判断されました。元の文章の質が高くても低くても、この傾向は変わりませんでした。実験4では文章の内容を変えずにフォントだけを読みにくくしたところ、やはり書き手の評価が下がりました。つまり原因は語彙の難しさそのものではなく、「読みにくい」という感覚にあります。論文のタイトル自体が「Consequences of erudite vernacular utilized irrespective of necessity」という回りくどい言い回しになっています。「必要もなく博識な語彙を用いた場合の帰結」という意味で、著者の皮肉です。

では、なぜ人は評価が下がるのに専門用語を使うのでしょうか。コロンビア大学のザカリア・ブラウンらは2020年に、6万4千件の博士論文タイトルを分析しました(Brown, Anicich & Galinsky, 2020)。地位の低い大学に所属する著者ほど、タイトルに専門用語を多く使っていました。追加の実験では、地位が低いと感じさせた参加者ほど専門用語を選びやすくなりました。その理由は「わかりやすさ」より「相手からどう評価されるか」への関心にありました。著者らはこれを「補償的な誇示コミュニケーション」と呼んでいます。高級品で地位を補おうとする心理と同じ構造が、言葉づかいにも現れるという指摘です。

図3|専門用語のパラドックス:狙いと受け取られ方のずれ 使う側の狙い ・専門性が高く見える ・正確に、短く言える ・「わかっている人」と思われたい ・定義を添えれば伝わるはず 地位が低いと感じるほど強まる(Brown et al., 2020) 読み手が受け取る印象 ・「読みにくい」=「信用できない」 ・書き手を「知的でない」と判断 ・「自分に向けた話ではない」 ・定義があっても印象は変わらない Bullock 2019/Shulman 2020/Oppenheimer 2006 実際は 狙いは「有能に見せる」だが、読み手側の評価は逆方向に動く。ずれを生むのは「読みにくさ」の感覚そのもの
図3:専門用語は「使う側の安心」と「読み手の評価」を逆方向に動かす。

この「読みにくさが評価を下げる」という現象は、資料の見た目にも当てはまります。「脳は美しい資料を信じ込む」で扱った認知流暢性の研究と、専門用語の研究は同じ仕組みを共有しています。言葉の選び方は、デザインと同じ「読みやすさの設計」の一部なのです。

研究者にとっての実害:引用数が落ち始める「1%」

専門用語の代償は、一般向けの説明だけの話ではありません。同じ研究者コミュニティの中でも、タイトルと抄録に専門用語が多い論文ほど引用されにくくなります。イタリア国立研究会議のアレハンドロ・マルティネスとステファノ・マンモラは2021年に、洞窟研究の論文21,486本を分析しました(Martínez & Mammola, 2021)。

洞窟研究を選んだのには理由があります。地質学者、動物学者、人類学者、生態学者が同じ対象を扱うため、分野固有の専門用語が約1,500語も蓄積しています。しかも研究者同士で用語の定義がしばしば食い違う分野です。著者らはこの用語リストを使い、各論文のタイトルと抄録に占める専門用語の割合を計算しました。

結果、専門用語の割合が増えるほど、論文の年齢で補正した引用数は下がっていました。特に抄録では、専門用語が全語数の1%を超えたあたりで引用数が急に落ちていました。被引用数が450回を超えるような高被引用論文には、タイトルに専門用語を使ったものが1本もありませんでした。抄録でも、ほぼすべてが1%未満でした。

研究者は年間に1,100本超のタイトルと約200本の抄録に目を通し、実際に本文まで読むのは約97本と推定されています。著者らは、タイトルと抄録は「読者を釣る針」なのだから、専門用語は本文の必要な箇所に限るべきだと提案しています。

抄録の専門用語率は、どれくらい高いのか

では、実際の論文の抄録には、どれくらい専門用語が含まれているのでしょうか。イスラエル工科大学のツィポラ・ラケゾンらは2017年、専門用語を自動判定するツール「De-jargonizer」を開発しました。そのツールで、PLOS Computational BiologyとPLOS Geneticsの論文5,000組について、専門家向けの抄録と一般向けの要約を比較しています(Rakedzon et al., 2017)。

図4|論文の専門用語率と、「伝わる」ための目安との距離 本文中の専門用語の割合(%) 0 10 20 10% 8% 17% 12% 学術抄録 一般向け要約 PLOS Computational Biology 学術抄録 一般向け要約 PLOS Genetics 2%:一般読者の目安 1%:引用が減る線 出典:棒はRakedzon et al. (2017)。2%はHu & Nation (2000)、1%はMartínez & Mammola (2021)
図4:「一般向け」と銘打った要約でさえ、読者が必要とする水準の4〜6倍の専門用語を含んでいた。

専門家向けの抄録に含まれる専門用語は、PLOS Computational Biologyで平均10%、PLOS Geneticsで平均17%でした。一般向け要約でも、それぞれ8%と12%です。一方、読解研究者のフーとネイションは2000年に、文章を正しく理解するには語の98%を知っている必要があると示しています。つまり一般読者に向けた文章なら、知らない語は2%以下に抑える必要があります。「一般向け要約」でさえ、その4〜6倍の専門用語を含んでいたことになります。

傾向は悪化しています。カロリンスカ研究所のポントゥス・プラヴェン=シグライらは2017年に、123誌の抄録709,577本を分析しました。1881年から2015年にかけて、抄録の読みやすさは一貫して下がり続けていました。その一因は「robust」「underlying」のような一般的な科学ジャーゴンの増加です(Plavén-Sigray et al., 2017)。

この知見は、研究計画書や科研費の申請書にもそのまま当てはまります。審査員は隣接分野の研究者であることが多く、あなたの分野の専門用語を「知らない読者」です。「研究計画書の書き方」で扱った「査読者に伝わる設計」の土台は、まず用語の選び方にあります。

専門用語が効く場面もある:3つの境界線

専門用語は常に悪いわけではありません。読み手に「読む動機」があるとき、同じ用語体系を共有しているとき、正確さが安全に直結するとき。この3つの場面では、専門用語は必要であり、むしろ有利に働きます。

境界線1:読み手が「読む動機」を強く持っているとき

シュルマンとブロックは2020年、新型コロナウイルス流行下で393人を対象に追試を行いました(Shulman & Bullock, 2020)。話題は緊急度の異なる3つです。新型コロナ(高)、洪水リスク(低)、連邦の緊急政策(対照)について、専門用語あり/なしの文章を読んでもらいました。洪水と政策の話題では、これまでどおり専門用語が流暢性を下げ、説得力を弱めました。ところが新型コロナの話題では、専門用語の影響が出ませんでした。読み手が「知らなければならない」と強く感じている場面では、読みにくさを乗り越えて読み進めるからです。著者らはこの論文に「Don’t dumb it down(かみ砕きすぎるな)」という題を付けています。

境界線2:読み手が同じ用語体系を持っているとき

専門用語の本来の機能は圧縮です。マルティネスとマンモラは「metazoan(後生動物)」を例に挙げています。この一語には「多細胞で、核を持つ真核生物で……」という何段もの知識が畳み込まれています。同じ知識を持つ相手には、専門用語のほうが速く、正確に伝わります。国立国語研究所の提案でも、長期の治療を続けて理解が深まっている患者は別扱いです。あえて「寛解」という言葉を使い、正確に説明することが望ましいとしています。

境界線3:やさしくしすぎると「わかったつもり」を生むとき

逆方向の副作用もあります。ドイツのリサ・シャラーらは2017年、やさしく書かれた科学記事の副作用を示しました。読んだ人ほど自分の判断に自信を持ち、専門家への依存を過小評価したのです(Scharrer et al., 2017)。「やさしさの効果(easiness effect)」と呼ばれる現象です。医療や投資のように判断を誤ると損失が大きい分野では、バランスが必要です。読みやすく、しかも専門家の判断が必要な理由も伝わる書き方が求められます。

場面 専門用語の扱い 根拠
読み手に強い動機がない(一般向け、営業、初回提案) 2%以下に抑える。定義に頼らない Bullock 2019、Hu & Nation 2000
読み手に強い動機がある(危機時、当事者) 正確さを優先し、必要な用語は残す Shulman & Bullock 2020
同じ分野の専門家(本文、方法、討論) 圧縮のために使う Martínez & Mammola 2021
隣接分野の専門家(タイトル、抄録、申請書) 1%未満を目標にする Martínez & Mammola 2021
判断を誤ると損失が大きい(医療、投資) やさしくしつつ、専門家が必要な理由も書く Scharrer 2017

※表中の「%」は、文章全体の語数に占める専門用語の割合です。1%と2%の線は、それぞれ引用数の分析と読解研究から導かれた目安であり、厳密なしきい値ではありません。

明日から使える:専門用語を「減らす」のではなく「配置する」3ステップ

実務での答えは「専門用語をゼロにする」ではありません。読み手が最初に目にする場所から専門用語を外し、必要な場所に配置し直すことです。研究が示す境界線を踏まえると、次の3ステップになります。

ステップ1:冒頭・タイトル・要旨だけ、専門用語を数える

全文を書き直す必要はありません。タイトル、最初の3文、要旨だけを取り出し、その中の専門用語を数えます。100語あたり2語を超えていれば、一般向けとしては多すぎます。研究者が隣接分野の審査員に向けて書くなら、1語以下が目標です。英語の文章であれば、ラケゾンらのDe-jargonizerで機械的に判定できます。日本語の場合は、「自分の分野の外の知人が、この語を口にするか」を基準にします。

ステップ2:残す用語は「日常語→専門語」の順で導入する

国立国語研究所の提案は、説明を3段階で組み立てています。「まずこれだけは」「少し詳しく」「時間をかけてじっくりと」の3つです。「寛解」なら、まず「症状が落ち着いて安定した状態」と日常語で言い、そのあとで「これを寛解と呼びます」と専門語を後置します。専門語を先に出して定義を添えるのではなく、現象を先に見せてから名前を付ける順序です。この順序なら、読み手は「知っている現象」に名前が付くだけなので、「自分の話ではない」という感覚が生まれにくくなります。

ステップ3:定義ではなく「場面」で見せる

ブロックらの実験で定義が効かなかったのは、定義が「もう1つの知らない情報」として処理されるからです。代わりに、専門用語が指している現象を、読み手が経験した場面で示します。「処理流暢性」を説明するなら、「初めて行く駅の乗り換え案内を読むときの、あの引っかかる感じ」と言います。「情報処理の主観的容易さ」と定義するより速く届きます。

図5|「専門語→定義」から「場面→専門語」へ よくある形:専門語が先 「本研究は処理流暢性(情報処理の 主観的容易さ)に着目し、専門用語が 説得への抵抗を媒介して……」 ・1文目に専門語が3つ ・定義は括弧内の「もう1つの知らない語」 ・読み手は2行目で「自分の話ではない」と感じる 改善形:場面が先、名前は後 「知らない言葉が多い説明は、内容が 正しくても信用されにくい。この 『読みにくさ』を処理流暢性と呼ぶ」 ・1文目は日常語だけ ・読み手が知っている現象に名前を付ける ・専門語は「圧縮」として後で機能する 国立国語研究所「病院の言葉」提案の「まずこれだけは→少し詳しく→じっくりと」の3段階と同じ順序
図5:専門用語を消すのではなく、読み手が「知っている現象」の後ろに置き直す。

この3ステップは、「専門家ほど説明が下手」の科学的理由で扱った改善策と組み合わせると、さらに効きます。専門家は自分の説明の「読みにくさ」を自分では感じられません。だからこそ、数える・順序を変える・場面で見せるという機械的な手順が必要になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 専門用語に定義を添えるのは無駄なのですか?

無駄ではありませんが、十分ではありません。ブロックらの2019年の実験では、定義があっても「読みにくい」という感覚は変わらず、信頼や支持への悪影響も残りました。定義は「意味を補う」には役立ちますが、「自分の話ではない」という感覚を消す効果はありません。専門語を先に出して定義を添えるより、現象を先に示してから名前を付ける順序のほうが有効です。

Q2. 専門用語を使ったほうが専門家らしく見えませんか?

読み手の評価は逆に動きます。オッペンハイマーの2006年の研究では、同じ内容でも難しい語を使った文章ほど、書き手は「知的でない」と判断されました。ブラウンらの2020年の分析では、地位の低い立場の人ほど専門用語を多く使う傾向がありました。専門用語は「自信のなさの補償」として読まれる可能性があります。

Q3. 論文の抄録では、専門用語はどこまで減らすべきですか?

目安は抄録全体の1%未満です。マルティネスとマンモラの2021年の分析では、抄録の専門用語率が1%を超えたあたりで引用数が急に下がりました。被引用450回超の論文には、タイトルに専門用語を含むものがありませんでした。ただし洞窟研究という1分野の分析なので、他分野で同じ数値が当てはまるかは検証が続いています。

Q4. 専門用語を使ってもよい場面はありますか?

あります。読み手が強い動機を持っている危機時の情報、同じ用語体系を持つ専門家同士のやり取り、正確さが安全に直結する場面です。シュルマンとブロックの2020年の実験が根拠です。新型コロナのように読み手が「知らなければならない」と感じる話題では、専門用語の悪影響が出ませんでした。

Q5. 日本語の文章でも同じことが言えますか?

直接の追試は限られていますが、方向は同じと考えられます。国立国語研究所の2009年の調査では、「寛解」の認知率が13.9%、「予後」が52.6%にとどまりました。ここで紹介した実験は英語圏のものなので、日本語での効果量は今後の検証が必要です。ただし「読みにくさが信頼を下げる」という仕組み自体は言語に依存しないと考えられています。

まとめ:専門用語の問題は「意味」ではなく「感覚」にある

専門用語が伝わらないのは、読み手が意味を知らないからだけではありません。「読みにくい」という感覚が「信用できない」「自分の話ではない」という判断に変わるからです。だから定義を添えるだけでは足りません。書き手の評価も下がり、論文なら引用数も下がります。抄録で1%、一般向けで2%という目安は、その代償の大きさを示しています。

一方で、読み手に強い動機があるとき、同じ用語体系を共有しているときには、専門用語は圧縮の道具として役立ちます。答えは「ゼロにする」ではなく「配置し直す」ことです。まず冒頭・タイトル・要旨だけ数える。残す用語は日常語のあとに置く。定義ではなく場面で見せる。この3つを、次に書く資料の最初の3文から試してみてください。

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出典

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PDF・57ページ/35の研究にもとづく「なぜ効くのか」まで解説

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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