論文が受理された。広報から「プレスリリースを出しませんか」と声がかかり、論文の要旨を整えて送ったのに、記者からの反応がない。産学連携の現場で多くの研究者の発表を見てきましたが、原因は研究の質ではなく「書く順番」にあることがほとんどです。
なぜ研究者のリリースは読まれないのか
京都大学の公開マニュアル(『虎の巻』プレスリリース編 ver.5.0)は、報道発表資料を「記事のネタにどうか」という記者への提案書と位置づけています。記者は1日に数十〜数百件のリリースを見て、見出しで取材するかを判断します。読み手が使える時間は、最初の数秒です。
そこに「専門知の呪い」が重なります。結果を知っている研究者ほど、背景から丁寧に積み上げたくなる。しかし認知負荷の観点では、予備知識のない読み手に背景から読ませるのは、結論のないまま部品だけ渡すのと同じです。
方法1:論文と逆の順序で書く
同マニュアルは、論文の順序(背景→手法→結果→考察)とは逆に、見出し(結論)→前文(ポイント)→本文(詳細)の逆三角形で書くよう勧めています。冒頭に5W1H(誰が・何を・なぜ・いつ・どこで)をそろえ、「なぜ今発表するのか」も添えます。
方法2:見出しに「変化」まで書く
同マニュアルは、わかりやすさを正確さより優先し、目安を「中学2年生が読んでわかる」ことに置いています。見出しを書いたら、次の点を確認してください。
- 「初」「最高」を使うなら、範囲(年月・地域・分野)を必ず書く
- 専門用語は見出しと前文に入れず、必要なら脚注や別紙で補う
- 固有名詞や数字、身近なものとの比較を添えて、イメージできる形にする
方法3:発表前の確認を手順にする
リリースは書く前の確認で事故が減ります。マニュアルが挙げる主な確認事項は次のとおりです。
- 掲載誌の報道解禁日(エンバーゴ)を、掲載前に必ず確認する
- 共著者の所属機関や、JSTなどの資金配分機関、共同研究企業へ、契約に従って事前に連絡する
- 所属機関に広報部門があれば、早い段階で相談する
資金配分機関への連絡や成果の見せ方は、次の申請書にも直結します。申請書や発表資料を「伝わる形」に設計したいときは、研究者・URA向けの伝わる設計サービスもご覧ください。
やりがちなNG
- 論文の要旨をそのまま貼る(一般向けに言い換える方法は一般向け要約の設計で解説しています)
- 範囲を書かずに「世界初」と書く、結果以上に誇張する
- 記者からの問い合わせを「忙しいから後で」と後回しにする
私たちは、成果の捏造や代筆は行いません。事実を変えず、伝わる順序と言葉に設計し直すことに徹します。
まとめ
プレスリリースは論文ではなく、記者への提案書です。①発表前に確認し、②結論から逆三角形で書き、③見出しに変化まで入れる。この3つで、同じ成果の届き方は大きく変わります。制度や手順は所属機関で異なるため、最終的には最新の学内ルールと広報担当の案内を確認してください。
よくある質問
記者レクと資料の投げ込みは、どう使い分けますか?
京都大学のマニュアルでは、新しく役に立つ・おもしろい内容や、未公表の成果は原則として記者レク(説明会)にするとされています。資料のみを配る投げ込みか説明会かは、ニュース性とタイミングで決まるため、まず所属機関の広報担当に相談してください。
論文が掲載される前でもリリースは出せますか?
掲載誌ごとに報道解禁日(エンバーゴ)のルールがあり、破ると不利益が生じる場合があります。未発表の成果しか受け付けない雑誌では、リリースが掲載の妨げになる可能性もあるため、必ず投稿規定と解禁日を確認してください。
専門用語はどこまで説明すべきですか?
見出しと前文には専門用語を入れず、どうしても必要な語は脚注や別紙で補う方法が紹介されています。目安は「中学2年生が読んでわかる」ことです。正確さを捨てるのではなく、読み手が理解できる順序に並べ替えます。
出典:京都大学 研究成果発表『虎の巻』―プレスリリース編― ver.5.0(PDF)
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