脳と認知の科学

サンクコスト効果とは?「ここまでやったから」でやめられない科学と、効果量0.496の中身

経営会議で、こんな一言を聞いたことはないでしょうか。「ここまで3000万円かけたのだから、もう少し続けよう」。この一言の裏には、経済学が長年指摘してきた判断の癖があるとされてきました。すでに払ったお金や時間は、本来これからの意思決定に関係しないはずです。ところが人は、その「もったいなさ」に引きずられて、撤退すべき計画を続けてしまいます。

これは「サンクコスト効果(sunk cost effect)」と呼ばれる現象です。超音速旅客機の開発中止にちなみ「コンコルド効果(Concorde fallacy)」とも呼ばれます。45件の研究をまとめたメタ分析でも、中程度の効果が確認されています。ただし近年、様子が変わってきました。実験室の外では効果が驚くほど弱いという報告が増えています。ネズミやマウスで確認されたはずの結果も「統計的な錯覚では」と指摘されています。本記事では、事業の継続や撤退を日々判断する経営者、事業責任者に向けて、サンクコスト効果の実態を一次研究から読み解きます。

サンクコスト効果とは何か

サンクコスト効果とは、すでに支払って回収できない費用(サンクコスト)が、これからの判断に影響してしまう現象です。経済学の教科書的な立場では、合理的な意思決定は「これから発生する費用と便益」だけで決まるはずとされてきました。過去に払った金額は、本来は判断材料にならないという考え方です。

図1|経済学の理論と、実際の判断のズレ 合理的な意思決定 ・未来の費用だけを見る ・未来の便益だけを見る ・すでに使った額は無視 実際に起きる判断 ・すでに払った額が気になる ・「ここまでやったから」と感じる ・撤退の判断が遅れる ≠
図1:経済学の理論では無視されるはずの「もう払った金額」が、実際の判断には影響します。

最初の実証実験(Arkes & Blumer, 1985)

この効果を心理学の実験で最初に体系的に示したのが、オハイオ大学のハル・アークス氏とキャサリン・ブルーマー氏です。1985年に発表した論文で、複数の実験を報告しています(学術誌の詳細は出典を参照)。

代表的なのが「スキー旅行実験」です。参加者は、2つのスキー旅行のチケットを持っている場面を想像します。100ドルを払ったミシガン州行きと、50ドルを払ったウィスコンシン州行きです。日程が重なっており、どちらか一方にしか行けません。ウィスコンシン旅行の方が「より楽しめそうだ」という設定でした。それでも、より安いウィスコンシン旅行を選んだのは全体の46%にとどまりました。半数以上が、より高い金額を払った旅行を選んだのです。

アークスらは他の実験も報告しています。すでに投資した金額が大きいほど、事業継続への評価が甘くなる実験です。また、シーズンチケットの価格が高いほど、観劇に足を運ぶ回数が増える実地調査もあります。サンクコスト効果は、実験室内だけの作り話ではありません。現実の消費行動にも表れることを、これらの調査は示しました。

なぜ人は「もったいない」で動くのか

サンクコスト効果の背景には、単純な計算違いではない、いくつかの心理メカニズムが重なっていると考えられています。ひとつは自己正当化です。途中でやめることを「これまでの判断が間違っていた」と認めることと、同一視してしまう心理です。これは認知的不協和の研究とも重なる領域です。行動と自己イメージの矛盾を避けようとする働きが、撤退の先延ばしにつながります。

もうひとつは損失回避の傾向です。人は損失をことさら重く感じます。投資を打ち切ることは、その時点で損失を「確定」させる行為でもあります。まだ続けていれば取り返せるかもしれない、という期待が、撤退の判断を遠ざけます。

どのくらい強い効果なのか——45研究のメタ分析

ドイツの研究者シュテファン・ロート氏らは2015年、金銭的サンクコストの影響を検証したメタ分析を発表しました。45研究・100の効果量を統合した分析です。結果は、全体の効果量(ES)が0.496でした。

効果量とは、ある要因が結果にどれだけ強い影響を与えるかを示す統計指標です。目安として、心理学者コーエンの基準があります。0.2前後を小さな効果、0.5前後を中程度の効果、0.8前後を大きな効果と呼びます。0.496という数字は、ちょうど中程度の効果に近い水準です。

図2|サンクコスト効果の強さ(45研究のメタ分析) 全体 0.496 利用決定 0.581 進展決定 0.443 効果量(ES)は0.2で小、0.5で中、0.8で大の目安とされます(Cohen, 1988)。 出典:Roth, Robbert & Straus (2015)、45研究・100効果量のメタ分析。
図2:効果量0.496は「中程度」の目安に相当します。「使う場面」の判断(利用決定)の方が「進める場面」の判断(進展決定)より効果が強く出ました。

意思決定の種類によって、効果量は異なります。すでに買った商品やサービスを「使うかどうか」決める場面を、利用決定と呼びます。この効果量は0.581でした。事業やプロジェクトを「このまま進めるか」決める場面を、進展決定と呼びます。この効果量は0.443でした。個人の消費行動よりも、組織の事業継続判断の方が、サンクコストの影響をやや受けにくいという結果です。

効果が弱まる条件、弱まらない条件

同じメタ分析では、効果の強さを左右する要因(モデレーター)も検証されています。年齢が高いほど効果は弱まりました。商品を使うまでの時間が長いほども、効果は弱まりました。一方で、経済学の知識があっても、効果はほとんど変わりませんでした。

図3|効果を弱める要因、弱めない要因 効果が弱まる要因 ・年齢が高いほど陥りにくい ・利用決定は時間経過で弱まる 効果が弱まらない要因 ・経済知識があっても変わらない ・進展決定は時間経過で強まる
図3:高齢であるほど、また「使う」場面では時間が経つほど効果は弱まりました。一方で経済学の知識は効果を変えず、「進める」場面では時間とともにむしろ強まりました。

特に注目したいのが、経済学の知識が効果を弱めなかった点です。「サンクコストを無視すべきだ」という理屈を知っていても、実際の判断ではその通りに動けません。これは確証バイアスと似た構造です。知識よりも、意思決定の仕組みそのものに介入する対策が必要になる領域だといえます。

反対の傾向も見つかりました。事業やプロジェクトを「進める」判断(進展決定)です。時間が経つほど、効果がむしろ強まる傾向が見られました。投資が長引くほど、途中でやめる決断は難しくなっていきます。

ネズミも「もったいない」を感じるのか

2018年の研究では、ネズミ・マウス・人間の3種でサンクコストへの感受性が確認されました。ところが2022年の研究は、その解釈に統計的な疑問を投げかけています。この対立は、サンクコスト効果を理解するうえで重要な論点です。

ミネソタ大学のブライアン・スワイス氏らは2018年、学術誌Scienceに研究を発表しました。ネズミ・マウス・人間に、報酬を得るまでの待ち時間が変動するタスクに取り組んでもらう実験です。すでに長く待った個体ほど、そのまま待ち続ける傾向が3種に共通して見られました。著者らは「サンクコストへの感受性は種を超えて存在する」と結論づけました。

ところがワシントン大学のトーベン・オット氏らは2022年、学術誌Science Advancesに論文を発表しました。この論文は、結果に別の説明を示しています。動機づけの強さは日によって変動します。たまたまその日の動機づけが高かった個体ほど、長く待つ傾向があります。結果として「長く待った個体ほど待ち続ける」という見かけ上のパターンが生まれる、というのです。オット氏らはこれを、コーヒー店の行列に例えて説明しています。やる気のある日に並んだ人ほど、長い行列でも並び続けます。これは非合理な執着ではなく、単に動機づけの水準を反映しているにすぎません。計算モデルでも、サンクコストを考慮する仕組みを組み込まずに、同様の行動パターンを再現できることを示しました。

この論争に決着はついていません。動物実験の結果は「本物のサンクコスト効果」なのでしょうか。それとも「見かけ上の統計的アーティファクト」なのでしょうか。現在も検証が続いている段階です。ただしこの議論自体が、サンクコスト効果という現象を安易に「非合理な錯誤」と決めつける危うさを教えてくれます。

金額より時間の方が効くこともある

サンクコスト効果の古典的な知見のひとつに、こんなものがあります。「金銭のサンクコストの方が、時間のサンクコストより強く効く」。トロント大学のディリップ・ソーマン氏が2001年に示した知見です。

この知見を2023年、心理学者ヒラド・フェルドマン氏らのチームが821人を対象に追試しました。結果は一様ではありませんでした。1つ目の実験では、原研究と同様に金銭条件で強い効果が確認されました。ところが2つ目の実験では、時間条件でも金銭条件と同程度の効果が見られました。「金銭の方が強い」という当初の主張は、部分的にしか支持されなかったのです。さらに、経済学的な考え方を教える教育的介入を行った実験もあります。この実験では、効果を弱める働きは確認されませんでした。これは、先述のロート氏らのメタ分析の知見とも一致します。経済知識は効果を変えない、という知見です。

フィールド実験では「捉えにくい」——2026年最新研究

実験室で確認される中程度の効果は、現実の行動データでは検出しにくいことが分かってきました。2026年発表の研究による知見です。

経済学者ゲオルグ・ベクナザル・ユズバシェフ氏らのチームは、2つの実験を組み合わせた研究を発表しました。ひとつはオンライン実験です。1,806人の参加者に、0.5ドル・1.5ドル・2.5ドルのいずれかの価格で、タスクへの参加チケットを割り当てました。価格が高いグループほど、平均で1.3分長くタスクに取り組みました。効果量にして0.12標準偏差、統計的に有意な差です。

図4|実験室でみつかる効果、フィールドで消える効果 オンライン実験(n=1,806) ・チケット価格で3群比較 ・高価格ほどプレイ時間が長い ・効果量にして0.12SD フィールド実験(動画1.1万本) ・広告スキップ時間を操作 ・視聴時間への有意差は非検出 ・離脱率だけ28%増加
図4:チケット価格を操作した統制実験では中程度の効果が見られましたが、実際のYouTube視聴という自然な場面では、視聴時間そのものへの効果は確認されませんでした。

もうひとつは、YouTube上の1万1328本の動画を対象にしたフィールド実験です。広告をスキップできるようになるまでの時間を、0秒・5秒・10秒に設定して比較しました。視聴時間そのものには、有意な効果が見られませんでした。ただし、スキップまでの時間が長い条件では違いがありました。広告の途中で離脱する視聴者が、相対的に28%増加していたのです。著者らは「サンクコスト効果は、一般に語られているほど実験的に捉えやすいものではない」と結論づけています。

それでも「やめられない」を防ぐ方法

有効な手立てがひとつあります。投資判断のプロセスに「事前の説明責任」を組み込むことです。

組織心理学者クラウス・モーザー氏らは、こんな実験を行いました。大学生76人に、研修生の処遇を8段階にわたって決定する、経営シミュレーションに取り組んでもらったのです。単に選択肢を与えられた群では、継続段階の平均が5.12でした。判断の理由を事前に説明する義務を課した「プロセス・アカウンタビリティ」群では、4.73にとどまりました。特に判断の後半になるほど、この抑制効果は強まりました。

単に「結果」の説明責任を課すだけでは不十分です。結果責任だけを意識させると、かえって自己正当化が強まります。現状維持バイアスと同じように、これまでの判断を守ろうとする力が働きやすくなるのです。効果があったのは、判断の「プロセス」そのものを事前に説明する義務でした。

図5|「やめられない」を防ぐ4ステップ 1 判断基準を先に決める 「続ける/やめる」の基準を、投資前に数値で決めておく 2 判断の根拠を記録する なぜその選択をするのか、理由を書面に残す 3 第三者に説明する場を作る 投資判断のプロセスを、利害関係のない人に説明する 4 定期的に「ゼロから」問い直す 今の情報だけで、もう一度ゼロから判断し直す
図5:投資判断の基準を先に決め、理由を記録し、第三者に説明し、定期的に問い直す。この4段階が「やめられない」状態を防ぐ手がかりになります。

スタートアップの資金調達でも、この構造は同じです。ピッチデックとベンチャーキャピタリストの心理を扱った別の記事でも触れました。投資家自身も、損失回避や意思決定疲労の影響を受けます。撤退判断に苦しむのは事業側だけではありません。投資判断を下す側にも、共通する構造だといえます。

明日から使える3つのアクション

ここまでの知見を、明日からの会議で使える形に落とし込みます。

  • 撤退基準は「金額」ではなく「今後の見込み」で書く。投資済みの金額を基準から外し、これから得られる成果の見込みだけで継続可否を判断する項目をあらかじめ用意しておきます。
  • 「もし今日ゼロから始めるなら、この案に投資するか」を問う。すでに投資した事実を一旦脇に置き、今の情報だけで意思決定をやり直す質問を会議の定型項目にします。
  • 継続を主張する人に、理由の事前説明を求める。「なぜ続けるべきか」を、結果ではなくプロセスとして説明してもらうことで、自己正当化に偏った判断を抑えられます。

よくある質問

サンクコスト効果とコンコルド効果は同じものですか?

基本的に同じ現象を指します。コンコルド効果は、超音速旅客機コンコルドの事例にちなんだ呼び方です。開発費用がかさみ、採算が見込めなくなった後も開発が続けられた事例です。心理学の学術用語としては、サンクコスト効果の方が一般的に使われます。

サンクコストを考慮すること自体は、常に非合理なのでしょうか?

必ずしもそうとは言い切れません。オット氏らの研究が示すように、過去の投資が「その選択肢に関する追加情報」を含む場合があります。その場合、投資額を考慮すること自体は合理的な推論になり得ます。問題は、追加情報がない場面でも、金額の大きさだけで判断が引きずられてしまう点にあります。

経営者が経済学を勉強すれば、この効果は防げますか?

メタ分析の結果では、経済学の知識の有無は効果の強さを変えませんでした。知識だけに頼るより、判断の手順そのものに事前の説明責任を組み込む方法の方が、実証的な裏づけがあります。

個人の消費と組織の事業判断では、効果の強さは違いますか?

違いがあります。個人が商品を使うかどうかを決める場面(利用決定)の効果量は0.581でした。組織が事業を進めるかどうかを決める場面(進展決定)の効果量は0.443でした。いずれも中程度の効果があり、組織の判断も影響を受けないわけではありません。

フィールド実験で効果が消えたのなら、対策は不要ですか?

そうは言えません。フィールド実験で有意差が出にくかったのは、視聴時間という指標に限った話です。離脱率には、はっきりとした差が見られました。効果の現れ方は指標や場面によって変わります。組織の重要な投資判断では、少なくとも対策を講じておく価値があります。

まとめ

サンクコスト効果は、すでに払った費用が「続ける・やめる」の判断を歪める現象です。45研究のメタ分析でも、中程度の効果量(0.496)が確認されています。ただし、効果の強さは年齢や時間経過によって変わります。動物実験の解釈をめぐっては、現在も論争が続いています。実際の行動データでは検出しにくい、という最新の知見もあります。「サンクコスト効果は必ず起きる」と決めつけるのは早計です。次の一歩として実証的な裏づけがあるのは、投資判断の手順に事前の説明責任を組み込むことです。

出典

  • Arkes, H. R., & Blumer, C. (1985). The psychology of sunk cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124-140. 論文情報(IDEAS/RePEc)
  • Roth, S., Robbert, T., & Straus, L. (2015). On the sunk-cost effect in economic decision-making: a meta-analytic review. Business Research, 8(1), 99-138. 論文へのリンク(Springer)
  • Sweis, B. M., Abram, S. V., Schmidt, B. J., Seeland, K. D., MacDonald, A. W., Thomas, M. J., & Redish, A. D. (2018). Sensitivity to “sunk costs” in mice, rats, and humans. Science, 361(6398), 178-181. 論文へのリンク(Science)
  • Ott, T., Masset, P., Gouvêa, T. S., & Kepecs, A. (2022). Apparent sunk cost effect in rational agents. Science Advances, 8(7). 元はbioRxivのプレプリント(査読前)として公開。プレプリント版へのリンク(bioRxiv)
  • Feldman, G., et al. (2023). Sunk Cost Effects for Time Versus Money: Replication and Extensions Registered Report of Soman (2001). International Review of Social Psychology. 論文へのリンク(IRSP)
  • Beknazar-Yuzbashev, G., Ichiba, S., & Stalinski, M. (2026). Sunk cost effects: Evidence from online and field experiments. Journal of Economic Behavior & Organization, 241. 論文へのリンク(ScienceDirect)
  • Moser, K., Wolff, H.-G., & Soucek, R. The de-escalation of commitment: Predecisional accountability and cognitive processes. Journal of Personnel Psychology(掲載確定稿). 論文PDF

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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