聞き手の心理・行動

認知的不協和とは?「行動が態度をつくる」の定説を、39研究室4,898人の追試はどこまで支持したのか

気が進まないまま引き受けた役割なのに、半年後にはいちばん熱心に語っている。逆に、好条件で誘われた仕事は、最後まで気持ちが乗らなかった。心当たりのある方は少なくないはずです。

この逆転は、長いあいだひとつの理論で説明されてきました。認知的不協和(cognitive dissonance)です。報酬や強制が小さいときほど、人は「自分がやりたかったからだ」と考えのほうを行動に寄せていく。そう語られてきました。

ところが2024年、19か国39の研究室が約4,900人を集めて追試したところ、この理論の看板実験は、肝心な部分が再現しませんでした。何が残り、何が揺らいだのか。そして、提案や依頼の現場で今も使えるのはどこまでか。順に整理します。

認知的不協和とは?

認知的不協和とは、自分の考えと自分の行動が食い違ったときに生まれる不快感のことです。人はその不快感を減らそうとして、多くの場合、変えやすいほうである「考え」を行動に寄せていきます。

提唱したのは、米国の社会心理学者レオン・フェスティンガー(Leon Festinger)です。1957年の著書『A Theory of Cognitive Dissonance』で理論としてまとめました。

ここで大事なのは順番です。ふつう私たちは、考えが変わるから行動が変わると思っています。この理論はその逆を言います。先に行動が起き、あとから考えがついてくる場面がある、という主張です。

ただし、不快感の減らし方はひとつではありません。図1に整理しました。

図1|認知的不協和が生まれ、解消されるまで 考え 本当は乗り気ではない 食い違い 行動 会議で「やります」と言った 不快感が生まれる =認知的不協和 考えを行動に寄せる(態度が変わる) 行動をやめる・撤回する 「頼まれたから」と理由を足す 「たいした話ではない」と切り下げる 4つのうちどれが起きるかは状況しだいです。態度が変わるとはかぎりません。
図1:態度変化(いちばん上)は、不快感の解消手段のひとつにすぎません。

説得の実務で語られてきたのは、いちばん上のルートだけです。しかし人は、行動を撤回することもできますし、話の重要性そのものを下げてしまうこともできます。ここが後半の伏線になります。

なぜ「1ドルの人」ほど楽しかったと答えたのか

報酬が小さい人ほど、あとで「面白かった」と答えました。報酬という言い訳が足りないぶん、考えのほうを書き換えるしかなかったからだと説明されています。

これがフェスティンガーとカールスミス(Festinger & Carlsmith, 1959)の実験です。スタンフォード大学の男子学生71名が参加しました。

学生はまず、1時間かけて退屈な作業をさせられます。糸巻きをトレイに並べて空にする。48本のペグを4分の1回転ずつ回す。それだけです。

そのあと実験者が「担当者が来られなくなった」と切り出し、次の参加者に「面白かった」と伝えてほしいと頼みます。謝礼は1ドルの群と20ドルの群に分かれていました。統制群は、何も頼まれませんでした。

最後に別室の面接者が、作業の面白さを−5から+5で聞きます。結果は図2のとおりです。

図2|報酬が小さい群だけ、評価が反転した 作業のおもしろさ(−5〜+5)の平均評定・各群20名 +2 +1 0 −1 −0.45 +1.35 −0.05 統制群 何も頼まれていない 1ドル群 1ドルで「面白い」と伝えた 20ドル群 20ドルで「面白い」と伝えた 統制群との差が統計的に確かめられたのは1ドル群だけ(t=2.48、p=.02)。20ドル群との差はt=2.22、p=.03。
図2:謝礼が20倍になると、態度変化はほぼ消えました。Festinger & Carlsmith(1959)の数値をもとに作成。

p値(p-value)は「偶然でこれだけの差が出る確率」の目安です。.05より小さければ、慣例上は偶然では説明しにくいと扱われます。

報酬を厚くするほど、相手の気持ちは動かなくなる。この逆説が、半世紀以上にわたって教科書に載り続けてきました。

ただし、原典の数字を見るときは慎重さも要ります。参加者は男子学生だけです。71名のうち11名は、疑いを持った・報酬を受け取らなかったなどの理由で分析から外されています。残ったのは各群20名でした。今日の基準では、かなり小さな研究です。

2024年の大規模追試は、何を再現しなかったのか

再現しなかったのは「選ぶ自由があったかどうか」の効果です。逆に、自分の考えと違う文章を書くこと自体が態度を動かす、という部分は観察されました。

ヴェディス(David C. Vaidis)とスレーヘルス(Willem W. A. Sleegers)を中心とする国際チームは、2024年に大規模な追試の結果を発表しました。19か国39の研究室、参加者は約4,898名です。

これは登録済み追試報告(Registered Replication Report)と呼ばれる形式でした。分析の手順を実験前に公開してから測る、事前登録(preregistration)という手続きを踏んでいます。都合のよい結果だけを後から選ぶ余地を、あらかじめ減らす狙いがあります。

手続きはこうです。学生に、学費値上げに賛成する小論文を書いてもらいます。多くの学生は値上げに反対ですから、自分の考えと逆の文章を書くことになります。片方の群は「書いてください」と指示され、もう片方は「書くかどうか選べます」と伝えられました。

図3|追試で残ったもの、消えたもの 再現した部分 ・自分の考えと逆の文章を書いた人は、  書かなかった人より態度が動いた ・「行動が先、考えは後」という  中心的な考え方は支持された → 理論の骨格は残った 再現しなかった部分 ・「自分で選んだ」人と  「指示された」人のあいだに、  態度変化の差は出なかった ・選択の自由こそが鍵、という前提 → 定番の手続きが揺らいだ Vaidis et al.(2024)。19か国39研究室、参加者約4,898名の登録済み追試報告。 追試の対象はCroyle & Cooper(1983)の実験1。
図3:否定されたのは理論全体ではなく、「選択の自由」を操作する定番の実験手続きのほうです。

チームの結論は控えめでした。誘導された応諾を使う手続き(induced-compliance paradigm)が、認知的不協和の頑健な証拠を与えているかどうかは疑わしい。そう述べています。理論そのものを否定したわけではありません。

「低選択条件が、低選択になっていなかった」という反論

この追試には、正面からの反論が出ています。指示された群の学生も、実際にはかなり自由を感じていた、という指摘です。

反論したのは、不協和研究を長く続けてきたエディ・ハーモン=ジョーンズ(Eddie Harmon-Jones)とシンディ・ハーモン=ジョーンズ(Cindy Harmon-Jones)です。2024年、同じ学術誌にコメンタリーを発表しました。

根拠は、参加者自身が答えた「どのくらい自由だと感じたか」の数値です。0を自由なし、100を最大の自由として並べ直すと、次のようになります。

研究 指示された群 選べた群
Croyle & Cooper(1983)実験1
※追試の元になった研究
31.93
Vaidis et al.(2024)追試 49.33 72.22
C. Harmon-Jones et al.(2011) 17.86 35.71

この表の数値は、いずれも「参加者が感じた自由の度合い」を0〜100に換算したものです。値が大きいほど、自由に選べたと感じています。

注目すべきは3行目です。過去の研究では、「選べた群」の数値(35.71)が、追試の「指示された群」の数値(49.33)より低いのです。つまり追試の「指示された群」は、比較の基準としては自由すぎたことになります。

ハーモン=ジョーンズ夫妻は、原因のひとつとして現代の同意書を挙げています。参加は任意でいつでも中止できる、と長く書かれた同意書を読んだ直後では、指示されても自由を感じてしまうのではないか、という見立てです。

ほかにも、書かせた文章が長すぎた、追試の対象に選んだ研究がそもそも安定していなかった(同じ論文の実験2は予測どおりにならなかった)、といった指摘が並びます。

もっとも、この夫妻は不協和理論の当事者です。反論の内容も、いまのところ検証されていない推測を含みます。決着はついていません。

再現性の議論で結論が急ぐと、たいてい話がおかしくなります。ピグマリオン効果のように、60年かけて「効く条件」が絞り込まれた例もあります。認知的不協和も、いまその途中にあると見るのが妥当でしょう。

そもそも不快感は要らない、という対立説明

不協和という不快感を持ち出さなくても、同じ結果は説明できる。そう主張したのがダリル・ベム(Daryl Bem)の自己知覚理論(self-perception theory)です。

ベムの説明はこうです。人は自分の気持ちを、外から自分の行動を眺めて推測している。1ドルで褒めたのなら、報酬のせいとは思えない。だから「自分は本当に面白いと思っていたらしい」と推し量る。不快感は要らない、という立場です。

1967年の論文以来、どちらの説明が正しいかの論争は続いています。決着していない、というのが正確なところです。

実務の側から見ると、この対立はむしろ好都合です。不快感を経由しようがしまいが、「自分の口から言った」という事実が態度を引っぱるという点では、両説は一致しています。使えるのはこの共通部分です。

実務で効果が確かめられているのは「偽善誘導」のほう

不協和研究のなかで、行動変容の証拠が比較的そろっているのは偽善誘導(induced hypocrisy)という手続きです。相手を責めるのではなく、相手自身に基準とのズレを語ってもらう2段構えの方法です。

図4|偽善誘導は「語らせて、思い出してもらう」2段構え STEP 1 基準を語ってもらう 「なぜ大事だと思うか」を 相手自身の言葉で STEP 2 ズレを挙げてもらう できていなかった場面を 具体的に思い出してもらう 結果 行動が変わりやすい 意図だけでなく、実際の 行動でも差が報告される ・STEP 1の語らせ方が弱いと、効果は弱いか統計的に確かめられない水準まで下がる(Mauduy et al., 2024)。 ・38件の研究をまとめたメタ分析では、意図と行動の両方で効果が確認されている(Priolo et al., 2019)。 ・相手を追い詰める使い方は逆効果になりえます。断る自由を残すことが前提です。
図4:効き目を左右するのはSTEP 1です。基準を語ってもらう工程を省くと、効果は大きく落ちます。

プリオロら(Priolo et al., 2019)は、公刊された29件と未公刊の9件、あわせて38件の研究をまとめました。メタ分析(複数の研究結果を統計的に統合し、全体としての効果の大きさを見積もる手法)です。偽善誘導は、何もしない条件と比べて、行動の意図と実際の行動の両方を高めていました。

その後モデュら(Mauduy et al., 2024)が、STEP 1の重み付けを調べています。基準を強く語らせた16件と、弱くしか語らせなかった19件を比較しました。強い群では中程度の効果、弱い群では効果は弱いか、統計的に確かめられない水準でした。

健康行動を対象にしたフレイジーとコーテ(Freijy & Kothe, 2013)の系統的レビューでも、不協和を使った介入のなかで最も広く効果が確認されたのが、この偽善誘導の形でした。

つまり、実務で頼りにできるのは「報酬を減らす」ではありません。相手が自分の口で基準を語り、そのあとに自分でズレに気づく。この順番が行動を動かします。

明日から使える3つの設計

ここまでを踏まえると、提案や依頼の設計で押さえる点は3つに絞れます。図5に対比でまとめました。

図5|「動いてもらう」依頼の設計テンプレート よくある形 設計した形 ① 依頼の出し方 「これ、やっておいてください」 選択肢がなく、指示だけが残る 「A案とB案、どちらで進めますか」 本人が選んだ、という事実を残す ② 理由を語るのは誰か こちらが必要性を説明しきる 相手の口からは何も出ていない 「なぜ大事だと思いますか」と聞く 相手が自分の言葉で基準を語る ③ 断る自由 断りにくい空気のまま進める 「断ってもらってかまいません」と言う
図5:形だけの選択肢は逆効果になります。③を本当に残せるかが分かれ目です。

① 選択肢を出す。ただし本当に断れる形で

追試が示したのは、「選ばせれば態度が変わる」とは言い切れない、という点でした。それでも選択肢を出す意味は残ります。選択肢がないと、人は逆に反発するからです。

自由が奪われたと感じた瞬間に反発が生まれる仕組みは、心理的リアクタンスとして整理されています。「断ってもらってかまいません」と添えるだけで承諾率が上がる、という一連の研究もあります。

② 理由は、相手の口から出してもらう

偽善誘導の要は、こちらが説得することではありません。相手が基準を語る工程です。

会議なら「この取り組みが大事だとしたら、その理由は何だと思いますか」と先に聞きます。そのあとで現状の数字を並べます。順番を逆にすると、ただの指摘になります。

ここで前提になるのが、率直に語れる場かどうかです。建前しか出てこない場では、この設計は空回りします。心理的安全性が先に要るのは、そのためです。

③ ズレは指摘せず、気づいてもらう

「できていませんよね」と言った瞬間、相手には別の逃げ道が生まれます。図1でいえば、行動を撤回するか、話の重要性を切り下げるルートです。

ズレは、相手自身に挙げてもらいます。「うまくいかなかった場面を、ひとつ挙げるとしたら」と聞く形です。提案の場面で同じ構造を使う型としては、TAPS法が整理しやすいでしょう。

よくある質問

認知的不協和の理論は、否定されたのですか?

否定されていません。2024年の追試で再現しなかったのは「選択の自由を操作する」実験手続きの部分です。自分の考えと逆のことを言った人の態度が動く、という中心的な現象そのものは、同じ追試でも観察されています。

報酬を減らせば、やる気が上がるということですか?

そうは言えません。1959年の実験は、すでに引き受けた行動のあとの「評価」を測ったものです。報酬を下げれば人が動く、という話ではありません。実務でこの実験を根拠に報酬設計を変えるのは、根拠の使いすぎです。

偽善誘導は、相手を責める手法ではないのですか?

責める形で使うと逆効果になりやすい手法です。効果が確認されているのは、本人が基準を語り、本人がズレを挙げる形です。第三者が指摘した瞬間に、相手は反発するか、話の重要性を切り下げます。

日本の組織でも同じように働きますか?

断定できるだけの日本語圏の検証はまだ多くありません。2024年の追試には19か国が参加していますが、国ごとの差は主要な分析対象ではありませんでした。ここは「検証が続いている」と見ておくのが正確です。

まとめ

この記事の要点は3つです。

  • 認知的不協和の中心的な現象、つまり「口に出したことに考えが引っぱられる」は、2024年の大規模追試でも観察されました。
  • 一方で「選ばせたほうが態度が変わる」という定番の手続きは再現せず、その解釈をめぐる論争が続いています。
  • 実務で効果が確かめられているのは、相手に基準を語ってもらい、本人にズレを挙げてもらう形です。

次の一歩として、直近の会議をひとつ思い浮かべてください。あなたが理由を説明した時間と、相手が理由を語った時間の比率はどうだったでしょうか。前者が9割を超えていたなら、そこが最初に変えられる一点です。

出典

  • Festinger, L., & Carlsmith, J. M. (1959). Cognitive consequences of forced compliance. Journal of Abnormal and Social Psychology, 58(2), 203–210. 全文(Classics in the History of Psychology)
  • Festinger, L. (1957). A theory of cognitive dissonance. Row, Peterson.(書籍・オンライン全文は未確認)
  • Vaidis, D. C., Sleegers, W. W. A., van Leeuwen, F., et al. (2024). A multilab replication of the induced-compliance paradigm of cognitive dissonance. Advances in Methods and Practices in Psychological Science, 7(1). doi:10.1177/25152459231213375
  • Harmon-Jones, E., & Harmon-Jones, C. (2024). Dissonance in the induced-compliance paradigm: A commentary on Vaidis et al. (2024). Advances in Methods and Practices in Psychological Science, 7(4). doi:10.1177/25152459241268308
  • Croyle, R. T., & Cooper, J. (1983). Dissonance arousal: Physiological evidence. Journal of Personality and Social Psychology, 45(4), 782–791. doi:10.1037/0022-3514.45.4.782
  • Bem, D. J. (1967). Self-perception: An alternative interpretation of cognitive dissonance phenomena. Psychological Review, 74(3), 183–200. doi:10.1037/h0024835
  • Priolo, D., Pelt, A., St. Bauzel, R., Rubens, L., Voisin, D., & Fointiat, V. (2019). Three decades of research on induced hypocrisy: A meta-analysis. Personality and Social Psychology Bulletin, 45(12), 1681–1701. doi:10.1177/0146167219841621
  • Mauduy, M., Priolo, D., Margas, N., & Sénémeaud, C. (2024). Does the first step of the induced-hypocrisy paradigm really matter? An initial investigation using a meta-analytic approach. Social Psychological and Personality Science, 15(5), 529–539. doi:10.1177/19485506231188164
  • Freijy, T., & Kothe, E. J. (2013). Dissonance-based interventions for health behaviour change: A systematic review. British Journal of Health Psychology, 18(2), 310–337. doi:10.1111/bjhp.12035
  • Association for Psychological Science (2024). Multilab replication challenges long-held theories on cognitive dissonance. Observer. 記事ページ

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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