経営会議に出すグラフを整えるとき、「余計な飾りは全て消すべきだ」と考える人がいます。立体感をなくし、色を減らし、背景の絵を外す。数値を正確に読ませるなら、これはよい出発点です。
一方で、広報資料や講演スライドでは「簡素にしたら、どのグラフも同じに見える」「正しいが、翌日には忘れられる」という悩みもあります。では、装飾は理解を邪魔するだけなのでしょうか。
研究から見える答えは、単純な「全部削る」でも「目立てばよい」でもありません。装飾は記憶を助けることがある一方、探す速さを落とし、数値を表す形まで変えると読み取り精度を下げます。大切なのは、装飾の量ではなく、何のために置き、どの働きを壊していないかです。
この記事では、一般に「チャートジャンク」と呼ばれる図表の装飾を、記憶、理解、探索、数値の正確さという四つの観点から整理します。その上で、伸滋Designの「伝わる設計マップ」にある視覚化・構造化(引き算のデザイン)を使い、残す装飾と削る装飾を判断します。
結論:装飾は「情報の役割」で選ぶ
最初に結論を示します。装飾を残してよいのは、少なくとも次の三つを満たすときです。
- 数値を表す形、長さ、面積、基準線を歪めない
- 図表で伝えたい主張や文脈と結びついている
- 比較、探索、読み取りを遅らせない
例えば、売上の伸びを示す折れ線の近くに商品を連想させる小さな絵を一つ置くことは、文脈を思い出す手がかりになりえます。しかし、棒グラフを商品ボトルの形に変え、上へ行くほど幅も広がるようにすると、長さと面積が混ざり、差を誤って読みやすくなります。
「絵があるか」だけで判断してはいけません。絵がデータの読み方を変えるのか、それとも意味を思い出す手がかりとして周辺にあるのかを分けます。

チャートジャンクとは何か
チャートジャンクは、図表の理解に必須ではない装飾や視覚要素を指す言葉です。立体表現、過剰な目盛線、背景模様、絵文字、イラスト、不要な色などが例に挙げられます。データを示す部分に対して飾りが多いほど、情報より見た目が前に出ます。
ただし、何が「不要」かは目的で変わります。分析画面で数値を素早く比較することと、講演で一つの変化を覚えてもらうことは同じ仕事ではありません。精密な比較には簡素さが役立ちますが、記憶には特徴のある形や意味の手がかりが役立つことがあります。
したがって、議論すべきなのは「装飾があるかないか」ではありません。図表を見た人に、正確に比べてほしいのか、主張を覚えてほしいのか、異常を見つけてほしいのか。まず作業を決め、その作業を助ける要素だけを残します。
装飾されたグラフは、長く記憶に残った
Batemanらは2010年、装飾されたグラフと、それを簡素に作り直したグラフを比べました。参加者は図表の内容を読み取り、直後と2〜3週間後に記憶を確かめられました。装飾されたグラフは、簡素なグラフより記述の正確さが悪くならず、時間がたった後の図表と話題の記憶は良好でした。
この結果は、「装飾を足せば必ず理解が深まる」という証明ではありません。使われた図表は少数で、装飾と題材が強く結びついた特定の作例です。それでも、装飾は常に理解を妨げるという前提に、実験的な問いを投げかけました。
Borgoらは2012年、会議や講義のように注意が分かれる状況を想定し、図表を見る作業と別の作業を同時に行わせました。視覚的な装飾は、示された情報の記憶を助ける一方、目当ての情報を探す速さには悪影響を与えました。つまり、思い出しやすさと、探しやすさは別の評価軸です。
経営ダッシュボードでは、毎日すばやく異常値を探す必要があります。この場合、探索を遅らせる装飾は不利です。一方、講演で一つの傾向を翌日も思い出してほしいなら、主張と結びついた視覚的手がかりが役立つ可能性があります。
「覚えている」と「内容を理解した」は同じではない
Borkinらは2013年、報道、政府資料、科学論文、インフォグラフィックなどから集めた2,070点の図表を使い、261人を対象に大規模な記憶実験を行いました。人物や身近な物体が含まれる図表、色や要素が多い図表、一般的ではない図表は、見たことがあると判断されやすい傾向がありました。
ただし、この研究が主に測ったのは、図表を画像として再認できるかです。数値、因果関係、結論を正しく説明できるかを直接測ったわけではありません。目立つ背景の絵だけを覚え、データの結論を忘れていても「見たことがある」と答えられます。
2016年の続く研究では、393点の図表を対象に、33人の視線と、参加者が書いた多数の説明文を分析しました。タイトルと説明文が主張を伝えること、適切に使われた絵記号は理解を妨げず再認を助けうること、主張を複数の手がかりで示すことが有効だと報告されています。
ここで重要なのは、印象的な絵を置くだけでは足りないことです。タイトルが「2026年度 売上推移」のような名前だけなら、覚えるべき結論がありません。「新規客の増加で、下期売上が回復」のように、図から読み取る主張を言葉にします。絵、見出し、注釈が同じ結論を支えるとき、記憶と理解が結びつきやすくなります。
図表の形式と比較精度の関係は、円グラフはなぜ比較しにくいのか? 「グラフィカル・パーセプション」で選ぶ伝わるグラフで詳しく解説しています。図表を覚えてもらう工夫より先に、比較課題に合う形式を選ぶことが必要です。
数値を表す形を変えると、正確さが落ちる
装飾が危険になるのは、データを表す形そのものを変えるときです。Skau、Harrison、Kosaraは2015年、棒の先端を丸くする、三角形にする、飾りの帽子を付ける、面積が二方向へ広がる形にするなど、棒グラフの装飾を比べました。
多くの装飾は、棒どうしの比率を判断する課題で、通常の棒グラフより誤差を増やしました。特に、値が大きくなると高さだけでなく幅も広がる三角形は、面積の増え方が数値より大きくなります。見た目の迫力が、値の差を誇張します。
2017年のSkauとKosaraの研究では、棒の形に絵柄、色、質感を加えた図表が調べられました。絵柄のある棒は精度を下げましたが、その悪化は主に棒の形に由来し、内部の絵柄だけでさらに大きく悪化したわけではありませんでした。つまり「絵だから悪い」のではなく、数値の基準となる輪郭が変わることが問題です。
棒グラフは、共通の基準線から伸びる長さを比べる道具です。先端を斜めにしたり、立体の奥行きを加えたり、幅も同時に変えたりすると、どこを値として読めばよいかが曖昧になります。装飾を使うなら、棒の外側、見出し、余白など、数値の輪郭を壊さない場所へ置きます。
後の研究は「装飾なら何でもよい」を否定している
LiとMoacdiehは2014年、10個以上のデータを含む図表と、見る時間に制限がある条件を使い、装飾グラフを検討しました。装飾された図表は魅力的で覚えやすいと評価されましたが、時間制限や図表の種類は理解、短期記憶、回答に必要な時間へ影響しました。データが増え、急いで読む場面では、初期研究と同じ利点だけを期待できません。
Ajaniらは2021年、不要な目盛線、過剰な数値ラベル、色のばらつきを減らす「整理」と、結論を示す見出し、強調色、注釈を加える「焦点化」を実験しました。整理した図表は専門的だと評価され、さらに焦点化した図表は明瞭さや見た目の評価が上がり、強調された傾向の記憶も良くなりました。
これは、簡素さと記憶が対立するとは限らないことを示します。意味のない要素を減らし、伝えたい傾向だけを言葉と色で示せば、読みやすさと記憶を両立できます。装飾を増やす前に、まずノイズを減らし、残った余白へ必要な手がかりを置きます。
2024年の研究では、図表を「画像」として受け取るか、「情報」として受け取るかが調べられました。画像らしい図表は好意的な感情を引き出す一方、傾向や主張を伝える点では不利でした。軸や文章注釈がある図表は情報として受け取られやすい傾向がありました。心地よさと、結論の把握も同じではありません。
「誘惑的な詳細」とは、似ているが同じではない
前回の記事では、学習目的に関係のない面白い写真や雑学が要点の記憶と応用を妨げる、誘惑的な詳細の研究を扱いました。本稿の装飾研究と重なる部分はありますが、対象と測定が異なります。
誘惑的な詳細の研究は、教材の中心内容に関係のない情報を足す問題です。図表装飾の研究は、データの見せ方に加えた絵、色、形が、再認、探索、精度へどう影響するかを扱います。図表に絵があっても、その絵が結論と結びつき、数値の輪郭を壊さないなら、学習目的から外れた詳細とは限りません。
逆に、題材と無関係な人物写真を大きく置き、肝心のグラフを小さくすれば、誘惑的な詳細にも視覚的ノイズにもなります。同じ要素でも、目的との関係と置き方で役割が変わります。
科学的根拠の限界
第一に、装飾の定義と刺激が研究ごとに違います。実際の雑誌に近いイラスト、単純化した棒の形、絵記号、色、見出し、注釈を一つの「装飾」としてまとめることはできません。
第二に、測定する成果も違います。再認、自由記述、数値推定、探索時間、好意、信頼は別のものです。ある図表が記憶に残っても、数値を正確に読めるとは限りません。反対に、正確に読めても、会議後に要点を思い出せない場合があります。
第三に、見る時間と利用場面が影響します。報告書をじっくり読む場合、投影されたスライドを数秒見る場合、毎日使う監視画面では、必要な設計が変わります。研究結果を「装飾は良い」「装飾は悪い」という一つの規則へ縮めるべきではありません。
第四に、初期研究には少数の図表や特定の作例に基づくものがあります。大規模な記憶研究にも、現実の図表を使うため、色、複雑さ、題材、図表形式が同時に変わるという限界があります。因果を一つの要素だけへ帰すことはできません。
「視覚化・構造化」で残すものを決める
伸滋Designの伝わる設計マップにある「視覚化・構造化」は、ノイズを削り、本質だけを残す引き算のデザインです。ここでいう引き算は、無条件に白黒へすることではありません。伝えたい意味に働かないものを削り、必要な手がかりを見える形へ整えることです。
1. 図表でしてほしい仕事を一つにする
「売上を見せる」ではなく、「回復を始めた商品を見つける」「部門間の差を正確に比べる」「翌日も一つの傾向を思い出す」と書きます。探索、比較、記憶のどれが中心かを決めます。
2. まず数値の骨格を守る
共通の基準線、軸、棒の先端、面積の尺度を整えます。立体化、斜めの先端、幅と高さが同時に変わる形は避けます。色や絵を加える前に、白黒でも大小関係と傾向を誤らないか確かめます。
3. 主張に関係しない要素を削る
不要な目盛線、全ての点に付いた数値、意味のない色分け、背景模様を減らします。画面が空いたら、すぐ別の飾りで埋めません。余白は、主役と脇役を分ける情報です。
4. 残したい結論へ手がかりを集める
結論を示す見出し、強調色、短い注釈を同じ主張へそろえます。絵記号を使うなら、題材を識別する小さな手がかりにとどめ、データの輪郭とは分けます。目立つ要素が複数の結論を競わせないようにします。
5. 二つの質問で試す
一つ目は「3秒後、何が主役だったか」。二つ目は「数値や差を正しく答えられるか」です。印象と正確さを別々に確かめます。片方だけで合格にしません。
仮想例:採用数の推移を伝える
ここからは説明のための仮想例です。5年間の採用数を示す棒グラフで、各棒を人物の形にし、人数が多いほど人物が縦横に大きくなる図を考えます。親しみやすく、採用の話だと分かりますが、面積が大きく広がるため、増加幅を実際より大きく感じる恐れがあります。
まず人物の形を通常の棒へ戻し、ゼロから始まる共通の基準線をそろえます。全ての年度を同じ濃さにせず、採用方針を変えた年から後だけを強調します。見出しは「方針変更後、採用数は3年連続で増加」とします。
人物の絵を残したい場合は、棒の形には使わず、見出しの横に小さく一つ置きます。絵は題材を思い出す手がかり、棒は数値を正確に比べる道具と役割を分けます。装飾をゼロにはしていませんが、数値の骨格は守っています。
公開前のチェックリスト
- 図表を見た人に、比較、探索、記憶のどれをしてほしいか決めたか
- 棒の長さ、面積、位置、軸、基準線を装飾が歪めていないか
- 立体感や遠近法によって、値が大きく見えていないか
- 意味のない色、目盛線、背景模様、全点の数値を減らしたか
- 見出しが、図表名ではなく読み取るべき結論を示しているか
- 強調色と注釈が同じ主張を支えているか
- 絵記号は題材と関係し、データの輪郭から分離されているか
- 飾りだけを覚え、結論を忘れる構成になっていないか
- 3秒後に主役を言え、数値や差も正しく答えられるか
- 画面サイズ、見る時間、聞き手の前提に合っているか
まとめ:削るのは、意味のないもの
図表の装飾は、必ずしも全てがムダではありません。装飾された図表が長期記憶や再認を助けた研究がある一方、探索を遅らせ、棒の形を変える装飾が数値の読み取りを不正確にした研究もあります。記憶、理解、探索、精度は分けて考える必要があります。
視覚化・構造化の引き算で削るべきなのは、色や絵そのものではありません。主張に働かないもの、数値の骨格を歪めるもの、見る人に余計な仕事を増やすものです。反対に、結論と結びつき、正確さを壊さず、思い出す手がかりになる要素は残す余地があります。
伸滋Designでは、経営資料、提案書、研究発表の図表について、数値を正しく読める骨格を守りながら、意思決定と記憶につながる構成へ整える支援を行っています。「簡素にすると印象が消える」「目立たせると数字が読みにくい」と感じる場合は、ご相談ください。
参考文献
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- Borgo, R., Abdul-Rahman, A., Mohamed, F., Grant, P. W., Reppa, I., Floridi, L., & Chen, M. (2012). An empirical study on using visual embellishments in visualization. IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics, 18, 2759–2768. https://doi.org/10.1109/TVCG.2012.197
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- Arunkumar, A., Padilla, L., Bae, G.-Y., & Bryan, C. (2024). Image or information? Examining the nature and impact of visualization perceptual classification. IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics, 30, 1030–1040. https://doi.org/10.1109/TVCG.2023.3326919
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