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パワーポーズとは?「2分で自信がつく」を200人の追試と1万人のメタ分析はどう裁いたか——登壇前に本当に効く姿勢の使い方

登壇の10分前。控室や廊下の隅で、スマホをのぞき込んだまま肩をすくめている自分に気づくことはないでしょうか。そんなとき、「胸を張って2分立てば自信が湧く」という話を思い出す人は少なくありません。2012年のTEDトーク「ボディランゲージが人を作る」で世界に広まりました。日本でも2016年に『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』(早川書房)として紹介された考え方です。研修や面接対策の定番として、いまも語られ続けています。

ところがこの説は、発表から5年後に大きく揺らぎました。200人規模の追試でホルモンの変化が消え、筆頭著者が自ら「効果は実在しないと考える」と表明したのです。その一方で、2022年には1万人分のデータを束ねたメタ分析が「気分だけは変わる」と結論づけました。つまり「嘘だった」でも「本当だった」でもなく、答えは中間にあります。

この記事では、パワーポーズをめぐる15年の検証を時系列で整理します。そのうえで、登壇前や商談前に「姿勢」をどう扱えばよいかを、いま確認されている範囲で提案します。人前で話す機会が多い経営者・講師・研究者の方に向けて書いています。

パワーポーズとは何か?2010年の実験は何を主張したのか

パワーポーズ(power posing)とは、腕や脚を大きく開く「力強い姿勢」を1〜2分とることで、自信や行動、さらにはホルモンまで変わると主張した仮説です。2010年、コロンビア大学のダナ・カーニーとアンディ・ヤップ、ハーバード大学のエイミー・カディが提唱しました。発表媒体は学術誌Psychological Scienceです。

実験の参加者は42人(女性26人・男性16人)でした。半数は椅子に深く腰かけて脚を机に載せるなどの「ハイパワーポーズ」を、残り半数は腕を体に巻きつけて縮こまる「ローパワーポーズ」を、1分ずつ2種類とりました。その後に4つの指標を測っています。

  • 「力がある」「主導権がある」と感じる度合いの自己評価は、ハイパワー群が平均2.57、ローパワー群が1.83でした(4点満点)。
  • 唾液中のテストステロン(男性ホルモンの一種)は、ハイパワー群で上がり、ローパワー群で下がりました。
  • ストレスホルモンのコルチゾールは、ハイパワー群で下がり、ローパワー群で上がりました。
  • 2ドルを確実にもらうか、50%の確率で4ドルを狙うかの賭けでは、ハイパワー群の86%が賭けを選び、ローパワー群では60%でした。

論文はこの結果を「たった2分の姿勢で、人は力を体現し、即座により力強くなれる」とまとめました。この一文が、のちにTEDトークと書籍を通じて世界に広まる「2分で自信がつく」という語り方の出発点です。

図1|2010年の実験が主張した「2分の姿勢」がもたらす4つの変化 ハイパワーポーズ 腕や脚を大きく開く姿勢 1分 × 2種類 = 2分 ① 力の感覚(自己評価)が上がる 4点満点で 2.57 対 1.83 ② テストステロンが上がる 唾液で測定・約17分後 ③ コルチゾール(ストレスホルモン)が下がる 唾液で測定・約17分後 ④ リスクを取る行動が増える 賭けを選んだ割合 86% 対 60% 出典:Carney, Cuddy & Yap (2010)、参加者42人。数値は論文の報告値
図1:4つの変化のうち、のちの検証で残ったのは①だけでした。②〜④は追試で再現されていません。

なぜ「効果は嘘だった」と言われるようになったのか

2015年の200人規模の追試でホルモンと行動の変化が消え、2016年に筆頭著者が「効果は実在しない」と表明したからです。ただし、追試でも「力を感じる」という自己評価だけは再現されていました。

200人の追試で、ホルモンと行動の効果が消えた

2015年、チューリッヒ大学のエヴァ・ラネヒルらは、元の実験とほぼ同じ手順で200人(女性98人・男性102人)を調べました。元の研究の5倍近い人数です。実験者が条件を知らない「盲検」にし、ポーズの時間を各3分に延ばした以外は、元の設計を踏襲しています。

結果は明確でした。「力がある」と感じる自己評価だけは再現され、効果量はd=0.34でした。一方、テストステロン(d=−0.20)、コルチゾール(d=−0.16)、リスク選好(d=−0.18)は、いずれも統計的に有意な差がなく、方向すら逆でした。

ここで出てきた「効果量d」について補足します。効果量とは、2つの群の平均の差を、ばらつきの大きさで割った値です。0.2で「小さい」、0.5で「中くらい」、0.8で「大きい」と読むのが慣例です。d=0.34は「小さいが、ゼロではない」程度の差にあたります。

図2|200人の追試で残った効果・消えた効果(効果量 d) −0.4 −0.2 0 +0.2 +0.4 力の感覚(自己評価) d=0.34 * リスク選好 d=−0.18 テストステロン d=−0.20 コルチゾール d=−0.16 *のみ統計的に有意(p=.017)。出典:Ranehill et al. (2015)、参加者200人、ハイパワー群 − ローパワー群
図2:2010年に「上がる」とされたホルモンやリスク選好は、200人ではむしろわずかに逆方向でした。残ったのは主観的な「力の感覚」だけです。

筆頭著者が「効果は実在しないと考える」と表明した

2016年、元論文の筆頭著者ダナ・カーニーは、自身のウェブサイトに立場表明を掲載しました。そこには「私はパワーポーズの効果が実在するとは考えていない」という一文に加え、当時の研究手順の問題点が率直に列挙されています。

たとえば、参加者を25人、10人、7人、5人と小分けに集めながら途中で結果を確認していたこと。リスク選好の検定で2つのp値(.052と.05)のうち小さいほうを報告したこと。自己評価の質問を複数用意し、うまくいったものを選んだこと。こうした手続きは、いまでは「pハッキング」と呼ばれ、偽陽性を生みやすいとされています。カーニー自身は「当時はデータ節約のつもりで、pハッキングとは思っていなかった」と書いています。

もうひとつ重要な指摘があります。賭けに勝った参加者には、その場で追加の2ドルが渡されていました。「勝つとテストステロンが上がる」ことは以前から知られています。つまり観察されたホルモン変化は、姿勢の効果ではなく「賭けに勝った効果」だった可能性があるのです。

p曲線をめぐる論争は、どう決着したのか

2017年、ペンシルベニア大学のジョセフ・シモンズとユリ・シモンソンは、パワーポーズ関連の33研究を「p曲線」という手法で分析しました。p曲線とは、発表された研究のp値の分布を調べて、その分野に本物の効果が含まれているかを推定する方法です。本物の効果があれば小さいp値が多くなり、pハッキングや出版バイアスの産物なら.05付近に偏ります。

結果は「証拠としての価値なし」でした。ただし彼らは、「力を感じる」という自己評価を「操作チェック」とみなして主要な分析から外していました。翌2018年、カディらは対象を55研究に広げて再分析し、主観的な感覚については「明確な証拠がある」と反論しています。

この論争は「行動やホルモンには証拠がなく、主観的な感覚にはある」という線で、のちの大規模検証に引き継がれました。ここから先は、否定派と肯定派が同じ結論に近づいていきます。

2017年以降の大規模検証は何を示したのか

事前登録された7研究と2本のメタ分析が、ほぼ同じ結論に達しました。「力を感じる」という主観的な変化は小さいながら実在し、ホルモンの変化は確認できず、行動への影響は弱くて不安定です。

事前登録された7つの研究:主観だけが残った

2017年、学術誌Comprehensive Results in Social Psychologyは、パワーポーズだけを扱う特集号を組みました。掲載された7研究はすべて事前登録されています。事前登録とは、データを集める前に仮説と分析方法を公開しておく仕組みです。結果を見てから都合のよい分析を選ぶことができなくなるため、pハッキングを防ぐ効果があります。

編集者のヨーナスらは総括で、行動とホルモンへの効果は「実質的にゼロ」だったと述べています。一方、クエンティン・グロナウらが全観測値1,071人分を統合したベイズ流メタ分析では、「力の感覚」への効果が支持されました。ただし、この効果はTEDトークなどでパワーポーズを知っていた参加者で大きく、「そう感じるはずだ」という期待が結果を押し上げた可能性が指摘されています。

2本のメタ分析:気分は変わる、ホルモンは変わらない

メタ分析とは、同じテーマの多数の研究を統計的に統合し、全体としての効果の大きさを推定する方法です。単独の研究より信頼できる一方、出版バイアス(良い結果ほど発表されやすい偏り)の影響を受ける点に注意が要ります。

2022年、オーフス大学のエマ・エルケアらは、5,819件の文献から73研究を選びました。結果はPerspectives on Psychological Scienceに掲載されています。開く姿勢と縮こまる姿勢の差は、気分と行動の両方で確認されました。ところが、「中立な姿勢」を対照群に置いた研究だけを見ると、様相が変わります。縮こまる姿勢と中立の差はg=0.45あったのに対し、開く姿勢と中立の差はg=0.06しかありませんでした。

gはヘッジズのgと呼ばれる効果量で、dの小標本補正版です。読み方はdと同じで構いません。つまり、これまで「開く姿勢の効果」とされてきたものの大半は、「縮こまる姿勢の悪影響」だった可能性が高いのです。

図3|「中立姿勢」と比べると、効いていたのはどちらか(効果量 g) 0 0.25 0.5 g=0.45 縮こまる姿勢 対 中立 気分・行動が下がる方向の差 g=0.06 開く姿勢 対 中立 ほぼ差がない 出典:Elkjær et al. (2022)。中立対照群を含む研究のみを統合した値
図3:「胸を張ると上がる」のではなく「縮こまると下がる」。差を生んでいたのは縮こまる側でした。

同じ2022年、バンベルク大学のロベルト・ケルナーらは、さらに大きなメタ分析をPsychological Bulletinに発表しました。12のデータベースを検索し、未発表データも研究者に直接依頼して集め、128の実験・約1万人分を統合しています。分析計画は事前登録済みです。

結論は3層に分かれます。第一に、開いた姿勢や背筋を伸ばした姿勢は、自己評価(自信・気分・力の感覚)をわずかに高めました。この効果は性別や年齢を問わず見られました。第二に、行動への効果はあるように見えたものの、出版バイアスを補正すると「ほぼ消えた」と著者らは述べています。第三に、テストステロン・コルチゾール・心拍などの生理指標には効果が見られませんでした。

日本の読者にとって見逃せない点がもう1つあります。ケルナーらは、効果が欧米諸国で大きく、日本やマレーシアなど東アジア圏でやや小さかったと報告しています。理由は特定されていませんが、大きく体を開く姿勢の意味づけが文化で異なることは想像に難くありません。

指標 2010年の主張 2015年追試(200人) 2022年メタ分析(約1万人)
力の感覚(自己評価) 上がる 再現(d=0.34) 小さいが実在
リスクを取る行動 増える 差なし(d=−0.18) 弱く不安定。バイアス補正でほぼ消失
テストステロン 上がる 差なし(d=−0.20) 効果なし
コルチゾール 下がる 差なし(d=−0.16) 効果なし

注:表の効果量dは、ハイパワー群からローパワー群を引いた値です。負の値は「2010年の主張と逆方向」を意味しますが、いずれも統計的に有意ではありません。メタ分析の欄はKörner et al. (2022) の記述に基づく要約です。

「胸を張る」より「縮こまらない」——研究が示す実像

いま確認できているのは、「開く姿勢が自信を作る」ではなく「縮こまる姿勢が気分と行動を下げる」という方向の効果です。しかもその効果は、実験室で測った直後の短い時間に限られます。

この「中立との比較」の重要性を最初に強く指摘したのは、アイオワ州立大学のマーカス・クレデでした。2019年、彼はカディらの2018年の再分析に対して、「縮こまる姿勢の悪影響は、開く姿勢の好影響の証拠にはならない」と論じました。対照群のない研究では、どちらの姿勢が差を作ったのか区別できないからです。

行動面でも同じ構図が見えます。2023年、パリ高等師範学校のハンナ・メッツラーらは男性79人を対象に、怒った顔の人物に近づくか避けるかを選ぶ課題を行いました。縮こまる姿勢をとった群は、怒った人物を避ける傾向がはっきり強まりました(群間の効果量d=0.51)。一方、開く姿勢をとった群では、意味のある変化がありませんでした。著者らは追試の必要を強調していますが、方向はエルケアらのメタ分析と一致しています。

では、日常生活で使えばどうなるのでしょうか。2025年、同じオーフス大学のマイ・ミッケルセンとエルケアらは、127人の成人を12週間追跡しました。参加者は毎週「自分にとって難しい行動」を1つ決めます。実行前には「開く姿勢」「縮こまる姿勢」「中立」「その場で足踏み」のいずれかの音声指示が、ランダムに流れます。結果として、姿勢の指示は行動にも気分にも影響しませんでした(行動d=0.06、気分d=0.02〜0.06)。実験室での数分の効果が、生活の中では確認できなかったことになります。

図4|パワーポーズ論争の15年:主張から検証へ 2010 42人の実験で 「2分で力が出る」 2015–16 200人の追試で消える 筆頭著者が撤回表明 2017–18 事前登録7研究・p曲線論争 「主観だけ残る」で収束 2022 メタ分析2本(約1万人) 「縮こまり」が差の源 2025 日常生活12週間で 効果を確認できず コーラル=主張と撤回、ネイビー=論争、ティール=大規模検証
図4:論争は「効果あり/なし」の二択ではなく、「どの指標に、どの条件で」へと問いを絞り込みながら進みました。

登壇前の「姿勢」は、どう使えば意味があるのか

期待する効果を「気分が少し整う」に限定し、開く姿勢を作るより「縮こまる姿勢を避ける」ことに注力するのが、いまの証拠に沿った使い方です。姿勢は準備の代わりにはなりません。

1. 期待値を「気分」に絞る

ホルモンが変わる、判断が大胆になる、聴衆からの評価が上がる。こうした期待は、現在の証拠では支持されていません。一方、「少し落ち着く」「少し前向きになる」程度の主観的な変化は、複数の大規模研究で確認されています。効果量にして0.3前後、しかも数分で薄れる可能性が高い変化です。この範囲で使うなら、害はなく、コストもかかりません。

緊張そのものについては、別の錯覚も知っておくと楽になります。話し手は自分の緊張が聴衆に筒抜けだと感じますが、実際にはほとんど気づかれていません。この点はスポットライト効果の記事で詳しく扱っています。

2. 「開く」より「縮こまらない」を守る

控室でスマホをのぞき込み、肩をすくめ、腕を体に巻きつける。この「縮こまり」こそ、研究が一貫して悪影響を示している姿勢です。開く姿勢を作ろうと頑張る必要はありません。肩を下ろし、胸を開いて普通に呼吸できる「中立の姿勢」に戻すだけで、縮こまりの影響は避けられます。

これは本番中の身体にも通じます。話し手の身振りは聴衆の理解を助けるだけでなく、話し手自身の思考を組み立てる役割を持ちます。詳しくは身体化された認知とジェスチャーの記事をご覧ください。

3. 「効くと信じている人に効く」を、ルーティンとして使う

事前登録研究では、パワーポーズを知っている人ほど「力を感じる」効果が大きく出ました。研究上は「期待効果」として割り引かれる要素ですが、実務では逆に使えます。本番前に決まった姿勢と呼吸を1分行う「儀式」にしておけば、効果の中身が期待によるものでも、落ち着くという結果は同じだからです。

同じ発想で、聴衆の中に「うなずいてくれる1人」を見つけて話しかける方法もあります。こちらはラポールリーダー戦略の記事で紹介しています。

4. 姿勢より確実に効く準備に時間を使う

姿勢の効果は小さく、短く、実験室の外では確認されていません。登壇前の10分があるなら、冒頭の1分を声に出して通す、最初のスライドで置く「間」を決める、といった準備のほうが確実です。「間」の使い方は沈黙の力の記事にまとめています。

そもそも緊張の多くは、「自分の話がどう受け取られるか」が読めないことから来ます。自分の伝え方の癖を先に知っておくと、その不安は具体的な対策に変わります。伝わる型診断は、そのための入口として用意しています。

図5|登壇前の10分:避けたい姿勢と、戻したい姿勢 避けたい:縮こまる姿勢 ・スマホをのぞき込んで首が下がる ・肩をすくめ、腕を体に巻きつける ・浅い呼吸のまま原稿を黙読する ・壁際で小さく座り続ける 中立との差 g=0.45(気分・行動が下がる方向) 怒った相手を避ける傾向が強まる(d=0.51) 戻したい:中立〜自然に開いた姿勢 ・肩を下ろし、胸が普通に動く呼吸に戻す ・視線を前に上げて、会場を一度見渡す ・冒頭の1分を小声で通しておく ・最初の「間」を置く場所を決めておく 中立との差 g=0.06(開く姿勢を頑張る必要はない) 気分の変化は小さく短い。準備と組み合わせる 効果量の出典:Elkjær et al. (2022)、Metzler et al. (2023)
図5:目標は「スーパーマンの姿勢」ではなく、縮こまりから中立に戻すこと。残りの時間は準備に使います。

よくある質問

パワーポーズは結局、効果があるのですか?

「力を感じる」という主観的な変化に限れば、小さい効果が複数の大規模研究で確認されています。ホルモンの変化は確認されておらず、行動への影響は弱く不安定です。2010年に語られた「2分で体が変わる」という主張は、現在の証拠では支持されていません。

面接やプレゼンの成績は上がりますか?

成績や評価が上がるという主張を支持する強い証拠はありません。2025年の12週間の追跡研究では、日常の難しい行動に対する姿勢の効果は確認できませんでした。面接や登壇の出来を左右するのは、内容の準備と練習です。姿勢はその補助にとどめるのが妥当です。

縮こまる姿勢は本当に悪いのですか?

中立の姿勢と比べた場合、縮こまる姿勢は気分と行動を下げる方向に働くことが、2022年のメタ分析で示されています(g=0.45)。ただし対照群を置いた研究は少なく、著者らも「予備的な証拠」と位置づけています。避けて損はないが、過信もしない、という距離感が適切です。

日本人にも同じように当てはまりますか?

2022年のケルナーらのメタ分析では、東アジア圏(日本・マレーシアなど)で効果がやや小さいと報告されています。研究の大半は欧米で行われており、日本での大規模な検証はまだ乏しい状況です。文化によって「体を大きく開く」ことの意味が異なる可能性は、念頭に置いておく必要があります。

まとめ:姿勢は「準備」ではなく「準備の邪魔を取り除く道具」

パワーポーズ論争の15年は、次の3点に要約できます。第一に、ホルモンや行動が変わるという主張は、200人の追試と約1万人のメタ分析で支持されませんでした。第二に、「力を感じる」という主観的な変化は小さいながら実在し、事前登録研究でも確認されています。第三に、その差を生んでいたのは「開く姿勢の効果」ではなく「縮こまる姿勢の悪影響」である可能性が高いことがわかってきました。

次の登壇では、控室で鏡に向かって胸を張る代わりに、まず自分が縮こまっていないかを確かめてみてください。肩を下ろし、視線を上げ、冒頭の1分を声に出す。姿勢の効果が小さくても、その時間は無駄になりません。

出典

  • Carney, D. R., Cuddy, A. J. C., & Yap, A. J. (2010). Power posing: Brief nonverbal displays affect neuroendocrine levels and risk tolerance. Psychological Science, 21(10), 1363–1368. 原典PDF(著者サイト)
  • Ranehill, E., Dreber, A., Johannesson, M., Leiberg, S., Sul, S., & Weber, R. A. (2015). Assessing the robustness of power posing: No effect on hormones and risk tolerance in a large sample of men and women. Psychological Science, 26(5), 653–656. 原典PDF
  • Carney, D. R. (2016). My position on “Power Poses”. 立場表明PDF(著者サイト)
  • Simmons, J. P., & Simonsohn, U. (2017). Power posing: P-curving the evidence. Psychological Science, 28(5), 687–693.(URL未確認)
  • Cuddy, A. J. C., Schultz, S. J., & Fosse, N. E. (2018). P-curving a more comprehensive body of research on postural feedback reveals clear evidential value for power-posing effects. Psychological Science, 29(4), 656–666. PubMed
  • Jonas, K. J., Cesario, J., et al. (2017). Power poses – where do we stand? Comprehensive Results in Social Psychology, 2(1), 139–141.(URL未確認)
  • Gronau, Q. F., van Erp, S., Heck, D. W., Cesario, J., Jonas, K. J., & Wagenmakers, E.-J. (2017). A Bayesian model-averaged meta-analysis of the power pose effect with informed and default priors: The case of felt power. Comprehensive Results in Social Psychology, 2(1), 123–138. 出版社ページ
  • Credé, M. (2019). A negative effect of a contractive pose is not evidence for the positive effect of an expansive pose: Commentary on Cuddy, Schultz, and Fosse (2018). Meta-Psychology, 3. 原典PDF
  • Elkjær, E., Mikkelsen, M. B., Michalak, J., Mennin, D. S., & O’Toole, M. S. (2022). Expansive and contractive postures and movement: A systematic review and meta-analysis of the effect of motor displays on affective and behavioral responses. Perspectives on Psychological Science, 17(1), 276–304. オーフス大学リポジトリ(受理原稿PDFあり)
  • Körner, R., Röseler, L., Schütz, A., & Bushman, B. J. (2022). Dominance and prestige: Meta-analytic review of experimentally induced body position effects on behavioral, self-report, and physiological dependent variables. Psychological Bulletin, 148(1–2), 67–85. バンベルク大学による研究解説/著者による解説(SPSP)
  • Metzler, H., Vilarem, E., Petschen, A., & Grèzes, J. (2023). Power pose effects on approach and avoidance decisions in response to social threat. PLoS ONE, 18(8), e0286904. 全文(PMC)
  • Mikkelsen, M. B., Elkjær, E., Mennin, D. S., Michalak, J., & O’Toole, M. S. (2025). The power of posing: Do body display instructions have an impact on behavior in daily life? Brain and Behavior. 全文(PMC)
  • Loncar, T. (2021). A decade of power posing: where do we stand? The Psychologist (British Psychological Society). 記事

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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