聞き手の心理・行動

「視覚型・聴覚型」は本当か?学習スタイル説を検証した実験が示す、「合わせても成績は変わらない」現実

研修や登壇の前に、聞き手を「視覚型」か「聴覚型」かで分けて、資料を作り分ける。そんな準備をしたことはないでしょうか。人には得意な学び方があり、合わせると成績が伸びる。この考え方は学習スタイル説と呼ばれ、教育や研修の現場で広く使われてきました。ところが、実験で確かめた研究を追うと、合わせた教え方が成績を上げる証拠は、ほとんど見つかっていません。この記事では、その検証の中身と、代わりに使える資料設計の考え方を整理します。

扱うのは、学習スタイル説のうち「合わせると伸びる」という主張です。「人によって好みが違う」こと自体は争点にしません。取り上げる研究は、主に大学生や成人を対象にしたものです。

学習スタイル説とは?「視覚型・聴覚型」の分け方が主張していること

学習スタイル説とは、「人には得意な情報の受け取り方があり、それに合わせて教えると成績が上がる」とする考え方です。

代表的なのは、視覚型は図で、聴覚型は音声で教えるという分け方です。診断テストで手軽に分類できるため、研修や授業の場に広まりました。

検証の対象になるのは、「合わせると伸びる」という部分です。研究者はこれをマッチング仮説(meshing hypothesis)と呼びます。好みの違いがあるかどうかと、合わせると効くかどうかは、別の問いです。

「効く」と言うには何を示せばよいのか?

示すべきなのは、「型によって最も効く教え方が入れ替わる」ことです。全員に図が効くだけでは、この説の裏づけになりません。

パシュラーら(Pashler et al., 2008)は、検証に必要な実験の条件を次の4点に整理しました。

  • 学習者を、学習スタイルの診断で複数のグループに分ける。
  • 各グループを、複数の教え方にランダムに割り当てる。
  • 全員に、同じ最終テストを受けてもらう。
  • グループごとに最も成績が良い教え方が異なることを示す。

最後の条件が、図1の「交差する線」にあたります。パシュラーらは既存の研究を調べ、この形を示す証拠はほとんど見つからないと結論しました(Pashler et al., 2008)。

図1|学習スタイル説が正しければ、成績の線は交差するはず 学習スタイル説の予測:交差する 違いが見えない形:平行に近い 高低 視覚型の人聴覚型の人 高低 視覚型の人聴覚型の人 図で教えた 音声で教えた 概念図です。数値ではありません。
左の形が確認できれば、この説は支持されます。多くの検証で見えたのは、右のように型による違いが見えない形でした。

実際の実験では、合わせると成績は上がったのか?

本記事で確認した主要な検証では、学習スタイルに合わせても成績は上がっていません。実験とレビューの結果を表にまとめます。

研究 対象 内容 結果
マッサとマイヤー(2006) 大学生(実験1・3)、一般の成人(実験2) 電子回路の31コマの学習。ヘルプ画面を文章か図で提供。14種類の指標で言語型・視覚型を判定 言語型と視覚型の成績に差はなく、ほぼすべての指標で型と教え方の交互作用がなかった
ロゴウスキーら(2015) 大学教育を受けた成人 聴覚・視覚の好みを測定。理解テストを口頭と文章で実施。同じ内容を音声版か文章版で学び、直後と2週間後にテスト 好みと教え方の間に、統計的に有意な関係はなかった(直後・2週間後とも)
パシュラーら(2008) 文献レビュー 必要な実験条件を示し、既存研究を評価 交差する形の証拠は、ほとんど見つからなかった
コーフィールドら(2004) 文献レビュー 約3,800件の文献から13の主要モデルを精査 広く使われるモデルの一部は、信頼性が低く妥当性に乏しいと評価

注:「統計的に有意」は、偶然では説明しにくい差があることを指します。「有意でない」は差がゼロだという証明ではなく、差が見つからなかったという意味です。「交互作用(ATI)」は、型によって教え方の効果が変わるかを調べる分析です。

マッサとマイヤー(Massa & Mayer, 2006)は、3つの実験で言語型と視覚型を比べました(ERIC)。文章のヘルプと図のヘルプを、型ごとに使い分ける利点は見つかりませんでした。

ロゴウスキーら(Rogowsky et al., 2015)は、音声版と文章版で同じ内容を学ばせました。直後と2週間後のどちらでも、好みと教え方の相性は成績に表れませんでした(ERIC)。

ウィリンガムら(Willingham et al., 2015)も、学習スタイル説の科学的な裏づけは乏しいと評価しています(Penn State)。教師の時間と労力は、ほかの理論に使うほうがよいという提案です。

限界もあります。ここで見た研究は、大学生や成人の読解や短期の学習が中心です。楽器やスポーツなど、技能の習得での検証は、この記事では確認していません。

どれくらいの人が、この説を信じているのか?

教育者の約9割が信じているという集計があります。ニュートンとサルヴィ(Newton & Salvi, 2020)は、18か国で15,405人の教育者を調べた37の研究をまとめました。

結果は、合わせると学習が良くなると信じる人が89.1%(範囲は58〜97.6%)でした。この信念は近年も減っていないと報告されています(Frontiers in Education)。日本だけを取り出した数値は、確認した範囲では見つかりませんでした。

論文の側にも偏りがあります。ニュートン(Newton, 2015)が高等教育の論文109本を調べたところ、97本が学習スタイルを肯定的に扱っていました(Frontiers in Psychology)。マッチング仮説を実際に検証していた論文は、そのうち1本だけでした。

図2|「学習スタイルに合わせる」を支持・実践する割合 教育者(37研究・15,405人)89.1% 高等教育の論文(97/109本)89% 英国の大学教員:信じる58% 英国の大学教員:実際に使う33% 0%50%100% 出典:Newton & Salvi (2020)、Newton (2015)、Newton & Miah (2017)
信じる人は多い一方、実際に使う人はそれより少なくなっています。ただし対象や調査方法はそれぞれ異なります。

信じることと、使うことは別です。ニュートンとミア(Newton & Miah, 2017)では、英国の大学教員の58%が信じ、33%が実際に使っていました。理論が概念的に誤りだという意見には、90%が同意しています。一方で、証拠を示されても使い続けると答えた人が32%いました(Frontiers in Psychology)。

ナンセケベルら(Nancekivell et al., 2020)は、成人660人以上を対象に、学習スタイルを「生まれつきで変わらないもの」と見る人が約半数いることを示しました。こうした見方は、学べる範囲に人為的な制限をかけるおそれがあると指摘されています(ERIC)。

伝え方の通説を確かめ直す記事は、ほかにもあります。たとえば「メラビアンの法則」や、「読みにくいフォントは記憶に残る」という説です。どちらも、広まった説明と原典の間にずれがありました。

では、資料に図を入れるのは意味がないのか?

意味はあります。ただし図が効くのは「視覚型の人」に対してではなく、多くの学習者に対してです。

マイヤー(Mayer, 2014)は、自らの研究室の11の実験をまとめています。文章だけの授業より、文章と図を組み合わせた授業のほうが、応用問題(転移テスト)の成績が良くなりました。効果量(差が標準偏差いくつ分かを示す指標)dの中央値は1.39です(Mayer, 2014)。一般に0.8以上は大きな差とされます。ただし著者自身の研究室の結果である点は、割り引いて読む必要があります。

この効果は、事前知識が少ない学習者や、質の高い図で強まる傾向があります。図なら何でもよいわけではありません。文字を読み上げれば効果が落ちる場面は「スライドを読み上げるな」で、関係の薄い面白い画像が理解を妨げる場面は「誘惑的な細部」で整理しています。

個人差で意味があるのは、学習の「型」ではなく事前知識です。カリュガら(Kalyuga et al., 2003)は、初心者に効く工夫が経験者には効かなくなったり、逆効果になったりする「専門知識の逆転効果」を整理しました(Educational Psychologist)。

図3|「型で分ける設計」と「内容で選ぶ設計」 よくある設計証拠に沿った設計 ① 聞き手を「視覚型」「聴覚型」に分ける② 型ごとに資料や話し方を変える③ 型に合わない形式は省く → 成績が上がる証拠は見つかっていない→ 学べる範囲を狭めるおそれがある ① 内容の性質を見きわめる② 言葉と図を対応づけて出す③ 聞き手の事前知識で量を調整する → 全員に同じ設計を使える→ 経験の差には調整の根拠がある VS
分ける軸を「人の型」から「内容と経験」に替えるのが、この記事の提案です。

明日から、資料と話し方をどう変えればよいのか?

型の診断をやめて、「内容の性質」と「聞き手の経験」で設計します。手順は図4の4ステップです。

図4|資料づくりの4ステップ1内容を分類する形や配置なら図手順なら図と言葉概念なら例と図2言葉と図をそろえる図の近くに要点読み上げは避ける細部は足さない3経験に合わせる初心者は補足を厚く経験者は要点だけ事前に一問で確認4理解を確かめる聞き手に説明させる小テストで確認次回の量を調整型の診断は使わず、内容と聞き手の経験で決めます。
診断ではなく、内容の分類と理解の確認を軸に回します。

内容ごとの見せ方の目安を、表にまとめます。

内容の性質 向く見せ方 例
形・配置 図を主役にして、言葉は補足にする 装置の構造、会場の動線
手順・時間の流れ 番号つきの図と、短い説明を並べる 申請の流れ、実験の手順
数値の比較 グラフと、結論の一文を添える 売上の推移、効果量の比較
抽象的な概念 具体例、図解、定義の順に示す 理論の説明、方針の共有

注:この表は設計の目安です。内容の種類ごとに個別に検証された対応表ではありません。

すぐに使える行動は、次の4つです。

  • 聞き手を型で分けず、「このテーマの経験はありますか」と一問だけ聞く。
  • 形や手順は図で示し、抽象的な話には例と図と言葉を並べる。
  • 図の横には短い要点を置き、同じ文を読み上げない。
  • 理解度は好みではなく、言い直しや小テストで確かめる。

よくある質問

学習スタイルの診断テストは使わないほうがよいですか?

教え方を決める目的では、根拠が乏しいため勧められません。自分の学び方を振り返るきっかけとして使うのは自由です。ただし結果で、学べる形式を絞らないことが大切です。

「視覚優位」の人は実在しないのですか?

好みや得意に個人差があること自体は、争点ではありません。問題は、その差に合わせた教え方が成績を上げるかどうかです。本記事で確認した検証では、上がっていません。

子どもや発達特性のある人にも当てはまりますか?

この記事で見た研究は、主に大学生や成人が対象です。子どもや発達特性のある人への一般化には、別の検証が必要です。個別の困りごとへの配慮は、学習スタイル説とは別の話です。

聞き手に合わせるなら、何を基準にすればよいですか?

基準は「型」ではなく、テーマに関する事前知識です。初心者には補足を厚くし、経験者には要点に絞る。この調整には、専門知識の逆転効果という根拠があります。

まとめ:型で分けず、内容と経験で決める

学習スタイルに合わせて教えると成績が上がる、という証拠は、主要な検証では見つかっていません。それでも教育者の約9割が信じているという集計があります。

図が効くのは、特定の型の人に限らず、多くの学習者に対してです。ただし読み上げや不要な装飾は、効果を下げます。次の資料づくりでは、聞き手の診断をやめて、内容を分類し、事前知識を一問で確かめるところから始めてみてください。

出典

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『9つの伝わる型 図解ハンドブック 完全版』
PDF・57ページ/35の研究にもとづく「なぜ効くのか」まで解説

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この記事を書いた人

伸

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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