デザイン・図解

選択肢は同じでも、分け方で判断が変わる:区分依存から考える比較表の設計

八つのリスク項目を、一枚の資料に並べるとします。「技術」「営業」「運用」と担当部門ごとに分けることもできれば、「起きやすさ」「影響の大きさ」と判断の観点で分けることもできます。項目そのものは同じです。それでも、会議で多くの時間や予算が割かれる項目は変わるかもしれません。

分類は、情報を見やすくするための裏方に見えます。しかし実際には、何と何を同じまとまりとして見せるかが、読み手の見積もりや配分、選択の土台になります。

結論から言えば、比較表や選択肢一覧では、項目をきれいに分けるだけでは足りません。同じ項目をいったん一覧に戻し、区分の根拠と大きさを示し、別の妥当な分け方でも結論が変わらないかを確かめる必要があります。

この背景にあるのが区分依存です。本稿では、選択肢は同じでも分け方によって判断が変わる研究を確かめます。そのうえで、伸滋Designの「伝わる設計マップ」にある「視覚化・構造化」を使い、読み手が分類そのものに引っ張られにくい資料の作り方を考えます。

区分依存とは、分け方によって判断が動くこと

区分依存とは、選択肢や出来事が同じでも、どの項目を一つのまとまりとして示すかによって、確率の見積もり、資源の配分、選択が変わることです。

FoxとRottenstreichの研究には、天気を題材にした分かりやすい例があります。「日曜日が一週間で最も暑いか」と尋ねると、頭の中には「日曜日」と「それ以外」の二つが浮かびます。一方、「七日間のうち、どの日が最も暑いか」と尋ねると、月曜日から日曜日までの七つが浮かびます。どちらも日曜日が最も暑くなる確率を考える質問ですが、示された分け方が違います。四つの研究では、回答が、その場で示された区分に均等な重みを置いた値へ寄る傾向が確認されました(Fox & Rottenstreich, 2003)。

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。情報が足りない場面では、人はまず、目の前に示されたまとまりを同じ程度に扱い、そこから知識に合わせて重みを直していくと考えられています。ただし、最初の均等な見方から十分に離れきれないことがある。そのため、二つに分かれていれば二分の一、七つに分かれていれば七分の一に近い値が、判断の出発点になりやすいのです。

FoxとClemenは、確率を見積もる五つの研究で、対象について知識があるほど影響は小さくなるものの、意思決定分析の専門家にも区分依存が見られる場合があると報告しました(Fox & Clemen, 2005)。専門家であれば、資料の分け方を無視して常に同じ答えを出せる、と決めつけることはできません。

分類は、確率だけでなく配分と選択にも影響する

区分依存は、天気の確率を答えるような課題に限られません。Fox、Ratner、Liebは、奨学金などのお金の配分、将来の体験の選び方、商品メニューなどを使った研究を行いました。人には、複数の選択肢へある程度ばらして配分しようとする傾向があります。その「ばらす単位」が、見せられた分類によって変わるため、同じ選択肢でも結果が変わりました。ただし、対象についての経験が豊かな人や、もともとの好みがはっきりしている人では、影響が弱まりました(Fox, Ratner & Lieb, 2005)。

企業の予算配分にも、よく似た問題があります。Bardolet、Fox、Lovalloは、企業データの分析と、経験のある管理職が参加した二つの実験を通して、事業を部門や下位部門へどう分けるかが資本配分に関わることを示しました。ひとまとまりにした事業と、細かく分けた事業では、同じ土俵で扱われない可能性があります(Bardolet, Fox & Lovallo, 2011)。

医療の選択画面を使った研究では、七つの症例を読んだプライマリケア医が治療法をメニューから選びました。強い治療をひとまとめにして表示した場合は、それらを個別に並べた場合より、強い治療が選ばれる割合が11.5ポイント低くなりました。もっとも、これは実際の診療記録を変えて追跡した研究ではなく、84人が回答した架空症例への選択です(Tannenbaum et al., 2015)。それでも、選択画面の分類は単なる整頓ではないと考える理由になります。

奨学金をどの所得層へ配るかを調べた二つの実験では、参加者に二通りの区分を見せ、分類が任意であると分かる条件でも、配分は割り当てられた区分によって変わりました(Xing et al., 2020)。「この分け方に深い意味はありません」と伝えるだけでは、影響を十分に抑えられない場合があるということです。

図や表では「各区分の大きさ」が見落とされやすい

2026年の研究は、富の分布をどう見せるかに区分依存を当てはめています。Bogard、West、Foxは、米国の成人3,599人が参加した九つの実験で、人口をどの大きさの集団へ分けるかによって、格差の見積もりや望ましい配分が変わることを示しました。同じ富の分布でも、「上位10%と残り90%」のように人数の違う集団を、同じ幅の箱や棒として並べると、読み手は一人あたりの差をつかみにくくなります(Bogard, West & Fox, 2026)。

同研究では、米国の主要紙が2020年に経済格差へ触れた2,958記事も調べられました。その74%は人数の異なる集団を比べ、62%は一人あたりではなく集団全体の量を使い、98%は文章か表だけで示していました。研究者は、人数の違いを調整した指標と、集団の大きさも幅で表す図を使うことで、誤解を抑えられる可能性を示しています。

ここから得られる教訓は、棒グラフの高さや表の数値だけを正しくしても十分ではない、ということです。異なる人数、期間、案件数を同じ大きさの箱へ入れるなら、読み手が比較できる単位にそろえる必要があります。グラフの見せ方については、人が正確に読み取りやすいグラフ表現をまとめた記事も参考になります。

根拠の限界:分ければ必ず判断が変わるわけではない

区分依存は、どの場面でも同じ強さで起きる法則ではありません。Reichelsonらは、大人と子どもが複数の菓子を選ぶ課題を三つの実験、合計300人で追試しました。菓子を入れる器の分け方を変えても、大人の選択には一貫した区分依存が見られませんでした。見た目に境界を置くだけで、必ず選択を動かせるわけではありません(Reichelson et al., 2018)。

一方、動物園の餌へ印を配る課題では、3〜10歳の159人に区分依存が見られ、年少の子どもの方が影響を受けやすい結果でした(Reichelson et al., 2019)。同じ研究チームの結果でも、課題が変われば結論が変わっています。何を配るのか、一度にいくつ選ぶのか、好みがどれほど強いか、分類が判断の手掛かりとして受け取られるかを考える必要があります。

2025年には、2003年の確率判断研究を、米国のオンライン参加者603人で追試した登録報告が発表されました。天気、スポーツ、就職応募では区分依存がおおむね確認されましたが、元の研究より効果は弱く、株価予測など一部の課題では確認されませんでした(Ding & Feldman, 2025)。現在の根拠から言えるのは、「分類には意味がない」でも「分類ですべてを操作できる」でもなく、判断材料が乏しく、区分が考える単位として使われる場面では、分け方を点検する価値があるということです。

また、これらの研究が、あらゆる営業資料や提案書を直接調べたわけではありません。以下に示す進め方は、研究結果を資料制作へ当てはめた実務上の提案です。実際には、区分を変えたときに結論、選択、配分額がどれほど動くかを記録し、自分たちの場面で確かめてください。

「視覚化・構造化」で、分類まで読める資料にする

伸滋Designの17の「伝わる型」では、複雑な情報を理解しやすく整えるときに「視覚化・構造化」を使います。区分依存に配慮する場合は、結果だけを見やすくするのではなく、全体に何が含まれ、なぜその分け方を選び、別の分け方ではどう見えるかまで追えるようにします。

まず、分類前の項目を一度そろえる

表を作る前に、選択肢、案件、原因、対象者を一列に戻します。似た項目を統合したり、都合の悪い項目を「その他」へ移したりする前の状態です。項目ごとに、母数、期間、単位、出典もそろえます。これが、どの分類にも共通する全体像になります。

「その他」を置く場合は、中身と件数を別に示します。「その他」が一つの項目に見えても、内部に十種類の原因が入っていれば、ほかの一項目と同じ重みで比べることはできません。情報の置き場と見出しから内容を予測しやすくする方法は、情報の匂いで設計する文書ナビゲーションにもつながります。

次に、区分の目的と大きさを見せる

分類名だけでなく、「責任者を決めるため部門別に整理」「再発防止策を考えるため原因別に整理」のように、なぜその軸で分けたかを一文で添えます。区分ごとの項目数、対象人数、期間が違うなら、それも見せます。箱の数や面積が、実際の量を表しているのか、単なる配置なのかを明確にします。

異なる大きさの集団を比べるときは、総数と一人あたり、総売上と一店舗あたり、問い合わせ総数と利用者千人あたりのように、両方を示せないか検討します。どちらが正しいというより、読み手が集団の大きさを補って考えなくてもよい状態をつくることが大切です。

最後に、別の妥当な分け方でも結論を確かめる

一つの分類で予算案や優先順位を作ったら、同じ項目を別の軸でも並べ直します。部門別で作ったリスク一覧なら、顧客が困る場面別、原因別、時間軸別でも見ます。結論がほぼ同じなら判断は比較的安定しています。大きく変わるなら、分類そのものが判断を動かしている可能性を会議で共有します。

二つの表を同じページへ並べる必要はありません。本文には主目的に合う分類を置き、付録に分類前の一覧と別の見方を置く方法もあります。読み手が必要なときに根拠へ戻れればよいのです。

同じ八つのリスク項目を部門別と顧客が困る場面別に並べ、優先順位の変化を確かめる図
同じ項目を別の妥当な軸でも並べ、優先順位が分類だけで動いていないか確かめます。

具体例:八つのリスクから対策予算を決める

新しい業務システムの導入前に、八つのリスクを整理するとします。項目は「初期設定の遅れ」「移行データの欠損」「権限設定の誤り」「操作研修の不足」「問い合わせ集中」「現場手順との不一致」「利用率の低下」「更新作業の停滞」です。これは説明のための架空例であり、伸滋Designの顧客実績ではありません。

担当部門別に「開発」「導入支援」「運用」へ分けると、会議では三部門へ均等に時間を配りたくなるかもしれません。さらに、開発だけを「データ」「権限」「連携」と細かく分けると、開発側の問題が多く見え、予算も厚く配られる可能性があります。

そこで、まず八項目の一覧と、各項目の発生見込み、影響、根拠、担当をそろえます。次に「責任者を決めるため、主担当の部門別に分けた」と目的を書き、各区分に何項目入っているかを示します。予算を決める段階では、同じ八項目を「利用開始前」「利用開始時」「定着後」という顧客が困る場面別にも並べます。

部門別では開発リスクが最優先、場面別では利用開始時の問い合わせ集中が最優先になったとします。この違いは、どちらかの表が間違っている証拠ではありません。責任の所在を決める表と、顧客への影響から予算を決める表では、目的が違います。問題は、一つの分け方だけを、すべての判断に使うことです。

最終案には、発生見込みと影響を項目ごとに戻した一覧、部門別の責任者、顧客が困る場面別の対応順を残します。判断前に失敗の原因を洗い出す方法は、プレモータムで提案の弱点を先に見つける記事も参考になります。

比較表・選択画面のチェックリスト

  • 分類前の全項目を確認できるか
  • 項目の追加、統合、除外の理由が残っているか
  • 「その他」の中身と件数が分かるか
  • なぜその軸で分けたかを一文で説明できるか
  • 区分ごとの人数、案件数、期間、項目数を示しているか
  • 人数の違う集団を、同じ幅の箱だけで比べていないか
  • 総数だけでなく、一人あたり・一件あたりの値も必要ではないか
  • 一つの区分だけを細かく分け、項目数を多く見せていないか
  • 経験や好みが弱い読み手ほど、分類を手掛かりにしやすいと考えたか
  • 別の妥当な分け方でも、優先順位や配分額を確かめたか
  • 分類を変えたときに結論が動いた箇所を、意思決定者へ伝えたか
  • 資料の目的に合う分類と、別の判断に使う分類を分けたか

まとめ:整理の仕方も、資料が伝える内容である

比較表や選択肢一覧では、項目の内容だけでなく、どの項目を同じまとまりとして見せるかが判断に関わります。情報が少ない場面では、読み手が示された区分へ均等に注意や資源を配り、そこから十分に調整できないことがあります。一方で、影響の強さは課題、経験、好み、分類の見せ方によって変わります。

だからこそ、分類をなくすのではなく、分類前の全体を保ち、区分の目的と大きさを示し、別の妥当な見方でも結論を確かめることが大切です。整理の仕方を見えるようにすることで、読み手は結論だけでなく、結論へ至る道筋も確かめられます。

伸滋Designでは、提案書や比較資料の見た目だけでなく、何を同じまとまりとして示すか、どの単位で比べるか、読み手が判断の根拠へ戻れるかまで含めて設計します。自分の場面に合う型を確認したい方は60秒の「伝わる型」診断へ、実際の資料を一緒に整理したい方はお問い合わせをご利用ください。

参考文献

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  3. Fox, C. R., & Clemen, R. T. (2005). Subjective probability assessment in decision analysis: Partition dependence and bias toward the ignorance prior. Management Science, 51(9), 1417–1432. https://doi.org/10.1287/mnsc.1050.0409
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  9. Ding, K., & Feldman, G. (2025). Revisiting partition priming in judgement under uncertainty: Replication and extension Registered Report of Fox and Rottenstreich (2003). Royal Society Open Science, 12, 250669. https://doi.org/10.1098/rsos.250669
  10. Bogard, J. E., West, C., & Fox, C. R. (2026). How common depictions of wealth distributions can bias people to underestimate inequality. Nature Communications, 17, 3897. https://doi.org/10.1038/s41467-025-62422-5

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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