ストーリーテリング

相手に合わせた説明が、自分の記憶まで変える:Saying-is-Believing効果の心理

同じサービスを、研究者には「測定精度」、経営層には「投資回収」、現場には「使いやすさ」から説明する。相手に合わせて入口や例を変えることは、伝える仕事の基本です。

ところが、相手別の説明を繰り返すうちに、もともとは「条件次第では改善が見込める」と説明していたのに、いつの間にか自分でも「改善できる」と思い込んでしまうことがあります。大げさに言うつもりがなくても、前の相手向けに整えた表現を次の資料の下敷きにすると、条件やただし書きが少しずつ抜け落ちます。

結論から言えば、相手に応じて変えてよいのは、話す順番、具体例、言葉遣い、強調する点です。出典、数値、成立条件、確からしさまで同じように書き換えてはいけません。もとの事実と相手に合わせた表現を分け、次の資料は直前の資料ではなく原資料から作る。それが、分かりやすさと正確さを両立する基本です。

その背景には、話し手の記憶も会話の影響を受けるというSaying-is-Believing効果があります。本稿では研究結果とその限界を確かめたうえで、伸滋Designの「伝わる設計マップ」にある「共通基盤づくり+信頼の設計」を使い、事実を保ちながら説明を作り分ける方法を考えます。

Saying-is-Believing効果とは何か

私たちは、相手が好意的だと分かれば、よい印象を与える特徴を選んで話します。反対に、相手が懐疑的なら、問題点を強めて話します。心理学では、こうした相手に合わせた言い換えをオーディエンス・チューニングと呼びます。重要なのは、変わるのが相手への説明だけではないことです。後からその対象を思い出すと、自分の記憶や評価まで、先ほど話した内容に近づく場合があります。

HigginsとRholesの古典的な実験では、参加者が、よくも悪くも取れる性格の人物について、読み手の態度に合わせて紹介文を作りました。後からその人物を思い出してもらうと、紹介文を好意的に書いた人は好意的に、否定的に書いた人は否定的に思い出す傾向がありました。時間を置いてから思い出した場合にも、同じ方向の偏りが見られました(Higgins & Rholes, 1978)。このように、相手に合わせて話した内容が自分の記憶にも入り込む現象を、Saying-is-Believing効果と呼びます。

ただし、文章を書くだけで記憶が機械的に上書きされるわけではありません。Echterhoffらの3つの実験では、相手が説明をもとに人物を正しく見分けられたと知らされたときに、記憶の偏りが生じました。見分けられなかったと知らされたときには、同じ偏りは見られませんでした。また、自分と同じ集団に属する相手では偏りが見られ、別の集団に属する相手では見られない条件がありました。この違いには、「相手の判断は信用できる」と感じたかどうかが関わっていました(Echterhoff, Higgins & Groll, 2005)。

なぜ「うまく伝わった説明」ほど自分に戻ってくるのか

研究者は、この効果を共有現実(shared reality)という考え方で説明しています。相手と「同じものを、同じように見られた」という感覚が生まれると、相手に合わせた言い方を、一時的な言い換えではなく「こちらの方が実態に近い見方だ」と自分でも受け入れやすくなる、という考えです。

2008年の4つの実験では、相手と同じ見方を持つために表現を合わせたときに、記憶の偏りが強く現れました。一方、礼儀を守る、報酬を得る、相手を楽しませる、求められた通りに答えるといった目的だけでは、同じ偏りは見られませんでした。相手の判断をどれだけ信用したかが、この効果の生じ方に関わっていました(Echterhoff et al., 2008)。

相手との関係も影響します。実験で相手との立場を変えたところ、対等な相手に説明した場合には記憶の偏りが生じましたが、立場の違う相手では生じない結果が報告されました(Echterhoff et al., 2009)。別の研究では、相手と同じ見方を確かめたいときと、単に求められた通りに答えたときが区別されています(Kopietz et al., 2010)。さらに、説明を作った後で相手との関係が変わると、後の記憶も変わる可能性が示されました。どんな文章を書いたかだけでなく、誰と同じ見方を持てたと感じたかが重要なのです(Echterhoff, Kopietz & Higgins, 2013)。

注意したいのは、説明に失敗した場面だけではありません。「分かりました」「それなら納得です」と相手に言われた経験が、相手向けに整えた表現を自分の理解として定着させる可能性があります。営業担当者が顧客向けの短い説明を何度も使う。経営者が投資家向けの成長物語を社内でも繰り返す。専門家が一般向けの比喩を、次の専門家向け資料でも前提にする。こうした繰り返しの中で、直前の説明が次の説明の出発点になりやすいのです。

共通基盤づくりと信頼の設計を、前提をそろえる、信頼を示す、動かすの3段階で示した図
前提をそろえ、信頼を示してから、相手に応じた次の行動へつなぎます。

説明のずれは、事実・解釈・表現が混ざると生まれる

資料制作では、次の三層を分ける必要があります。第一は事実層で、数値、出典、引用、観察、前提条件、測定方法です。第二は解釈層で、何が重要か、どの因果が有力か、確実性はどの程度かという判断です。第三は表現層で、順序、例、比喩、見出し、図、相手の語彙です。

相手に合わせること自体は、主に表現層の仕事です。場合によっては解釈層の焦点も変わります。たとえば同じ試験結果でも、技術者には測定条件、経営層には意思決定上の意味を先に示せます。しかし「対象は限定された試験である」「平均値である」「因果ではなく相関である」といった事実層まで相手別に消してしまうと、別の主張になります。

さらに、原資料→経営向け→営業向け→採用向け、と順番にコピーすると、各段階の小さな変更が積み重なります。共有する情報の置き場を決める考え方は、トランザクティブ・メモリーでつくる知識の経路にもつながります。本稿で決めたいのは「誰が知っているか」ではなく、「どの資料を事実確認のよりどころにするか」です。

「共通基盤づくり+信頼の設計」で説明を整える

伸滋Designの17の「伝わる型」では、立場や利害が異なる人に同じ方向を向いてもらうとき、「共通基盤づくり+信頼の設計」を使います。進め方は、前提をそろえる → 信頼を示す → 動かすの3段階です。

この順序は、今回の問題への対策にも使えます。相手別の話し方を考える前に、全員が戻れる事実をそろえる。次に、根拠と限界を示し、情報を誠実に扱っていることを伝える。そのうえで、相手ごとに話の入り口と次の行動を変えます。この型の背景をさらに知りたい方は、受け手の解釈と信頼の設計の記事も参照してください。

1. 前提をそろえる:事実の共通基盤を先につくる

最初に、相手を想定しない原資料をつくります。ここには、主張一文、根拠となる数値、出典、対象範囲、成立条件、分からないことを置きます。美しいスライドである必要はありません。重要なのは、一つの主張が一つの根拠へ戻れることです。

原資料には、どこまで確かなのかも記録します。「確認済み」「有力な解釈」「仮説」「未確認」を同じ調子で書かないことです。複数の部門が同じ言葉を別の意味で使っている場合は、境界オブジェクトで部門間の認識をそろえる方法のように、言葉の定義と判断条件を一つの共有資料にまとめます。

2. 信頼を示す:根拠と限界を追跡できるようにする

ここでいう信頼は、強く言い切ることや、親しみやすく話すことだけではありません。きちんと調べていると伝えるには、数値や引用の出典を確かめられるようにする。相手を尊重する姿勢を示すには、不都合な条件や分からないことも隠さない。この二つが必要です。「経営層には細部を見せない」と「細部を消す」は違います。本文では一行に縮めても、注記やリンクから原資料へ戻れるようにします。

相手別に表現を変えたら、「専門用語Aを日常語Bへ変更:初回の商談でも理解しやすくするため」「研究の限界を脚注へ移動:削除はしていない」のように、変えた理由を一行で残します。特に、数値、条件、因果関係を示す言葉、「必ず」「可能性がある」といった確かさを表す言葉を変えたときは、必ず見直します。相手が理解できたかどうかと、内容が正しいかどうかは、別々に確かめます。

3. 動かす:事実ではなく入口と次の行動を合わせる

共通基盤と信頼を整えた後で、相手に応じて伝え方を変えます。変えてよいのは、相手がまず知りたいこと、具体例、言葉の専門性、情報の順番、図の詳しさ、次に取ってほしい行動です。変えてはいけないのは、数値の分母、比較条件、引用の意味、因果関係の強さ、当てはまる範囲です。見出しから根拠へ迷わずたどれるようにするには、情報の匂いで設計する文書ナビゲーションも参考になります。

新しい相手向け資料を作るときは、直前の資料をそのまま複製せず、原資料へ戻って必要な事実を選び直します。既存の資料から借りるのは、図や例などの表現に限ります。四半期ごとやサービス内容を変えたときには、各資料を原資料と照らし合わせ、出典切れ、ただし書きの抜け、比喩の独り歩きがないかを点検します。

具体例:同じ試行結果を三者へ説明する

仮に、ある業務支援ツールの小規模試行で、参加者の平均作業時間が短くなったとします。これは説明用の架空例であり、伸滋Designの顧客実績ではありません。

前提をそろえる段階では、「対象20人、4週間、平均作業時間が12%短縮、比較対象となるグループなし、本人の申告を含む」と原資料に記録します。経営層向けには「次の検証に進む価値」を先に置き、12%という数字を投資判断の材料として見せます。現場向けには「どの工程が短くなったか」を図にし、操作が増える負担も示します。技術担当向けには、測定方法と欠けたデータを先に示します。

三つの資料は違って構いません。ただし、どの資料からも「比較対象となるグループがないため、ツールだけが原因とは断定できない」という条件へ戻れなければなりません。経営層向けの「作業時間が12%短縮」を営業資料へ移し、さらに「導入すれば12%短縮」と書き換えた瞬間、伝え方の工夫が事実の変更へ変わります。

信頼を示す段階では、「経営層版:試行継続の判断を先に提示」「現場版:操作負担を追加」「営業版:因果表現を使用しない」と変更理由を残します。動かす段階では、経営層には追加検証の承認、現場には試行条件の確認など、相手に合う次の行動を置きます。次の顧客向け資料は営業版だけから作らず、「20人・4週間・対照群なし」という共通基盤へ戻します。

根拠の限界:企業資料のずれを直接測った研究ではない

ここまでの研究の多くは、よくも悪くも取れる特徴を持つ人物について紹介文を書き、後から好ましい・好ましくないという評価を含めて思い出してもらう実験です。企業の提案書、数値、ブランド表現が、何回の書き換えでどれほどずれるかを直接測った研究ではありません。Saying-is-Believing効果を根拠に「顧客別の資料は危険だから作るべきではない」と結論することもできません。

また、自分とは別の集団に属する相手では効果が生じにくいという初期研究がある一方、その相手が対象に詳しいと見なされた場合には、相手の見方に沿った記憶の偏りが報告されています(Echterhoff, Kopietz & Higgins, 2017)。相手が専門家か一般の人かを変えた研究でも、「この人の判断なら信用できる」と感じることが、その後の記憶にどう影響するかが調べられています(Echterhoff et al., 2019)。単純に「身内だけが危険」「専門家なら正しい」と分けることはできません。

さらに、この効果は他人の人物像だけに限られない可能性があります。自分自身の体験を思い出してもらう研究では、相手の態度、同じ見方を持てたという感覚、相手への信頼が、自分の体験を好意的または否定的に思い出す傾向と関係しました(Boytos & Costabile, 2022)。一方、2025年に発表された3つの研究、合計1,070人の結果では、説明する前に話し手が抱いていた印象も後の記憶に影響しました。しかし、最初の印象が中立だったか、好悪を含んでいたかによって、相手の見方に沿う偏りの強さが変わるという証拠は得られませんでした(Wagner & Echterhoff, 2025)。どんな状況で、どの程度起きるかは、相手との関係、信頼、会話の目的、扱う内容の曖昧さを含めて考える必要があります。

「共通基盤づくり+信頼の設計」を使っても、Saying-is-Believing効果を完全に防げると確かめられたわけではありません。ここで示した資料の管理方法は、この型を実務に当てはめた提案です。実際の組織では、どこを変更したか、条件を示す言葉が抜けていないか、原資料へ戻って確認できたか、見直しで何件のずれが見つかったかを記録し、仕組みが役立っているか確かめてください。

公開前チェックリスト

  • 全員が戻れる原資料が一つに決まっているか
  • 主張ごとに、数値・出典・引用元へ戻れるか
  • 対象範囲、成立条件、分からないことが残っているか
  • 相手向けに変えたのは、順序・例・語彙・強調点か
  • 相関を因果へ、可能性を確実性へ変えていないか
  • 分母、比較条件、期間が相手別の版で欠けていないか
  • 「伝わった」という反応を「正しい」という検証と混同していないか
  • 変更した箇所に、対象者と変更理由が残っているか
  • 新しい資料を、直前の相手別資料だけから複製していないか
  • レビュー担当者が共通の事実と相手別表現を区別できるか
  • 比喩や見出しが、事実そのものとして独り歩きしていないか
  • 公開後に各版を原資料と照合するレビュー日が決まっているか

まとめ:伝わるために変える部分と、守る部分を分ける

相手に合わせない説明は、正確でも届かないことがあります。一方、相手に合わせた説明は、話し手自身の後の記憶や評価にも影響し得ます。必要なのは、言い換えをやめることではありません。前提をそろえ、根拠と限界を示して信頼を築き、事実ではなく話の入り口と次の行動を相手に合わせることです。

複数の顧客、部門、関係者に向けて説明を作り分けるほど、資料は一度作って終わるものではなく、継続して管理するものになります。伸滋Designでは、提案書やブランドを伝える言葉の見た目だけでなく、原資料、相手別の構成、根拠への道筋、各資料の関係まで含めて整理します。自分の場面に合う型を確認したい方は60秒の「伝わる型」診断へ、具体的な資料を相談したい方はお問い合わせをご利用ください。

参考文献

  1. Higgins, E. T., & Rholes, W. S. (1978). Saying is believing: Effects of message modification on memory and liking for the person described. Journal of Experimental Social Psychology, 14(4), 363–378. https://doi.org/10.1016/0022-1031(78)90032-X
  2. Echterhoff, G., Higgins, E. T., & Groll, S. (2005). Audience-tuning effects on memory: The role of shared reality. Journal of Personality and Social Psychology, 89(3), 257–276. https://doi.org/10.1037/0022-3514.89.3.257
  3. Echterhoff, G., Higgins, E. T., Kopietz, R., & Groll, S. (2008). How communication goals determine when audience tuning biases memory. Journal of Experimental Psychology: General, 137(1), 3–21. https://doi.org/10.1037/0096-3445.137.1.3
  4. Echterhoff, G., Higgins, E. T., & Groll, S. (2009). Audience-tuning effects on memory: The role of audience status. Social Psychology, 40(3), 150–163. https://doi.org/10.1027/1864-9335.40.3.150
  5. Kopietz, R., Hellmann, J. H., Higgins, E. T., & Echterhoff, G. (2010). Shared-reality effects on memory: Communicating to fulfill epistemic needs. Social Cognition, 28(3), 353–378. https://doi.org/10.1521/soco.2010.28.3.353
  6. Echterhoff, G., Kopietz, R., & Higgins, E. T. (2013). Adjusting shared reality: Communicators’ memory changes as their connection with their audience changes. Social Cognition, 31(2), 162–186. https://doi.org/10.1521/soco.2013.31.2.162
  7. Echterhoff, G., Kopietz, R., & Higgins, E. T. (2017). Shared reality in intergroup communication: Increasing the epistemic authority of an out-group audience. Journal of Experimental Psychology: General. https://doi.org/10.1037/xge0000289
  8. Echterhoff, G., et al. (2019). Epistemic authority in communication effects on memory. Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 8(4), 439–449. https://doi.org/10.1016/j.jarmac.2019.07.002
  9. Boytos, A. S., & Costabile, K. A. (2022). Audience-tuning effects on perceptions of autobiographical memories. Social Cognition, 40(5), 411–435. https://doi.org/10.1521/soco.2022.40.5.411
  10. Wagner, U., & Echterhoff, G. (2025). Audience tuning effects on communicators’ memory: The role of the communicator’s own initial judgment. Memory, 33(7), 845–860. https://doi.org/10.1080/09658211.2025.2534147

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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