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審査員は申請書のどこを見るか|科研費の評定要素と2段階書面審査から逆算する設計術

「研究の中身には自信がある。それなのに、なぜ落ちたのかが分からない」——科研費の季節になると、こうした声をよく聞きます。書き方を解説した情報は山ほどあるのに、腑に落ちない。理由はシンプルで、多くの解説が書き手の論理で書かれているからです。採否を決めているのは、審査員がどう読み、どういう手続きで点を付けるかという読み手の手続きのほうです。

審査員は「読者」ではなく「採点者」である

科研費の書面審査は、審査員の自由な感想で決まるわけではありません。日本学術振興会は種目ごとに評定基準を公開しており、審査員はそのフォーマットに沿って点を付けます。たとえば基盤研究(B・C)の応募区分「一般」では、合議審査を行わず、同一の審査委員が2段階にわたって書面審査を行う「2段階書面審査」が採られています。

ここに認知科学的な含意があります。採点者の注意は、あらかじめ配分先が決められている。申請書の構造が採点シートの構造とずれていると、審査員は必要な情報を探すことになり、その余分な認知負荷がそのまま評価を押し下げます。書き手が「専門知の呪い」に陥り、自分の頭の中の順序で書いてしまう——これが最大の落とし穴です。

科研費(基盤研究B・C 一般)の2段階書面審査の流れを示した図。1段階目の評定要素ごとの絶対評価、総合評点の相対評価、2段階目の再評価の3ステップ。
科研費(基盤研究B・C/一般)の書面審査は、評定要素ごとの絶対評価 → 総合評点(相対評価)→ 2段階目の再評価という手続きで進む。

評定要素という「採点シート」を先に読む

基盤研究(B・C)一般の評定要素は、大きく2つに分かれています。Aは各項目を4段階(4 優れている/3 良好である/2 やや不十分である/1 不十分である)で絶対評価します。

  • (1)研究課題の学術的重要性:推進すべき重要な課題か。核心をなす学術的「問い」は明確で、独自性・創造性があるか。着想に至る経緯と国内外の研究動向の中での位置づけは明確か。波及効果は期待できるか。
  • (2)研究方法の妥当性:方法は具体的かつ適切か。研究経費は計画と整合しているか。準備状況は適切か。
  • (3)研究遂行能力及び研究環境の適切性:これまでの研究活動から見て遂行能力は十分か。施設・設備・研究資料などの環境は整っているか。
  • B.研究課題の国際性:Aとは独立した評定要素として、別に絶対評価されます。

そのうえで審査員は4段階の総合評点を付けますが、決定的なのはここです。総合評点には評点分布の目安が示されており、「4」は10%、「3」は20%、「2」は40%、「1」は30%。つまり総合評点は相対評価です。良い申請書を書くだけでは足りず、同じ小区分に並んだ中で上位に見える必要がある。

科研費の総合評点の分布の目安を示した横棒グラフ。4が10%、3が20%、2が40%、1が30%。
総合評点には分布の目安がある。「4」は10%。良い申請書ではなく、同じ区分の中で上位に見える申請書が必要になる。

採点シートから逆算する4つの設計

1. 見出しを評定要素に一対一で対応させる

採点者が「学術的重要性」を判断しようとしたとき、その材料が本文の3か所に散っていれば、それだけで不利になります。研究計画調書の様式に沿いつつ、小見出しや太字を使って、(1)(2)(3)に対応する塊がひと目で見つかる状態にする。「目的」と「背景」の書き分けも、突き詰めればこの対応づけの問題です。

申請書の情報が散在しているBEFOREと、評定要素と一対一で対応させたAFTERを比較した図。
様式は変えられなくても、小見出し・太字・図の置き方で「どこに何があるか」は設計できる。

2. 「4は10%」を前提に、比較優位を一点に絞る

上位10%に入るのは、欠点のない申請書ではなく、ひとつの点で明らかに際立っている申請書です。実際、評定基準にも「高い総合評点を付す研究課題は、必ずしも、全ての個別要素において高い評価を得た研究課題である必要はありません」と明記されています。何が新しいのかを一文で言い切り、その一文を審査員が引用できる形で置いておく。

3. 加点を狙う前に、「2」を付けさせない

評定要素で「2 やや不十分である」「1 不十分である」を付けた審査委員は、どの項目が不十分だったかを選択します。さらに1段階目で書かれた審査意見は、2段階目で同じ課題を審査する他の委員にも提示されます。つまり短所は言語化され、共有され、増幅される。「準備状況が書かれていない」「経費の根拠が読み取れない」「遂行能力の裏づけがない」といった、確実に減点される穴を先に塞ぐほうが、期待値は高くなります。

4. 国際性と経費は「別枠」として明示的に書く

国際性は総合評点とは別の評定要素です。本文のどこかに滲ませるのではなく、1〜2文で言い切る場所を作る。経費についても「研究経費の妥当性」は独立した評価項目で、内容に問題があると判断した審査委員が複数いた課題は、平均充足率より低く設定されます。満額で採択されたいなら、積算の根拠が計画から読み取れる状態にしておくことです。

やりがちなNG

  • 「研究費の応募・受入等の状況」欄でアピールしてしまう:この欄と「人権の保護及び法令等の遵守への対応」欄は、総合評点には考慮しないと明記されています(研究資金の重複・集中の判断には使われます)。
  • 全要素で満点を狙い、総花的になる:平均的に良い申請書は、分布上「3」で止まります。
  • 専門用語の密度で重要性を示そうとする:小区分の審査委員が、自分の細分野の専門家とは限りません。難解さは重要性の証明にはならず、認知負荷として作用します。
  • 図を装飾として入れる概念図(ポンチ絵)は、評定要素への回答を圧縮して見せる装置として設計します。

まとめ

申請書は作文ではなく、採点シートへの入力です。評定要素と評点分布という「読み手の手続き」を先に読み、そこから逆算して情報を配置し直す。それだけで、同じ研究内容でも審査員の理解にかかるコストは大きく下がります。

私たちは研究の中身を捏造することも、代筆することもしません。やっているのは、すでにそこにある価値を、審査員が受け取れる形に設計し直す作業だけです。研究者・URA向けの申請書デザイン支援では、この逆算のプロセスを一緒に進めています。不採択からの立て直しについては科研費 不採択からの再挑戦もあわせてどうぞ。

※本稿で触れた審査方式・評定要素・評点分布は、基盤研究(B・C)応募区分「一般」の例です。種目・年度によって内容が異なるため、応募前に必ず最新の公募要領および評定基準をご確認ください。

よくある質問

評定要素や審査方式は、種目によって違いますか?

違います。ここで紹介した2段階書面審査と評点分布は、基盤研究(B・C)の応募区分「一般」などに適用されるものです。基盤研究(A)は書面審査と合議審査を組み合わせた総合審査で、若手研究や挑戦的研究もそれぞれ別の評定基準が定められています。年度によって改訂されることもあるため、応募前に必ず日本学術振興会が公開する最新の公募要領と評定基準(別添)を確認してください。

総合評点が相対評価なら、審査区分(小区分)の選び方も採否に影響しますか?

影響します。総合評点は同じ審査区分の中での比較で付けられるため、「誰と並べられるか」は結果を左右します。ただし、採択されやすそうな区分を狙うより、自分の研究の核心的な問いを最も正しく評価できる審査委員がいる区分を選ぶほうが安全です。区分がずれると、専門外の審査員に前提から説明する必要が生じ、限られた紙幅を背景説明に奪われます。

不採択になった場合、どこまで理由が分かりますか?

1段階目の審査で評定要素に「やや不十分である」「不十分である」を付けた審査委員は、その理由に当たる項目を選択します。この選択結果は、開示を希望した不採択者に開示されます。総合評点の順位区分とあわせて読むと、次回どこを直すべきかがかなり具体的に絞り込めます。

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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