プレゼン・伝え方の型

産学連携で共同研究費を獲得する|企業に「伝わる」研究シーズの見せ方5原則

学会発表では手応えがあった。科研費の審査でも一定の評価を得た。それなのに、企業との面談になった途端、相手の反応が急に鈍くなる——産学連携の現場では、これが驚くほど頻繁に起こります。

原因は研究の質ではありません。企業が研究を「読む」ときの評価軸が、学術の審査員とまったく違うことにあります。同じ研究シーズでも、見せ方の設計を変えるだけで、共同研究の話が前に進むことは珍しくありません。

なぜ、優れた研究ほど企業に伝わらないのか

理由は大きく3つあります。

  • 評価軸のズレ:審査員が見るのは学術的な新規性と意義。企業担当者が見るのは「自社の課題が解けるか」「投資を回収できるか」です。
  • 本当の読み手が、その場にいない:面談相手が納得しても、予算を決裁するのは事業部長や役員です。担当者はあなたの説明を社内で再説明するという仕事を負っています。
  • 専門知の呪い:自分が知っていることは相手も知っているはずだ、という認知バイアスです。1990年にエリザベス・ニュートンが行った有名な実験では、机を叩いて曲を伝える側は「相手の約50%が当てられる」と予想しましたが、実際に正解できたのは2.5%程度でした。伝え手の見積もりは、いつも過大です。

共同研究費につながる「見せ方」5原則

1. 「技術の説明」ではなく「解ける課題」から始める

研究者の自然な語り順は、背景 → 原理 → 成果です。しかし企業側の関心は逆向きで、「うちの、どの困りごとが、どれだけ解決するのか」から始まります。

冒頭の一文を、たとえば「〇〇という新規材料の合成に成功しました」から「歩留まりが数%落ちている工程を、追加設備なしで改善できる可能性があります」に置き換える。技術の中身は同じでも、相手の脳内で処理される「これは自分の話か否か」の判定が変わります。

2. 担当者が社内で「そのまま使える」形にして渡す

共同研究が動くかどうかは、面談の場ではなくその後の社内稟議で決まります。担当者は上司に説明し直さなければならず、そこで情報は必ず劣化します。

だからこそ、渡す資料は「面談用の説明資料」ではなく「稟議に貼り付けられる1〜2枚」として設計します。専門用語には短い言い換えを添え、図は単独で意味が通るようにする。担当者の再説明コストを下げることが、そのまま採否に効きます。

3. 1枚の概念図で認知負荷を下げる

人が同時に処理できる情報量には限界があります(認知負荷理論)。文章だけで技術の位置づけを説明すると、読み手は用語の理解と全体像の構築を同時に強いられ、途中で降ります。

有効なのは、「現状の課題 → 本技術が介入する点 → 得られる効果」を左から右に並べた1枚図です。矢印は1方向、要素は5つ以内、色は2色まで。図解の設計原則は科研費のポンチ絵と共通なので、科研費申請書の概念図(ポンチ絵)の作り方もあわせて参考にしてください。

4. 金額・期間・体制を「先に」出す

金額の話を最後に回す研究者は多いのですが、企業側から見ると、規模が分からない提案は検討そのものを始められません。「いくらか分からない」は「たぶん高い」と解釈されます。

初回提案では、金額・期間・投入する人員(教員/学生/装置)・成果物の4点を早い段階で提示します。金額は研究の価値からではなく、相手が決裁できる範囲から逆算するのが実務的です。1年目は小さく始め、成果が見えた段階で本予算を組んでもらう二段構えは、実際によく機能します。

5. 契約形態を、相手の事情に合わせて選ぶ

共同研究、受託研究、技術指導、寄附——入口の選び方で、決裁の重さも知財の扱いも変わります。仕様が固まっていない探索段階なら共同研究、課題が明確なら受託研究、まず関係を作りたいだけなら少額の技術指導から、といった具合です。

知的財産の帰属や成果公表の可否は形態によって大きく異なり、大学ごとに規程も違います。ここは研究者が単独で判断せず、URA・産学連携本部に必ず先に相談してください。間接経費率や最低受入額を含め、所属機関の最新規程を確認するのが前提です。

やりがちなNG

  • 学会スライドをそのまま持参する:構成が背景から始まっており、企業の関心順と逆です。冒頭2枚を差し替えるだけでも反応が変わります。
  • できることを全部並べる:選択肢が多いほど検討は止まります。相手の課題に直結する1本に絞り、残りは「他にもあります」の一言で十分です。
  • 効果を数字なしで語る:「大幅に改善」は評価できません。試算でよいので、前提を明示したうえで幅を持たせた数字(例:条件次第で〇〇〜〇〇%)を出します。
  • NDA前に核心を話す:特許出願前の公知化は取り返しがつきません。秘密保持の枠組みを先に整えてください。

まとめ

産学連携で共同研究費を獲得する作業は、研究内容を変えることではありません。同じ研究を、企業の意思決定プロセスに合った順序と粒度で並べ直すことです。課題から始め、稟議に耐える形で渡し、1枚図で全体像を示し、金額と体制を先に出す。それだけで、止まっていた話が動くことがあります。

伸滋Designでは、研究者・URAの方向けに、研究シーズを「企業に伝わる形」へ設計し直す支援を行っています(研究者・大学向けサービス)。大学発スタートアップとしての資金調達の順序を整理したい方はスタートアップ支援マップもご覧ください。申請書側の設計については研究計画調書「目的」と「背景」の書き分けが参考になります。なお、代筆や実績の誇張は行いません。あくまで、事実を伝わる形に設計し直すことに徹しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 共同研究費はいくらくらいで提案すればよいですか?

A. 金額は「研究の価値」ではなく「相手が稟議を通せる範囲」から逆算します。企業には決裁権限の区切りがあり、その線を越えると審議の階層が一段増えます。まずは相手が単独で決裁できる規模で1年目を設計し、成果が出た段階で次年度に本格予算を組んでもらう二段構えが現実的です。大学ごとに間接経費率や最低受入額のルールが異なるため、必ず産学連携部門に事前確認してください。

Q. 企業との面談で、研究の新規性はどこまで説明すべきですか?

A. 新規性は「なぜ他社が真似できないか」の根拠としてだけ語り、冒頭には置きません。企業担当者が最初に確認したいのは自社の課題が解けるかどうかで、学術的な新しさはその裏づけです。順序を入れ替えるだけで反応が変わることは多くあります。なお未公開の内容を話す場合は、NDAの締結と特許出願前の公知化リスクの確認を先に行ってください。

Q. 共同研究と受託研究はどう使い分けますか?

A. 目的が「一緒に新しいものを探索する」なら共同研究、「仕様が決まった課題を大学側が請け負う」なら受託研究が基本です。知的財産の帰属や成果の公表可否の扱いが異なるため、研究者が単独で判断せず、URAや産学連携本部と契約形態を相談したうえで企業に提案するのが安全です。制度の詳細や様式は所属機関の最新規程を確認してください。

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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