同じメンバーで臨んだはずなのに、ある日の会議では驚くほど筋のいい結論が出て、別の日にはまるで前に進まない。心当たりのある方は多いと思います。顔ぶれは変わっていません。変わったのは、その日のやりとりの仕方だけです。
こうした差は、長いあいだ「たまたま」や「相性」で片づけられてきました。採用や人事の現場では、いまも「優秀な人を集めれば、チームも優秀になる」という前提が強く働いています。ところが2010年、この前提に正面から疑問を投げかける研究が学術誌『Science』に載りました。それから15年あまり、支持する結果と否定する結果が交互に出ています。
この記事では、集合知(コレクティブ・インテリジェンス)という考え方が何を発見したのか、その後どこまで検証され、どこが揺らいでいるのかを整理します。そのうえで、会議やチーム運営に落とし込める部分だけを取り出します。
集合知(コレクティブ・インテリジェンス)とは何か
集合知(collective intelligence)とは、多様な課題をこなす集団の能力を、ひとつの指標としてとらえる考え方です。研究の世界では記号で「c」と書き、個人の知能を表す「g」と対にして語られます。
「c因子」はどのように見つかったのか
カーネギーメロン大学のアニタ・ウーリーらは、699人を2〜5人の集団に分け、性質の異なる複数の課題に取り組ませました(ウーリーほか, 2010, Science)。ブレインストーミング、視覚パズル、交渉、道徳的判断など、必要な能力が重ならないように選ばれた課題です。
成績を因子分析にかけると、単一の因子が課題成績のばらつきの40%以上を説明しました。因子分析とは、たくさんの測定値の背後にある共通の要素を統計的に取り出す手法です。ここでの「40%以上」は、集団ごとの成績の差のうち4割強が、たったひとつの共通の要素で説明できたという意味になります。
言い換えると、ある課題でうまくいった集団は、まったく種類の違う課題でもうまくいく傾向がありました。研究者はこの共通要素をc因子と名づけました。集合知とは、特定の課題の成績ではなく、多様な課題をこなす集団の力量を指します。
なぜ「優秀な人を集める」だけでは足りないのか
ウーリーらの研究でとくに注目されたのは、c因子と相関していた変数の顔ぶれでした。メンバーの個人知能とc因子の相関は弱く、代わりに集団のふるまいを表す指標が効いていました。
| 要因 | c因子との関係 | 解釈 |
|---|---|---|
| 個人知能の平均・最大 | 相関は弱い | 一番賢い人の能力では集団の成績を説明しきれない |
| 社会的感受性の平均 | 正の相関 | 相手の状態を読み取れるメンバーが多いほど成績が高い |
| 発言量の均等さ | 正の相関 | 発言が一部に偏るほど成績が下がる |
| 女性の比率 | 正の相関 | 社会的感受性の高さを介した間接的な関係 |
表にある「相関」とは、二つの数値が一緒に動く度合いを表す指標です。因果関係を示すものではない点に注意が必要です。発言が均等な集団の成績が高かったとしても、それだけでは「均等にすれば成績が上がる」とまでは言えません。
社会的感受性は何を測っているのか
この研究で使われたのは、心の目テスト(Reading the Mind in the Eyes Test)です。目もとだけを写した写真を見て、その人の心の状態を選択肢から選びます(バロン=コーエンほか, 2001, Journal of Child Psychology and Psychiatry)。相手の気持ちを推し量る力を、ある程度客観的に測ろうとする課題です。
この指標が集団の成績と結びついていたことは、心理的安全性の研究とも重なります。相手の状態が読める人が多い集団では、言いにくいことが言える空気が生まれやすいと考えられます。
発言が一人に偏った集団は成績が落ちていた
発言ターンの分布が偏っていた集団ほど、c因子が低いという結果が出ています。会議を仕切る立場の人ほど、この点は気になるところだと思います。声の大きい一人が場を支配すると、他のメンバーが持っている情報が場に出ないまま終わります。
集団の成績を下げるのは、能力の不足よりも、能力が場に出てこないことです。この観点は、内向的なリーダーのチームがなぜ成果を出すのかという議論ともつながります。部下が積極的に動くチームでは、リーダーが話しすぎないほうが結果が良かったという報告があります。
この発見はどこまで信用できるのか
2010年の結果は大きく報じられ、チームづくりの文脈で広く引用されました。ただし、その後の検証は一枚岩ではありません。支持する結果と否定する結果の両方が出ています。
反証:集団の差の8割は個人IQで説明できたという研究
エディンバラ大学のティモシー・ベイツとシヴァニ・グプタは、3つの研究で312人を対象に同じ枠組みを検証しました(ベイツ&グプタ, 2017, Intelligence, 60, 46-56)。結果は元の研究と食い違いました。
集団の成績差のおよそ80%は、メンバー個人の知能で説明できたと報告されています。女性比率、発言の均等さ、社会的感受性のいずれも、集団の成績を予測しませんでした。この論文の主張は明快です。集団の知性の正体は、そこにいる個人の知性だというものです。
再検証:22研究・5,349人のメタ分析
これに対して、ノースイースタン大学のクリストフ・リードルらは、22の研究をまとめ直しました(リードルほか, 2021, PNAS, 118(21))。対象は1,356集団・5,349人です。メタ分析とは、個々の研究結果を統計的に統合し、より安定した推定値を得る手法を指します。
報告された数値は次のとおりです。課題どうしの平均相関は0.27(範囲0.12〜0.50)、単一因子への負荷は0.26〜0.52でした。さらに、8課題のうち1つを除いて残り7課題からc因子を推定し、除いた課題の成績を予測させたところ、相関は平均0.39(範囲0.26〜0.53)になりました。
実務に近い形の推定も示されています。c因子が1標準偏差高い集団は、課題成績がおよそ18%高くなるという計算です。ただし誤差はプラスマイナス11%程度とされ、幅の広い推定である点は押さえておく必要があります。
ただし、この論文には訂正が入っている
2022年、著者らはこの論文に訂正を出しています(PNAS, 2022, 訂正記事)。統計ソフトの不具合により、補遺に記載した平均分散抽出(AVE)の値が誤っていたという内容です。44%とされていた数値は、19.6%に修正されました。
平均分散抽出とは、共通因子が各測定値の情報をどれだけ拾えているかを示す指標です。一般には50%が目安とされます。19.6%はそれを大きく下回ります。因子構造そのものは統計的に支持されていますが、c因子が集団の成績のすべてを説明するわけではありません。
集合知因子は「存在する」と言える程度には支持されているものの、その説明力は当初報じられたほど大きくありません。
課題の種類によって、効くものが入れ替わる
支持と反証が食い違う理由について、リードルらは説得力のある説明を示しています。集団の成績を決める要因は、課題の種類によって入れ替わるというものです。
この研究では、成績の説明要因を機械学習の手法で分解しています。数独のように「正しい答えを選ぶ」課題では、説明された分散の51%以上が個人のスキルによるものでした。一方、単語の並べ替えのように「協力して手を動かす」課題では、55%が集団のやりとりの質によるものでした。
この違いは、日々の仕事にそのまま当てはまります。仕様の細部を詰める作業では、詳しい一人がいれば話は早く進みます。新しい方向性を出す会議では、詳しい一人がいるだけでは足りません。
アイデアを出す仕事ほど、集団のやりとりの質が成果を左右します。逆に、答えが一つに決まる仕事で全員の合意を取ろうとすると、時間ばかりかかります。決まらない会議が生まれる構造の一因も、ここにあります。
明日の会議に落とし込む4つの設計
ここまでの内容から、実務で試せる形に絞って整理します。効果の大きさには幅があるため、まずは小さく試すことをおすすめします。
1. 発言量をざっくり記録する
誰が何分話したかを、司会がメモしておくだけで構いません。数字にすると、体感とのずれに気づきます。発言の偏りとc因子の関係は相関にとどまりますが、場に出ていない情報があるという事実は、それだけで対処に値します。
2. 口を開く前に、まず書く
ブレインストーミングについては、意外な結果が積み重なっています。ミューレンらは、それまでの実験をまとめ、集団で口頭で発想した場合の生産性が、同じ人数が個別に考えた場合を下回ることを示しました(ミューレン、ジョンソン&サラス, 1991, Basic and Applied Social Psychology, 12, 3-23)。アイデアの数で相関0.57、質で0.56と、いずれも大きな差でした。
効果量とは、差の大きさを標準化した指標です。ここでの0.57は、集団で話しながら出す方式が明確に不利だったことを意味します。しかも集団が大きいほど、この差は開いていました。
最初の5分を無言の書き出しに充て、そのあと共有する。この順序を変えるだけで、案の数は増えます。
3. ずっとつながらない
ハーバード・ビジネス・スクールのイーサン・バーンスタインらは、複雑な問題を解く集団を3条件で比べました(バーンスタイン、ショア&レイザー, 2018, PNAS, 115(35), 8734-8739)。常に情報交換する条件、まったくしない条件、断続的に交換する条件です。
常に交換した集団では、平均点は上がるものの、最良の解が失われていきました。全員が同じ答えに引き寄せられるためです。まったく交換しない集団は、最良の解は残るものの、平均点が低いままでした。断続的に交換した集団だけが、両方を保ちました。
会議の途中に単独作業の時間を挟む。あるいは、常時接続のチャットを一日中つないだままにしない。この程度の運用でも、狙いは同じ方向を向いています。
4. 共通の下敷きを置く
やりとりの質を上げるには、話の土台をそろえる必要があります。同じ図や表を目の前に置いて話すと、言葉のずれが目に見える形で表面化します。境界オブジェクトの考え方は、この場面でそのまま使えます。
よくある質問
集合知は、いわゆる「三人寄れば文殊の知恵」と同じですか
近い発想ですが、研究上の集合知はもっと限定的です。人数が増えれば知恵が増えるという主張ではありません。むしろ、口頭で発想する集団は個別に考えた場合より生産性が落ちるという結果が、1991年のメタ分析で示されています。集まること自体に効果があるわけではなく、集まり方が問われます。
チームの集合知は測定できますか
研究の枠組みでは測定できます。複数の課題を実施し、その成績から因子を推定する方法です。ただし実務でそのまま使うには、課題の実施に時間がかかります。また、この因子が測定値の情報をどれだけ拾えているかを示す指標は19.6%と報告されており、決め手になる数字ではありません。まずは発言量の偏りなど、観察できる指標から始めるほうが現実的です。
「女性が多いチームのほうが成績が良い」ということですか
そう単純ではありません。2010年の研究でも2021年のメタ分析でも、女性比率と集合知の関係は、社会的感受性を介した間接的なものとされています。性別そのものが原因ではなく、相手の状態を読み取る力の平均値が高い集団の成績が良かった、という構造です。さらに2017年のベイツらの研究では、この関係自体が再現されませんでした。
個人の能力を高めるのは無駄なのでしょうか
無駄ではありません。リードルらの分析でも、個人のスキルは集合知を予測する要因のひとつでした。答えが一つに決まる作業では、個人の力量のほうが大きく効きます。個人の能力とやりとりの質は、対立する話ではなく、課題によって配分が変わる話です。
オンライン会議でも同じことが言えますか
ここは意見が分かれています。エンゲルらの2014年の研究では、文字だけのやりとりでも対面と同じように予測できたと報告されています。一方、バーロー&デニスの2016年の研究では、仮想集団で単一因子が現れませんでした。オンライン会議に一般化するには、まだ根拠が足りません。
まとめ
集合知の研究が示しているのは、賢い人を集めれば賢いチームになるとは限らない、という控えめな事実です。個人の能力とは別に、集団の中でのふるまいが成果に効いています。ただしその効き方は課題の種類によって変わり、効果の大きさをめぐる議論も続いています。
この記事の要点を整理します。
- 集合知(c因子)は、多様な課題をこなす集団の力量を表す統計的な指標です。
- 2010年の研究では、社会的感受性の平均、発言量の均等さ、女性比率と相関しました。
- 2017年には、個人IQで8割説明できるとする反証も出ています。
- 2021年の22研究・5,349人のメタ分析は因子の存在を支持しましたが、翌年に説明力の数値が44%から19.6%へ訂正されました。
- アイデアを出す課題ではやりとりの質が、答えを選ぶ課題では個人のスキルが効きます。
次の一歩として、まずは直近の会議を一つ選び、誰が何分話したかを記録してみてください。数字を見てから、書き出しの時間を5分だけ足す。この二つだけでも、場に出てくる情報の量は変わります。
チームの意思決定や情報共有の設計を、外の視点から一緒に組み立て直したい方は、社外CSOとしての伴走もご検討ください。
出典
- Woolley, A. W., Chabris, C. F., Pentland, A., Hashmi, N., & Malone, T. W. (2010). Evidence for a Collective Intelligence Factor in the Performance of Human Groups. Science, 330(6004), 686-688. 論文ページ
- Riedl, C., Kim, Y. J., Gupta, P., Malone, T. W., & Woolley, A. W. (2021). Quantifying collective intelligence in human groups. PNAS, 118(21), e2005737118. 論文ページ
- Correction for Riedl et al., Quantifying collective intelligence in human groups (2022). PNAS, 119(23), e2204380119. 訂正記事
- Bates, T. C., & Gupta, S. (2017). Smart groups of smart people: Evidence for IQ as the origin of collective intelligence in the performance of human groups. Intelligence, 60, 46-56. 論文ページ
- Bernstein, E., Shore, J., & Lazer, D. (2018). How intermittent breaks in interaction improve collective intelligence. PNAS, 115(35), 8734-8739. 論文ページ
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- Baron-Cohen, S., Wheelwright, S., Hill, J., Raste, Y., & Plumb, I. (2001). The “Reading the Mind in the Eyes” Test Revised Version. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 42(2), 241-251. 論文PDF
- Engel, D., Woolley, A. W., Jing, L. X., Chabris, C. F., & Malone, T. W. (2014). Reading the Mind in the Eyes or Reading between the Lines? Theory of Mind Predicts Collective Intelligence Equally Well Online and Face-To-Face. PLOS ONE, 9(12), e115212.(URL未確認のためリンクなし)
- Barlow, J. B., & Dennis, A. R. (2016). Not As Smart As We Think: A Study of Collective Intelligence in Virtual Groups. Journal of Management Information Systems, 33(3), 684-712.(URL未確認のためリンクなし)
- Credé, M., & Howardson, G. (2017). The structure of group task performance: A second look at “collective intelligence”. Journal of Applied Psychology, 102(10), 1483-1492.(URL未確認のためリンクなし)
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