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科研費申請書の提出前チェックリスト|審査員の読み方を再現する「3回読み」で構造の欠陥を見つける

申請書を書き上げた直後は、じつは一番危ない時間です。何度も読み返しているのに、審査員が最初に引っかかる欠陥ほど自分では見えなくなっています。この記事では、提出前の1週間で審査員の読み方を再現し、構造の欠陥を自分で見つけるための「3回読み」チェックを紹介します。科研費(若手研究・基盤研究)だけでなく、学振や財団助成にも使える手順です。

なぜ書いた本人には欠陥が見えないのか

理由は二つあります。一つは認知科学でいう「専門知の呪い」。研究内容を知りすぎているため、説明が飛んでいても頭の中で補完してしまい、飛びに気づけません。もう一つは、自分の文章を読むとき脳は「読む」のではなく「思い出す」ということです。目は行を追っていても、意味は記憶から取り出しているので、書いてない情報まで書いてある気になります。

一方、審査員は数十件の申請書を限られた時間で読みます。500件超の産学連携や申請書支援の現場で見てきた限り、審査員の読み方は速い順に三段階あります。まず概要欄と概念図で「何の研究か」をつかむ数十秒の読み。次に見出しと太字と図だけを拾って評定要素の答えを探す数分の読み。最後に有望な申請書だけ本文をじっくり読む段階です。書いた本人の「思い出し読み」は、この三段階のどれとも違います。だからこそ、読む速さを意図的に変えて審査員を再現する必要があります。

審査員の読み方を再現する「3回読み」 1回目:10秒読み概要と概念図だけ2回目:3分読み見出し・太字・図だけ3回目:全文音読主語・初出用語・逃げ言葉 読む速さを変えると、見える欠陥が変わる
図1:速い読み→中くらい→遅い読みの順で、審査員の3つの読み方を再現する

提出前1週間でやる「3回読み」

1回目:10秒読み──概要と概念図だけを見る

本文を隠し、概要欄と概念図だけを10秒眺めて、「この研究は、何を、なぜ、どうやって明らかにするのか」を口に出して言ってみてください。言えなければ、概要欄の1〜2文目が結論になっていないか、図が「装置の絵」になっていて主張が描かれていないかのどちらかです。概念図の設計はポンチ絵の作り方で詳しく扱っています。

2回目:3分読み──見出し・太字・図だけを拾う

次に、本文の地の文を読まずに、見出し・太字・図のキャプションだけを3分で追います。ここでやるのは、評定要素(学術的重要性、研究計画の妥当性、研究遂行能力など。種目ごとの要素は審査員は申請書のどこを見るかを参照)ごとに、「答えはここ」と指させるかの確認です。指させない要素があるなら、本文の中身が良くても審査員には届いていません。

評定要素と「答えている場所」のチェック表 評定要素3分読みで「指させる」か判定学術的重要性概要欄の1〜2文目で言えているか妥当性(計画)方法の各段階に「何を・いつまでに」があるか遂行能力業績が「この計画をできる証拠」として並ぶか読みやすさ図なし・見出しなしの1ページが続いていないか× 指させない要素があれば、そこが構造の欠陥
図2:3分読みで各評定要素の答えを指させるかを確認する減点表

3回目:全文音読──文単位の欠陥を拾う

最後に全文を声に出して読みます。音読は「思い出し読み」を強制的に壊す方法で、次の三つが浮かび上がります。主語のない文(「〜を検討する」の主体が不明)、初出で説明のない専門用語や略語、「〜など」「〜等」で具体を逃げている箇所です。読んでつっかえた場所は、審査員も同じ場所でつまずきます。

可能なら「分野外の人の10秒読み」を足す

研究室の同僚ではなく、隣の分野や事務職員など研究内容を知らない人に、概要欄と概念図だけ見せて要約してもらいます。返ってきた要約が自分の意図とずれていれば、ずれた部分が専門知の呪いの正体です。直すのは相手ではなく申請書です。

やりがちなNG

  • 前日に大改稿する──構造を動かすと参照のずれや文字数超過が連鎖し、直せないまま提出になります。構造の点検は1週間前までに。
  • 校正だけして満足する──誤字を直しても、10秒読みで何の研究か分からない申請書は変わりません。順番は「構造→段落→文字」です。
  • 太字を増やして対処する──全部を強調すると、3分読みの手がかりが消えます。太字は評定要素の答えになる一文だけに絞ります。
締切までの日数と「直せる範囲」 1週間前構造を組み替えられる3日前段落・図の差し替えまで前日誤字と体裁だけ直せる範囲締切が近づくほど、直せるのは表面だけになる 3回読みは「構造を直せるうち」=1週間前に済ませる
図3:締切に近づくほど直せる範囲は痩せる。構造の点検は1週間前が最後の機会

まとめ

提出前チェックの目的は誤字探しではなく、「審査員の読み方」を自分の申請書に当ててみることです。10秒・3分・全文音読の3回読みで、それぞれ違う深さの欠陥が見えます。直せる範囲は締切が近づくほど痩せるので、構造に関わる点検は1週間前に済ませ、残りの日数は段落と体裁に使ってください。なお、公募要領の締切や様式は年度で変わるため、必ず最新の公式情報を確認してください。

伸滋Designでは、研究内容の代筆や捏造は一切せず、審査員の読み方から逆算した「伝わる形への設計」に徹しています。提出前の第三者チェックが必要な方は研究者向けの支援ページをご覧ください。

よくある質問

提出前に誰かに読んでもらう時間がありません。一人でもできますか?

できます。ポイントは「時間を空ける」ことです。書き上げてから最低一晩、できれば2日置いてから10秒読みをすると、記憶による補完が弱まり、初見に近い目で読めます。印刷して紙で読むのも有効です。

3回読みで構造の欠陥が見つかりましたが、締切まで3日しかありません。

全面改稿は避け、「概要欄の書き直し」と「見出しの付け直し」に絞ってください。審査員の10秒読み・3分読みで見える部分だけを直せば、構造の弱さを目立たなくできます。本文の中身はそのままで構いません。

伸滋Designでは申請書の校正もしてもらえますか?

誤字脱字の校正ではなく、審査員の読み方から逆算して「どこで何を伝えるか」を設計し直す支援をしています。研究内容の代筆や捏造は行いません。詳しくは研究者向け支援ページをご覧ください。

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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