採用会議で、営業、現場、人事の三人が候補者を比べているとします。三人とも知っている経歴や面接評価は何度も話題になります。一方、現場担当だけが聞いた「繁忙期の対応経験」や、人事だけが確認した「入社条件の食い違い」は、一度も口にされないまま結論が出るかもしれません。
この会議に情報が足りないわけではありません。必要な情報は、参加者の誰かが持っています。それでも、全員が知っている話ほど繰り返され、一人だけが知る重要な事実ほど議論から抜け落ちることがあります。集団意思決定の研究では、この状況を隠れたプロフィール問題と呼びます。
しかも、2026年に発表された研究は、重要情報を持つ人が新しく加わったメンバーだと、チームが正しい結論へ届きにくくなる可能性を示しました。多様な人を会議へ呼ぶだけでは、知識は自動的に共有されません。必要なのは、発言力に期待することではなく、情報が表に出る手順と資料です。
結論:意見を集める前に、情報を集める
隠れた情報を拾うために、会議では次の順序を守ります。
- 判断の問いと基準を先にそろえる:何を決める会議か、どの条件で比べるかを明示する
- 各自だけが持つ事実を先に出す:重複する説明より、「他の人が知らない可能性があること」を優先する
- 出典と不確かさを付ける:誰が言ったかではなく、何をどの条件で確認したかを残す
- 選好や投票は最後にする:冒頭の挙手で多数派を作らず、情報を並べてから判断する
発言時間を均等にするだけでは足りません。共有された情報が、比較表や判断基準へ実際に組み込まれる必要があります。会議の目的は、全員が話すことではなく、参加者の持つ知識を結論に使える形へ変えることです。
「隠れたプロフィール問題」とは何か
隠れたプロフィールとは、一人ひとりが見ている情報だけでは最善案が分からないものの、全員の情報を合わせると最善案が見える課題です。たとえば三つの製品を選ぶとき、各参加者には共通資料に加えて、それぞれ異なる検証結果が渡されます。個人の手元ではA案がよく見えても、固有情報を集めればC案が最も条件に合う、といった状態です。

1985年、StasserとTitusは候補者を選ぶ模擬会議を使い、この問題を調べました。参加者へ渡された情報は偏っており、各自の資料だけを読むと最善ではない候補を選びやすい一方、全員の情報を合わせれば別の候補が最善だと分かるように設計されていました。
ところが議論では、参加者全員が最初から知っていた情報と、各自の初期判断を支持する情報が中心になりました。会議を開けば情報が自然に統合される、という期待は外れたのです。問題は「発言しない人がいる」ことだけではありません。何が議論に選ばれ、何が判断材料として評価されるかにも偏りがあります。
科学的根拠:共有情報は二つの意味で有利になる
話題に上る機会が多い
全員が知る事実は、誰からでも発言できます。一人だけが知る事実は、その人が話さなければ会議に存在しないのと同じです。共有情報には、単純に話題へ上る抽選券が多くあります。さらに、一度出た話を別の人が言い直せば、議論時間の中で占める割合も大きくなります。
Lu、Yuan、McLeodによる2012年のメタ分析は、65研究、101の独立した効果、3,189グループをまとめました。グループは、固有情報より共通情報を大幅に多く口にしていました。著者らの報告では、その差は標準偏差に換算して約2でした。また、情報が最初から全員に与えられたグループに比べ、分散して与えられたグループは正解へ届く可能性が約8分の1でした。
重要なのは、固有情報が議論全体の何割を占めたかだけでなく、利用できる固有情報のうち何割を拾えたかです。同じ珍しい情報を繰り返しても、残りが抜けたままなら判断は改善しません。
「みんなも知っている」が信頼の手掛かりになる
共有情報を口にすると、他の参加者が「そうですね」と応じられます。この反応は、発言内容が確かなものだという感覚と、話し手が有能だという印象を生みやすくします。反対に、固有情報はその場で照合できる人が少なく、沈黙や疑問を向けられやすくなります。
これは、固有情報が正しいという意味ではありません。誰も知らない話ほど、出典、測定条件、確認日が必要です。しかし、会議中に同意が得られないことと、証拠が弱いことは別です。反応の多さではなく、検証できる根拠で扱いを決めます。
最初の好みが、その後の注意を狭める
MojzischとSchulz-Hardtは4つの実験で、議論の初めに他の人の好みを知ると、隠れたプロフィールを解く成績が下がることを示しました。他者の選好を知った参加者は、交換された情報への注意が弱くなっていました。対面で話し合う三人組でも同じ傾向が再現されています。
「まず直感で投票し、後から理由を聞く」は活発な会議に見えますが、最初に多数派を可視化してしまいます。その後に出る事実が、案を検討する材料ではなく、賛成と反対の武器として扱われやすくなります。情報を集める時間と、案を支持する時間を分ける必要があります。
反対意見と専門担当は、条件がそろえば役立つ
Schulz-Hardtらは、135組の三人グループに人材選考課題を解かせました。会議前の好みが全員同じだったグループは、隠れたプロフィールをほとんど解けませんでした。一方、最初の好みに食い違いがあると解決率は高まりました。正解案を支持する人がいない場合でも、意見の不一致には一定の効果がありました。
ただし、「反対役を一人置けばよい」と単純化はできません。この研究で効いたのは、実際に異なる情報から生じた好みの違いです。形だけの反対や、結論を遅らせるための反論とは異なります。異論を出した人に理由と情報を尋ね、判断表へ残して初めて価値が生まれます。
Stasser、Stewart、Wittenbaumの実験では、誰がどの候補について追加情報を持つかをメンバー全員が知っていると、固有の手掛かりが多く話され、正しい容疑者を選ぶグループが増えました。個人へ「あなたはこの領域に詳しい」と知らせるだけでは同じ改善が見られませんでした。担当者名を資料に書くだけでなく、全員が「どの論点を誰から聞くべきか」を共有する必要があります。
これは、既存のトランザクティブ・メモリーの記事で扱った「誰が何を知っているか」とつながります。本稿では、知識の所在を把握した次に、その知識を会議へ出し、判断へ使う部分に焦点を当てます。
新人の情報は、さらに埋もれやすい
Phlegarらが2026年に発表した研究では、370組、計1,110人がオンラインで採用候補を選ぶ課題に取り組みました。二人が先に短い会話をした後、三人目が加わります。最善の候補を見抜くために必要な固有情報を、先にいた人が持つ場合と、新しく加わった人が持つ場合が比べられました。
重要情報を新参者が持つチームは、先にいた人が持つチームより正しい決定が少なくなりました。新参者は、会話相手の言葉遣いと合わせる度合いが弱く、課題をめぐる対立も強く感じていました。研究者は地位を高く見せる操作も試しましたが、明確な改善を確認できませんでした。
ここから「新人の話は信じられない」と結論づけるのは逆です。短い関係ができただけでも、情報の持ち主によって採用され方が変わった可能性があります。異動者、外部専門家、顧客の声を持ち帰った担当者など、関係の外側から来た人の情報ほど、個人の説得力に任せず、議題と資料に居場所を作る必要があります。
「視覚化・構造化」で、情報を先に並べる
伸滋Designの伝わる設計マップにある「視覚化・構造化」を使い、頭の中と個人資料に散らばる情報を一枚へ出します。重要なのは、会議の結論を先に書くことではありません。この場面では、結論を決めるための材料を、持ち主から切り離して比べられる形にすることが目的です。
会議前:一人ずつ、重複を気にせず提出する
会議の前に、参加者へ同じ入力欄を渡します。「どの案がよいですか」ではなく、次の問いに答えてもらいます。
- 他の参加者が知らない可能性がある事実は何か
- どの判断基準に関係するか
- 何を見て、いつ、どの条件で確かめたか
- どの案に有利・不利か。まだ分からないなら何が未確認か
同時編集の場で書き始めると、先に見えた回答へ引っ張られます。最初は個別に提出し、進行役が重複と固有情報を整理します。発言が得意かどうかに関係なく、会議へ材料を持ち込めます。
会議中:事実、出典、解釈を分けて表示する
意思決定表は、賛成意見と反対意見を並べるだけでは不十分です。少なくとも次の列を用意します。
| 判断の論点 | 事実・観察 | 情報の保有者 | 出典・確認条件 | 案への影響 | 未確認事項 |
|---|---|---|---|---|---|
| 導入後の運用負荷 | 繁忙期は問い合わせが通常月の約2倍 | 顧客支援担当 | 前年同月の受付記録 | B案の人員計画を再確認 | 自動化後の削減幅 |
| 安全要件 | C案は監査報告書の対象範囲が異なる | 情報管理担当 | 最新版の報告書 | 単純比較できない | 追加監査の要否 |
| 顧客の移行期限 | 主要顧客は年度内の切り替えを希望 | 営業担当 | 商談記録 | 納期を重く評価 | 契約上の必須条件か |
表の数値は説明用の仮例です。実際には確認できる記録を使います。「情報の保有者」は責任追及のためではなく、質問の行き先を示す列です。発言者の肩書と証拠の強さを混ぜないため、出典と条件を別に置きます。
部門ごとの言葉の違いも大きい場合は、境界オブジェクトで認識をそろえる方法も参考になります。同じ表を見ていても、「リスク」「完了」「品質」の意味が違えば、情報は統合できません。
判断時:一案を選ぶ前に、全案を順位づけする
Hollingsheadの実験では、「最善案を一つ選ぶ」よう求められたグループより、選択肢を順位づけるよう求められたグループのほうが、不人気な案の情報まで交換し、正しい決定へ届きやすくなりました。ただし、この効果は対面グループで見られ、コンピューターを介したグループでは確認されませんでした。
実務では、最初から一案に絞らず、すべての案について「満たす条件」「満たさない条件」「未確認」を埋めます。その後で暫定順位を出し、順位を変え得る未確認事項だけを追加調査します。比較項目の分け方が判断を動かす問題は、区分依存から考える比較表の設計で詳しく解説しています。
よくある対策が効かない理由
「全員、一回ずつ話してください」
発言機会は増えますが、全員が共通情報を話すこともできます。順番ではなく、「まだ表にない事実」「判断を変え得る事実」を求めます。アイデア会議での発言待ちについては、ブレーンライティングの記事と問題を分けて考えてください。
「資料は共有フォルダに置きました」
読める状態と、判断に使える状態は違います。資料が増えるほど、全員が見た概要資料だけに議論が戻りやすくなります。原資料のリンクに加え、どの判断基準へ関係し、どの結論を変え得るかを表へ書きます。
「最初に仮投票して論点を絞ります」
論点が早く見える利点はありますが、隠れたプロフィール課題では、初期選好が情報への注意を弱めるおそれがあります。仮投票をするなら、情報を集めた後に行い、投票前後で順位が変わった理由を記録します。
「表を作れば客観的になります」
表も中立ではありません。重要な列がなければ、固有情報は載りません。Coffengらが役員141人、47グループで行った実験では、最善案を選べたのは約5分の1でした。二つの議論手順は、十分に検討したという参加者の感覚を高めましたが、客観的な決定の質は改善しませんでした。整った手順への満足を、良い判断の証拠にしないことが大切です。
研究を実務へ使うときの限界
隠れたプロフィール研究の多くは、採用候補、事件の容疑者、投資案など、研究者が最善解を決められる課題を使っています。現実の経営判断では、情報が不完全なだけでなく、目標そのものが対立し、後になるまで正解が分からないこともあります。メタ分析の数字を、そのまま自社の会議の失敗率として扱うことはできません。
また、固有情報を多く話せば必ず良い決定になるわけではありません。誤った観察、古いデータ、特殊な一例も固有情報です。Mesmer-MagnusとDeChurchが72研究、4,795グループ、17,279人をまとめたメタ分析では、情報共有はチームの成果、結束、決定への満足、知識統合と関係していましたが、課題の種類、議論の構造、情報共有の捉え方で関係の強さは変わりました。
Luらのメタ分析では、対面かコンピューター経由かという違いだけでは、固有情報の共有や決定の質に明確な差がありませんでした。「対面に戻す」「新しい会議ツールを入れる」だけで解決するとは限りません。媒体よりも、何を出し、どの順で評価し、どう記録するかを設計します。
本稿の方法は、研究を実務へ移すための仮説です。導入後は、共有された固有情報の数だけでなく、最終判断で引用されたか、未確認事項が減ったか、決定後の手戻りが減ったかを確かめてください。
会議資料のチェックリスト
- 何を決める会議かを一文で書いた
- 判断基準を、案への賛否より先に決めた
- 会議前に各参加者から個別に情報を集めた
- 「他の人が知らない可能性がある事実」を尋ねた
- 事実、出典、解釈、未確認事項を別の列にした
- 誰がどの論点に詳しいかを全員が確認できる
- 新人、外部専門家、少数意見の情報にも同じ記入欄がある
- 会議冒頭で支持案や仮投票を公開していない
- 一案に絞る前に、全案の長所・短所・未確認を埋めた
- 繰り返された回数と、証拠の強さを混同していない
- 異論の理由となる情報を判断表へ残した
- 最終判断を変えた情報と、使わなかった情報を記録した
まとめ:多様性は、情報が使われて初めて力になる
会議に異なる部門や専門家を集めても、全員が知る話だけを繰り返せば、知識の幅は判断へ届きません。共有情報は話題に上る機会が多く、同意も得やすいため、一人だけが持つ事実より有利です。最初の多数意見や、新参者という立場が加わると、重要情報はさらに埋もれる可能性があります。
対策は、声の大きさをそろえることだけではありません。「視覚化・構造化」によって、個別に集めた事実を出典、条件、案への影響とともに一枚へ並べます。情報を集め終えるまで選好を公開せず、全案を比べてから決めます。
伸滋Designでは、部門横断会議、提案審査、研究開発の意思決定で、埋もれている専門情報を比較できる資料と図解へ整えています。会議には詳しい人がいるのに、結論がいつも同じ声へ引っ張られる場合は、お問い合わせページからご相談ください。
参考文献
- Stasser, G., & Titus, W. (1985). Pooling of Unshared Information in Group Decision Making: Biased Information Sampling During Discussion. Journal of Personality and Social Psychology, 48(6), 1467–1478.
- Stasser, G., Stewart, D. D., & Wittenbaum, G. M. (1995). Expert Roles and Information Exchange During Discussion: The Importance of Knowing Who Knows What. Journal of Experimental Social Psychology, 31(3), 244–265.
- Hollingshead, A. B. (1996). The Rank-Order Effect in Group Decision Making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 68(3), 181–193.
- Schulz-Hardt, S., Brodbeck, F. C., Mojzisch, A., Kerschreiter, R., & Frey, D. (2006). Group Decision Making in Hidden Profile Situations: Dissent as a Facilitator for Decision Quality. Journal of Personality and Social Psychology, 91(6), 1080–1093.
- Mojzisch, A., & Schulz-Hardt, S. (2010). Knowing Others’ Preferences Degrades the Quality of Group Decisions. Journal of Personality and Social Psychology, 98(5), 794–808.
- Mesmer-Magnus, J. R., & DeChurch, L. A. (2009). Information Sharing and Team Performance: A Meta-Analysis. Journal of Applied Psychology, 94(2), 535–546.
- Lu, L., Yuan, Y. C., & McLeod, P. L. (2012). Twenty-Five Years of Hidden Profiles in Group Decision Making: A Meta-Analysis. Personality and Social Psychology Review, 16(1), 54–75.
- Coffeng, T., van Steenbergen, E. F., de Vries, F., & Ellemers, N. (2021). Quality of Group Decisions by Board Members: A Hidden-Profile Experiment. Management Decision, 59(13), 38–55.
- Phlegar, S. E., del Rosario, K. S., Dumitru, O. D., et al. (2026). Teams Perform Worse When Newcomers Hold Critical Information Than When Original Group Members Do. Communications Psychology.
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