聞き手の心理・行動

確証バイアスとは?「見たい情報しか見ない」の効果量と、それが逆転する条件

役員会に出す資料に、リスクの章をきちんと入れました。数字も根拠も添えました。それでも会議では、追い風になるページばかりが読まれて終わる。こうした場面は「説明が足りないからだ」と片づけられがちです。だからもっと丁寧に、もっと詳しく書こうとします。ところが、人が情報をどう選び、どう読むかを調べた研究を並べると、話はそれほど単純ではありませんでした。約8,000人分のデータを統合したメタ分析は、偏りの大きさだけでなく、その偏りが消える条件まで示しています。提案が通らない理由を、精神論ではなく設計の問題として扱いたい方に向けた記事です。

確証バイアスとは? 情報を「探すとき」と「読むとき」の両方に効く偏り

確証バイアス(confirmation bias)とは、すでにもっている考えを支持する情報を優先してしまう傾向です。探す段階でも、解釈する段階でも働きます。心理学者のレイモンド・ニッカーソンは、1998年にこの分野のレビュー論文を発表しました。そのなかで確証バイアスは、領域を超えて広く観察される頑健な現象だとまとめられています。

ここで押さえておきたい点があります。確証バイアスは、ひとつの働きではありません。少なくとも二段階に分かれています。

「選ぶ」段階と「読む」段階は別物です

ひとつめは、そもそもどの情報に触れるかを選ぶ段階です。これは選択的接触(selective exposure)と呼ばれます。自分の考えに沿う記事を開き、そうでない記事は閉じる。この段階の偏りです。

ふたつめは、同じ情報を受け取った後に、それをどう評価するかの段階です。こちらは偏った同化(biased assimilation)と呼ばれます。自説に合う証拠は「よくできている」と感じ、合わない証拠は「方法に問題がある」と感じる。同じ紙を読んでいるのに、評価が割れます。

提案が通らないとき、どちらの段階でつまずいているのかで打ち手はまったく変わります。資料を読んでもらえていないなら選ぶ段階の問題です。読んだうえで納得されないなら読む段階の問題です。以下では、それぞれについて数値のある研究を見ていきます。

人はどれくらい「都合のいい情報」を選んでいるのか

選ぶ段階の偏りは、中くらいの手前の大きさです。ウィリアム・ハートらが2009年に『サイコロジカル・ブレティン』誌へ発表したメタ分析では、効果量 d は0.36でした。67の研究報告、91の研究、300の統計的に独立した群、参加者は約8,000人分を統合した数字です。

効果量 d(コーエンのd)とは、ふたつの条件の差の大きさを、ばらつきを基準にそろえて表した指標です。目安として0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きいとされます。メタ分析とは、同じテーマの複数の研究結果を統計的にまとめ直し、全体としての傾向を推定する方法です。

図1|「見たい情報」を選ぶ偏りは、どれくらい大きいのか 右へ行くほど、自分の考えを支持する情報を強く選んでいることを意味します。 d = 0.36 全体平均 0 0.2 0.5 0.8 1.0 小さい 中くらい 大きい 出典:ハートほか(2009)。67の研究報告・91研究・300の独立した群・約8,000人分を統合した結果。 効果量の目安はコーエンによる区分。0.36は「小さくはないが、決定的でもない」水準にあたります。
図1:偏りは確かに存在しますが、「人は自分に都合のいい情報しか見ない」と言い切れるほどの大きさではありません。

偏りが強まる条件と、弱まる条件があります

ハートらの分析でもうひとつ重要なのは、この0.36が固定値ではないことです。条件によって偏りは大きくも小さくもなりました。研究チームはその違いを、ふたつの動機で整理しています。

ひとつは防衛動機です。自分の考えを守りたいという気持ちのことです。その考えが自分の価値観に結びついているとき、偏りは大きくなりました。強い確信をもって支持しているときや、頭の柔らかさが低いときも同じです。

もうひとつは正確性動機です。正しい結論にたどり着きたいという気持ちのことです。こちらが働くと偏りは小さくなりました。

実務に置き換えると、こうなります。相手の自己像や過去の意思決定を否定する形で反論を出すほど、防衛動機が立ち上がり、資料は読まれなくなります。逆に「正しく決めたい」という気持ちを刺激できれば、同じ内容でも届きやすくなります。

不都合な情報を、人が「あえて選ぶ」条件があります

ここがこのメタ分析でもっとも実務に効く発見です。ハートらは、ある条件で偏りが逆転したと報告しています。自説に反する情報が、いま取り組んでいる目標の達成に役立つ場合です。つまり人は、都合の悪い情報を積極的に選びました。

この逆転は、伝え方の設計そのものを示唆しています。反対材料を「あなたの判断は間違っている」という形で出せば、防衛動機が働きます。同じ材料を「この決定を成功させるために、いま知っておくべき情報です」という形で出せば、正確性動機の側に接続できます。内容ではなく、接続先を変えるという発想です。

なぜ同じ資料を読んで、正反対の結論になるのか

読む段階の偏りを最初にはっきり示したのは、1979年のチャールズ・ロード、リー・ロス、マーク・レッパーによる実験です。『パーソナリティ・アンド・ソーシャル・サイコロジー』誌に掲載されました。

研究チームは、死刑制度に賛成の学生24人と反対の学生24人、合計48人を集めました。そして全員に、まったく同じ2本の研究レポートを読ませました。1本は死刑に抑止効果があるという結果、もう1本は抑止効果がないという結果です。

結果はこうでした。参加者は、自分の立場を支持するレポートを「説得力がある」と評価し、支持しないレポートには方法上の欠点を見つけました。そして読み終えたあと、賛成派はより賛成に、反対派はより反対に傾きました。同じ資料が、両者の意見を反対方向へ押し広げたことになります。

図2|同じ資料が、意見を反対方向へ押し広げる まったく同じ2本のレポート 抑止効果あり/抑止効果なし 死刑に賛成の24人 自説に合う方 → 「説得力がある」 自説に反する方 → 「方法に難あり」 読後:さらに賛成へ 死刑に反対の24人 自説に合う方 → 「説得力がある」 自説に反する方 → 「方法に難あり」 読後:さらに反対へ 情報を足すほど、両者の距離は開いた 出典:ロード・ロス・レッパー(1979)。賛成24人・反対24人の計48人を対象にした実験。
図2:評価が割れるのは資料の質ではなく、読み手が最初にもっていた立場に左右されます。

この現象は、意見の対立が激しい話題ほど強く出ます。組織のなかで方針をめぐる議論が平行線になるとき、追加資料がかえって溝を深めることがあるのは、このためです。この構造をより広く扱った記事として、認知の要塞:なぜ人は自らの意見に固執し、政治的対立に熱狂するのかもあわせてお読みください。

ただし注意点があります。ロードらの実験は48人と小規模で、扱ったのは価値観に深く結びついた争点でした。日常の業務判断すべてに同じ強さで当てはまるわけではありません。実際、後述するように、事実の提示が効かないという見方は近年かなり修正されています。

確証バイアスは「頑固さ」なのか

確証バイアスは、意志の弱さや頭の固さの表れとして語られがちです。ただ、この見方は研究の流れのなかで一度大きく修正されています。

出発点は、ピーター・ウェイソンが1960年に発表した課題です。参加者に「2-4-6」という3つの数を示し、この並びが従っているルールを当ててもらいます。参加者は自由に別の3つ組を出し、それがルールに合うかを尋ねることができました。

多くの参加者は「2ずつ増える数」という仮説を立てました。そして「4-6-8」「10-12-14」のように、当てはまる例ばかりを試します。当然どれも「合っている」と返ってきます。しかし正解のルールは「増えていく3つの数」でした。最初の宣言で正解できたのは、29人中6人だけでした。

「反証を探せ」だけでは足りない理由

この結果は長らく、人が確証を求める性質の証拠とされてきました。ところが1987年、ジョシュア・クレイマンとヤング・ウォン・ハーが『サイコロジカル・レビュー』誌で別の説明を示します。

二人によれば、この行動は「自分の仮説が当てはまりそうな例で試す」という方略です。正例テスト方略(positive test strategy)と呼ばれます。そして重要なのは、この方略が多くの現実場面ではきわめて有効に働くという点です。探している性質が世の中で比較的まれな場合、当てはまりそうな例を試すのは、情報を効率よく集める合理的なやり方になります。

問題が起きるのは、この方略が向かない課題に使ってしまったときです。2-4-6課題のように、自分の仮説が正解より狭い場合、当てはまる例をいくら集めても仮説は否定されません。

ここから実務的な含意が出てきます。相手が反対材料を見ないのは、都合が悪いからとは限りません。「うまくいく条件」を探すという、ふだん役に立っている進め方をそのまま適用しているだけかもしれない。だとすれば、責めても変わりません。仕組みを変える必要があります。

図3|「当てはまる例」だけを試すと、間違った仮説が生き残る 課題:「2-4-6」が従うルールを当てる。立てた仮説は「2ずつ増える数」。 自分の仮説 2ずつ増える数 当てはまる例で試す 4-6-8/10-12-14 答えは「はい」 仮説は生き残る 外れそうな例で試す 1-2-3/3-10-99 答えは「はい」 仮説の誤りが判明 正解のルールは「増えていく3つの数」だった 出典:ウェイソン(1960)。最初の宣言で正解できたのは29人中6人。 クレイマン&ハー(1987)は、この行動を「正例テスト方略」と呼び、多くの現実場面では有効だと指摘しました。
図3:確証を求める行動は、頑固さではなく、ふだん役に立っている進め方の副作用として起こります。

「事実を示すと、かえって信じ込む」は本当か

近年、この分野でもっとも大きく見方が変わったのがこの点です。結論としては、事実の提示が逆効果になる場面は、かつて考えられていたよりずっと少ないと分かってきました。

きっかけは2010年、ブレンダン・ナイハンとジェイソン・ライフラーが『ポリティカル・ビヘイビア』誌に発表した研究です。模擬のニュース記事に誤った主張と訂正情報を載せ、読後の認識を調べました。すると特定の層では訂正が効かず、一部ではかえって誤った認識が強まりました。この現象はバックファイア効果(backfire effect)と名づけられ、広く知られるようになります。

しかしその後、大規模な再検証が行われました。トーマス・ウッドとイーサン・ポーターは、2019年に同じ『ポリティカル・ビヘイビア』誌へ再検証の結果を発表しました。5つの実験に10,100人以上が参加し、52の争点が扱われています。対立が激しく、まさにバックファイアが起きそうな争点を選んだうえでの検証です。

結果として、バックファイアを引き起こす訂正はひとつも見つかりませんでした。研究チームは、人々はおおむね事実の情報を受け入れると結論づけています。

ただし、これは「事実を並べれば説得できる」という意味ではありません。認識が事実の方向へ動くことと、態度や行動が変わることは別だからです。数字を訂正しても、その人の立場が変わるとは限らない。ここは正直に押さえておく必要があります。

図4|「訂正は逆効果」という見方は、大規模な再検証で覆った 2010年 2019年 ナイハン&ライフラー 模擬ニュース記事を使った4実験 一部の層で、訂正が誤信を強めた 「バックファイア効果」の命名 ウッド&ポーター 5実験・10,100人超・52の争点 逆効果を起こす訂正はゼロ件 認識は事実の方向へ動いた ただし「認識が動く」ことと「態度が変わる」ことは別です 出典:ナイハン&ライフラー(2010)、ウッド&ポーター(2019)。いずれも『ポリティカル・ビヘイビア』誌。
図4:訂正を恐れて事実を出し惜しみする必要はありません。ただし事実だけで立場は動きません。

関連して、社会全体が閉じた情報環境に分断されているという見方も、実測データでは弱まっています。アンドリュー・ゲスは2021年、米国の閲覧履歴を分析した結果を報告しました。掲載誌は『アメリカン・ジャーナル・オブ・ポリティカル・サイエンス』です。多くの人の情報接触は幅広く、党派を超えた重複も大きいことが示されました。極端に偏った情報環境にいるのは、ごく一部の層でした。

明日から使える3つの設計

ここまでの研究から、確証バイアスへの対処は「気をつける」では動かないことが見えてきます。効いているのは、反対側を検討する作業を手順に組み込む方法です。

1.反対を「作業」にする

1984年、先ほどのチャールズ・ロードらは、レッパー、プレストンとともに対処法を検証しています。比べたのはふたつの条件です。ひとつは「反対の可能性を考えてみてください」と具体的に指示する条件でした。もうひとつは「できるだけ公平に、偏りなく判断してください」と伝える条件です。

結果は明確でした。反対を考えるよう促した条件のほうが、偏りの是正効果が大きくなりました。「公平にやろう」という心がけだけでは足りなかったことになります。

会議に置き換えるなら、「反対意見はありますか」と全体に問いかけるのは弱い介入です。代わりに「この案が失敗するとしたら、その理由を3つ書いてください」と、書く作業として指定します。反論を先に自分たちで出しておく設計は、接種理論とは?「反論を先に言う」と説得力が上がる科学的理由とも重なります。

2.先に失敗させてから戻る(プレモーテム)

もうひとつ有効なのが、時間の視点をずらす方法です。デボラ・ミッチェル、ジェイ・ルッソ、ナンシー・ペニントンは1989年に、ある実験結果を報告しています。「まだ起きていない出来事」を「すでに起きたこと」として想像させる条件です。すると、その原因を正しく挙げる数が約30パーセント増えました。予期的後知恵(prospective hindsight)と呼ばれます。

この知見を実務手順にしたのが、プレモーテムです。心理学者ゲイリー・クラインが2007年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌で紹介しました。「半年後、このプロジェクトは大失敗しました。なぜでしょうか」と問い、各自が理由を書き出します。進め方は会議で「問題ない」が危ない:プレモータムで提案の穴を発見する4ステップで詳しく解説しています。

3.不都合な情報を「相手の目標」につなぐ

3つめは、ハートらのメタ分析から直接導かれる設計です。人は、自説に反する情報でも、それが目の前の目標達成に役立つなら選びました。

つまり、リスクの提示は「あなたの判断への異議」ではなく「その判断を成功させるための材料」として置くほうが読まれます。同じリスク一覧でも、冒頭の一文で位置づけが変わります。「この案には以下の問題があります」ではなく「この案を予定どおり進めるために、先に潰しておくべき論点です」と書く。内容は同じでも、防衛動機ではなく正確性動機の側に接続されます。

あわせて、不都合な情報を口に出せる場そのものの設計も欠かせません。この土台については心理的安全性とは?「ぬるい職場」との決定的な違いを、エドモンドソンの原典研究から解くが参考になります。また、自分の提案に不利な点をあえて含める効果はなぜ「デメリットも言う人」ほど信じられるのか? 説得力を上げる「両面提示」の科学で扱っています。

図5|「気をつける」を「手順」に置き換える よくある形 「反対意見はありますか」 「公平に見てください」 沈黙のまま原案が通る 設計として組み込む形 1.反対を書かせる 「失敗する理由を 3つ書いてください」 ロードほか(1984) 2.先に失敗させる 「半年後、これは失敗 しました。なぜですか」 原因の指摘が約30%増 3.目標につなぐ 「進めるために先に 潰しておく論点です」 ハートほか(2009) 心がけを求めるのではなく、反対を検討する作業を手順に置く
図5:上段は意図はよくても効きにくい形、下段は研究で効果が確認された形です。

よくある質問

確証バイアスは、なくすことができますか

なくすのは難しく、弱めるのが現実的な目標です。ロードらの1984年の研究では、指示の出し方で差が出ました。「公平に判断してください」より、「反対の可能性を具体的に考えてください」のほうが是正効果は大きくなっています。意識づけではなく、手順として組み込むことが鍵になります。

頭のいい人ほど確証バイアスは弱いのでしょうか

そうとは限りません。ウェイソンの2-4-6課題の参加者は知的能力の高い若年成人でしたが、最初の宣言で正解できたのは29人中6人でした。むしろ知識や論理力が高いほど、自説を支える理由を上手に組み立てられるという指摘もあります。この点は研究者のあいだでも議論が続いています。

反対意見を出すと、相手が意地になりませんか

意地になる度合いは、かつて言われていたより小さいようです。ウッド&ポーター(2019)は、5実験・10,100人以上・52争点で検証しました。事実の訂正が誤った認識を強めた例は、ひとつも見つかっていません。ただし、認識が事実に近づくことと、態度や行動が変わることは別問題です。

相手が資料を読んでくれない場合は、どうすればよいですか

「読ませる」より「読む理由をつくる」ほうが有効です。ハートらのメタ分析では、自説に反する情報でも、現在の目標達成に役立つ場合には人はそれを選びました。リスク一覧の冒頭を「この決定を成功させるために先に確認すべき点」と位置づけ直すだけでも、扱いが変わります。

チーム全体の偏りを減らすには、何から始めればよいですか

意思決定の前に、反対材料を書き出す時間を議事に固定するところから始めてください。おすすめはプレモーテムです。「すでに失敗した」と仮定し、原因を挙げてもらう形式にします。ミッチェルらの1989年の研究では、原因の特定が約30パーセント増えました。5分でも効果があります。

まとめ

確証バイアスをめぐる研究は、この20年でかなり整理されました。要点は3つです。

  • 自分の考えを支持する情報を選ぶ偏りは実在しますが、その大きさは d = 0.36 で、圧倒的ではありません。
  • この偏りは固定ではなく、防衛動機が高まると強まり、正確性動機が高まると弱まります。不都合な情報が目標達成に役立つときには、逆転すらします。
  • 「事実を出すと逆効果になる」という見方は、大規模な再検証では支持されませんでした。事実を出し惜しみする理由はありません。

そのうえで、次の一歩として提案したいことがひとつあります。次の会議で、賛否を問う前に5分だけ時間を取ってみてください。「この案が失敗するとしたら、その理由を3つ書いてください」と伝え、無言で書いてもらいます。反対を口にする勇気を求めるのではなく、反対を検討する作業を全員の手順にする。確証バイアスへの対処は、そこから始まります。

出典

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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