聞き手の心理・行動

真実性の錯覚とは?「何度も聞いた話」ほど本当に思える仕組みを、182研究のメタ分析から読み解く

毎週の定例で、同じフレーズを聞きます。社内報にも、同じ言葉が並びます。半年もたつと、誰も出典を確かめないまま「うちはそういう会社だ」という前提ができあがっています。

日本では、この現象は「浸透」や「刷り込み」と呼ばれてきました。繰り返せば伝わる、という経験則です。ところが認知心理学では、同じ現象に別の名前がついています。しかも、そこで問題にされているのは「伝わったかどうか」ではありません。「本当だと思われたかどうか」です。

この記事では、繰り返しが真実味を押し上げる仕組みを扱います。2026年2月に発表された182研究・3万1184人分のメタ分析をもとに、効果の大きさと、効かなくなる条件を整理します。

真実性の錯覚とは? 同じ文を二度見ると、真実味が上がる

真実性の錯覚(illusory truth effect)とは、同じ内容を繰り返し目にした人が、その内容をより本当らしいと感じる現象です。内容が実際に正しいかどうかとは関係なく起こります。

ここで大事なのは、記憶の話ではないという点に注意することです。「覚えている」ではなく「本当らしい」という判断が動きます。人は、内容を覚えていなくても、真実味だけを上方修正することがあります。

最初に報告されたのは1977年の実験です

報告したのは、ラジ・ハッシャー、デイヴィッド・ゴールドスタイン、トーマス・トッピーノの3人です。論文はJournal of Verbal Learning and Verbal Behaviorに載りました。

実験では、政治・スポーツ・芸術に関する60の文を使いました。大学生が知っていそうで、実は知らない内容ばかりです。参加者は2週間おきに3回、それぞれの文がどれくらい確からしいかを評価しました。一部の文は毎回登場し、残りは一度きりでした。

結果は明快でした。繰り返し登場した文は、回を追うごとに評価が上がりました。一度きりの文は変わりませんでした。しかも、この上昇は内容が真でも偽でも同じように起きました。

図1|真実性の錯覚を測る実験の流れ 第1段階:提示 文をひととおり見せる 遅延 数分〜数週間 第2段階:真偽の判断 「本当らしいか」を評価する 第2段階で評価する文は、2種類あります 反復文:第1段階でも見た文 新規文:ここで初めて見る文 この2つの評価の差が、真実性の錯覚の大きさです
図1:測っているのは「覚えているか」ではなく、同じ人が2種類の文につけた真実味の差です。

効果はどれくらい大きいのか? 182研究・3万1184人のメタ分析

反復が真実味を上げること自体は、ほぼ確実に起きます。ただし、どれくらい上がるかは条件によって大きく変わります。

2026年2月、この分野で最大規模の統合分析がNature Communicationsに発表されました。イエ・スティーヴンらフランスの研究チームによるものです。1977年から2025年までの99本の論文、182の研究、366個の効果量、参加者3万1184人分をまとめています。

出版バイアスを補正したあとの効果量は、g = 0.37(95%信頼区間 0.30〜0.44)でした。

ここで統計用語を補っておきます。効果量とは、差の大きさを共通のものさしに直した数字です。0.2前後で小さい、0.5前後で中くらい、0.8以上で大きいと目安が置かれます。信頼区間は、本当の値がありそうな幅です。この幅がゼロをまたがなければ、効果はあると判断されます。メタ分析は、多数の研究結果を統計的に束ねる手法です。出版バイアスとは、良い結果が出た研究のほうが世に出やすいという偏りを指します。この偏りを放置すると、効果は実際より大きく見えます。

2010年にはデシェーヌらが51研究を対象にしたメタ分析を発表しています。そこでの推定は d = 0.39〜0.50でした。今回の補正後の値は、それよりやや小さく出ています。

図2|2つのメタ分析が出した効果量 小さい 0.2 中くらい 0.5 デシェーヌほか 2010 51研究・推定の下限 d = 0.39 [0.32, 0.47] デシェーヌほか 2010 51研究・推定の上限 d = 0.50 [0.43, 0.57] イエほか 2026 182研究・バイアス補正後 g = 0.37 [0.30, 0.44] 0 0.2 0.4 0.6 0.8 効果量(標準化平均差 d / g)と95%信頼区間
図2:横棒は信頼区間です。3つとも0をまたいでおらず、効果の存在自体は一貫しています。

ただし、この数字は幅を持って読む必要があります

著者たち自身が、解釈への注意を強く促しています。研究間のばらつきが非常に大きいからです。異質性の検定は Q(364) = 4445、p < 0.001 でした。研究間の違いが全体のばらつきの36〜70%を説明していました。

出版バイアスの検討でも、明確な非対称が見つかりました。ファンネルプロットの検定は t(364) = 9.77、p < 0.001 です。小規模で有意にならなかった研究が、世に出ていない可能性が高いということです。実際、先行するレビューでは、この分野の研究の96%が有意な結果を報告していました。

また、含まれた研究の多くは欧米で行われています。日本を含む非欧米圏で同じ大きさになるかは、まだわかっていません。

なぜ繰り返すと本当に思えてくるのか?

もっとも有力な説明は、処理流暢性(processing fluency)です。二度目に出会った情報は、脳の中で楽に処理されます。この「楽さ」を、人は内容の確からしさと取り違えます。

現実の世界では、よく耳にする話ほど本当であることが多いものです。だから、流暢さを真実味の手がかりに使うこと自体は、悪い戦略ではありません。問題は、この手がかりが内容の正しさを見ずに働いてしまうことです。

処理流暢性は、真実味以外にもいろいろな判断を動かします。資料の見た目が整っているだけで内容まで信頼されてしまう現象については、脳は「美しい資料」を信じ込む:認知流暢性が生み出すビジネスの魔法とデザインの科学で扱っています。同じ流暢性が好意に転じる場合もあります。こちらは単純接触効果(ザイアンス効果)とは?「会うほど好かれる」が逆効果に変わる境界線を参照してください。

図3|流暢さが真実味にすり替わる道すじ 反復 同じ内容に 二度目に出会う 処理流暢性 頭に入るときの 抵抗が減る 主観的な感覚 すんなり入って きた、と感じる 真偽の判断 たぶん本当だ、 と評価する 本来の手がかり:知識・出典・論理の整合性 知識があっても、流暢さのほうが先に使われることがあります(知識ネグレクト)
図3:赤い×は、知っているはずの情報が判断に届かない状態を表しています。

知識があれば防げるのか? 実験の答えは「防げない」です

詳しい人なら引っかからない、と思いたくなります。ところが、そうはなりませんでした。

リサ・ファツィオらが2015年にJournal of Experimental Psychology: Generalで報告した研究があります。論文のタイトルは、そのまま「知識は真実性の錯覚から人を守らない」です。

参加者は、自分が正しい答えを知っている内容についても、繰り返されると真実味を高く評価しました。研究チームはこれを知識ネグレクト(knowledge neglect)と呼んでいます。知っているのに、その知識を使わないという意味です。

頭の中に正解があっても、判断のときに取り出されるとはかぎりません。専門知識が伝達の邪魔をする現象については、「完璧な企画書」はなぜ伝わらないのか:脳科学が解き明かす「知識の呪い」と防衛本能でも別の角度から扱っています。

どうすれば効かなくなるのか? 条件によって効果は消え、反転もします

2026年のメタ分析は、条件ごとの効果量も出しています。ここがいちばん実務に効く部分です。

図4|条件別に見た真実性の錯覚の大きさ 効果なし 全体(182研究) 0.37 [0.30, 0.44] 標準的な文(トリビア型) 0.41 [0.33, 0.48] ニュース見出しの形式 0.17 [0.01, 0.34] 提示時に真偽を判断させた 0.10 [−0.03, 0.23] 「正しい」手がかりを添えた 0.70 [0.51, 0.88] 「誤り」の手がかりを添えた −0.18 [−0.33, −0.03] −0.4 −0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 効果量(Hedges の g)と95%信頼区間
図4:横棒が縦の点線をまたぐ条件は、効果があるとは言い切れない状態です。

最初に見せるとき「これは本当か」と考えさせると、効果はほぼ消えます

いちばん強く効いた条件がこれでした。第1段階で文を見せるときに、その場で真偽を判断させた研究では、効果量が g = 0.10(95%信頼区間 −0.03〜0.23)まで落ちています。信頼区間がゼロをまたいでおり、効果があるとは言い切れません。

関連のない作業をさせた場合は g = 0.42、ただ読ませただけの場合は g = 0.47 でした。比較すると b = −0.32(95%信頼区間 −0.47〜−0.16)、t(264) = 4.02、p < 0.001 です。

「これは誤りです」と添えると、効果は反転します

提示のときに誤りの手がかりを添えた研究では、効果量が g = −0.18(95%信頼区間 −0.33〜−0.03)になりました。マイナスです。つまり、繰り返された文のほうが、新しい文より疑われました。

手がかりの種類別に見ると、遅れて出す訂正フィードバックで g = −1.12、出所の信頼性に関する指摘で g = −0.73 でした。ただし、この内訳は含まれる研究数が少ないため、参考程度に読むのが妥当です。

興味深いのは「偽」というラベルだけを貼った場合です。こちらは g = 0.04 で、ほとんど効きませんでした。ラベルを貼るだけでは足りず、なぜ誤りなのかという情報が要るということです。

ニュース見出しの形にすると、効果は小さくなります

標準的なトリビア型の文では g = 0.41 でした。SNSのニュース見出し形式では g = 0.17 です。差は b = 0.25(95%信頼区間 0.01〜0.48)、t(147) = 2.10、p = 0.038 でした。

著者らは、見出しという形式そのものが読み手を身構えさせる可能性を挙げています。ただしこれは解釈であり、検証されたわけではありません。

時間が空くと、効果はやや小さくなります

提示から判断までの間隔 効果量 g 95%信頼区間 効果量の数
間隔なし(直後) 0.46 0.35〜0.56 135
当日中 0.33 0.23〜0.43 138
1週間以内 0.36 0.21〜0.50 47
1週間超 0.25 0.06〜0.44 41

表の注:どの条件でも信頼区間はゼロをまたいでいません。つまり、1週間以上あいても効果は残ります。直後と当日中の差は統計的に有意ではありませんでした(t(254) = 1.82、p = 0.070)。

逆に、効かなかった対策もあります

条件 比較 結果
事前の警告 あり g = 0.34 / なし g = 0.44 差は有意でない
反復の形 逐語 g = 0.36 / 要旨 g = 0.63 t(243) = 1.19、p = 0.237
提示の形式 視覚 g = 0.38 / 音声 g = 0.30 差は有意でない
文の真偽 真 g = 0.46 / 偽 g = 0.33 差は有意でない
実施環境 オンライン g = 0.40 / 対面 g = 0.31 差は有意でない

表の注:「有意でない」とは、差があるとは言い切れないという意味です。差がゼロだと証明されたわけではありません。

とくに注目したいのは、事前の警告が効かなかったことです。「これから見る文には誤りが混じっています」と伝えても、効果は下がりませんでした。知識で防げないのと同じく、心構えでも防げません。効いたのは、判断そのものを求める設計のほうでした。

何回繰り返せばいいのか? 2回目がいちばん大きく効きます

2026年のメタ分析は、反復1回の研究に絞っています。回数の効果を調べたのは、アウミョ・ハッサンとサラ・バーバーによる2021年の研究です。

実験1では最大9回、実験2では最大27回まで同じ文を見せました。真実味は回数とともに上がりましたが、上がり方は対数的でした。最大の上昇は2回目です。3回目以降は、増え方がどんどん小さくなりました。

明日から使える3つの設計

反復は使うなという話ではありません。反復は伝達の基本です。問題は、反復が「正しさ」まで一緒に運んでくれると誤解することにあります。

図5|同じメッセージを繰り返すときの3つのチェック ① 正しさは別に担保 反復で上がるのは 真実味だけです。 根拠と出典を 必ず一緒に置きます。 ② 初回に問いで出す 最初に見せるとき 「これは本当か」と 判断させると効果は ほぼ消えます。 g = 0.10(有意でない) ③ 誤りには理由を なぜ誤りかを添えると 反復の効果は反転し ます。ラベルだけでは 効きません。 g = −0.18 / ラベルのみ 0.04 注意:事前に「誤りが混じっています」と警告しても、効果は下がりませんでした
図5:効いたのは心構えではなく、判断そのものを求める設計と、理由つきの訂正でした。

1. 理念やスローガンは、反復と検証をセットにする

朝礼で同じ言葉を唱えれば、その言葉は本当らしくなります。ただし、本当に正しいかどうかは別問題です。抽象的なスローガンほど、検証されないまま前提になりやすい傾向があります。

反復するときは、そのメッセージが現場でどう成り立っているかを一緒に示してください。抽象語を行動に翻訳する具体的な手順は、経営理念はなぜ浸透しないのか?抽象語を現場の行動に変える「3層翻訳」の設計で扱っています。

2. 研修や説明会では、聞かせる前に判断させる

メタ分析でいちばん効いた対策が、これに対応します。資料を読ませる前に、「この主張は正しいと思いますか」と問いの形で出してみてください。参加者が一度自分の判断を通すだけで、あとから流暢さに流される度合いが下がります。

「あとで質問を受けます」と予告するだけでは足りません。その場で判断を求める必要があります。

3. 誤解を正すときは、理由まで書く

社内に誤った理解が広まったとき、「それは違います」とだけ言っても効きません。研究でも、偽ラベルを貼るだけの条件は g = 0.04 で、ほぼ無効でした。なぜ誤りなのか、どの情報にもとづくのかを添えてください。

なお、訂正のために誤情報を繰り返すと逆効果になる、という懸念が長く語られてきました。2026年のメタ分析の著者らは、この懸念は従来考えられていたほど根拠が強くない、と書いています。理由をつけて訂正するかぎり、繰り返しを恐れる必要は小さいということです。

よくある質問

真実性の錯覚は、自分でも気づけますか?

気づきにくい現象です。事前に警告された条件でも効果は下がりませんでした。ただし、その場で真偽を判断する習慣をつけると影響は小さくなります。「これ、どこで読んだのだろう」と出所をたどる癖が実務的な対策になります。

詳しい分野なら大丈夫ですか?

大丈夫とは言えません。ファツィオらの2015年の研究では、参加者が正しい答えを知っている内容でも効果が出ました。知識があっても、判断の瞬間に取り出されないことがあります。これを知識ネグレクトと呼びます。

何回くらい繰り返すと効きますか?

2回目でいちばん大きく上がります。ハッサンとバーバーの2021年の研究では、9回や27回まで増やしても上昇は続きましたが、増え方は対数的でした。回数を増やすほど、1回あたりの効き目は小さくなります。

この効果は本当に信頼できますか?

効果が存在すること自体は、182研究の統合分析で支持されています。ただし研究間のばらつきが大きく、出版バイアスの兆候も見つかりました。著者ら自身が、具体的な数値の解釈には注意が要ると述べています。「起きるかどうか」は確からしく、「どれくらいか」には幅があると読むのが妥当です。

日本人にも同じように起こりますか?

まだわかっていません。含まれた研究の実施地域はヨーロッパ49本、北米47本に対し、アジアは1本でした。著者らも、非欧米圏での普遍性は未検証だと限界に挙げています。

まとめ:繰り返しが運ぶのは、正しさではなく真実味です

反復は真実味を押し上げます。効果量は補正後で g = 0.37 でした。知識があっても、事前に警告されても、この作用は止まりません。1週間以上あいても残ります。

一方で、消える条件と反転する条件もはっきりしています。最初に見せるときに真偽の判断を求めると、効果はほぼ消えました。誤りである理由を添えると、効果はマイナスに転じました。

次の一歩として、今週の定例で繰り返しているフレーズを1つ選んでみてください。そのフレーズの根拠を、誰かが確かめたのはいつでしょうか。答えられないなら、それは浸透ではなく、真実性の錯覚が働いているだけかもしれません。

出典

  • Hasher, L., Goldstein, D., & Toppino, T. (1977). Frequency and the conference of referential validity. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 16(1), 107–112. 論文ページ
  • Dechêne, A., Stahl, C., Hansen, J., & Wänke, M. (2010). The Truth About the Truth: A Meta-Analytic Review of the Truth Effect. Personality and Social Psychology Review, 14(2), 238–257. 論文ページ
  • Fazio, L. K., Brashier, N. M., Payne, B. K., & Marsh, E. J. (2015). Knowledge does not protect against illusory truth. Journal of Experimental Psychology: General, 144(5), 993–1002. 論文ページ
  • Fazio, L. K., Rand, D. G., & Pennycook, G. (2019). Repetition increases perceived truth equally for plausible and implausible statements. Psychonomic Bulletin & Review, 26, 1705–1710. 論文ページ
  • Hassan, A., & Barber, S. J. (2021). The effects of repetition frequency on the illusory truth effect. Cognitive Research: Principles and Implications, 6, 38. 論文ページ
  • Henderson, E. L., Simons, D. J., & Barr, D. J. (2021). The Trajectory of Truth: A Longitudinal Study of the Illusory Truth Effect. Journal of Cognition, 4(1), 29. 論文ページ
  • Henderson, E. L., Westwood, S. J., & Simons, D. J. (2021). A reproducible systematic map of research on the illusory truth effect. Psychonomic Bulletin & Review, 29, 1065–1088. 論文ページ
  • Ye, S., Attali, D., Ghazi, M., Cachia, A., Cassotti, M., & Borst, G. (2026). Systematic review and meta-analysis of the evidence for an illusory truth effect and its determinants. Nature Communications, 17, 3270. 論文ページ

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この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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