デザイン・図解

脳をハックする言葉の選び方:「身体化された認知」が変えるプレゼンデザインの科学

「言葉」は単なる情報ではなく、聴衆の「身体」を直接揺さぶる物理的なトリガーである。伝統的な認知科学は、言語を脳内で処理される抽象的な記号と考えてきた。しかし最新の「身体化された認知」の理論とfMRIを用いた脳科学研究は、人が言葉を理解する瞬間、脳の運動野や感覚野が実際にシミュレーションを行っていることを証明した。本稿では、抽象的な名詞を排除し、「壁を突破する」「土台を固める」といった運動野を直接刺激する動詞や触覚的メタファーを用いることで、聴衆の理解スピードを劇的に引き上げ、組織を動かす合意を生み出すプレゼンデザインの科学的アプローチを解説する。
身体化された認知:言葉は“体”で理解される 言葉を理解する瞬間、脳は実際に動きや感覚をシミュレートしている。 「走る」 「掴む」 「温かい」 運動野 感覚野 脳が“体感”として発火 動きや感覚を呼び起こす言葉・ジェスチャーほど、深く理解され記憶に残る
図:身体化された認知。動きや感覚を呼び起こす言葉ほど、脳が“体感”し記憶に残る。

1. 情報伝達の錯覚:言語は「アモーダルな記号」ではない

ビジネスの現場、とりわけ経営戦略の発表やスタートアップの資金調達ピッチにおいて、論理的に完璧なプレゼンテーション資料が必ずしも聴衆の心を動かさないのはなぜだろうか。その根本的な原因は、話し手が「言語」というツールの性質を誤認している点にある。経営ビジョンも事業戦略も、相手の脳に正しく届かなければ、それは単なるノイズに過ぎない1

長らく、伝統的な認知科学や言語学の世界では、言語処理は「アモーダル(非感覚的)な記号の計算プロセス」であると見なされてきた。この計算主義的パラダイムによれば、脳は入力された文字や音声を抽象的な記号へとデコードし、脳内の辞書(メンタルレキシコン)と照合することで論理的に意味を抽出するとされる。ここでは、言葉の意味は身体の運動や物理的な感覚とは完全に切り離された、独立した高次モジュールで処理されると考えられていた。

しかし、このモデルは「記号接地問題(Symbol Grounding Problem)」という重大なパラドックスを抱えている2。1990年に認知科学者スティーバン・ハルナッド(Stevan Harnad)が提起したこの問題は、「純粋に抽象的な記号の操作システムが、いかにして現実世界の実体と結びつき、真の意味を獲得するのか」という根源的な問いである。もし言葉が単なる記号の羅列に過ぎないのなら、私たちは辞書の中で未知の単語を引き続けるように、無限後退に陥ってしまうはずである2

人間が瞬時に言葉の意味を理解できる理由。その答えとして台頭し、現代の認知科学に革命をもたらしたのが「身体化された認知(Embodied Cognition)」という理論的枠組みである4

フランスの現象学を代表する哲学者モーリス・メルロ=ポンティは、その主著『知覚の現象学』において「身体こそが世界を理解する基盤である」と論じた。世界は客観的なデータの集合体ではなく、私たちの身体の運動能力や知覚構造を通じて意味づけられている。身体化された認知の理論は、この哲学的な洞察を科学的に裏付けるものである。言葉の意味は辞書的な定義にあるのではなく、過去の知覚的・運動的な「身体経験の神経的シミュレーション」によって形作られる5。言葉を理解する瞬間、脳はその言葉が指し示す動作や感覚を、あたかも自分自身が今まさに体験しているかのように神経レベルで再構築しているのである。

比較項目伝統的認知科学(計算主義パラダイム)身体化された認知(Embodied Cognition)
言語の捉え方抽象的・アモーダル(非感覚的)な記号の集合身体の知覚・運動系に基づく経験のシミュレーション
意味の所在脳内の抽象的な概念辞書(メンタルレキシコン)環境との相互作用を通じた身体的経験の蓄積と再現
脳内の処理領域ブローカ野・ウェルニッケ野などの言語中枢に限定言語野に加え、運動野や感覚野などの広範なネットワーク
理解のメカニズム記号と記号の論理的な結びつけ(デコード作業)過去の知覚的・運動的状態の無意識的な神経的再構築

2. 運動野における言語の接地:言葉は「筋肉」で読まれている

身体化された認知が単なる比喩的表現ではなく、物理的な脳の働きであることを示した決定的な研究が存在する。オラフ・ホーク(Olaf Hauk)、イングリッド・ジョンスルード(Ingrid Johnsrude)、そしてフリーデマン・プルフェルミュラー(Friedemann Pulvermüller)らが2004年に権威ある科学誌『Neuron』で発表した機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による研究である7

この実験では、被験者に「kick(蹴る)」「pick(つまむ)」「lick(舐める)」という、それぞれ足、手、顔(口)の動きに関連する具体的な動作を表す動詞を黙読させ、その際の脳活動を高解像度でマッピングした7。もし言語が完全にアモーダルな記号として処理されるのであれば、どの単語を読んでも左半球の側頭葉などにある言語野のみが活性化するはずである。

しかし、得られたデータは研究者たちを驚嘆させた。被験者が「kick(蹴る)」という文字を黙読した瞬間、言語野だけでなく、実際に足を動かすときに使われる運動野(Motor Cortex)の頭頂部付近が強く活性化したのである。同様に、「pick(つまむ)」を読んだときには手を動かす外側領域が、「lick(舐める)」を読んだときには口や舌を動かすさらに下部の領域が、それぞれ特異的に活性化していた7

人間の一次運動野および運動前野には、身体の各部位を制御する領域が規則的に配置された「体部位再現(Somatotopy:ソマトトピー)」と呼ばれる構造(ペンフィールドのホムンクルス)が存在する。ホークらの研究は、行動を表す動詞の「黙読」という極めて静的な認知活動が、このソマトトピーと完全に一致する形で運動野を直接的に活性化させることを証明したのである8

さらに驚くべきことに、この運動系の活性化は、被験者が言葉の意味を理解した後に意図的にアクションを思い浮かべる「メンタルイメージ」の結果として生じるものではない。単語が提示されてから極めて短時間(150〜200ミリ秒程度)のうちに自動的に発生する、無意識の「前注意的(pre-attentive)」な反応であることが示されている7。また、右利きの人と左利きの人が手を使う動作の動詞(例:投げる、書く)を理解する際、それぞれ自分が実際に動作を行う側の半球の運動前野を優先的に活性化させるという「身体特異性(Body-specificity)」の研究結果も報告されている11

これは、人間が動作を表す言葉を理解する際、単に抽象的な概念を辞書から引き出しているのではなく、自分自身の運動ニューロンを密かに発火させ、身体的なシミュレーションを行うことによって「意味を立ち上げている」ことを明確に示している6。言い換えれば、言葉は単に「脳の言語野」だけで処理されるのではなく、手足や顔を動かす「筋肉の回路」を使って読まれているのである12

3. 行動文適合性効果(ACE):プレゼンのベクトルと身体のベクトルを同調させる

言葉が運動のシミュレーションを伴うのであれば、その言葉が持つ「動きの方向性」と、実際の「身体の動きの方向性」が一致したとき、脳内の情報処理は劇的に加速するはずである。この仮説を見事に実証したのが、グレンバーグ(Glenberg)とカシャック(Kaschak)による2002年の画期的な研究であり、彼らはこれを「行動文適合性効果(Action-Sentence Compatibility Effect: ACE)」と名付けた13

実験では、被験者に以下のような文章を提示し、その文章が意味をなしているかをボタンを押して判定させた。

  • Toward(手前への動き)を意味する文章:「Courtney handed you the notebook(コートニーがあなたにノートを手渡した)」
  • Away(奥への動き)を意味する文章:「You handed Courtney the notebook(あなたがコートニーにノートを手渡した)」

判定の際、被験者は回答用ボタンを「手前に引く(身体に近づける)」か、あるいは「奥に押し込む(身体から遠ざける)」かのいずれかの操作を行わなければならない。結果は極めて明確であった。文章が示す動作のベクトルと、ボタンを押す実際の身体的動作のベクトルが「一致」している場合、被験者の反応速度は有意に速くなったのである15

この現象は、文章の理解プロセスと、実際の身体運動を計画・実行するプロセスが、脳内で同一の神経リソースを共有していることを示唆している14。テキストに含まれる運動の方向性と、身体の運動野の方向性が同調したとき、脳内の認知的摩擦が消失し、情報処理のスピードが極大化する。

この知見は、プレゼンテーションデザインにおいて極めて実践的な武器となる。聴衆の思考や行動を特定の方向(例えば、新しい市場への参入、現状の打破、利益の引き寄せ)に導きたい場合、その方向性と一致する「運動野を直接刺激する動詞」を意図的に配置することが、相手の脳内に圧倒的なスピードで合意(YES)を形成するためのハックとなる。

4. 触覚的メタファーの神経科学:感覚野を直接揺さぶる「手触りのある言葉」

身体化された認知のメカニズムは、具体的な動作を表す動詞にとどまらない。ビジネスや日常会話で多用される「メタファー(比喩)」もまた、脳の感覚システムを直接的に作動させている。

認知言語学者のジョージ・レイコフとマーク・ジョンソンが提唱した「概念メタファー理論(Conceptual Metaphor Theory)」によれば、人間の抽象的な思考は、より具体的で身体的な経験領域(ソース・ドメイン)から、抽象的な概念領域(ターゲット・ドメイン)へのマッピングによって構造化されている17。私たちは「愛情」という目に見えない概念を「温かさ」という温度感覚を通じて理解し、「時間」を「空間内の移動(例:予定が後ろにずれる)」として理解する17

この概念メタファーが、単なる修辞上のテクニックではなく、実際に脳の感覚野を物理的に活性化させることを実証したのが、サイモン・レイシー(Simon Lacey)らが2012年に『Brain and Language』誌で発表したfMRI研究である18

この研究では、「a rough day(困難な一日/直訳:ざらざらした一日)」のような「触覚的メタファー(Textural Metaphors)」を含む文章と、「a bad day(悪い一日)」のような意味は同じだが触覚的な要素を持たない直義的(リテラル)な文章を被験者に聞かせ、脳の活動を比較した。

その結果、触覚的メタファーを含む文章を処理した際、言語中枢に加えて、大脳皮質の頭頂弁蓋(Parietal Operculum)に位置する「体性感覚野(Somatosensory Cortex)」が強く活性化することが判明した17。体性感覚野とは、私たちが実際に手で物に触れ、その質感(テクスチャ)や痛み、温度を知覚するときに働く領域である。一方で、直義的な文章(a bad day)では、この領域の特異的な活性化は見られなかった18

また、人間は視覚的な情報を処理する際にも体性感覚野をクロスモーダル(感覚間)に動員する能力を持っていることが知られている。例えば、他者が触れられているのを見ただけで、自分自身の体性感覚システムが共鳴するようなケースである20。さらに、道徳的・倫理的な概念も身体感覚に接地しており、不道徳な行為(嘘をつくなど)を思い浮かべた直後に、無意識に物理的な「清浄さ(手洗いや洗浄用品)」を希求する「マクベス効果(Macbeth Effect)」の存在も、概念メタファーが感覚運動系に深く根ざしている証拠である23

プレゼンテーションにおいて聴衆に危機感や重要性を伝えたい場合、「状況が悪化している」「難易度が高い」と抽象的な名詞や形容詞で語るよりも、「手触りの荒い状況だ」「重圧がのしかかっている」「鋭い痛みを伴う改革」といった身体的・触覚的なメタファーを用いる方が、相手の体性感覚野を物理的に発火させることができる21。脳はそれを単なる論理的情報としてではなく、生々しい「感覚」として受容するため、記憶への定着率と感情的なインパクトが飛躍的に高まるのである。

5. 名詞化(Nominalization)の罠:プレゼンを殺す「認知的負荷」の正体

言葉が身体の運動系や感覚系を通じてシミュレーションとして理解されるという認知科学の原則に立つと、現代のビジネス文書や学術的なプレゼンテーションにおいて多用されるある「悪習」が、いかに人間の脳にとって非効率であるかが明確になる。それが「名詞化(Nominalization)」である。

名詞化とは、動詞(プロセスや行動)や形容詞(状態)に接尾辞などをつけ、抽象的な名詞として扱う言語的操作である24。「決定する(decide)」を「決定(decision)」に、「分析する(analyze)」を「分析(analysis)」へと変換するこの手法は、学術論文、官公庁の文書、そして企業の経営戦略資料などで極めて頻繁に使用される24

書き手が名詞化を好む理由は明確である。文章に客観性、権威性、そしてフォーマルな印象を与えることができるからだ24。また、出来事を特定の行為者(誰が何をしたか)から切り離し、抽象的な一般概念としてパッケージ化できるため、複雑な論理構造を構築しやすいという利点もある24

しかし、心理言語学および認知科学の観点からは、過度な名詞化は読者の「認知的負荷(Cognitive Load)」を著しく増大させ、情報処理スピード(Reading Speed)と理解度を低下させる最大の要因であることが強く指摘されている24。その理由は以下の3点に集約される。

1. 身体シミュレーションの阻害と逆変換(De-nominalization)の負荷

動詞は直接的に運動野を刺激し、行為の生々しいシミュレーションを誘発するが、抽象名詞化された単語は「アモーダルな記号」に近く、身体的なイメージを瞬時に喚起することができない。読者は、名詞化された概念の裏に隠された「プロセス」や「アクション」を脳内でわざわざ再構築(逆変換)しなければならず、この翻訳作業に貴重な認知リソースが奪われる24

2. 受動態の誘発と構文の長大化

名詞化を用いると、文章を成立させるために必然的に「〜が行われる」「〜が図られる」といった受動態や、内容を持たない冗長な動詞(行う、実施する、推進する)を補う必要が生じる24。これにより文の構造が複雑化・長大化し、短期記憶(ワーキングメモリ)の限界を超えやすくなる24

3. 音韻的・視覚的処理の遅延

名詞化された単語は、元の動詞に比べて文字数や音節数が多くなる。人間の脳の視覚・聴覚・言語ネットワークは、短く見慣れた単語を視覚的な「パターン」として瞬時に認識(Visual-recognition path)できるが、複雑に構築された長い単語は、脳内で音韻的な分解処理(Phonetic path)を要求され、読みのスピードを物理的に低下させる24

認知的負荷の比較名詞化を多用した表現(高負荷・低速)動詞・身体性を中心とした表現(低負荷・高速)
文の構造抽象名詞+無内容な動詞(行う、図る等)主語+具体的な動詞(能動態のSVO構文)
脳内の情報処理抽象記号からプロセスへの脳内再変換が必要運動野・感覚野の直接的なシミュレーション
ワーキングメモリ構文が長く複雑になり、メモリを逼迫する意味の塊(チャンク)が短く、余裕が生まれる
情報処理スピード音節が多く、解読に時間がかかる視覚的な単語認識により、瞬時に意味が確定する

ロバート・ガニング(Robert Gunning)などの文章的明瞭性の研究者も、動詞を抽象名詞に変えることは「読みやすさを阻害する主要な犯人」であると指摘している24。プレゼンテーション資料において「課題解決に向けた理解の促進を図る」といった静的で名詞中心の表現が、いくら視覚的に美しくレイアウトされていても聴衆の心に響かないのは、脳の運動野を一切刺激せず、ワーキングメモリに無駄な負荷をかけているからである25

6. 「伝わる」を科学する実践的アプローチ:脳のUIとしての言葉とデザイン

伸滋Designが提唱するように、経営ビジョンも、事業戦略も、相手の脳に届かなければノイズと同じである1。情報を単に「送信する(Transmit)」のではなく、相手の脳内に正しく「インストールされ、理解される(Be understood)」ためには、スライドの見た目を整えるだけでなく、言葉そのものを「身体化された認知」に最適化する戦略的プレゼンテーションデザインが不可欠となる1

とりわけ、スタートアップがベンチャーキャピタルから資金調達を行うピッチデッキの作成や、アカデミアの研究成果を非専門家の経営陣に伝える場面において、認知科学の知見を応用することは、プレゼンの成功確率を劇的に高める。言葉を相手の「脳」ではなく「身体(運動系・感覚系)」に直接届けるための具体的なアプローチは以下の3点に集約される。

① 「引き算のデザイン」によるノイズの徹底排除

人間の脳は1/20秒という極めて短い時間で無意識の判断を下し、処理能力を超える複雑な情報を無視する性質を持つ1。スライド上から過剰な名詞化表現や、意味を持たない装飾を徹底的に排除する「引き算のデザイン」を適用する。文字情報の情報エントロピー(複雑さ)を下げ、ワーキングメモリの負担を軽減することで、残されたメッセージが最短距離で脳の中枢に到達する経路を確保する。スライド上のテキストは、読ませるための文章ではなく、「一瞬で視覚野から運動野へとバイパスされるトリガー」として機能しなければならない1

② 静的な名詞から「動的な動詞」への意図的変換

プレゼンテーションのコアとなるメッセージは、抽象的な名詞から、身体的シミュレーションを強制的に喚起する動詞へと変換する。

  • 「市場シェアの拡大」「市場を奪う」
  • 「組織体制の構築」「土台を固める」
  • 「課題の解決」「壁を突破する」
  • 「状況の理解」「現状を把握する(手で掴む)」

これらの表現の変換は、単なる修辞上のテクニックではない。「奪う」「固める」「突破する」「把握する(掴む)」という動詞は、Haukらの研究が明確に示した通り、聴衆の脳の運動野(手や腕、全身の運動を司る神経領域)を直接発火させる7。聴衆は座ったままでありながら、神経レベルでプレゼンターの提示する「前進」や「闘争」のプロセスを追体験し、無意識のうちにそのビジョンに対する身体的な同意(組織を動かす合意)を形成していくのである1

③ 視覚と触覚のクロスモーダル(感覚間)設計

プレゼンテーションスライドのビジュアル要素も、言葉の持つ「身体性」と完全に一致させる必要がある。「手触りの荒い状況(a rough day)」という触覚的メタファーを語る際、スライドのビジュアルにもザラザラとしたテクスチャや、物理的な抵抗を感じさせるグラフィックを用いることで、視覚と触覚のクロスモーダルな相互作用を引き起こすことができる17

また、前述したACE(行動文適合性効果)が示すように、言葉の持つ方向性(未来へ向かう、壁を壊す、利益を引き寄せる)と、スライド上の視覚的なベクトル(左から右への矢印、視線誘導のレイアウト)を完全に同期させることで、脳内の認知的摩擦はゼロになり、情報の処理速度と説得力が極限まで高まる15。高度な専門性を持つ研究者や技術者のプレゼンが伝わらないのは、この「身体的文脈」を無視し、データを論文構成のまま羅列してしまうためである1。情報を「直感的に見せる」ストーリー設計こそが、他者の意思決定を促す最強の武器となる。

7. 結論:脳ではなく「身体」に届けるコミュニケーションへの昇華

従来の「言葉は意味の記号である」というパラダイムから脱却し、「言葉は身体経験のトリガーである」という身体化された認知のパラダイムへと視点を移すことは、組織内の対話から外部向けのピッチに至るまで、あらゆるコミュニケーションの質を根本から変容させる。

抽象的な名詞化表現や複雑な専門用語は、話し手にとって自己の専門性や権威性を守る便利な鎧として機能するかもしれない1。しかし、聴衆の脳にとっては、それらは解読に膨大なエネルギーを要し、運動野や感覚野の共鳴を一切引き起こさない高負荷なノイズでしかない24。真に相手を動かし、組織を前進させるリーダーの言葉とは、聴衆の感覚運動系に直接アクセスし、彼らの脳内に物理的なシミュレーションを引き起こす「手触りのある言葉」である6

プレゼンテーションとは、情報を論理的に提示するだけの場ではない。聴衆の脳内でいかに望ましい身体的・認知的反応を設計し、「YES」という意思決定を引き出すかという「体験のアーキテクチャ」である1。メルロ=ポンティが語ったように、私たちの意味理解の基盤が身体にある以上、プレゼンテーション資料における言葉選びと視覚化のアプローチもまた、論理(Mind)だけでなく身体(Body)に向けられたものでなければならない。科学的根拠に基づき、言葉を「伝わる形」へとデザインすることこそが、現代のビジネスや研究領域において変革をもたらす極めて実践的な知見となるのである。

引用文献

  1. 伸滋Design, https://shinji.design/
  2. AI時代を生き抜く人間の思考 | ソシエテ with 電通総研, https://societe.dentsusoken.com/articles/4937/
  3. 認知文法の思考法|第7回 経験がことばに命を吹き込む|町田章 – ひつじ書房, https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/2020/05/08/cogai-07/
  4. Embodied cognition – Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Embodied_cognition
  5. 身体化された認知:Embodied cognition, https://navymule9.sakura.ne.jp/Embodied_cognition.html
  6. Neural Dissociations between Action Verb Understanding and Motor Imagery – Daniel Casasanto, http://casasanto.com/papers/WillemsToniHagoortCasasanto_SimulationImagery.pdf
  7. Neural evidence for the interplay between language, gesture, and action: A review – Ovid, https://www.ovid.com/journals/bralan/pdf/10.1016/j.bandl.2007.03.004~neural-evidence-for-the-interplay-between-language-gesture
  8. CBSU Publications – MRC Cognition and Brain Sciences Unit, https://www.mrc-cbu.cam.ac.uk/bibliography/articles/5694/
  9. Somatotopic Representation of Action Words in Human Motor and Premotor Cortex | Request PDF – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/8905048_Somatotopic_Representation_of_Action_Words_in_Human_Motor_and_Premotor_Cortex
  10. What do brain lesions tell us about theories of embodied semantics and the human mirror neuron system? – PMC, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3615255/
  11. Body-Specific Representations of Action Verbs Neural Evidence From Right- and Left-Handers – SciSpace, https://scispace.com/pdf/body-specific-representations-of-action-verbs-neural-30var94szt.pdf
  12. Action verbs and the primary motor cortex- A comparative TMS study of silent reading, frequency judgments, and motor imagery – Self-serve web hosting, https://web.uvic.ca/~dbub/Cognition_Action/TopicsCognition&Action_files/%20Action%20verbs%20and%20the%20primary%20motor%20cortex-%20A%20comparative%20TMS%20study%20of%20silent%20reading,%20frequency%20judgments,%20and%20motor%20imagery.pdf
  13. The Action–Sentence Compatibility Effect: It’s All in the Timing | Request PDF, https://www.researchgate.net/publication/51247567_The_Action-Sentence_Compatibility_Effect_It’s_All_in_the_Timing
  14. Spatial and Motor Aspects in the “Action-Sentence Compatibility Effect” – Frontiers, https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2021.647899/full
  15. Temporal Dynamics of the Action – Sentence Compatibility Effect – PMC – NIH, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4612619/
  16. The Action-Sentence Compatibility Effect in ASL: the role of semantics vs. perception* | Language and Cognition – Cambridge University Press & Assessment, https://www.cambridge.org/core/journals/language-and-cognition/article/actionsentence-compatibility-effect-in-asl-the-role-of-semantics-vs-perception/30702DB3AD2DC4F4C5A41FD6DE686646
  17. METAPHORICALLY FEELING: COMPREHENDING TEXTURAL METAPHORS ACTIVATES SOMATOSENSORY CORTEX – PMC, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3318916/
  18. The Sensory-Motor Grounding of the Time Is Space Conceptual Metaphor – Redalyc, https://www.redalyc.org/journal/799/79963266002/html/
  19. Are Temporal Concepts Embodied? A Challenge for Cognitive Neuroscience – PMC, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3153844/
  20. EMBODIED SIMULATION AND TOUCH: THE SENSE OF TOUCH IN SOCIAL COGNITION – FUP Open Access Journals, https://oaj.fupress.net/index.php/pam/article/download/7121/7101/7046
  21. comprehending textural metaphors activates somatosensory cortex – PubMed – NIH, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22305051/
  22. Metaphorically feeling: Comprehending textural metaphors activates somatosensory cortex | Request PDF – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/221805662_Metaphorically_feeling_Comprehending_textural_metaphors_activates_somatosensory_cortex
  23. Lying and the Subsequent Desire for Toothpaste: Activity in the Somatosensory Cortex Predicts Embodiment of the Moral-Purity Metaphor – Oxford Academic, https://academic.oup.com/cercor/article-pdf/26/2/477/7000318/bhu170.pdf
  24. Unlocking Readability: The Hidden Pitfalls of Nominalizations – ReadabilityFormulas.com, https://readabilityformulas.com/the-hidden-pitfalls-of-nominalizations/
  25. Sentence Processing Difficulties in Academic English: A Psycholinguistic Study of EFL Students, https://journal.admi.or.id/index.php/IJML/article/download/2502/2380
  26. The interaction of linguistic and arithmetic factors affects adult performance on arithmetic word problems, https://d-nb.info/1209658046/34
  27. Searching for Promising Academic English Instruction Methods – NII, https://tohoku-gakuin.repo.nii.ac.jp/record/2000210/files/20240424_yoshimurafumiko.pdf
  28. A Deeper Readability: Beyond Short Words & Sentences | Age of Awareness – Medium, https://medium.com/age-of-awareness/a-deeper-readability-ee0652da728d
  29. Simon Lacey PhD Professor (Assistant) at Penn State Hershey Medical Center and Penn State College of Medicine – ResearchGate, https://www.researchgate.net/profile/Simon-Lacey

この記事を書いた人

村中 伸滋 伸滋Design 代表

「伝わる」を科学するプレゼンテーションデザイナー / 外部CSO。認知科学・行動経済学・神経科学の知見をコミュニケーション設計に応用し、経営層の戦略プレゼンから学会発表・研究費申請書まで支援。国際学術誌 ChemPhotoChem の表紙アート採用、大学学長の国際連携プレゼンテーション制作支援などの実績。

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