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「何を言うか」より「誰が言うか」が心を動かす:アリストテレスから最新心理学まで読み解く「キャラ立ち」の科学

「何を言うか」よりも「誰が言うか」が問われる現代。情報過多の社会において、相手に「聞く耳」を持たせ、メッセージを的確に届けるための強力な武器となるのが「キャラ(キャラクター)」である。本記事では、日本のアニメや漫画からビジネスシーンにまで広く浸透する「キャラが立つ」という現象を、古代ギリシャのアリストテレスが提唱した「エトス(人柄)」の概念から紐解いていく。さらに、社会心理学の精緻化見込みモデル(ELM)や「情報源の信憑性」に関する実証的な論文データを交え、「キャラ」がいかにして人の心を動かし、コミュニケーションにおける説得力を持たせるのか、その科学的メカニズムと実践的戦略を徹底解説する。

現代社会における「キャラ」の特異性と歴史的・社会学的背景

日本社会において「キャラ(キャラクター)」という言葉は、アニメや漫画などのフィクションにおける登場人物を指すだけでなく、日常的な対人関係やビジネス空間においても極めて頻繁に用いられる概念となっている。仲間内や職場で「あの人はキャラが立っている」「愛されキャラだ」と表現することは、特定の個性を称賛し、集団内での役割を承認するポジティブな意味合いを持つ一方で、時としてステレオタイプなレッテル貼りとしてネガティブに作用することもある。

この「キャラが立つ」という概念の歴史的源流を探ると、日本の伝統芸能である歌舞伎の成立にまで遡ることができる。「歌舞伎」という名称は、「傾く(かたむく)」の古語であり、常軌を逸した行動や派手な身なりを好むことを意味する「傾く(かぶく)」の連用形を名詞化した「かぶき」に由来している 1。慶長年間(1596年 – 1615年)において、こうした「かぶき者」たちの斬新な動きや派手な装いを取り入れた「かぶき踊り」が京都で一世を風靡し、これが今日に連なる伝統芸能の語源となった 1。江戸時代を通じて芝居小屋が整理され、洗練されていく過程において、観客に一目でその人物の属性や役割を理解させるための「見得」や「隈取」といった極端な身体表現・視覚表現が発達した 1。つまり、「キャラが立つ」ことの根源には、他者とは異なる特異な装いや振る舞いによって、集団の中で自身の存在やメッセージを際立たせ、受け手に直感的に伝達するという歴史的な実践が存在している。

現代の高度情報社会、特にインターネットやSNSが普及した環境下においては、この「キャラ化」のプロセスがコミュニケーションの効率化という新たな目的を帯びてきている。現代社会におけるキャラクターの受容と利用に関する社会学的な分析によれば、膨大な情報に取り囲まれた現代人は、一つ一つの物事や人物の多面性を深く理解するのに十分な時間を持っていない 2。さらに、人間関係の流動性が高まる中では、関係を円滑に処理するための表面的なコミュニケーションが強く求められるようになっている 2

その結果、本来であれば複雑で単純化しがたい諸個人の存在を、比較的分かりやすい特性の集合へとデータ化する「キャラ化」のプロセスが進行している 2。人々は他者の本来分かりにくい人格を視覚化、単純化、記号化することで、複雑な世界を認知的に処理しやすい形へと変換しているのである 2。インターネット社会とは、まさにそうした「比較的に簡単な線画」で描かれた記号化された人々が闊歩する社会であると言い換えることができる 2

コミュニケーションのパラダイムシフトもこの傾向を裏付けている。日本社会における会話のハウツー本などの変遷を辿った研究によると、1970年代から80年代の話し方の指南書では、アナウンサーやキャスターといった職業に基づく「周囲の映像や情景を言語化する表現能力」や「即時描写力」が重視されていた 3。しかし、2000年代以降の社会においては、新しいコミュニケーションスキルとして「自己開示」や「自己呈示」の技術が強く意識されるようになっている 3。現代ではいかに「愛されキャラ」としての自己を構築し、相手に好感や安心感を与えるかという、関係性志向のスキルに焦点が移っているのである 3

説得の三要素と「エトス」の力:アリストテレスからの視座

このように他者を記号化し、分かりやすく受け取らせるという現代的な「キャラ」の機能は、説得やコミュニケーションにおける古典的な理論と驚くほど深く共鳴している。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは『弁論術』の中で、他者を説得し行動を促すための三要素として「ロゴス(Logos)」「パトス(Pathos)」「エトス(Ethos)」を提唱した 4

説得の三要素概念の説明コミュニケーションにおける役割
ロゴス (Logos)論理的なアピール事実、データ、筋の通った論証、正確なメッセージ内容によって知性に訴えかける 4
パトス (Pathos)情緒的なアピール聴衆の感情や共感を呼び起こし、心理的な動機付けを行う 4
エトス (Ethos)倫理的なアピール(話し手の人柄)発信者自身の信頼性、徳、専門性によって「この人の言うことなら」という「聞く耳」を創り出す 4

アリストテレスの枠組みにおいて、いかにロゴス(論理)が精緻であり、パトス(感情)への訴えかけが巧みであっても、根本的なエトス(話し手の信頼性やキャラクター)が欠如していれば、説得は成立しない。現代の文脈において「キャラが立っている」状態とは、このエトスが極めて明確に可視化され、受け手に対して確立されている状態に等しい。エトスがあることによって、メッセージの受け手は無意識のうちに警戒心を解き、「きく耳(聞く耳)」を持ち、メッセージの受容可能性が飛躍的に高まるのである。

現代心理学における「誰が言うか」:情報源の信憑性(Source Credibility)

アリストテレスのエトスの概念は、現代の社会心理学やコミュニケーション学において「情報源の信憑性(Source Credibility)」という形で実証的に研究され続けている。社会的認知理論(Social Cognitive Theory: SCT)や社会的アイデンティティ理論に基づく数々の研究は、説得においてメッセージを孤立して扱うのではなく、発信者(メッセンジャー)を前面に押し出し、「何が語られるか(What is said)」だけでなく「誰が語るか(Who says it)」が極めて重要であることを一貫して示している 5

情報源の信憑性は、一般的に3つの相互依存する柱、すなわち「専門性(Expertise)」「信頼性(Trustworthiness)」「魅力(Attractiveness)」に分解される 8

  • 専門性(Expertise): 発信者が特定の領域において有している知識や権威に対する聴衆の認識 8
  • 信頼性(Trustworthiness): 発信者の誠実さや動機に対する評価 8
  • 魅力(Attractiveness): 発信者に対する好意、身体的魅力、あるいは親しみやすさ 8

これらの要素が具体的にどのように作用するかについては、様々な文脈で実証研究が行われている。例えば、フィットネスクラスへの継続意図を調査した心理学の研究では、インストラクターの信憑性を「身体的適合性」「専門性」「熱意」「好感度」という4つの次元で検証した 5。その結果、参加者が次回のクラスも継続して受講しようとする意図に有意な影響を与えたのは、インストラクターの「知覚された専門性」のみであった 5

また、国家のブランディングキャンペーンに関する研究においても、情報源(インフルエンサー、組織、政府など)に対する知覚された信憑性が高いほど、説得効果が大きくなることが一貫して実証されている 6。情報源の信憑性は、健康に関する意思決定、製品の購入、情報の採用、そして政治的な投票行動に至るまで、多様な文脈においてメッセージ受信者の認識、態度、行動に強力な影響を及ぼす 6

コミュニケーションとは単に情報をある当事者から別の当事者へと転送すること(What is said)ではなく、発信者と受信者の間に存在する「関係性」の関数である 9。効果的なコミュニケーションと信頼は密接に関連しており、情報の受信者がどの程度コミットメントを持って応答するかは、両者の間に存在する信頼の度合いに依存する 9。この信頼は、相手のキャラクター(性格)、能力(有能さ)、明確さ、思いやりの副産物として形成される 9

真に説得力を持つコミュニケーションを行うためには、発信者が自ら語るメッセージに対して強い信念を持つと同時に、そのメッセージの「信頼できる代表者(credible representative)」としてのキャラクターを体現していなければならない 9。自らが提唱する価値観と矛盾する生き方や振る舞いを見せれば、他者のメッセージに対する信念はたちまち損なわれる 9。つまり、「キャラが立つ」ということは、単に目立つということではなく、特定の専門性や一貫した価値観の体現者として、受け手の脳内に明確で揺るぎないポジションを築くことを意味しているのである。

情報の評価メカニズムを分析した研究でも、情報の信憑性は「誰が言ったか(Who says it)」と「何が言われたか(What is said)」の両方に依存することが示唆されている 11。「誰が言うか」という側面は、安全保障政策の研究者など、情報の発信者に関連する「専門家としての力(expert power)」の質を調べることで精緻化される 11。一方で「何が言われたか」は、その専門家が提供する事実に基づく証拠など、情報源に内在する「情報的な力(informational power)」の観点から特定される 11

政府や公的機関のコミュニケーションにおいても、「誰が言うか」の戦略的な多様化が民主的な正当性を維持する上で不可欠となっている 12。オンライン上の極端な文脈や二極化が日常的なコミュニケーションと混ざり合う現代において、ポジティブな感情や好感(パトスと魅力)は、単なるリーダーの信頼性(エトス)の基盤となるだけでなく、リーダーと大衆の間の関係的ダイナミクスそのものを構成する 12。専門性、政治的リーダーシップ、ジェンダーの力学などがどのように交差するかを理解し、政府のコミュニケーションチームを多様化し、戦略的にメッセンジャー(キャラクター)を配置することが、政府への支持を構築・維持するための有効な戦略となる 12

精緻化見込みモデル(ELM)と認知の近道としての「キャラ」

なぜ人間は、メッセージそのものの論理的妥当性(ロゴス)以上に、発信者のキャラクター(エトス)に大きく影響されるのだろうか。このメカニズムを鮮やかに説明するのが、心理学者のリチャード・E・ペティ(Richard E. Petty)とジョン・T・カシオッポ(John T. Cacioppo)によって提唱された「精緻化見込みモデル(Elaboration Likelihood Model: ELM)」である 13

ELMにおいて「精緻化(Elaboration)」とは、個人が説得的なメッセージを受け取った際に、その情報に関連する思考を生成し、真のメリットを評価するために費やす精神的努力(認知的負荷)の度合いを指す 15。このモデルは、人間の態度変容には大きく分けて2つのルートが存在すると仮定している 14

情報処理のルート処理の特徴と発動条件態度変容のメカニズム態度変容の持続性
中心的ルート (Central Route)メッセージの論理的品質を注意深く吟味し、高い精緻化を行う。対象への高い「動機づけ(個人的関連性)」と、情報を評価する「能力(知識や認知的余裕)」の両方が揃っている場合に発動する 15提示された議論(ロゴス)の真のメリットを深く思考し、自己の知識構造と統合することによって説得が生じる 14一旦形成された態度は長期的で強固であり、反論に対しても高い抵抗力を持つ 15
周辺的ルート (Peripheral Route)精緻化のレベルが低い。論理的な吟味を行わず、説得の文脈における単純な手がかり(キュー)に依存する。動機づけが低い、または能力が不足している場合に発動する 14発信者の「信憑性」「魅力」「好感度」などの周辺的手がかり(エトスやパトス)と対象を結びつけ、単純な推論を行うことで態度が変化する 14一時的であることが多く、中心的ルートに比べると持続性が低く、将来的な変化を受けやすい 15

ペティとカシオッポの理論によれば、人々は特定のテーマに対して個人的な利害関係(高い個人的関連性)を持っている限り、「誰が言うか」という発信者の特性よりも、「何を言っているか」というメッセージの質によって強く影響を受ける 13。しかし、テーマがもはや個人的に関連性を失い、関心の周辺へと追いやられると、そこでは「信憑性の手がかり(credibility cues)」が極めて重要な意味を持ち始める 13

現代社会では、消費者は日々無数の広告、ニュース、SNSの投稿に晒されており、すべてのメッセージを中心的ルートで論理的に吟味する認知的な余裕(能力)を持ち合わせていない。その結果、日常の多くの情報処理において周辺的ルートが採用される。ここで「キャラ(キャラクター)」が絶大な威力を発揮する。「このキャラが言うなら間違いない」「この専門家の雰囲気が好きだから信じる」といった具合に、情報源の信憑性や魅力は、深く考える労力を省きながら意思決定を行うための、労力が少なく信頼性の高い「認知の近道(ヒューリスティック)」として機能するのである 15

デジタル環境におけるインフルエンサーマーケティングも、このELMによって極めて明確に説明が可能である。インフルエンサーの親しみやすさ、知覚された真正性(オーセンティシティ)、あるいは憧れのライフスタイルなどに説得されるフォロワーは、まさに周辺的ルートを介して動かされている 16。企業や発信者が「キャラを立てる」ことの最大の科学的メリットは、情報過多で受け手の認知資源が枯渇している状況下において、論理の壁を迂回し、この周辺的ルートを通じて瞬時に好意的な態度変容や情報の受容を引き起こせる点にあると言える。

さらに、精緻化の可能性が中程度の場合、情報源の信憑性は読者がメッセージの議論にどれだけ注意を払うか(精緻化するか)を決定づける要因にもなる。優れた「キャラ」は、単に周辺的ルートで説得するだけでなく、「この人の言うことなら真剣に聞いてみよう(中心的ルートへの移行)」という「きく耳」を創り出す起点としても機能するのである 14

スリーパー効果と「キャラ」の賞味期限:ホヴランドの実験からの洞察

「誰が言うか」というキャラクターの力は極めて強力であるが、それは時間の経過とともに変化するという重要な特性を持っている。これを示した画期的な研究が、1951年にカール・I・ホヴランド(Carl I. Hovland)とウォルター・ワイス(Walter Weiss)によって行われた情報源の信憑性に関する古典的な実験である 19

この実験では、「映画館の未来」「抗ヒスタミン剤の使用」「原子力潜水艦」「現在の鉄鋼不足」という4つの異なるテーマに関する全く同一のコミュニケーション(メッセージ)を、被験者に対して「信頼できる情報源(Trustworthy source)」と「信頼できない情報源(Untrustworthy source)」のいずれかに帰属させて提示し、その説得効果を測定した 19

メッセージ提示直後の測定では、被験者の意見は「信頼できる情報源」から提示された場合の方が、発信者が主張する方向へ有意に大きく変化した 19。ここまでは、エトスや情報源の信憑性が高いほど説得力が増すという直感的な理解、および周辺的ルートの理論と完全に一致する。被験者は情報の受容時に、情報源の信憑性を手がかりとして使用し、「信頼できない情報源」からの情報を割り引いて評価(ディスカウント)していたのである 20

以下の表は、ホヴランドとワイスの実験に基づく、各テーマにおける即時の説得的インパクト(Immediate impact)のデータである 21

実験のテーマ即時のインパクト d (95% 信頼区間) [信頼できる情報源の優位性]
映画館の未来0.03 (−0.47 to 0.54) 21
抗ヒスタミン剤の使用0.38 (−0.13 to 0.88) 21
原子力潜水艦0.83 (0.29 to 1.36) 21
現在の鉄鋼不足0.45 (−0.07 to 0.96) 21

しかし、この研究の真の洞察は、数週間後(約1ヶ月後)の追跡調査によってもたらされた。時間が経過すると、「信頼できる情報源」に対する同意の程度が減少し、驚くべきことに「信頼できない情報源」に対する同意の程度が増加したのである 19

時間が経つにつれて、被験者の脳内で「メッセージの内容(何を言ったか)」と「情報源(誰が言ったか)」の結びつきが切り離され(disassociate)、最初は情報源が疑わしいという理由で拒絶されていた情報の内容そのものが、最終的に受け入れられるようになった 20。これは後に「スリーパー効果(Sleeper effect)」と呼ばれるようになる現象の基礎を築いた。興味深いことに、人間は真実よりも嘘や疑わしい情報をよく記憶しているように見えるという逆説的な結果すら示唆されている 20。また、情報源の信憑性と課題への関連性が高いグループは、即時および長期的なコミュニケーション内容の保持力が有意に高まることも示されている 19

この研究結果は、「キャラを立てる」ことの戦略的意義に深い洞察を与える。高い信憑性や魅力を持つキャラクター(エトス)は、短期的な説得や即時の行動喚起には極めて強力な効果を発揮する。しかし、その効果を長期的に維持するためには、メッセージとキャラクターの結びつきが風化しないよう、継続的に情報発信を行い、自身のキャラクターを反復して受け手に認識させ続ける必要がある。周辺的ルートで得た「キャラ」の力は、時間の経過とともに揮発しやすいのである。

紛争解決から学ぶ「誰が言うか」のネガティブ・インパクトの解除

「誰が言うか」というキャラクター効果は、ポジティブな魅力や信憑性による説得だけでなく、対立関係や紛争解決といったマクロで複雑な領域においても重要なダイナミクスをもたらす。解決が困難な政治的・社会的対立(intractable conflicts)の文脈において、社会心理学と臨床心理学を統合した研究は、態度変容のプロセスに新たな光を当てている 22

深く根付いた態度やイデオロギーを変容させるプロセスにおいて、対立する集団からのメッセージは通常、「敵対的キャラクター」という強いネガティブレッテル(低い信憑性、強い嫌悪感)によって即座に拒絶される。しかし、心理的な介入によって参加者の感情(特に情報源に向けられていた怒り)が低下すると、「誰が言ったかには注意を払わず、むしろ内容(コンテンツ)に目を向けるようになる」という現象が観察された 22。ある研究参加者は、「誰が言ったかは重要ではない…誰が言ったかにはあまり注意を払わず、内容に目を向ける」と述べている 22

この事例は、ELMの理論を逆の視点から裏付けている。特定の「敵対的キャラクター(ネガティブなエトス)」が発動している状態では、激しい感情(ネガティブなパトス)が防壁となり、どんなに論理的で妥当なメッセージ(ロゴス)であっても中心的な処理がブロックされる。しかし、情報源に対する「怒り」という感情的障壁が取り除かれ、キャラクターの評価が一時的に無効化(あるいはニュートラル化)されることで、初めてメッセージの「内容」が機能し始めるのである 22。この研究は、態度変容を即時的な結果としてではなく「プロセス」として捉える臨床心理学の枠組みの有用性を示しており、紛争関連の態度がいかに深く根付き、変化に対する抵抗力を持っているか(そしてそれを解除するために「エトス」の無効化が不可欠であるか)を浮き彫りにしている 22

ビジネス・マーケティングにおける「キャラ」の戦略的実装とリスク

こうした歴史的、心理学的、社会学的メカニズムを背景として、現代のビジネスやマーケティングの現場では「キャラクタービジネス」や「コーポレートキャラクター」の意図的な活用が極めて盛んに行われている。企業が意図的にオリジナルキャラクターを構築し、それをコミュニケーションの最前線に立たせることは、数多くのメリットをもたらすと同時に、特有のビジネス上のリスクも内包している。

キャラクター活用のメリットと戦略的優位性

  1. 圧倒的な差別化と認知の獲得: 企業オリジナルのキャラクターには自社らしさを詰め込むことができ、ロゴやイメージカラーに比べてデザインや表現の幅が格段に広い 23。独自の視覚的特異性や魅力的なカラーリングは消費者の記憶に強い印象を残し、ライバル企業との競争において容易に他社製品との差別化を図ることができる 24。Webサイトや商品パッケージに起用するだけで、競合ひしめく市場において瞬時に独自のポジションを確立できる 24
  2. 感情的なつながり(パトス)とブランド資産化: キャラクターの性格やストーリー、ユーモアや親しみやすさを持たせることで、従来の広告手法よりも感情的な共鳴を呼び起こしやすくなる 25。これにより顧客のロイヤリティやブランドへの信頼感(エトス)が高まる 25。社会貢献活動や環境への取り組みにおいてキャラクターが企業の顔として機能することで信頼構築に繋がり、キャラクター自身が企業の重要な財産(資産)となる 23。ハローキティのように、国内外を問わず高い知名度を持つキャラクターが他ブランドと積極的にコラボレーション(ライセンスビジネス)を行うことで、もともとの知名度に企業のイメージがプラスされ、双方の人気が上がる相乗効果を生み出すことも可能である 24
  3. 自由な展開とマーチャンダイジングによる収益化: 自社オリジナルであれば、使用権や商品化権をコントロールでき、Webサイトから商品パッケージ、SNSまで継続的かつ多角的に二次利用が可能である 23。また、特定のキャラクターを持つアニメやゲームの商品展開(マーチャンダイジング)は、熱心なファン層との感情的なつながりを生み出し、購買意欲を高める効果がある 25。企業はこれによって新たな収益源を確保しつつ、消費者との接点を増やし、認知度向上を図ることができる 25

キャラクター活用のデメリットと潜在的リスク

一方で、キャラクターの運用には慎重な戦略と長期的な視点が求められる。周辺的ルートを活用する強力な武器であるからこそ、その扱いを誤ると深刻なダメージを被る。

リスク要因内容と事業への影響
コストと時間の継続的投資魅力的なキャラクターのデザイン開発には初期コストがかかり、さらにその知名度やブランドとの関連性が市場に定着するまでには長い時間と継続的な投資が必要となる 23。スリーパー効果が示すように、継続的な露出がなければキャラクターとブランドの結びつきは消滅する。
不適切な使用によるブランド毀損キャラクターが不適切な場面で起用されたり、意図しない使われ方をしたりした場合、築き上げた企業イメージ(エトス)に直接的な悪影響を及ぼすリスクがある 25。市場調査を怠り、ターゲットと合致しない間違ったブランディングを行うと逆効果となる 24
他社IP依存の危険性他社の既存キャラクター(IP)を活用する場合、手続きに時間とコストがかかる上、契約が成立しない可能性もある 25。また、自社ブランドが他社キャラクターのイメージに強く結びつきすぎると依存関係が生じ、自社本来の独自性やアイデンティティが薄れる危険性がある 25。イメージのミスマッチが起きた際のダメージも自社でコントロールできない。

企業がキャラクターマーケティングを成功させるためには、覚えやすいチャーミングなシンボルを作成するだけでなく、市場調査を行いターゲットを明確にした上で、キャラクターの設定やルールを緻密に策定し施策を打つ必要がある 24。これは、単に可愛いイラストを描くということではなく、企業としての「専門性」「信頼性」「魅力」という情報源の信憑性を、一つの擬人化された記号に凝縮し、ブレのないエトスを市場に対して示し続けるという極めて高度なコミュニケーション戦略に他ならない。

結論:「キャラ」を通じたエトスの確立が未来のコミュニケーションを駆動する

以上、日本の歴史的背景から、古代ギリシャの修辞学、現代の認知心理学、そしてビジネス・マーケティングの実践に至るまで、「キャラが立つ」ことの背後にある広範な科学的メカニズムを概観してきた。

人が誰かの言葉に耳を傾け、心動かされ、行動を変えるとき、そこには必ず「誰が言うか」というフィルターが存在する。アリストテレスが指摘した通り、いかに精緻な論理(ロゴス)を組み立て、感情への訴え(パトス)を試みても、発信者の人柄や信頼性(エトス)という強固な土台がなければ、相手に真の説得をもたらすことはできない 4

情報過多な現代において、精緻化見込みモデル(ELM)が示す通り、私たちはすべての情報を深く吟味する認知的資源を持ち合わせていない 15。だからこそ、多くの意思決定を「この人が言うなら」という情報源の信憑性に基づく周辺的ルートに依存している 14。自らの専門性、信頼性、魅力を分かりやすく可視化し、一貫したエトスとして「キャラを立てる」ことは、情報の受け手に対して「認知的負荷の低い、信頼できる近道」を提供することであり、現代のコミュニケーションにおいて最も効果的に「きく耳」を創り出すアプローチである。

しかし、ホヴランドとワイスの「スリーパー効果」が示唆するように、キャラクターによる説得力は放置すれば時間とともに情報から切り離され、失われていく 19。また、発信者の振る舞いが自らのメッセージと矛盾すれば、その信頼は一瞬にして崩壊する 9。真の意味で「キャラが立つ」状態を長期的かつ持続的に機能させるためには、表面的な自己呈示のテクニックやデザインに留まらず、発信者自身(あるいは企業自身)がそのキャラクターにふさわしい専門性を磨き、誠実に行動し続けるという「倫理的な一貫性」が不可欠である。

「伝わる」を科学する上で、「誰が言うか」のメカニズムを理解し活用することは、対話の入り口を開く最大の鍵である。ビジネスであれ、日常の人間関係であれ、自らのエトスを深く見つめ直し、それを相手にとって最も分かりやすく、かつ誠実な「キャラクター」として翻訳し伝えていくこと。それこそが、情報が氾濫する現代社会において、ノイズを切り裂き、真に価値あるメッセージを届け、人と深く繋がるための最も確実な道筋となるのである。

引用文献

  1. 歌舞伎 – Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%8C%E8%88%9E%E4%BC%8E
  2. 現代社会におけるキャラクターの受容と利用, https://ocu-omu.repo.nii.ac.jp/record/2006502/files/111E0000020-5-3.pdf
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  4. https://www.switchitmaker2.com/marketing/logos-pathos-ethos/#:~:text=%E8%AA%AC%E5%BE%97%E3%81%AE%E4%B8%89%E8%A6%81%E7%B4%A0%E3%81%A8,%E4%BF%83%E3%81%99%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
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  6. Not Just Who Says It, But How : Effects of Source, Message Strategy, and Outgroup Bias on Audience Responses to Nation Branding Campaigns, https://d.lib.msu.edu/etd/52744
  7. Not just what is being said, but also who says it: ESG … – WUR eDepot, https://edepot.wur.nl/695755
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  12. Whom to Trust in Crises? The Influence of Communicator Characteristics in Governmental Crisis Communication – Cogitatio Press, https://www.cogitatiopress.com/mediaandcommunication/article/download/10425/4700
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  23. キャラクターマーケティングとは?成功例やメリット・デメリットを解説 | Creative info for Biz, https://www.g-angle.co.jp/blog/illust/character-marketing/
  24. キャラクタービジネスとは?メリット・注意点・成功事例を紹介 | コラム, https://www.noltyplanners.co.jp/office/column/1286364_9487.html
  25. 企業がキャラクターデザインを取り入れる理由 | column, https://azu-illustrator.jp/column/detail/%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%8C%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%92%E5%8F%96%E3%82%8A%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%82%8B%E7%90%86%E7%94%B1/

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